Who-ya Extendedが3rd EP『A Shout Of Triumph』をリリースした。
表題曲はアニメ『ビルディバイド -#FFFFFF-(コードホワイト)』のエンディングテーマとして書き下ろされた一曲。畳み掛けるような疾走感あふれる曲調、孤独や葛藤を抱えつつ自分自身を鼓舞するようなアグレッシブな言葉を歌い上げるWho-yaの歌声が鮮烈だ。バラードからライブ映えしそうなアグレッシヴなナンバーまで幅広いEP収録の4曲も、Who-ya Extendedの魅力をストレートに伝えるようなものになっている。
今年1月には初の、そして5月には2度目のワンマンライブも実現。新曲について、クリエイターズユニットのWho-ya Extendedがいよいよ“生身”のダイナミックな熱気を放つようになってきた今のモードについて、Who-yaに話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 柴那典
PHOTO BY 関信行
■観に来てくれてる方とステージに立ってる自分たちの共鳴
──新曲の「A Shout Of Triumph」は5月15日に開催された2度目のワンマンライブでも披露されていました。反響はいかがでしたか?
この曲をやったときには、ライブの空間がひとつになったような感じがありました。ライブって、人によって盛り上がり方とか楽しみ方が違いますよね。ヘヴィーな音楽が好きな人の中には身体を動かして楽しむ人もいるし、バラードやしっとりした歌が好きな人だったら目をつぶって聴く人もいる。多種多様だと思うんですけれど、この曲に関しては、曲自体がアップテンポで踊りたくなるようなダンサブルなサウンドなので、初披露でもすごく盛り上がったと思っています。
──Who-ya Extendedとしてのワンマンライブ自体も今年1月が初めてだったんですよね。ライブの感触や手応えはどういうものでしたか?
1月のワンマンライブのときは僕たちもお客さんと直接会ったことがなくて、どういう年齢の方々なのか、男の人が多いのか女の人が多いのかもわからなかったんです。もちろんライブはずっとやりたいと思っていたんですけれど、お客さんたちも僕らに対面するのは初めてなので、“これから何が始まるんだろう”とか“何が起きるんだろう”みたいなちょっと探り合う感じ、ピリッとしてる感じがあって。だからこそ打ち解けられたような盛り上がりもありました。それを経て、5月の2度目のワンマンライブは、ピリついた感じというよりは、観に来てくれてる方とステージに立ってる自分たちの共鳴というか、お互いの思ってることのぶつかり合いみたいなものを強く感じました。
──その感触って、もともとWho-yaさんが音楽を始めた当初から求めていたものですか?それとも結果として初めて得たものでしたか?
それはどちらもありますね。もともと僕は高校生の時にバンドでライブを何度もやっていて、その中でライブに対するイメージも持っていたので。それでも、ライブでお客さんに対して“こういう曲が思ったより盛り上がった”とか“こういうことを言ったらすごく反応もらえた”とかって、回数を重ねていけばいくほど、自分の中で正解が見えてくるものでもあるので。ライブを何本か重ねていく中で徐々に見えてきたものもありますね。
──『ビルディバイド -#FFFFFF-』のエンディングテーマとして書き下ろされた曲ということですが、この曲はどういうスタート地点から取り組んでいったんでしょうか?
アニメは設定としてカードバトルを軸にしているんですけれど、カードバトルの強さという産まれながらに決まってしまっているもの、自分でどうすることもできないようなものによって、貧富の差とか住む地域が決められてしまったりする。そういうことに対する抗いが大きなテーマであると思うんです。それを現実の世界に落とし込んだときに、何かの明確な意思を持っている人や、何か目指してるものがある人にしか感じない孤独や葛藤みたいなものをひとつのテーマとして広げていきたいと思って制作していきました。
■今の現代社会にも落とし込みやすいテーマ
──『ビルディバイド』の生まれ持って決められているステータスがあるという設定を、ファンタジーの世界だけでなく今の社会にも全然通じるものだとして、そこに曲のポイントを見出したということでしょうか。
自分たちの身の回りで起きていることも、言ってしまえばそういうことじゃないですか。生まれた地域や、生まれた年代、生まれた家庭は、自分で選択したものではない。そういう意味では今の現代社会にも落とし込みやすいテーマなのかなと思いました。
■ネガティブなテーマがあるからこそ、サウンドはアップに明るく
──そういうテーマをアップテンポで駆り立てるような曲調で表現しようと思ったのは?
「A Shout Of Triumph」は直訳すると「勝利の咆哮」とか「勝利の雄叫び」って意味なんですけど、自分ではどうすることもできないことに対する憤りとか抗いって、決してポジティブではないテーマじゃないですか。それをバラードとかダークなサウンド感で作ることもできるとは思うんですけど、それよりも僕たちなりの解釈としては、どうすることもできないネガティブなテーマがあるからこそ、サウンドはアップに明るく、エンタメとして昇華する方がいいんじゃないかなと思って。それで明るく攻めた感じになっています。
──歌詞の「不正解引かない」というフレーズも印象的ですが、これはどういう象徴なんでしょうか?
この場合の「不正解」というのは、社会的に良しとされてないことというよりも、自分の中の軸に反することを不正解というニュアンスで書いているイメージですね。具体的に何かということではないんですけれど、自分の信念、自分の信じてるものに反するものを不正解という言葉で表しています。それは2番もそうで、全てが自分主体の視点だと思います。
──自分の中に軸や基準を持っているからこそ、孤独や葛藤も生まれてくるという?
サビには“信じ抜く”という言葉もあるんですけれど、何かを信じ抜いたり、何かを貫いたりすることって、めちゃめちゃ孤独だと思うんですね。好きなことを続けるときも同じで。周りからは芯のある人間だって言われるかもしれないですけど、実はその人にしかわからない孤独がある。それはその人にしか見えない景色だし、わからないものだから。そこは自分の内側にあるものを投影してるなと思います。
──今おっしゃったことって、この曲だけじゃなく、アルバム『wyxt.』やいろんな曲に共通するテーマやコンセプトになっていると思うんです。Who-yaさんの気になることに、今の社会の生きづらさや葛藤みたいなものが絡んでくるというのは、どういう由来だと思いますか?
日々ニュースを見ていても、毎日目まぐるしく違うところで事件や事故が起きていて。いろんなことが流動的に起きていると思うんですけど、それをただ見過ごしたくない、気になってしまうというのは、自分の性格上あるのかもしれないです。ただ、曲を聴いてくれたみんなを鼓舞したいというよりは、表に立っていろんなことをやってる自分のような人間でも、抱えているものだったり、世間一般的な痛みだったりは同じように感じてるな、同じ人間なんだと思ってくれたら正解かなと思います。頑張れと鼓舞してもつらいときはあると思うし、背中を押すことじゃなくて、背中を見守ることが正解なときもあるし。ただ自分たちのやりたい作品を発信していて、そういう曲が日常の中にあってもいいのかなという気持ちでやっています。
■曲を聴いたときに自分たちの姿が見えやすいように
──Who-ya Extended としてデビューした頃はWho-yaさんは謎めいた存在でしたよね。でも、今はライブもあり、フィジカルな肉体性をもって活動しているわけで。やっている音楽の軸自体は変わらないと思うんですけど、リスナーとのコミュニケーションやメッセージの届け方の部分で変わったなと感じることってありますか?
大きく変わってはないんですけど、最初にキービジュアルだけで1年ちょっと活動してたのは、自分たちが作ってる音楽と歌以外の情報を遮断したかったんですね。純粋にそれだけを聴いて、人がどういうリアクションするのか、どういう受け取り方をしてもらえるのかというのがすごく大きかったので。それを踏まえて『THE FIRST TAKE』やワンマンライブがあって、Who-ya Extendedと同時に自分が前に出ていくようになってからは、サウンド的なところも「VIVID VICE」という楽曲をEPでリリースした頃から変わっていったかもしれないです。あのEPはギターのリフもエディットして細かく切ったりせずに、純粋に人が弾いてる生音感、人が歌ってる生声感と言うのを大事にしていたので。そういうこともあって、曲を聴いたときに自分たちの姿が見えやすいようになったのかなと思います。
■「人が生きること」ということの提示
──今回のEPに収録された4曲についても聞かせてください。もちろん中心は表題曲の「A Shout Of Triumph」だと思うんですけど、EP全体の構成としてはどんなイメージがありましたか?
3rd EPの4曲通じて持ってる軸は、「人が生きること」ということの提示であり、そこに自分たちなりの解釈を投影している4曲ですね。
──それは生きるということのいろんな側面を4曲で表現しているということでしょうか?
そうですね。一個の人生について歌った4曲というよりは、いろんな角度とかいろんな立場から見て、総じて生きるということについて書いてるなと思います。
■何回でも塗り直して、その先に進めばいい
──2曲目の「Re:Painted」はどういう角度、どういうテーマで書いていたんでしょうか?
これはタイトルからどんどん広がっていきました。「Re:Painted」って直訳したら「塗りなおす」「何回もやり直していく」という意味なんですけど、仕事がどうしてもうまくいかなかったりとか勉強や受験がうまくいかなかったりするとき、人って少なからず途中まで描いていた絵のキャンバスを捨てて、次のキャンバスに行くと思うんです。でもそれって自分の中でもったいない。そんなことしなくていいのになと思う側面があって。「Re:Painted」は、キャンバスごと替えるんじゃなくて、自分で書いてたものが嫌になったり、それを捨てたいと思うんだったら、何回でも塗り直して、その先に進めばいいという提示ではあります。
──この曲が壮大な曲調のバラードになったのは?
これはテーマが深いところにあるというか、正解がないようなことを歌っているので、ちゃんと奥行きがあるサウンドにしたというのがありますね。
──3曲目の「Bitty,Not Empty」に関してはどうでしょうか?
Who-ya Extendedの音楽って歌いづらい、難しいって周りの友達に言われる機会があって。ファンの人も口に出しては言わないけど、みんな誰しもが思ってると思うんです。キーも高いし、言葉も詰まってるし、拍も裏で取ってるみたいな曲のオンパレードなので。そういうのを考えたときに、今までのワンマンライブはお客さんは声を出せない状態でやっていて、いまだにお客さんと一緒に歌うという状態ではライブができてなくて、でもこの先もっとライブやっていきたいと思うので、この先を考えたときに純粋にこういう会場の人たちと一緒に歌ってノレるようなシンプルな曲があってもいいんじゃないかなと思って制作されました。
■善悪とか二極化されているものの全部が表裏一体
──4曲目の「half moon」はどうですか?
これも「half moon」というワードが曲を表しているんですけど、「half moon」って半月じゃないですか。半月って、日本で半月を見てる人と、同じ時間帯に別の国で見てる半月って、同じ月なのに全然満ち欠けが違って見えるわけで。それって、物事の善悪とか二極化されているものの全部が表裏一体であるのと同じだなと思っていて。誰かがいいって言ったことは、もしかしたら別の立場の人からは間違ってるって思うかもしれないし、多くの人が正しいって思ったことも実は間違いだったんじゃないかっていうことはザラにある。そういうことを歌った曲です。
──こういう4曲のEPとしてのテーマ性の中での表題曲「A Shout Of Triumph」の役割や位置づけはどうでしょうか?
この曲は言葉の選び方も、サウンド的にも、4曲の「生きる」というテーマの中でいちばん意思の強い楽曲なので。そういう意味では、やっぱり表題曲だし、これが1曲目で相応しいなと思います。
──ちなみに、リスナーとしてのWho-yaさんについても聞かせてください。以前のインタビューではLINKIN PARKがルーツで、ゼロ年代のロックだけじゃなくいろんな海外のポップミュージックを聴いていると言っていましたが、ここ数年で自分的に刺激になったアーティストや曲にはどんな存在がありますか?
たくさんあるんですけど、コロナになってからは人が家にいる時間が増えて、深掘りしようと思ったらいろんな音楽を聴ける時代になったわけじゃないですか。だからこそ僕自身も家に居るときに好きな歌手のルーツになった歌手を聴いてみたり、そういうこともありました。たとえば、最近だと、ずっと好きなGreen DayとかNIRVANAのアルバムをイチからもう1回聴いてみたりもしましたし。あとはケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』を改めて聴いてみたりもしました。あの作品って、現代ヒップホップの頂点みたいに言われてるアルバムじゃないですか。それを改めて今聴いてもすごく衝撃を受けて。あとは、日本ではここ数年(sic)boyをよく聴いています。KMさんのプロデュースもそうですけれど、ラッパーでもないし、かといってロックだけじゃない、今までにない感じがあって。インタビューを読んだらルーツはL’Arc〜en〜Cielだということをおっしゃってて、「なるほどな」みたいに思って。ここ1〜2年は、特にあげるとしたらケンドリック・ラマーと(sic)boyかなと思います。
■自分が育っていくうちに聴いたものって、どう隠そうとしても出る
──海外でも若い世代のラッパーによって00年代初頭のポップ・パンクやエモやラップ・メタルがもう一度蘇ってきている流れがありますよね。それと同じような時代性が(sic)boyのような日本のバンドを聴いて育ってきたラッパーが脚光を浴びているようなところにもあるように思います。で、実はLINKIN PARKをルーツにしているWho-yaさんがやっている音楽にも、どこか同時代的な必然性があるんじゃないかなって勝手に思ってるところはあります。
僕は生まれたのが99年なんですけど、そこから両親の影響で胎教のように音楽を聴かされて育ってるので、何かを意識しているじゃなくて。例えばLINKIN PARKも最初から好きではあったんですけど、その歌い方をマネしてるかと言うとかけ離れてるし、サウンドも好きではあるから無意識に入ることはあると思うんですけど、狙って作ったというのはないし。そういう、自分が育っていくうちに聴いたものって、どう隠そうとしても出るじゃないですか。そういう意味で(sic)boyがL’Arc〜en〜Cielを好きっていうのを公表してたりとか、あとは今の日本のヒップホップで言ったらLEXは欠かせない存在だと思うんですけど、LEXがTHE BLUE HEARTSを好きだって言っていたり。その人がどういうものを聴いて育ったのかが作品からわかる。そういうサイクルのひとつなのかなと感じます。
──これから先、Who-yaさんがいろんなジャンルのアーティストと同じイベントに出たりコラボしたり、いろんな交わり方をしたら、より面白い化学反応がもっと生まれてきそうだなと思って勝手に期待してます。
ありがとうございます。他のアーティストと一緒にやったりとかはまだないので、どんどんこの先やれたら面白いなと思います。
リリース情報
2022.06.15 ON SALE
EP『A Shout Of Triumph』
プロフィール
Who-ya Extended
フーヤエクステンデッド/ボーカリストWho-ya(フーヤ)を中心としたクリエイターズユニット。TVアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス 3」のオープニングテーマ「Q-vism」で、2019年11月にメジャーデビュー。2021年2月には大人気アニメ「呪術廻戦」のオープニングテーマ「VIVID VICE」をリリース。5月にはYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』に出演。その繊細なパフォーマンスが話題となった。2021年11月には2枚目となるフルアルバム「WII」をリリース。2022年4月からはアニメ 『ビルディバイド -#FFFFFF-(コードホワイト)』のエンディングテーマを担当。
Who-ya Extended OFFICIAL SITE
https://www.wyxt.info