森七菜が前作「背伸び」以来、8ヵ月ぶりの新曲となる「bye-bye myself」を配信限定でリリースした。作詞・作曲を手掛けたのは、彼女がヒロインの妹・関内梅役を務めたNHK連続テレビ小説『エール』に主人公の恩師である藤堂先生を演じた森山直太朗。森山が森をイメージして書き下ろした楽曲は、昨日までの私とさよならし、“本当の私”と出会う軽快なポップロックとなっている。女優として様々な役になりきる森七菜の “本当の私”とは──。
INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY 関信行
■ほんとに、歌うたびにだんだん、毎回、好きになっていく感じ
──新曲のリリースは8ヵ月ぶりになりますが、音楽活動はどう考えてましたか。
それなりに忙しくさせていただいているなかで、この先にどんな活動をしていくかの計画が立っていて。今、それが、いろいろと実行に移り始めているので、楽しみにしながら過ごしてました。
──楽しみでしたか?
そうですね。楽しみが多いですけど、プレッシャーもありますね。これまでも小林武史さんや岩井俊二監督、ホフディランさん、YOASBIのAyaseさん、新海誠監督とご一緒させてもらってきて。いつもすごいステージを用意してもらっているので、力む気持ちがありますけど、力んでも意味ないかってことはわかっているので、少しずつ、自分で肩の力を抜きながらやってます。
──その楽しさって何ですか。
最初はそうじゃなかったんですけど、だんだん好きになってきて。周りの人が「いいね」って言ってくれることがすごくうれしいんだと思います。ほんとに、歌うたびにだんだん、毎回、好きになっていく感じですね。「bye-bye myself」を聴いたときもそう感じました。
──新曲は森山直太朗さんの楽曲提供になってますね。
最初は、なんで私なんかに書いてくれたんだろうって思ったんですけど…。
──あははは。“なんで私なんかに”って思いますか?
思います。もっと他にもアーティストさんはたくさんいらっしゃるのにって。でも、森山さんが「森さんに」と言って、描いてくださった曲なので、せっかくいただいた気持ちをどうにか形にできたらという思いで聴いた歌詞とメロディは──すごく意外でした。自分自身として、とってもうれしいなって正直に思って。私から受けた印象がこんな感じなんだなって思ったらうれしかったです。
──森さん自身は直太朗さんにどんな印象を持ってましたか。
朝ドラ『エール』で一緒のシーンはなかったんですけど、NHKの廊下ですれ違って。そのときにカレー煎餅をくれたんですよ(笑)。実際にお会いしたのは一回だけだったんですけど、恩師という役柄のイメージと相まって、すごく朗らかな方だなと思ってました。シンガーソングライターとしてのイメージは、いろいろですね。穏やかで清らかな曲もあれば、ちょっと大人っぽい色気を感じるような曲もあったりする。かと思えば、面白い曲もあって。森山さんはひとつのイメージを持てないというか、つかみどころがない方なので、自分に曲を書いてくださるってなったときに、“こういう曲なんだろうな”っていう予想がまったくつかなくて。ドキドキしながら待ってました。
──「さくら」のような切なくて儚いバラードもあれば、「生きてることが辛いなら」のように生と死を歌ったメッセージソングもあるし、「よく虫が死んでいる」のようにちょっと変な曲もありますからね。森さんをイメージしたときにどんな曲が出てくるのか。
私もまさかこのような曲がくるとは思いませんでした。
──意外だったのは?
私がお会いしたのは一回だけだと思うんですけど、『エール』の役柄もあって、私はいつも、キュートな女の子って思われがちというか。
──心の中ではどう感じてましたか。
そんな年齢じゃないのになって思うことはありましたけど(笑)、自分の中で二十歳という年齢なりの感情がないわけではなくて。でも、森山さんの曲は勢いがあってかっこいいし、歌詞の主人公が少年とも取れるような勇ましい子だなって思って。それが本当の自分なのかは正直わからないですけど、そのイメージを持ってもらえたことはうれしかったです。
──第一人称は“私”だけど、男性っぽさもありますよね。
“最後の守りだ 締まって行こうぜ”とか、“何を今更”とか。すごく軽やかで、こういう人になれたらなって思いました。自分に対して努力はするし、期待もするけど、他の人には期待をしないし、自分が何かしてあげても、見返りを求めていない。それを相手が感じ取って、この人と一緒にいると心地いいなと思えるような人だなと思って。だからこそ、自分も取り繕わずに“何を今更”って言えちゃうくらい、聴いていて気持ちのいい曲だなと思って。だから、“この人といたら、気持ちいいだろうな”って、もしかしたらそう思ってもらえたんじゃないかなって。そこまで自分で想像してしまって(笑)。それがすごくうれしかったですし、その解釈が間違ってないといいなって思いました。初めて聴いたときに、この曲はそういうふうに歌いたいなって思ったので、さっぱりした気持ちで歌いました。
──自分と似ているなと感じる部分もありましたか。
まだ無意識に誰かに求めてしまうことはありますし、なかなか取り繕ってしまうときもありますけど、あんまり気にしないところは似てるというか、そうだなって思います。寝たらなんでも忘れちゃうので、気にしたくても気にできない。それは悪いところでもあるんですけど…。
──悪いところですか?
誰かを傷つけることもあるんですよね。例えば、お母さんとか。「前にこう言ってたじゃん」「え?そうだっけ?」「なんで忘れちゃうの!」みたいな(笑)。
──怒られたことも忘れちゃう?
そうですね。お母さんに一回、すごく怒られたことがあって。高校生のときに、頼まれていた洗濯物をやってなかったんですね。怒られた後に2階の自分の部屋に行って、そこからすぐに“ありのままの~”っていう歌声が聞こえてきたらしいんですよ。
──あははははは。何を言われても私らしく生きてくわって宣言してる!
もう、ありのままって言ってますからね。自分では無意識だったんですけど、お母さんは、さっき怒ったことは無駄だったんじゃないかって思ったらしくて。そこで、ときには人を傷つけることを知って。自分の中では、反省しつつも、早く忘れて、なるべく引きずらずにさらりと生きるってことを心がけてきたけど、いい塩梅でいかなくちゃなって思うようになりました。
──もっと大事なことも忘れちゃいますか。
大事なことは紙に書き出したほうがいいのかなと思っているんですけど、紙に書き出すことを忘れちゃうんですよ。自分では大事なことってわかってるから、紙に書こうと思ってるのに、それを忘れちゃう。だめですよねぇ…。
■今の自分だから、この歌詞に強く共感できてるのかなって
──(笑)この曲の主人公は、過去の自分とさよならして、新しい自分と出会ってますよね。
私も特に最近、強くなれてるのかなって思う瞬間がいくつかあって。今まではすごくべそかきだったんですよ(笑)。でも今は泣いても仕方ないって強くわかったというか。今の自分だから、この歌詞に強く共感できてるのかなって。だから、このタイミングでこの曲を歌わせていただくことにすごくご縁を感じてますね。
──泣いてばかりだった自分とさよならできたのは?
すっごく落ち込んだことがあって。そこから三段飛ばしくらいに前に進んで来れてるのかなって思います。それは確実に周りの方々のおかげですね。なんかもう、困っちゃうくらい自分が嫌になって。もうどうしよう…って落ち込んでたけど、新しい人に出会ったり、お仕事の現場で奮い立たされるような言葉を言われたりしたときに、自分のことをちゃんと真っすぐに見られた瞬間があって。その瞬間に、自分は強くなれてるのかなって自覚できたんですよね。
──今、さよならしたい自分はいます?
今はないです!…いや、朝が弱くて、そこは直したいなと思うんですけど、それも忘れるんですよ。だから、しょうがないかなって思います。そこは、子供がられるところの特権をまだちょっと使わせてもらうかなと思ってます。
■どこか囚われない自分でいたいなって思う
──(笑)また、“「はじめまして、本当の私」”といセリフのようにカギ括弧のついたフレーズもありますよね。女優としていろんなキャラクターを演じる森さんにとって、本当の私とは?
私は“お芝居のために生きてる”みたいなところもあって。お芝居は普段の、日常から持ってくるものがすごく多いんですね。やっぱり、家族とちゃんと触れ合ってないと、お父さん役の人と対峙したときに、何が苦しくて、何がうれしいかがわからない。そういう意味でも経験を積むことってすごく大事なんだなって思うようにもなって。でも、だからこそ、“本当の自分”はいらないというか。嘘で日常生活に接するわけじゃないけど、どこか囚われない自分でいたいなって思うんですよね。あと、このお仕事をしてるとすごく褒めていただけることが多くて。なかなか直接、「お前、だめだよ」って言ってくれる人がいないから、浮いちゃう瞬間が今まであったなって思って。“本当の自分”をちゃんと自分で見つめることは、この先の人生で何回もやらないといけないなって思いました。
──“本当の自分”はいらないというのは、いろんな役を演じるために、あまり限定しすぎない、固めすぎないということですよね。
うん、そうですね。
──ちなみに友達と電話で会話した『Ring³』の森七菜は?
人間なんで、素は普通に出ると思います。“カメラの前に立って、友達と話している素の森七菜”ですね。本当の自分を、自分はこういう性格ですっていうのを持ちすぎると、そういう役しかできなくなっちゃう。だから、しっかり者でもありたいし、怠け者でもありたい。森山さんにみんなのイメージと逆のことを言ってもらえたときにうれしかったっていうのは、そういうことだと思います。
──では、歌入れはどうでしたか。
森山さんの曲は歌がうまい人が歌う曲なので、すごく難しかったです。技術を私に求められているのかっていうと、だんだんそうなってくるのは、わかってて。それに応えないといけないことも承知してるんですけど、この曲の勢いや自分に持ってくれたイメージをできるだけ大きく表現するように頑張りました。
──この曲は言葉自体が弾んでいて、歌う楽しさも込められているように感じました。
そうですね。伸びやかなところもありつつ、セリフのようなところもありつつ。私自身、歌ってて楽しいですし、“来来来世曖昧模糊”とか、こんなに面白い曲を私が歌っていいのかなって思いました。これが自分の曲になると、自分の人生が豊かになった気がして。後世に誇りに思えるなっていう曲ですね。
──MVはどんな内容になってますか?
見ている人が軽い気持ちになるんじゃないかと思います。でも、この曲が持っている、実は力強いところや曲に引っ張られるところもちゃんと表現さてれて。コロコロと表情が変わる、新しいものが次々と出てくるところで表してくれてるなと思って。すごくカッコいいし、おしゃれだし、お客さんを意識したMVになったなって思います。この人を見てると元気になるなって、「スマイル」のときとはまた違うベクトルで思ってもらえたらいいなと思って撮影してきました。
──「スマイル」は無邪気な元気さでしたね。
もっとおてんばでしたね。当時、「親戚の子供がカラオケで歌ってると思って見てもらえればうれしいです」って言ってたんですけど、この曲はもっと対等になってます。聴いてる人がどの年齢かはわからないけど、年齢とか性別とかは関係なく、同じ目線で見て、聴いて、元気になってもらえるといいなと思います。
■自分に向き合う活力になれば
──自分の嫌いな部分と明るく軽やかに向き合える曲になってますね。
私、やっぱり、元気になってほしいんですよ。演技をするときも、自分と対峙する時間がすごく多くて。それが苦しいときもありますけど、みんなには、自分と対峙して、苦しくならないでほしいです。それも許せとか、いいことにしろとは言わないけど、自分に向き合う活力になればなって思います。自分と向き合って、嫌なところがあって。直さないと絶対に嫌だけど、それをするのは力もいるし、体力もいるし、お腹も減るから(笑)。無意識に私も避けがちなんですけど、それを助ける力になればいいなと思います。
──ちなみにお腹空いたときは?
お肉です!(即答)お肉を食べると生きてるなって思うじゃないですか。最近はステーキもいいなって思い始めて。ジンギスカンもいいです!だいぶ好きですね、肉!
リリース情報
2022.06.22 ON SALE
DIGITAL SINGLE「bye-bye myself」
プロフィール
森七菜
モリナナ/2020年1月、「カエルノウタ」でCDデビュー。同年7月には、自身が出演しているオロナミンC CMソングのホフディラン「スマイル」をカバーし配信リリース、YouTube再生回数3,600万回を超えるヒットを記録。2021年、8月YOASOBIのコンポーザーとしても活躍するAyaseプロデュースの「深海」を配信リリース。森七菜が天野陽菜役を務めた映画『天気の子』の監督・新海誠が作詞を手掛けた「背伸び」を同年10月配信リリースするなど、女優のみならず歌手としても、幅広い活動で注目を浴びている。
森七菜 OFFICIAL SITE
https://www.morinanamusic.com