作曲家・澤野弘之のボーカルプロジェクト“SawanoHiroyuki[nZk]”が、約1年ぶりとなるニューシングル「OUTSIDERS」をリリースした。
放送中のTVアニメ「群青のファンファーレ」のエンディングテーマとなる表題曲は、グローバルボーイズグループとして注目を集めているJO1から河野純喜と與那城奨をゲストボーカルとしてフィーチャー。
異なる個性を持った2ボーカルが絡み合う、爽快なアグレッシブさを感じさせる1曲となっている。カップリングに収録される「N0VA (S0VA Remix)」や「Roads to Ride <LCv>」、「OUTSIDERS (Kenmochi Hidefumi Remix)」の話題も含め、本シングルの制作について澤野本人に話を聞いていく。
INTERVIEW & TEXT BY もりひでゆき
PHOTO BY 関信行
■サウンドのアプローチを広げてもらえた
──今回はグローバルボーイズグループとして活躍するJO1から河野純喜さんと與那城奨さんがゲストボーカルとして参加、大きな話題を呼んでいますね。
今をときめく方々に参加していただきました。今回はアニメのオープニングテーマ(「Move The Soul」)をJO1の方たちが担当するので、「エンディングでコラボはどうですか?」というご提案をいただきました。こういった機会がなければなかなかコラボできる方々ではないと思ったので、ぜひぜひやらせていただければとお返事しました。河野さんに関しては『THE FIRST TAKE』で「無限大」を歌われているのを見た後だったので、“あ、この方とご一緒できるんだ!”と思ってワクワクしましたね。今回のコラボでは若い世代の勢いとグルーブを楽曲に加えていただいたことで、これまでとはまた違った形でサウンドのアプローチを広げてもらえたと思います。
──トラックはちょっとパーカッシブなシーケンスが印象的な仕上がりです。
海外トレンドの影響もあって、ここ最近の自分の傾向としては、打ち込みの音色をわりかし強めに出すのが気に入っているというか。この曲もギターやベースは生で録音してますけど、それはあくまでもサウンド的な広がりを求めてのことで。自分としてはシンセのグルーブやリズムのアグレッシブさが出ればいいなという狙いはありましたね。
──爽快なサビは二段構えになっていますよね。すごく贅沢な作り。
あーそうですね。ひとつのサビの中でふたつ展開させるみたいなことを最近やりがちなんですよ(笑)。二度美味しいじゃないですけど、どっちも好きになってくれるような感じになればいいかなって。そのあたりも海外のポップスからの影響だったりはしますね。
──歌詞はBenjaminさんとcAnON.さんの共作。作品の世界観に寄り添いつつ、同時に聴き手を鼓舞してくれる内容になっています。
アニメの物語を理解してもらったうえで、基本的にはおまかせで書いてもらったんですけど、主人公たちの気持ちをしっかり汲んだ内容にしてくれましたね。書き方としてはいつもと変わらず、響きを大事にしながらメロディに乗せてもらうことだけは意識してもらいました。
──流れるようにメロディへ乗せることで、日本語であっても英語っぽく聴こえるニュアンスですよね。
そうですね。あんまり日本語っぽく聴こえないように。むしろ全編英語で歌っているような聴き心地にしてほしいなっていう。
■JO1さんサイドでの歌いわけがすごく新鮮で
──で、ボーカルに関してですが。河野さんと與那城さんの歌いわけはどう決めていったんでしょうか?
今回は僕から指定したのではなく、JO1さんサイドで考えていただきました。結果として、それが僕としてはすごく新鮮で。もし自分で歌いわけを考えていたら、わりと大きな括りでわけちゃったと思うんですよ。Aメロは河野さん、Bメロは與那城さん、みたいな感じで。
──実際はもっと細かく歌いわけされていますもんね。
そうそう。ひとつのパートの中で細かくふたりの声が入れ替わることで、楽曲自体のスピード感みたいな部分も増してもらえたなって感じます。今回は歌のレコーディングに関しても、普段やられている方にメインで仕切っていただいたんですよね。もちろん僕も同席して、何か気になるところがあればお伝えするというスタンスだったんですけど、もうほぼ何も言うことはなかったです。第一声として発していただいたものが問題なくかっこいいものだったので、「最高です!」みたいな感じで(笑)。何も言わずとも自然とグルービィな歌い方をされていたので。
──ふたりの声の違いはどう感じましたか?
河野さんは高いキーを得意とされているので、「OUTSIDERS」でもパーンと突き抜ける歌声をしっかり響かせてくれていて、生で聴くと本当にすごかったです。一方の與那城さんは少し太めの声を持っているので、AメロやBメロではちょっと色気のあるアプローチをしてくれました。すごく雰囲気のあるボーカルだと思います。おふたりともしっかり楽曲に寄り添い、細かい部分まで真摯に向き合って歌ってくださったので、僕としてはずっと感激してましたね。
■最高のエンターテイナーだなと思って、感動しながら見てました
──「OUTSIDERS」のMVはめちゃくちゃかっこいい仕上がりですね。これまでの[nZk]にはなかった映像にもなっていますし。
撮影ではおふたりの違った一面が見れたのもよかったですね。カメラの前に立った瞬間にグッと表情が変わるというか。ダンスはなかったんですけど、楽曲をよりアグレッシブに聴かせるように、しっかり考えながら動かれていたのが印象的で。最高のエンターテイナーだなと思って、感動しながら見てましたけどね。
──バックでピアノを弾く澤野さんもクールでかっこよかったですよ。
いやいや、今回はほんとにおふたりあってこそのMVなんで。ああやって一緒にMVを撮ることができたのも本当に貴重な体験だったので、すごく楽しかったですね。
──シングルのカップリングには、水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミさんによる「OUTSIDERS」のリミックスも収録されています。
これまでも企画として[nZk]の曲をリミックスしてもらうことはあったんですけど、自分発信でシングルに収録するのは初ですね。今回のシングルはJO1ファンの方が手に取ってくださる可能性も大きいと思うので、もう1曲、彼らの声が入っているものを収録したいなと思ったんですよ。メロディは一緒だけど、アレンジが変わることで、声の聴こえ方がまたちょっと変わるところがあるはずですしね。
■ケンモチさんだからできるアレンジ
──ケンモチさんにお願いしたのはどうしてだったんですか?
水曜日のカンパネラとしてかっこよくて面白いことをやってらっしゃることはずっと知っていたし、以前ケンモチさんがひとりでやっていたプロジェクトのCDをケンモチさんとは知らずに気に入って聴いていたりもしたんですよね。なので初めてリミックスをお願いするならケンモチさんがいいなと。仕上がりはもうさすがのひと言ですよね。音色の使い方やリズムの組み方がほんとうに素晴らしいし、サビの後にシンセボイス的なリフのパートを付け足してくれたことで、さらに楽曲に広がりが生まれてもいて。ケンモチさんだからできるアレンジだなと思って、めちゃくちゃ感激でした。自分にはない発想はすごく刺激になるし、勉強にもなるというか。また機会があったら誰かにリミックスをお願いしてみるのも楽しそうですよね。
──シングルの2曲目には、昨年3月にリリースされたアルバム「iv」に収録されていた「N0VA」の“S0VA Remix”が。こちらは澤野さんご自身がリミックスされたものですね。
はい。流れとしては、以前自分からの企画で「N0VA」のMVを撮ったことがあって。
──そば屋を営まれているお友達と共演されているものですよね。
そうです、そうです。あのMVでは親友がそばを打つ様子とともに、僕の作業風景も映像になっているんですけど、実はあそこで「N0VA」のリミックスを作っていたんですよ。別に制作してる体でもよかったんですけど、せっかくなら本当に何か作っていたほうが面白いかなと思って。
──へぇ!そこで作られたリミックスが今回収録されたと。原曲とはだいぶ雰囲気が変わっていますね。
そうですね。ちょっと民族っぽいシンセの音色を足していきつつ、テンポもちょっと上げて。オリジナルとはまた違った勢いが出たと思いますね。
■まったく違う職種の人とコラボすることなんてまずない
──あのMVで匂わせていた“N0VA”と“そば”のダジャレ感が、今回の“S0VA Remix”で回収された感じもありますよね(笑)。
あははは。確かにそう思いますよね。でも実際は別にダジャレ先行であのMVを撮ったわけではなかったんですよ。コロナ禍で映像的に新しいアプローチを模索している中、ちょうど一昨年、親友がそばのお店を新規リニューアルオープンさせたのがきっかけで。彼がそば打ちをしているところを見せてもらったときに、その職人ならではの動きにめちゃくちゃ感動したんですよね。そういったまったく違う職種の人とコラボすることなんてまずないので、だったらモノ作りをする者同士で一緒に何か作ったら面白いんじゃないかなということになったんです。で、後々「あ、“N0VA”と“そば”だ」と気づいたので(笑)、今回のリミックス名に繋がっていったっていう流れなんですよね。
──お友達もこのリミックスを聴いて喜んでくれるといいですね。
そうですね。彼は小学校時代からの唯一の親友なんですよ。アマチュア時代の頃から僕の音楽を熱心に聴いてくれて、背中を押してくれたのですごく感謝してます。せっかくなんでね、このリミックスをお店で、爆音で流してもらおうかな(笑)。
■“Lacoさんらしいパワフルなバラードにしてください”って
──そして、シングルにはもう1曲、「Roads to Ride <LCv>」も収録されています。
これはTVアニメ「群青のファンファーレ」のメインテーマの歌バージョンですね。サントラにも違うボーカリストの方が歌ったものが入るんですけど、こちらは[nZk]でおなじみのLacoさんに歌ってもらったバージョンになります。タイトルについている<LCv>というのは<Laco version>という意味です。
──ピアノ1本とボーカルのみという非常にシンプルな楽曲になっていますね。
サントラのほうはオーケストラをバックに、わりと透き通る声で歌ってもらっているんですけど、こちらのほうは逆にピアノだけのシンプルなオケに、Lacoさんの力強い歌声を乗せてもらいました。それによって楽曲の聴こえ方が変わったらいいなっていう狙いですね。
──Lacoさんの歌声にも、いつもとは違った魅力が感じられますよね。
そうですね。Lacoさんにこれだけガッツリとバラードを歌ってもらうことはそんなになかったと思うんで、僕も聴いていて新鮮な感覚はありました。レコーディングはかなり速かったですけどね。パートごとで歌っていくのではなく、ライブのようにつるっと1曲分を流れで歌ってもらう感じで。“Lacoさんらしいパワフルなバラードにしてください”っていうイメージをお伝えしただけで、あとはディレクションもほぼしなかったと思います。
──久しぶりのシングルは様々な入り口を持った4曲が収録されることになりましたね。
うん、そう思います。JO1のファン、TVアニメ「群青のファンファーレ」のファン、そして普段から[nZk]の音楽を聴いてくれている方たちという三方向に開けたシングルになればいいなという思いがあったので、いい形で実現できたんじゃないかな。
■皆さんに驚いてもらえるような作品もあったりする
──ここからの予定もいろいろ決まっている感じですか?
そうですね。SennaRinちゃんとのプロジェクトも進めていきますし、[nZk]でもいろいろ考えています。劇伴に関してもすでにレコーディングしているものもあるし、これからレコーディングするものには、僕がかかわるのは意外だと皆さんに驚いてもらえるような作品もあったりするので、楽しみにしてもらえたらうれしいですね。
リリース情報
2022.05.25 ON SALE
SINGLE「OUTSIDERS」
プロフィール
SawanoHiroyuki[nZk]
サワノヒロユキヌジーク/ドラマ・アニメ・映画など映像の音楽“劇伴”を中心に活動する澤野弘之によるプロジェクト。劇伴にボーカル楽曲を積極的に取り入れてきた澤野弘之が、よりボーカル楽曲に重点を置く形で展開する。2014年春より始動。
SawanoHiroyuki[nZk] OFFICIAL SITE
http://www.sh-nzk.net