20歳のシンガー・SennaRinが4月13日、1st EP「Dignified」でメジャーデビューを果たした。劇伴作家・澤野弘之プロデュースによる本作には、アニメ『銀河英雄伝説 Die Neue These 激突』のW主題歌となる「melt」「dust」や、TV東京『THE MAKERS ~突破の条件~』テーマソング「証」、『J SPORTSラグビー』のテーマソング「BEEP」など、彼女のシンガーとしての幅を感じさせる楽曲群が収録されている。今回『THE FIRST TIMES』ではSennaRinとプロデューサーである澤野弘之との対談をセッティング。聴き手の感情を揺さぶる無二の歌声が放つ魅力に迫っていく。
INTERVIEW & TEXT BY もりひでゆき
PHOTO BY 大橋祐希
■高校時代はYouTubeにすべて捧げました(笑)
──SennaRinさんはこれまで音楽とどんなふうに触れ合ってきましたか?
SennaRin:私の家族は全員、音楽が大好きで。常にいろんな曲が流れていましたし、両親が趣味でやっていたギターとピアノが家にあったりもしたんですよね。だから音楽はずっと側にあったものでした。小学校6年生くらいになると、ひとりきりで歌うためにギターをちょっと弾き始めたりもして。これまで一度もバンドやユニットを組んだことはなく、気づいたらずっとひとりで歌ってきた感じです。
──2018年くらいからはYouTubeにカバー動画を投稿されていましたよね。
SennaRin:はい。自分の歌をいろんな人に聴いてもらいたいという目的で始めました。最初に投稿したのは映画『君の膵臓をたべたい』の主題歌だったMr.Childrenさんの「himawari」で、1万回くらい再生されたらいいなぁって漠然と思っていたんです。そうしたら実際は予想以上の反響をいただくことができて。そこから勢いづいて動画をコンスタントに上げ続けるようになったんですよね。私の高校時代はYouTubeにすべて捧げました(笑)。
──その段階で、例えばメジャーデビューをしたいとか、何か目標を掲げたりもしていたんですか?
SennaRin:あんまり具体的には考えていなかったかもしれないですね。そのままYouTubeを続けていくのか、それともアーティストとしてメジャーデビューをしたいのか、みたいなことをふわっと考えることはありましたけど、そもそも“メジャーデビューってなんだろう?”みたいな感じでしたから(笑)。本格的にいろいろ考えるようになったのは、高校3年生で上京して、澤野さんに出会ってからだと思います。
──どんな流れで出会われたんですか?
澤野弘之(以下、澤野):レーベルの方を通して紹介していただいたんですよ。僕がやっているボーカルプロジェクトであるSawanoHiroyuki[nZk]とは別に、ボーカリストひとりをフィーチャーした形で音楽制作してみたいなという思いがずっとあったりもしたので、その候補としてRinちゃんの音源を聴かせてもらったという流れで。そこで聴いた声がすごく魅力的だったので、本格的にやり取りさせてもらうようになったんですよね。
SennaRin:正直、お声がけいただいたときはビックリしました。私は上京する少し前に、サウンドトラックばかりをずっと聴いていた時期があって。それが偶然、澤野さんの曲ばかりだったんです。なので、澤野さんとの出会いは本当に運命的なものを感じています!
澤野:その後、都内のスタジオでボーカルチェックをさせてもらったときに初めて会ったんだよね。そこでは洋楽と邦楽を1曲ずつ、あとは僕の曲の中からも1曲歌ってもらって。
SennaRin:はい、3曲歌わせてもらいました。緊張しましたねぇ。
澤野:いや全然してなかったでしょ(笑)。
SennaRin:してましたよ(笑)!それまでの私は人前で歌う経験がほぼほぼなかったので、そこにまず緊張してました。あとは私の勝手なイメージなんですけど、作家やプロデューサーの方はふんぞりかえって椅子に座った状態で私の歌を聴くんだろうなって思ってたから、そこにもちょっと緊張していて(笑)。でも実際に澤野さんにお会いしてみたら全然そんな感じではなく…。
澤野:“軽いおっさん来たな”と思った?「なんだこいつは?」みたいな(笑)。
SennaRin:いやいや、そんなことは思わなかったですけど、とにかくしゃべるスピードがめちゃくちゃ速くて、会話がポンポンポンポン進むんですよ。それにちょっとビックリしつつ、でも私も結構しゃべるのが速いほうなんで、しっかり食らいついて会話してましたね(笑)。
澤野:あははは。そのときはそこまでたくさん話したわけではなかったんですけど、彼女の親しみやすいキャラクターみたいな部分はすぐに感じ取ることができたし、それがまた歌ったときとのいいギャップになるなっていう印象を受けて。僕もよく「楽曲としゃべったときのキャラが違いすぎる」って言われるんですけど、Rinちゃんにも同じ雰囲気を感じたんですよね(笑)。そこがすごく面白いなと。で、そこから改めてプロジェクトを進め始めた感じでしたね。
■どんなサウンドでも、対応した表現のできるボーカリスト
──澤野さんとしてはどんなふうにプロデュースしていこうと思いましたか?
澤野:どんなサウンドであっても、そこにちゃんと対応した表現のできるボーカリストだなと僕は感じたので、いろんな楽曲に挑戦してもらいたいなとは思いましたね。事前にいただいた資料では弾き語りのアコースティックな雰囲気のものであったり、バラードを歌っているものが多かったんですけど、その印象にとらわれる必要はないというか。アップテンポなものやデジタルなサウンドの曲で歌ってもらっても、Rinちゃんの声はきっと輝くだろうなと思ったので。
SennaRin:正直、今までアップテンポな楽曲はほとんど歌ってこなかったし、聴くことすらあまりなかったんです。なので最初のボーカルチェックで澤野さんのアップテンポな楽曲を歌うことになったときは、“私に歌えるのかな!?”っていう不安もあって。ただ、実際に歌い始めてみたらもうとにかく楽しかったんですよね。“こんな声が出るんだ!”“こんな表現をしたくなるんだ!”っていう発見もたくさんあって。だからいろんなタイプの曲を歌わせていただけることは純粋にうれしいですね。普段から好奇心旺盛で、何事にも挑戦していきたいタイプなので。
──デビューEPとなる「Dignified」には、SennaRinさんの持つ可能性を感じさせる多彩な楽曲が収録されていますよね。
SennaRin:はい。もう1曲1曲が自慢の作品ですし、1曲1曲がナンバー1!すべてが表題曲になり得る仕上がりだと思います。
澤野:いろんな曲のプリプロを並行して進めながら、最初に完成したのは「melt」と「dust」の2曲でしたね。
SennaRin:そうでした。同じ日に完成しました。
■自分でも“あ、今のかっこよかったかも”ってすごく思えるように
──その2曲はアニメ『銀河英雄伝説 Die Neue These 激突』のW主題歌。どちらも壮大なミディアムバラードですね。
SennaRin:この2曲はサウンドから導かれた映像が自分の中で明確にあったので、それと『銀英伝』の世界観を重ね合わせながら歌いましたね。とにかく楽曲に浸って、感情に任せてレコーディングしていった感じでした。
澤野:バラードでは彼女が得意としているであろう表現を感じることができますよね。僕としては、ちょっとがなった歌い方をしたときに出る声の倍音というか、少しざらついた表情にすごく魅力を感じるんですよ。息を感じさせながらも、しっかり強く聴こえるところがすごくいい。そこは「melt」「dust」のレコーディングで改めて発見したところでもありましたね。そういった表情はバラードに限らず、いろんなタイプの歌で使っていってもいいんじゃないかなって思います。
SennaRin:うれしいです!自分の声に対して、“いいな”って思うことって今まではなかったんです。でも、澤野さんから例えばサビの部分で「もうちょっと強く歌ってみて」っていうディレクションをしていただいたことで、自分でも“あ、今のかっこよかったかも”って思えるようになったというか。気に入りすぎて、その部分だけを後で何回も再生しちゃったりもしましたね(笑)。
澤野:とは言え、どの曲もそんなに細かくディレクションしていないんですけどね。気になる部分があれば伝えたりはしますけど、基本は彼女がバッと歌ったものがいちばんしっくりくるんですよ。テイクもあんまり重ねず、“この1回だけで終わりにしちゃってもいいけどねー”みたいな(笑)。
SennaRin:自分としてはうれしいですけどね。澤野さんの曲からはイメージがすごく伝わってくるし、それを表現することで自分の知らない自分をどんどん引き出してもらえるんです。以前、澤野さんのピアノだけで「Till I」「Missing Piece-WwisH-」を歌わせていただいたことがあったんですけど。
■もっとエモーショナルに演奏したいっていう気持ちにさせられた
──YouTubeに動画が上がっているスタジオライブですね。
SennaRin:あのときも澤野さんのピアノの音の形を感じながら歌っていくことで、自分の知らなかった表現がどんどん出てきたんですよね。
澤野:あー、そういう意味で言うと僕も同じ感覚をあのときに感じたんですよ。Rinちゃんが横で歌っていると、その歌声に含まれる感情によって、淡々とピアノを弾いていられなくなっていくというか。もっとエモーショナルに演奏したいっていう気持ちにさせられたんですよ。彼女の歌が持つそういう力は、リスナーの方への共感に繋がる部分なのかもしれないですね。
──SennaRinさんはテクニック的なことよりも感覚を大事にするタイプのシンガーなのかもしれないですよね。だからこそ聴き手の感情により共鳴する歌になるのかなと。
SennaRin:そうですね。楽曲を聴いたときに結構具体的なイメージが浮かんでくるので、それを大事にしたまま歌詞を書いたり、イラストを描いたり、歌にしたりっていうことをしている感じですね。どう歌おうとかはあまりあれこれ考えないというか。
澤野:うん。たしかに感情や感覚を大事にしながら、自由に表現するタイプではありますよね。ただ、彼女が書いた歌詞を見ると、かなりいろんなことを考えているんだなって伝わってきたりもするんですよ。普段はあっけらかんとしたキャラクターですけど(笑)、実はいろいろな視点で物事を見ているところもあるし。そういう部分があるからこそ、感覚で曲と向き合ってもいろんな表現が自然に出てくるんじゃないかな…って思ったんだけど、違ってたらごめんね(笑)。
SennaRin:いえでも、そうなのかもしれないです(笑)。
──EPには「証」というミディアムナンバーも収録されています。これはテレビ東京『THE MAKERS 〜突破の条件〜』テーマソングとして書き下ろされたもので、SennaRinさんが作詞を手掛けていますね。
SennaRin:新しい価値を生み出す方々をフィーチャーした番組で、しかも第1回目に澤野さんが特集されることになっていたので、そのテーマソングを歌うこと、歌詞を書くことはかなりプレッシャーでしたね。でも、いい歌詞を書きたいなと強く思って、1音1音に言葉をはめていきました。モノ作りっていうのは証を残していくことだと思ったので、“私のこの曲も生きた証になるんだぞ”と思いながら歌詞を書いていきました。
澤野:この歌詞は一発OKだったよね?
SennaRin:そうでした。作詞作業に充てられる期間が4日くらいしかなかったので、かなり焦りましたけどね。その間は夢の中でも作詞してました(笑)。しかも、澤野さんにはデータで歌詞をお渡しすればいいと思ってたんですけど、現地で直接渡そうと。しかも、歌って聴いてもらおうっていうことになって。もうド緊張しましたよ(笑)。
澤野:あははは。でも、実際に歌ってもらったほうが言葉のハマりもよくわかるし、内容的にも感情を伴って聴こえてきますからね。その場で聴いてバッチリだなって思いました。しかも、“それそのまま使ってもいいんじゃない?”くらいの歌を聴かせてくれたのも僕としてはうれしかったですね。もちろん後でちゃんとレコーディングはしたんですけど。
■脳に直接響くような、脳を直接つかむようなものに
──この曲の歌にはどんな感情を込めましたか?
SennaRin:メロディ自体がもうとんでもなく強いものになっているので、自分の歌に関しても聴いてくれる方の脳に直接響くような、脳を直接つかむようなものになったらいいなとは思ってましたね。
澤野:心ではなく脳をわしづかみにするって新しいな(笑)。
SennaRin:あははは。あと、ラスサビを挟むように静かで美しいメロディが流れてくるパートがあるんですけど、そこは歌いながらかなり感極まってしまう感じがありましたね。MVの撮影をしたときも、ラスサビ付近は結構キてました。もしかしたら涙が流れていたかもしれません。
──そして本作には「BEEP」と「Limit-tension」というアップテンポなナンバーも収録されていて。バラードとは違った表現のアプローチを堪能できる2曲だと思います。
SennaRin:アップテンポの曲は自分にとって挑戦ではあったんですけど、歌えば歌うほどに楽しくなってきますね。
澤野:ダンサブルでアグレッシブな楽曲を目指して作った感じですね。メジャーなコード進行ではないんだけど、でもやっぱり彼女の持っている明るさや若さみたいな部分が伝わるようなサウンドにしたかったというか。ライブではきっとたくさん動きながらパフォーマンスしてくれるんじゃないかなっていうイメージを持ちながら作っていきました。
SennaRin:レコーディングもすごく楽しかったですよ。リズムにノリながら、勢いで出てくる自分の声は新たな発見でもあって。録ったものをあとで聴き返すと、“めっちゃノッてんな!”って自分でも思えました(笑)。あと、この曲ではちょっと英語っぽく歌ってみたところもありましたね。
澤野:そうだね。言葉の歌いまわしやリズムを意識してもらうことで、曲自体の明るさやポップさをより感じてもらえる仕上がりになったと思います。
■アップテンポな曲の場合は、口から出るときの気持ちよさを大事に
──澤野さんの楽曲として、あまり今までになかったタイプの曲なのかなとも思ったんですけど、そのあたりは意識されたりはしましたか?
澤野:いや、そこは全然意識はしてなかったですね。ただ、そうやっていつもの僕の曲とは違った印象を持っていただけたのだとしたら、それはきっとRinちゃんの歌のおかげだと思いますよ。彼女の歌のアプローチが、この曲をよりポップなものにしてくれたのかなって。ここからはRinちゃんの声によって僕の音楽性が広げられることもあると思うので、それが楽しみでもありますね。
──この2曲の歌詞もSennaRinさんが書かれていますね。
SennaRin:はい。歌っているときの自分を想像しながら、いろんな言葉を当てはめていって。アップテンポな曲の場合は、口から出るときの気持ちよさを大事にしたんですよ。何度も頭の中で鳴らして、何度も歌っていくと、めちゃめちゃ気持ちよく歌える言葉が見えてくるというか。「Limit-tension」の“そう素敵な/so so素敵な方へ/そう気付けば”のところは最初に曲を聴いたときにパッと頭の中で再生されたのがこのフレーズだったんです。ここは澤野さんにも褒めていただけたのがうれしかったです(笑)。
澤野:僕は結構歌詞に対してサウンドにマッチした響きを重要視するタイプなんですけど、Rinちゃんが書いてきてくれた歌詞はそこをしっかりクリアしたものになっていて。直して欲しいと思うところはほとんどなかったです。しかも、20歳という年齢ならではの言葉のチョイスもあるし、想像以上に物語性を歌詞に込めてくれた部分もあったし、すごく才能があるなって思いました。今後は基本的には彼女自身に歌詞を書いてもらったほうが、楽曲としてもしっかり伝わっていくんじゃないかなって今は思ってますね。
──10月7日には初のワンマンライブが決定しています。ここからの活躍が楽しみです!
SennaRin:これまでに3回ほど人前で歌う機会をいただいてるんですけど、始まる前はほんとにお腹が痛くなっちゃうくらい緊張してたんですよ。でも、いざステージに立って楽曲が流れ始めるとスイッチがバーンと入って、めちゃくちゃ楽しく歌えるんですよね。それは自分でも意外でした。とは言え、ワンマンは初めての経験になるので、どうなるのかな。楽しみながら頑張ろうと思います!
■才能を伸ばしながら進化し続けることは間違いない
──では最後に。澤野さんからSennaRinさんにエールをいただけますか。
澤野:今回のEPに関して言うと、「BEEP」のようなアグレッシブな曲もありますけど、どちらかというとバラード色が強い作品になったと思うんですよ。でも、Rinちゃんはダンサブルな曲もしっかり表現できることがわかったので、今後は例えばEDMであったりとか、ロックな曲であったりとか、いろんな表現に挑戦していけそうだなって思っていますね。彼女はここから自分の才能を伸ばしながら進化し続けることは間違いないので、僕もちゃんとそこに追いついていけるように(笑)、自分自身の音楽をアップデートしていきたいと思ってます。とにかく彼女とのプロジェクトがここからどうなっていくのか、ワクワクしていますね。
SennaRin:私もワクワクしてます。これからもよろしくお願いします!
リリース情報
2022.04.13 ON SALE
EP『Dignified』
ライブ情報
SennaRin 1st LIVE
10/7(金) 詳細は後日発表
プロフィール
SennaRin
センナリン/これまでにYouTube上で公開してきたカバー動画が5,500万回以上の再生回数を記録している、福岡出身20歳の次世代シンガー。
特徴的な低音と透明感のあるハスキーボイスが魅力で、作詞やイラストも手掛けるマルチな才能をもつ。
作詞やイラストのクレジットは「茜雫凛」名義(読みは同じく「センナリン」)で行っている。
SennaRin OFFICIAL SITE
https://www.sennarin.com
リリース情報
2022.05.25 ON SALE
SawanoHiroyuki[nZk]
SINGLE「OUTSIDERS」
プロフィール
澤野弘之
サワノヒロユキ/ドラマ・アニメ・映画など映像の音楽活動を中心とし、その他にもアーティストへの楽曲提供・編曲など精力的に活動している。ボーカル楽曲に重点を置いたプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk](サワノヒロユキヌジーク)が2014年春より始動。
澤野弘之 OFFICIAL SITE
http://www.sawanohiroyuki.com/