デビュー前にもかかわらず、2021年TVアニメ『Vivy – Fluorite Eye’s Song -』で主人公の歌姫AI・ヴィヴィの歌唱パートを担当し、大きな話題を呼んだ八木海莉。2022年3月16日には、人気テレビアニメ『魔法科高校の劣等生 追憶篇』の主題歌「Ripe Aster」でCDデビューを果たした、今年要注目のシンガー・ソングライターだ。4月27日には、その歌はもちろん、ソングライティング力にも才能の豊さを感じさせてくれ、彼女の幅広い音楽性と大きな可能性も大いに感じさせてくれる初のEP『水気を謳う』をリリースする。このEPについてインタビューした。
INTERVIEW & TEXT BY 田中久勝
PHOTO BY 大橋祐希
■ダンスも歌も演技も全部繋がっているなという気がしています
──ファーストオフィシャルインタビューで「歌って踊れるアーティストになりたい」とおっしゃっていましたが、これは今も変わらない野望ですか?
そうですね、いろいろな表現の方法があるなら挑戦してみたいとは思っていて、いつかは踊ったりギターを弾いたりいろいろやっているかもしれませんね。ダンスも歌も演技も全部繋がっているなという気がしています。
──「お茶でも飲んで」が収録されている1st EP『水気を謳う』には、いろいろな音楽性を感じさせてくれる5曲が収録されています。YouTubeチャンネルでは「だから僕は音楽を辞めた」(ヨルシカ)や「会いたいわ」(iri)、「MILABO」(ずっと真夜中でいいのに。)、「クロノスタシス」(きのこ帝国)など様々なアーティストのカバー動画が注目を集めていますが、このアーティストも含めて、どんな音楽を聴いてきて、影響を受けているのでしょうか?
ボカロもよく聴いていたし、嵐とかアイドルなど様々なジャンルを聴いていました。その中でも、YouTubeでRADWIMPSの「ふたりごと」のMVを観て、こんなに自由に歌詞を書いてもいいんだって衝撃を受けました。ダンススクールに通っていたので洋楽もいろいろ聴きました。曲作りを始めたのは高校2年生のときで、まずは鍵盤を買いに行ったんです。でも何をどうしたらいいのかまったくわからなかったので、最初は好きな曲のコピーから始めました。
──オリジナル曲を作り始めたときは、どんな作り方を?曲先ですか?
最初に言いたいことをまとめて、言葉をちりばめたあとに曲を付けて、詞と曲を一緒に作っていく感じでした。
■歌っていて気持ちいい言葉というのを、意識して探している
──言葉もすごく独特というか“リズム”がある言葉が多い気がします。
なにより歌うことが好きなので、ボカロの影響もあるのかもしれないですけど、歌っていて気持ちいい言葉というのを、意識して探しているのかもしれません。型にはまらない自由な言葉を使っていきたいなと思っています。
──型にはまっていないけど、言葉美しいし、美しい日本語にこだわっている感じがしました。文学少女でした?
いえ、マンガ派です(笑)。なので、デビューが決まってからスタッフの方に「読みなさい」って本を大量に渡されて(笑)。全部読んで、感想文を書いて送りました。
──歌詞は自分に問いかける、言い聞かせるという感じのものが多いですよね。
小学生の頃からほぼ毎日日記を書いていて、高校を卒業してからは毎日書かなくなりましたが、それを読み返して書くこともあります。こんなことで怒ってたんだとか(笑)。愚痴みたいなものばかりです(笑)。
──まさにそれぞれの時代の、等身大の八木さんの思いや感情が克明に描かれている大切なものですね。
そうなんです、宝物なので絶対に捨てれません。今は自分に言い聞かせたり、自分に向けて書いている曲が多いのですが、もっと皆さんがいろいろと想像できる、投影できる歌詞を書いていきたいです。
──日記以外で、日々の生活の中で気になったフレーズや言葉をスマホにメモったりするタイプですか?
はい、結構メモっていてたまに見返すと“何だ、この文章!?”みたいなものもありますけど、たくさん残しています。
──1st EPを出すことが決まったときは、曲のストックは結構あったんですか?
最初はなかったので、無我夢中に作っていったら、いいことなんですけど作り過ぎちゃって、選ぶのに困りました。他にも入れたい曲がたくさんあったのですが、でもすごくいい作品が出来たと思います。
■自分の中で映像をイメージしてそれを言葉や曲にしていく
──では『水気を謳う』に収録されている作品についておうかがいします。「お茶でも飲んで」はシニカルな言葉が並んでいます。
そうですね、自分自身に向けてちょっと皮肉っぽい感じで(笑)。初めて作った曲は、意味がわからないくらい濁し過ぎて「何が言いたいのかわからない」って言われましたが、最近はちょっと素直になれてきました。この曲はちゃんと言いたいこととお茶を関連付けて、ひとつのテーマを提示することができたと思います。まず自分の中で映像をイメージしてそれを言葉や曲にしていく感じで作りました。
──この曲のMVのイメージも最初から頭の中にあったんですね。
そうですね。撮影場所やサムネイルのイメージを監督さんに伝えて、形にしてもらいました。
──この曲は、ボカロP“23次元P”としても知られる16歳のクリエイター皆川溺さんがアレンジを手がけていますが、皆川さんにはどんなリクエストをしたのでしょうか?
自分の中でこれがいいと思ったものをデモで作っていて、そこからアレンジしてもらうという流れの中で、まず“アレンジって何?”というところから始まって。だから「どうしたいか」って言われても最初は何も答えられなくて、今回はお任せをしました。すごくいいアレンジにしてくださって、最後には一緒にスタジオに入って「こういう音が欲しいです」ってリクエストをして、完成しました。
──新しさと懐かしさが同居している感じというか、その雰囲気が八木さんの声と合っていて、歌を最大限に“届ける”アレンジになっていると思いました。
ありがとうございます。皆川さん、本当にすごいですよね。いろいろな方にアレンジをしてもらってすごいなと感動するたびに、いつか自分でもアレンジができるようになりたいと思いました。
──「お茶でも飲んで -Chinese Tea ver-」はボサノバっぽいアレンジで、曲の表情がガラッと変わって新鮮ですね。
そうなんです!西野恵未さんが素敵なアレンジをしてくださって、歌も録り直しました。初めてレコーディングでギターを弾いて、すごく緊張しました(笑)。
■焦っても意味ないだろうって自分に対して言ってる
──ミディアムテンポの「SELF HELP」も、未来への不安と“今”への不満を抱えながら、でも生きていくんだと自分自身に言い聞かせている、決意を感じる歌詞です。
高校になるときに、歌手を目指して上京をしてきて、2年経って焦り始めたときに、焦ってるけど焦っても意味ないだろうって自分に対して言ってる曲です。
──どこか無機質な感覚で、でも温かい感じの声が、他にはない肌触りです。
広島でスクールに通っていた頃は先生に「個性のない声」って言われて、自分の声には個性がないんだとずっと思っていました。でも『Vivy – Fluorite Eye’s Song -』でいろいろな曲を歌わせていただいたこともあって、歌い方が少し変わったというか、声の出し方が変わったなと思います。
──この曲はグルーヴがありつつも、アンビエントな空気も漂う不思議な感じで、中毒性があります。
アンビエントが最初どういう意味かわかっていなかったのですが、アレンジを手がけてくださった(益田)トッシュさんも、“アンビエント感”があるとおっしゃってくれていました。
──トッシュさんがTwitterで八木さんのことを「常識にとらわれていないすごい子だ」と呟いていましたね。
うれしいです。トッシュさんにいろいろ教えていただきながらの作業でした。
■嫌なことがあった次の日の朝をイメージして
──「Sugar morning」は陰を感じながら、でも気持ちが穏やかになる、これも不思議な感じがする曲です。
初期に出来た曲で、この曲は他の曲よりもキーが低めで。広島の実家と違って、東京では夜は家でギターを弾いたり大きな声で歌えないので、自然と声が低くなったのかなと。夜ってどこか特別感があるので夜の曲ってたくさんあると思うんですけど、この曲はちょっと天邪鬼で、朝の曲を書いてやろうって書いた曲なんです。嫌なことがあった次の日の朝をイメージして、最初に「Sugar morning」というタイトルをつけてから作りました。タイトルは最後に付けることが多いんですが、この曲はタイトルに引っ張られて、メロディも言葉も出てきました。
──アレンジを手がけたkoyabin(THIS IS JAPAN)さんにはどんなリクエストをしましたか?
お任せでしたが、デモの雰囲気を残してもらいつつブラッシュアップしていただけたのですごくいい感じになりました。
──「海が乾く頃」はどこか懐かしさを感じさてくれ、シティポップのような空気を感じる曲です。
小学生の頃におじいちゃんが亡くなって、その後、おじいちゃんに向けて手紙を書いていたのですが、その手紙が出てきてそれをもとにした曲なので、懐かしい思い出のような感じの曲を書きました。“今日はいっぱいお話がある”というフレーズは手紙の文章のままで、会えなくなってしまった人に、もう一度会いたい、会おうという約束をする歌です。
■ボカロっぽさを入れたくて、セリフのような言葉も入れたり
──ボーナストラックの「ダダリラ」だけ、曲はボカロP・ふるーりさんが書いていますが、このEPの中ではやや温度感が違う作品になっていますね。
そうですね。先ほども出ましたが、私はとにかく“歌うこと”が好きなので、ふるーりさんに書いていただいたこの歌も歌えてうれしかったです。「Ripe Aster」もそうでしたが、この曲は決まったメロディに歌詞を乗せたので、いつもとは違う制作方法だったので、難しかったですし、ボカロっぽさを入れたくて、セリフのような言葉も入れたりしたので、さらに難しかったです。
──コロナ禍で、思うように動けない状況だったと思います。どうやって自分と向き合いましたか?
今はネットがあるので、コロナ禍でもYouTubeでライブをしたりしていました。逆に生でライブができるときはプレミア感がつくというか、そうやってプラスに捉えていきました。
──東京に住んで、もう…。
5年目です。
──じゃあもう“こっち”の人ですね。
はい!こっちの人です(笑)。
──広島にはよく帰るんですか?
たまに帰ります。でもそんなに長くは居られなくて、すぐ東京に“帰って”きます。広島にはたまに帰って、たまにいろいろな人に会うくらいがちょうどいいかなと思っています。
──9月4日には初の有観客ワンマンライブ『八木海莉 First One-Man Live -19-』(東京・duo MUSIC EXCHANGE)が予定されています。
まだどんなライブになるかわからない部分が多いですが、『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』のヴィヴィとして、お客さんの前で初めてライブをやらせていただいて、ライブって楽しいなと改めて思いました。なので、初ワンマンも自分がめいっぱい楽しもうと思っています。
■そのうちいろいろとやりたくなりそうな気がします(笑)
──映像にも興味があるし、ライブをやるごとに、そのなんでもやってみたいという性格がムクムク顔を出してきて、照明からステージセットまで細部に渡ってこだわりが出てきそうですね。
まだライブの演者として、ステージで歌うことで精一杯ですが、そのうちいろいろとやりたくなりそうな気がします(笑)。でもあんまりこだわりが強いと、面倒くさい人って思われそうですけど(笑)。
リリース情報
2022.04.27 ON SALE
EP『水気を謳う』
ライブ情報
「八木海莉 First One-Man Live -19-」
9/4(日) duo MUSIC EXCHANGE
プロフィール
八木海莉
ヤギカイリ/2002年9月5日生まれ。広島県出身。15歳の時、自身の夢を追いかけ単身上京。自身のYouTubeチャンネルにて弾き語りカバー動画をアップし、注目を集める。2021年4月放送TVアニメ『Vivy -Fluorite Eyeʼs Song-』にて主人公のヴィヴィの歌唱を担当し話題を呼び、レコチョク上半期ダウンロード部門新人アーティストランキング1位獲得。歌だけでなく、作詞・作曲をはじめギターやダンスと才能を発揮。2021年12月18日初のオリジナル楽曲「Ripe Aster」リリースにてデビュー。
八木海莉 OFFICIAL SITE
https://yagikairi.com/