miletが新曲「Walkin’ In My Lane」をリリースする。
爽快さと力強さに満ちた曲調に乗せて歌われるのは、一人ひとりの孤独にそっと寄り添い勇気づけるような言葉。TVドラマ『やんごとなき一族』の主題歌として書き下ろされたこの曲は、ドラマの主人公・佐都をイメージしつつ、いろんな人が自分の日常に引きつけて感じることのできるようなナンバーだ。
今年2月には通算2枚目となるアルバム『visions』を、そして3月には8th EP『Flare』を続けざまにリリース。1月からは2度目の全国ツアー「milet live tour “visions” 2022」も回ってきた。2022年もエネルギッシュに突き進むmiletに、新曲について、そして「音楽に力をもらっている」という現在について、語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 柴那典
PHOTO BY 藤城貴則
■主人公に寄り添った歌にしたら多くの人に寄り添える
──「Walkin’ In My Lane」はドラマ『やんごとなき一族』の主題歌ですが、どんな人が聴いても共感できるような楽曲になっているように感じました。曲はどんなところから書き始めましたか?
まずは原作の漫画や脚本を読んで、頭の中で想像しながら作ってきました。『やんごとなき一族』の世界観だけにフォーカスすると、どうしてもそういう世界は私の生きていた人生の中にはなかったので難しかったんですけど、主人公の(篠原)佐都は普通の人なので親近感も湧きますし、自分と重なるところも多いと思って。負けず嫌いだったりして、すごく応援したくなるんです。「ただ好きな人と一緒にいたいだけなのに、なんでこんなに困難が立ちはだかるんだろう」と思ったり、自分が今まで感じたことと重なることもありましたし、佐都にはすごく共感できると思っていました。だから、ドラマの世界観というよりは佐都という主人公に寄り添った歌にしたら多くの人に寄り添えるだろうなと思っていました。
──応援したくなるというのは、どういう気持ちなんでしょうか?
『やんごとなき一族』はドラマですし、華々しい世界ですけれど、どんな環境の中で生きる人間もひとりの人間だと思うんです。だからこそ、みんながそれぞれいろんな形の孤独を抱えている。その孤独に飲まれることもなく、手放そうとすることもなく、上手く共存していくことが上手な人生の生き方なのかなと思っていて。応援と言うと押し付けがましいですが、孤独感というのを肯定することで、もうちょっと肩の力を抜いて生きられるんじゃないかという意味で寄り添えたらと思っていました。
──miletさん自身も孤独を感じる瞬間はありますか?
それは常に感じますね。楽しかった時間が終わった後の孤独もあります。例えば、ライブが終わって“楽しかった”と思いながらホテルに戻ってひとりでホッと一息ついたときの寂しさもあれば、曲作りをしていて誰にもわかってもらえない不安な気持ちとか、先行きの見えないときに感じるような孤独感というのも、ずっと付きまとっています。でも、逆に、ひとりになれる時間があるからこそ生まれる曲達もありますし、孤独を嫌なものと感じる認識はないですね。
──この曲の中でmiletさん的に「この言葉が書けた」という手応えのあったラインは?
全体的に良いラインが描けたとは思いました。中でもBメロが好きですね。1番の“日々はスローモーションのように/霞んで見えるのかな”というのは、楽しかった時間からひとりの瞬間に戻ったときに景色が変わって見えるようなときのことで。“自分だけ取り残されているのかな?”とか“頑張ってるつもりだけど”と思ってしまうこともあると思うんです。で、その次に“一人ぼっち同士/逆らってこうぜ”とあるのは、どうせ人はひとりだし、頑張ってみたいと思うから、“私もやるから、やんない?”みたいな軽いノリでトライに誘うのもありだと思っていて。そういう軽いノリもこのメロディとポップなサウンドの中だった歌いやすいと思います。メッセージとしてはしっかりとした芯のある言葉なんだけど、曲のテンションに合わせたライトな伝え方ができたなと思っています。
■ビートも結構弾けているので、それにどれだけ乗れるか
──サビも印象的ですね。“わかってないとか言われたって/笑ってばっかじゃいられなくて”と、“っ”の促音を意識的に入れた言葉の選び方になっている。そこも曲調のポップさと相まってリズミカルに聴こえる感じがします。
スタッカートはすごく意識していますね。滑らかに歌うとチルな感じになってしまうし、ビートも結構弾けているので、それにどれだけ乗れるかということも考えました。ただ、サビの後ではローも聴かせて、滑らかに行って、サウンドとのギャップを出しつつ、ノリもいいというバランスをとった曲になったと思っています。
──シングルの3曲目「My Dreams Are Made Of Hell」についても聞かせてください。以前の『visions』のインタビューで「あえて沼属性の曲はアルバムには入れなかった」と仰っていましたが、この曲はダークな“沼属性”と言えるタイプでしょうか?
今まで作ってきた曲だったら「Dome」か「Fire Arrow」とか「Waterfall」とかはわかりやすく“沼属性”だと思うんですが、この曲は沼といってもビートも効いているので、「沼(クラブ)」みたいな感じです。
──「Walkin’ In My Lane」のようなポップな曲と「My Dreams Are Made Of Hell」のようなダークな曲の両方があるのがmiletさんの中のバランスという感じなんでしょうか?
もともとは3曲目みたいなテンションの方が作ることが多くて、自分も心地いいなと思っていたんですけど、いろいろな曲を作らせてもらう中で「Walkin’ In My Lane」のような曲にもチャレンジできるようになっていったんです。だから、ベクトルは真反対みたいな曲たちですけど、緩和剤になるような2曲目もあったりするので、全体を聴くとバランスはとてもいいなと思います。人間の情緒ってひょっとするとこういうものなのかなとも思ったりするので。
■“隠し球”ではなく、普通にありのままの曲
──miletさんのファンやリスナーはその両面があるのをちゃんと気付いているという風にも思います。
最近思うのは、「『visions』は前向きな曲が多くて「Flare」も明るい一枚になったので、暗い曲を出して」とリクエストいただくことがあって。でも、“隠し球”みたいにはしたくないんです。私は“沼”の出身だし、こういう曲はやっぱり好きなんです。ギャップを狙っているわけではないし、びっくりさせようと思っているわけではなくて。音楽的に自分の内側をさらけ出して作っている。“隠し球”ではなく、普通にありのままの曲だと思って捉えてもらえたらと思っています。
──ここ数ヵ月で発表してきた楽曲についても改めて聞かせてください。昨冬の「Fly High」はNHKウィンタースポーツテーマソングとして書き下ろされた曲で、「Walkin’ In My Lane」も応援のモチーフがありますが、これもまさにエールソングだと思います。この曲を書いたのは、振り返ってどういう経験でしたか?
応援歌と言っても、バランスは大事だと思っています。あんまり押し付けがましく「頑張れ」と言っても「頑張ってるよ」となるのは当然ですし。だからどういう立ち位置でこの歌を歌えばいいのかなと考えました。「Fly High」はアスリートの人に届くように、皆さんが全力で競技できるように、そういう思いを込めて書いた曲なんですけど、それと同時にたくさんの人が聴いてくださる曲でもあるので、スポーツに関係なくても入試や大事な仕事の場面で少しでも背中を押せるような、前向きになれるような曲になればいいなと思って作っていました。あまり応援歌とかエールソングっていうものを作ってこなかったので、ほとんど初めての体験だったんですけど、どうしたらみんなの心に響くのかなと思ったときに、自分の心に響かせるのがいちばんだと思ったんです。自分が何を言われたいか、自分が悩んでいるときにどういう言葉があれば一歩を踏み出す気になれるかを考えながら作っていて。自分を励ましながら作っていた曲という印象があります。
■自分の直感に問いかけて答えるように歌ったのが「Fly High」
──なるほど。大きなものに向かうために、あえていちばん身近な自分に向き合ったというか。
いろんなものを見てきて、いろんな人と関わってきたから、少しでも自分の感覚にヒントをもらいたいなというのがありました。でも落ち込むときとか、立ち止まってしまう瞬間ももちろんありますけど、そのときに聴きたい曲ってなんだろうということを考えたんです。私はそういうときにこういう曲を聴きたいと、自分の直感に問いかけて答えるように歌ったのが「Fly High」だったなと思います。
──「Flare」はどうでしょうか。この曲はアニメ『王様ランキング』のエンディングテーマとして書き下ろされた曲ですが、どういうことを思い描いていましたか?
何かの作品に携わるときは、その主人公にピッタリ合う曲を書きたいとは思っています。主人公が立っているだけのカットに曲が流れてきて「はい、決まり」というくらい似合う曲を作りたいなと思っているので、この曲も、『王様ランキング』の主人公のボッジが仁王立ちしているのを想像して、そんな彼に合う曲になったらいいなと、彼のテーマソングになっていいなと思っていました。“一番に光れ”というフレーズは、一番を目指す彼に向けて書いた曲だからこそ出てきたフレーズだなと思います。蔦谷(好位置)さんの編曲もあって、間奏からバンドサウンドも取り込んで盛り上がっていく感じがして。ライブでも歌っているんですけど、作ったときと曲に対する印象が変わってきていて、ライブでもすごく光る曲だなと思います。曲のメッセージをみんなが真っ向から受け止めてくれる感じがして、あの曲のポテンシャルの高さというのは、ライブで歌って初めてわかったところがあります。
──この「Fly High」があって、「Flare」があって、「Walkin’ In My Lane」がある。短い期間の中で立て続けに出ている3曲が、どの曲も応援やエールというようなモチーフをありつつ、全然違った切り口や鳴らし方になっているという印象があります。
「Walkin’ In My Lane」は応援ソングとして作ろうという思いはあまりなくて、佐都という主人公の女の子に寄り添いながら、誰の人生でもあるようなワンシーンを切り取って、そこに合うような曲にしようと思って作りました。それぞれの人生のいろんなシチュエーションに似合う曲になって、結果それがちょっと背中を押せるような曲になったのかなと思います。私は誰かを思って曲を作るときに突き放したりはしたくないし、できることなら寄り添って一緒に歩いたり走ったりしたいなと思っているので、その姿勢が応援する姿勢になっているのかなと思います。
■日常に溶け込んだ曲を聴いてもらいたいというのもありました
──先程仰った「押し付けがましいことはしたくない」という思いも表れている気がします。
それぞれの気持ちがあると思うんです。例えば「Fly High」を聴くときだと一歩を踏み出すか踏み出さないか迷っているときに聴くとすごくいいと思うんです。逆に“絶対無理だ”と思っているときに聴いたら、少ししつこく感じてしまう人もいらっしゃるかもしれません。「Flare」に関しても“よしここからやってみよう”と気合を入れてる人にとっては、ものすごくいい応援ソングだと思うんですけど、これも“「一番に光れ」とかだるいわ”とか“一番とか無理”と思ってる人にはしつこく聞こえてしまうのかもしいれません。だけど「Walkin’ In My Lane」という曲は“無理かも…”とか“こんな状況であの人よく笑ってられるな”みたいなときとか、自分を卑下しちゃってるときとかでも聴けるような曲だと思うので。「Walkin’ In My Lane」は親近感を持ってもらいたい、日常に溶け込んだ曲を聴いてもらいたいというのもありました。なので、ジャケットでもカジュアルなスウェットを着ています。ひとりの人間としてただ生きているだけだというのをメッセージとして届けたいなと思っていました。
──生活だったり日常だったり、聴いている人の普段着の中で、胸に明かりを灯せるような曲になっているように思います。
素晴らしい表現ですね。常に戦闘態勢なんて無理ですし、ふと力を抜いて、でも明日から頑張らなきゃなとひと息つくときの曲でもあるかもしれないし、よし頑張るぞというときにはこのサウンド感で気持ちも上がると思うし。だけど根底にあるのは一人ひとりの中にあるひとりぼっちの時間だったり、自分に向き合う時間で。その中で“孤独を突き放さないであげて”という気持ちが「Walkin’ In My Lane」にはあると思います。
■今の形になったし、私の中での闇のイメージも変わった
──「Love When I Cry」についても聞かせてください。これに関しては夜が舞台の曲ですが、これはどういうモチーフで書き始めたんでしょうか?
この曲はデビュー前に作っていた曲になります。TomoLow君と出会って、すぐに書いた曲なんです。それをアレンジし直しました。もともとは1番のAメロのテンションで最後まで行くような感じだったんですけど、ちょっと落ち着きすぎかなと思って。今の私だったら夜中の世界を駆け回ったりもしたいし、なんならめちゃくちゃなブラックホールにも沈んでみたいし、でもトランポリンの上でぴょんと跳ねるような感覚も欲しいしと思って。なので、今の形になったし、私の中での闇のイメージも変わったのかなと歌い直して思いました。
──そういうイメージの変化は、miletさんがデビューして、ライブで歌ってきたことから得た経験が大きかったりしましたか?
そうですね。ライブを経験したのは本当に大きかったと思います。以前のアレンジだったら淡々と歌っている光景が目に浮かぶんですけど、今のアレンジになったら、どんな演出にしようかなとかも考えたりします。雰囲気としては『visions』の中に「邂逅」というTomoLow君と作った曲があって、この曲には後半にどんどん世界が広がって、ビートも増えて加速していくクライマックス感があるんですが、「Love When I Cry」もそういった要素があります。『visions』のツアーの「邂逅」のときのクライマックス感がものすごくて、目玉としておいちゃうくらいの曲なんですけど、そういったポテンシャルをこの「Love When I Cry」にも感じます。
■ライブをすることで復活する自分がいる
──『visions』というアルバムを引っさげたツアーをやってきたことで気付いたことはたくさんあったんじゃないかと思うんですが、ツアーの経験は振り返ってどんな感じでしょうか?
『visions』がポジティブですごく前向きでアップなアルバムになったので、これを引っさげてのライブも本当に『visions』のカラーになったなと思います。どんなに疲れていても、どんなにハードなスケジュールの中でも、ライブをすることで復活する自分がいる。自分で作った曲を歌うことによって、そこにお客さんの笑顔とか反応とかいろんなものが重なって、より大きなエネルギーになって返ってきたツアーにもなりました。このアルバムはツアーもするということも考えて“ライブで盛り上がる曲を入れよう”とか“ライブ向きの曲を作ろう”と書いた曲も多かったので、実際に歌って皆さんの反応を見ることができて、曲の持っている底力みたいなものを感じたし、勉強になった部分もありました。『visions』というアルバムは“プリズムみたいなアルバムにしたい”というのをひとつのテーマにして作ったんです。光の当たり方によって、どんどん見える世界が変わっていくようなものにしたいという。それをツアーでも実感しました。それぞれの場所で私が歌うことによって、皆の表情が変わっていって、みんなが光り輝いていく様子が見えて、それがまた私に力を与えてくれるのを感じたライブでした。自信になりましたし、もっと音楽で楽しみたいと思いました。
──音楽に力づけられるという感覚が大きかった。
大きかったですね。慣れない中で「Fly High」のようなエールソングや、「Flare」のような曲も作ってよかったなって思います。“ちゃんと自分のことも励ましてる”“この曲を作って正解だった”って答え合わせができているような感じもありますし。『visions』が私だけのエネルギーの源になっているわけじゃなくて、ちゃんとみんなの力になれているんだなという確認ができて。自分の想像していた以上の答えが返ってきたなと思います。
リリース情報
2022.04.29 ON SALE
DIGITAL「Walkin’ In My Lane」
2022.05.25 ON SALE
SINGLE「Walkin’ In My Lane」
プロフィール
milet
ミレイ/2019年3月6日にメジャーデビュー。Toru(ONE OK ROCK)プロデュースによるデビュー曲「inside you」はiTunesなど人気音楽配信サイト11サイトで1位を記録。2019年末、人気音楽配信サイト”レコチョク”による「レコチョク年間ランキング2019」のダウンロード部門、ストリーミング部門の両方で新人アーティストランキング1位を記録。通算5枚のEPリリースを経て、2020年6月3日には全18曲を収録した1stフルアルバム『eyes』をリリース。2021年8月東京2020オリンピック閉会式に歌唱出演し、2021年末には2年連続となる「NHK紅白歌合戦」に出場。2022年2月に2nd fullアルバム「visions」をリリース。オリコン週間デジタルアルバムランキング4週連続TOP10入りする等ロングヒットを記録している。
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