遊助のニューアルバム『Are 遊 Ready?』がリリースされた。新型コロナウイルスの影響をはじめ、様々な出来事で引き続き不安定な情勢が続く昨今。そんな世界を力強くサバイブしていくため、本作には遊助流の“生き抜く力”のヒントが存分に詰め込まれることとなった。
シングルとしてリリースされた「マジ歌」「こむぎ」に加え、オリジナルアニメーションMV(遊助も声優として参加!)が話題を呼んでいるリード曲「この船のテーマ」や、湘南乃風からRED RICEとSHOCK EYEを迎えた「FIGHTER」、小柳ゆきとのコラボ曲「Name」など、聴き手の人生に様々なアプローチで寄り添ってくれる楽曲たち。「準備はいいか?そろそろ行こうぜ!」という遊助からのメッセージは、ここから始まる新世界に向けた確固たる狼煙となるに違いない。
「めちゃくちゃ満足のいくアルバムになった」と自ら語る本作に込めた思いをインタビューで紐解いていく。
INTERVIEW & TEXT BY もりひでゆき
PHOTO BY 関信行
■新たな気持ちで動き出すきっかけを
──約1年ぶりのニューアルバム『Are 遊 Ready?』が届きました。今回はどんなモードで制作に臨みましたか?
世の中のみんながそうだと思うんですけど、ここ数年は世の中的にいろいろなことが続いているから自分自身を改めて見つめ直す時期だったと思うんです。それをふまえて、ここからリスタートじゃないけど、もう一度新たな生活、新たな生き方をはじめられるような、そんなきっかけになる作品にしたいなと思ったんですよね。そういう思いになったのは、やっぱりコロナ禍の影響が大きいとは思うんですけど。
──遊助さんは新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年3月に『遊言実行』を、昨年3月には『For 遊』もリリースされていて。言ってみればコロナ禍になってから本作を含めて3枚のアルバムを世に出していることになります。その流れの中でコロナに対しての思い、向き合い方に何か変化はありましたか?
この記事が公開されるときに感染者数がどうなっているかはわからないけど、去年や一昨年に比べれば状況は前向きになっていると思うし、気持ち的にもちゃんと未来に向かっていけているような気はしますね。正直に言えば「どうにか前向きにとらえていこう」っていう感じだとは思うけど、でも去年までの不安は少しずつ払拭されつつあるとは思う。だからこそ僕は今回、新たな気持ちで動き出すきっかけを作りたかったというか。
──昨年7月に開催された久しぶりの有観客ライブが、その気持ちを後押ししてくれたところもありましたか?
それは間違いなくあったと思います。コロナ禍になってから人と人との距離がすごく離れて、言ったら目元しか見えない生活がずっと続いているわけですよ。僕らはそれにどこかで慣れてきてしまっている部分もある。でも、そのままじゃダメだとも思うんですよね。感染しないための対策、制約はもちろん必要だけど、人間が本能的に欲している音楽への思いみたいなものはもっと大事にするべきだなって。そこはどんな状況になっても変わらないものだと思うから。久しぶりにファンのみなさんとライブで対面したことで抱いた、そんな思いを信じながらアルバムの制作に臨んだところはありました。
──アルバムタイトルが遊助さんの思いをストレートに言い表していますよね。
「もうそろそろ行こうぜ!」ってことですよね。内容的にも遊助節は変わらないところだけど、また今までとはちょっと違ったマインドで向き合えたような気がします。
──遊助さんの描かれたイラストがアルバムジャケットを飾っているのもいいですね。
はらまきとかハチマキとか髪型とか、ちょっと昔のアイドルをイメージしつつ、そこに近未来的な雰囲気を加えることで、新しい価値観を取り入れて行こうっていうメッセージを込めてみました。
■今以上に心を大事にした“心”時代になったら
──キャラクターが手にしているメガホンには“心”という文字が書かれていますね。
心と心で繋がり合うしかないような日々がずっと続いてるので、あらためて心の大切さを描いておきたかったんですよね。新しい時代は、今以上に心を大事にした“心”時代になったらいいなっていう。あと、僕は羞恥心で“心”担当でしたしね(笑)。
──アルバムの1曲目は「この船のテーマ」。新たな航海の始まりを感じさせる、オープニングにふさわしいナンバーですね。
幕開けのイメージを持ちながら作った曲ですね。僕は自分のこと、自分たちのことを船に例えることがよくあるんですけど、この曲でもそれを意識したところがあって。人生においては能動的に動いて自ら波を起こしていくことも必要だし、時には停泊して波の様子を見極めることも大事。世の中の波をどうとらえて行くべきなのか、それを楽曲に落とし込んでいきました。
──アーティストとしてのデビューから丸13年。そうとう大きく成長した“遊助号”という船に、あらためてテーマソングが生まれたことにファンは歓喜しそうだなと。
大きくなってるのか、ボロボロになってるのかわかんないですけど(笑)、少なくとも僕は遊助という船に乗ってきたことでいろんな景色を見させてもらったし、ここからまだまだ進んでいこうとしている。求めてくださる方がいるから僕は自己表現を続けられているわけで、それってものすごい奇跡だと思うんですよ。なので、その奇跡をより大事なものとするためにも、ちゃんと人間としての温度がある、自分なりの言葉や歌を紡いでいかなきゃなってあらためて思いますね。いろんな経験をさせてもらってますけど、その思いだけはずっとブレないところです。
──「この船のテーマ」をもとに、オリジナルアニメーションMVも作られました。
いろんなタイプのMVを作ってきたけど、アニメーションは初めてですね。自分らしさを強く込めた楽曲で、アニメーションという新しい挑戦ができたことは自分にとってもすごく刺激的だったし、この経験がまた次に繋がっていくんじゃないかなっていう期待にもなってます。とにかく作品としてめちゃくちゃいいものになってますから!
──ストーリーがものすごく感動的ですよね。
キャラクターたちの動きに躍動感があるし、物語は心がキュンとあたたかくなる内容になっていて。あと、声優の茅野愛衣さんや菱川花菜さんの声がすごく素敵なんですよ。グッと引き込まれて、つい聴き入っちゃう。“もう俺の歌は聴かなくていいよ”くらいな(笑)。
──遊助さんも声優で参加されてい。その演技にも注目です。
いやいや、俺はもうほんとにちょっとだけ参加させてもらった感じで。生意気ですけど、プロの方とご一緒させていただけてうれしかったです。絵も声も物語も、すべてが素晴らしいこのアニメーションは、小さい子からおじいちゃん、おばあちゃんまで楽しんでもらえるものになったと思います。ひとりでも多くの人に観ていただきたいですね。
■みんなにも生き抜いてほしいなっていう希望を込めて
──続く「オセロ」は人生をテーマした1曲。生々しいほどの筆致で描かれた歌詞が胸に強く響きました。
“生きるってどういうことだろう?”って思うことがこの2、3年ですごく増えたので、そこをしっかり自分なりに突き詰めて歌詞にしていった感じですね。僕としては、せっかく生を与えられたからには最後まで生き抜いてやると思っているし、みんなにも生き抜いてほしいなっていう希望を込めて書くことができたかなと思っています。
──要所要所でファルセットを効果的に使われていますよね。強さだけで押し切らない歌のアプローチになっている。
ありがとうございます!人間って今日思ってたことが、翌日には真逆になってることがあったりするじゃないですか。その時々の価値観や真実で、生きるためのアプローチも全然変わってくると思うし。この曲ではそういう部分での弱さや儚さみたいなものも伝えようと思ってレコーディングに臨みましたね。
──この曲は阪神タイガースの及川雅貴選手が今期登場曲として使用されるそうですね。
はい。及川選手は横浜高校の後輩なんですよ。20歳以上離れてるって考えると怖くなりますけど(笑)、後輩がプロとして活躍していることは純粋にうれしいことでもあって。彼は去年、僕の「ひまわり」を登場曲に使ってくれていたし、「今年も遊助さんの曲を使おうと思ってます」って言ってくれていたので、ちょうどそのタイミングで制作途中だった「オセロ」をプレゼントすることにしたんです。
──登場曲として使用されるものは歌詞が少し変わっているとか。
マウンドに立つ及川選手がよりパフォーマンスに集中できるようなものにしたかったので、ちょっと内容を変えさせてもらった感じで。この曲を通して、球場全体がひとつになったら僕としてもめちゃくちゃうれしいことですね。
■俺ら世代だからこそ下にも上にも伝えられることがある
──アルバム恒例のコラボ企画“遊turing”では、湘南乃風からRED RICEさんとSHOCK EYEさん、そして小柳ゆきさんが参加されています。ここ最近は新進気鋭の若手アーティストとのコラボが続いていましたが、今回はアーティストとしての先輩方になりますね。
若い子たちとのコラボもすごくやりがいがあったし、いろんな学びはあったんですよ。ただ、今回は若くもないし、かと言ってめちゃくちゃベテランでもない俺ら世代だからこそ下にも上にも伝えられることがあるんじゃないかってことで、比較的近い年齢の方々とご一緒させてもらうことにしました。まぁ、タイミングとか楽曲に呼ばれたところもあったんですけどね。
──RED RICEさんとSHOCK EYEさんが参加した「FIGHTER」はとんでもなく熱い曲。人選にも納得です。
はい(笑)。20代の頃からこの3人ではよく遊んでいたし、いつか一緒にパワフルな曲を作ってみたいなと漠然と思っていたんですよね。で、今回それが実現したわけですけど、とにかく楽しかった!ふたりに加え、N.O.B.Bくんとかライブでバンマスやってくれてる篤志とか、この曲はほんとに気心知れたメンバーだけで作れたのもよかったですね。親戚同士が集まって、“ちょっと俺らで一発ブチかまそうぜ!”みたいな感じの曲になったと思います(笑)。
■最近球界に戻られた新庄(剛志)さんに向けた曲でもある
──この曲のボーカルでは遊助さんの男くささが全開で表現されていて。
やっぱり普段の曲とは全然違ったアプローチになりますよね。毎回そうですけど、そこが“遊turing”の面白さ。自分でも知らなかったチャンネルに、コラボする相手が勝手に合わせてくれることも多いですから。「みんなと一緒に作ったんだもんね」っていう言いわけができるから、ある意味、無責任にフルスイングできるところもあるし(笑)。あ、あとこの曲って実は、最近球界に戻られた新庄(剛志)さんに向けた曲でもあるんですよ。
──なるほど。あ、だから「FIGHTER」なんですか?
そうそう。新庄さんが北海道日本ハムファイターズの監督になったから。以前から新庄さんが使ってたグローブをいただいたりとかたくさんお世話になってきたので、この曲で少しでも恩返しできたらいいなって。曲を作らせていただくことはお伝えしてあるんで、早く聴いてもらいたいですね。
──もう1曲の“遊turing”は小柳ゆきさんとの「Name」ですね。
昔から共通の知人を通じて話はよく聞いていたんですけど、ここ2、3年で連絡を取り合うくらい仲良くさせてもらうようになって。今回「Name」のもとになるデモができた段階で、“これはゆきちゃんに歌ってもらったら合いそうだな”と思ったのでお願いしました。最初はお別れの曲として作っていたんだけど、ゆきちゃんから「付き合っている仲のいいふたりの曲」というイメージをもらったので、それに合わせて歌詞を書き直したんですよね。できるだけ気持ちよく歌ってもらえるように、メロディや譜割りに関してもあまりデモにはとらわれず、ゆきちゃんの思うがままに表現してもらった感じです。
■歌声には力強さとともに、人柄からくるぬくもり
──遊助さんがバースを、小柳さんがサビを歌うという、ぱっきりと役割を分けた構成になっています。
最初はユニゾンしたり、掛け合いをしたりっていうのもアリかなと思ったんだけど、最終的には歌とラップで完全に分けたほうがいいなっていう判断になって。だってね、あれだけの歌姫が歌ってくれるわけですから。そこはしっかり聴いてもらったほうがいいんじゃないかと。レコーディングにも立ち会わせてもらいましたけど、ゆきちゃんの歌はやっぱりすごかったです。彼女はものすごく優しくて、周囲への気配りもしっかりされる方なので、歌声には力強さとともに、人柄からくるぬくもりみたいなものもちゃんと込められているなって思いましたね。すごくいい曲になったと思います。
──ご自身の人生の歩みを楽曲に刻み続けるナンバリングシリーズ「History」。3年ぶりに更新され、今回で8曲目になりますね。
僕は自分のことを“俺って何者なんだろう?”って思うことがすごく多いんですよ。「タレント?アーティストコメンテイター?いや全部違うな」みたいな。結局、自分自身で何者なのかがまったくわかんないっていう。いろんなことをさせていただけるのはすごくありがたいし、すべての物事に対して全力で取り組んできた。その経験がなかったら今の自分はいないっていうのも事実なんです。でも、2足以上のわらじを履いてる僕のことを認めない人もたくさんいると思うんですよね。で、ちょっと昔を振り返ってみたところ、“俺、ちっちゃいときからそうだったわ!”っていう気づきがあったというか(笑)。なので今回の「History」ではそういう自分の物語を書いてみたんですよね。
■ファンの方がいることで自分のとっての居場所が生まれている
──居場所を探し続けてきた遊助さんがご自身にとっての“ホームグラウンド”を見つけるまでの歌。歌詞に出てくる“君”は間違いなくファンの存在ですよね。
はい。自分が何者なのかはまだわからないですけど、僕のことを求めてくれているファンの方がいることで自分のとっての居場所が生まれているんですよね。応援してくださる方々のあたたかい声は、いつでもちゃんと聞こえていますよっていうこともあらためて伝えておきたかったので、そういう思いをこの曲にはしっかりと込めましたね。途中に出てくる“Na Na Na”のパートは、いつかライブで気兼ねなく声が出せるときがきたら、みんなと一緒に歌いたいなって思ってます。
──12曲目には「Divo Diva」という曲が。ヴィヴァルディ作曲の「春」のメロディが大胆に使われていますね。
僕、歯医者がすごく苦手なんですけど、通っている歯医者でこの「春」がめちゃくちゃ流れてて。苦手な場所で流れてると、その曲自体にイヤなイメージもついちゃうじゃないですか。だったら、それを払拭するくらい明るい曲にしちゃおうと思って。「春」に歌詞を乗せて思いきり歌ってみたっていう(笑)。デビューの頃から一緒にやってる大ちゃん(Daisuke“D.I”Imai)に、「全体的にこういう世界観で、こういう音を使って、こういう展開で…」って細かくイメージを伝えてトラックを作ってもらいました。
──身の回りにある当たり前だけど大切なことに気づかせてくれる歌詞が素晴らしいなと。ほっこりするサウンド感も相まって、本当にハッピーで明るい気持ちになりますね。
絵本みたいな曲にしたかったんですよね。タイトルになってる“Divo”“Diva”ていうのは僕の中では精霊のイメージで。その精霊が音を運んできてくれて、それによって木々や花たちが笑っている感じというか。雨が降ったり、雷が鳴ったりするときもあるけど、でもそれも含めた人生という時間軸を大切に、楽しく生きていこうよっていう思いをかわいらしく表現したつもりです。
──新機軸とも言えるこの曲は、遊助さんの可能性をまた大きく広げたような気がします。
ありがとうございます。そうだったらうれしいですね。自分もすごく気に入ってる曲なので、コレ、教育テレビで流してもらえないかなー(笑)。「みんなのうた」とかに合いそうだし。
──ニューアルバムがリリースされたからには、ライブにも期待したいところですが。
はい。めちゃめちゃ満足のいくアルバムが作れたので、ライブに関してもいろいろ考えてはいます。世の中の状況にもよりますけど、みんなの顔が早く見たいですからね。“そろそろちゃんと顔を突き合わせて会おうぜ!”っていう思いも『Are 遊 Ready?』には込めているので。
リリース情報
2022.03.30 ON SALE
ALBUM『Are 遊 Ready?』
プロフィール
遊助
ユウスケ/2009年に1stシングル「ひまわり」でソロ・デビュー。続く2ndシングル「たんぽぽ/海賊船/其の拳」で初となるオリコン週間1位を獲得し、同年のベストヒット歌謡祭2009最優秀新人賞、第42回日本有線大賞優秀賞を受賞。2009年、2010年にはNHK『紅白歌合戦』に連続出場。2019年にソロデビュー10周年記念ライブを開催。2022年3月30日、11枚目となるアルバム『Are 遊 Ready?』をリリース。
遊助 OFFICIAL SITE
https://www.yuusuke.jp