カオティックで美しい音像を奏でるエクスペリメンタルポップロックバンドであるCo shu Nie(※「o」はウムラウトありが正式表記)が、メジャー2枚目のミニアルバム『LITMUS』を挟み、フルアルバムとしては前作『PURE』から2年3ヵ月ぶりとなるメジャー2ndアルバム『Flos Ex Machina(フロース・エクス・マキナ)』をリリースした。
大人気アニメ『呪術廻戦』第2クールエンディングテーマ「give it back」や『PSYCHO-PASS サイコパス3 FIRST INSPECTOR』エンディングテーマ「red strand」、『コードギアス 反逆のルルーシュ』第2クールエンディングテーマ「SAKURA BURST」などのバイラルヒット曲をはじめ、ドラマや映画主題歌などを収録した本作の主役は、全曲のソングライティングを手がける中村未来の歌だ。
彼女のボーカルと言葉はこれまで以上に生々しく、優しく温かくて、この世界を生きるリスナーのイマジネーションを喚起し、“ここではないどこかへ”と連れて行ってくれるものとなっている──。
INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY 橋本憲和
■“言葉を伝える者としての歌を主役にして置く”
──ニューアルバムが完成した心境から聞かせてください。
松本駿介(以下、松本):まず、個人的には“出来た!”という嬉しさがあったかな。今までのキャリアではミニアルバムが多かったので、10曲を超えるアルバム作品はやっぱり特別なものがあって。それこそ、配信シングルとか、盤にはなっていなかった曲も何曲かありましたし、アルバムとして全曲を通して聴いてもらえる機会が増えるんだろうなと思うと嬉しかったですね。
中村未来(以下、中村):私は、“今、作りたいものが作れた”という感じです。
──その“作りたいもの”というのは?
中村:今回のアルバムの新しい曲では、“言葉を伝える者としての歌を主役にして置く”という意識を持って作ったところがありますね。
──なるほど。だからなのか、個人的には“愛の喪失と再生”のミュージカルを観たあとのような余韻が残るアルバムになっていました。
松本:“ミュージカル”って表現はいいですね。嬉しいです。
中村:すごく素敵な感想ですね。このアルバムはタイアップ曲もたくさん入ってはいるんですけど、常々、作り手としてブレない部分はちゃんと出していこうと思っていて。それこそ、『Flos Ex Machina(フロース・エクス・マキナ)』という題名にあるとおりですね。“デウス・エクス・マキナ”という舞台用語のオマージュになっていて、“デウス・エクス・マキナ”が物語を収束させる神だとしたら、“フロース・エクス・マキナ”には、どんな困難な物語にも華を添える眩しい光であり、革命であるっていう意味を込めています。私たちにとっても、そういう存在になるようなアルバムにしたかったし、聴いてくれる方たちの心にも光を灯すような作品にしたいなと思っていたので。だからこそ、“愛の喪失からの再生”と感じていただけたんだと思います。
──先ほどおっしゃっていた“歌を主役にした”という意味で象徴的な曲を挙げるとすると?
松本:Co shu Nieはいつも中村のその時々の流行りから新曲が生まれていくんですけど、楽曲的な部分で流れが変わったのは「miracle」かなと思います。今まではアレンジがかなり複雑というか、いろんな音が重なって出来上がっていた楽曲が多かったんですけど、「miracle」はすごくシンプルで、今までの曲とは違った景色が浮かぶんですよね。そこから「青春にして已む」や「fujI」というアルバムの新曲に派生していって。今作には新しさや進化が見えるんじゃないかなと思いますね。
中村:特に「青春にして已む」はかなりシンプルなオケになっていて。それはもう、何も必要がなかったという感じですね。音が少なくても、ちゃんと“間”が存在している。Co shu Nieのマインドとしては何も変わっていないんですけど、何を入れても余計だったというか、これで完成していたところがあったので。
松本:うん。鳴るべくして鳴る音が、よりはっきりしていたんじゃないかなと思う。
中村:でも「SAKURA BURST」のようにレイヤーのあるサウンドも今もやりますし。
松本:複雑な音が蛇足かというとそうではなくて、ということだよね。
中村:歌のメロディに引っ張られるように作っているというのが大きいですかね。
■一人称で自分を当事者として描けるようになってきた
──今、お話に出た楽曲についてもう少し詳しく聞かせてください。「miracle」は橋本環奈さん主演のWOWOWドラマ『インフルエンス』の主題歌にもなっていました。
中村:もともとは全然違う感じの曲だったんです。叶わない愛をテーマに、SFみたいな世界観で映像を作りたいなというイメージが先にあって。
──とても美しいピアノバラードに仕上がっていますが、歌詞にはマシーン感がありますよね。
中村:そうです、そうです。でも、人間にも言えることだなって思うんですよ。私たちは何から感情を得ているのか……ただ脳から分泌される物質でしかないかもしれない。自由意志はどこまであるのかっていうことを考えていて。
──ただの電気信号かもしれないですもんね。それに、“わたし”という第一人称も気になりました。
中村:たしかに昔の曲は“僕”が多いんですよね。“僕”という言葉に対しては、ちょっと子供っぽいイメージがある。そういう意味では、“わたし”は成熟されているのかな……と、今、自分で勝手に分析しただけなんですけど(笑)。普段から、行動によって自分を知ることも多いんですよね。理屈がひとつひとつ細やかにあるところもあるんですけど、全部がそうではなくて。あとで、“なるほど、この行動やサウンドにこういう理由があったんだ”って気づくこともある。意識より先に手が動くくらい、音楽は私にとって近い存在なので。
松本:この曲の歌声はちょっと大人な感じがあるね。母性で包み込む感じというか。音色的にも優しさにこだわったことが、“わたし”という一人称になった要因かもしれないですね。
中村:あとは、1stや2ndミニアルバムは第三者としてというか、もうひとりの自分として歌詞を書くことが多かったんですけど、今に至るまでに一人称で自分を当事者として描けるようになってきたと思っていて。表現としては、ありきたりじゃない言葉を結構使っていると思うんですけど、それでも自分や現実と距離の近い曲を書いてきているのかなという気持ちではありますね。
──逆に「fujI」は “君”と“僕”で、リズムはかなり複雑ですよね。
松本:「fujI」は「iB」という曲のシリーズものですね。
中村:私はあまり恋愛の曲を描かないんですけど、「iB」は“アイビー=蔦”のことで、“永遠の愛”や“結婚”という花言葉に合うように書いていって。「fujI」は、“藤”の花ですね。
──花言葉は“優しさ”“決して離れない”“恋に酔う”などがあります。
中村:「iB」も特殊なリズムをテーマにして作っていたので、「fujI」も好きなように作りましたけど、私にとっては今回、歌メロを聴かすというのがかなり重要だったので、メロディを邪魔せずに乗れるというか、ハネがポイントになっていて……恋愛が混ざってくるとハネちゃうのかな(笑)。ちょっと浮き足立っていますね。
──(笑)。ローから始まる歌声も印象深いですし、後半のフェイクには神秘的かつ切なさもありました。
中村:この曲、むちゃくちゃ褒めてくれたよね?
松本:そうですね。歌録りが、今回はよりスムーズというか、そのままが出た感じがあって。中村の低い声の帯域も素敵なので、そこをしっかりAメロで長めに聴けるのはラッキーというか(笑)、いい曲だよねと思いました。でも、ラストもエモすぎないようになっているのがさすがだなって。“ずっとそばにいたかった/君しかいらない”と言っている顔や動きが浮かぶよねっていう感じのエモさ具合でしたね。
中村:ふふ、ありがとう。
──続く、「病は花から」は多重コーラスで始まりますよね。
中村:趣味全開でやるとこうなるって感じですね。
松本:昔から、Co shu Nieの特徴というか、監督(中村)の強みが“声リフ”なんです。
中村:この曲も低い声でノリもいい。言葉の詰め方が楽しかったなという印象ですね。
松本:歌詞も言葉遊びというか、ギミックになっている感じがして、面白かったですね。
──語るように歌っていますよね。そして、先ほども出た「青春にして已む」は、4月4日から放送されるNHKドラマ『卒業タイムリミット』の挿入歌に起用されることが決まりましたね。
松本:登場人物が高校生たちのドラマだということを聞いて。曲の内容としては、若い人限定の曲ではないですし、タイトルも最初は“時よ止まれ”だったんですけど、ドラマのスタッフさんたちが楽曲の世界観を汲み取ってくれたんだなっていうのが嬉しかったですね。
中村:本当に縁があったのが大きいし、タイミングが良かったなと思います。「青春にして已む」は、このアルバムの中でもより多くの人に歌を伝える立ち位置の曲だと思って作ったので、この曲を選んでもらって嬉しいですね。
■『東京喰種』は歌詞=言葉と向き合うきっかけだった
──「青春にして已む」で、喪失を一度も悔やまなかったことがないと歌っているんですよね。だからこそ、今を愛して重ねていこうというメッセージが投げかけられるんですけど、1曲目「red strand」でも喪失からの再生を決意していて、9曲目「give it back」でもやはり喪失を抱えながらも未来に進んでいく姿勢を感じて。だからこそ、喪失と再生の物語を連想したんです……ちょっとうまく言えないんですが。
中村:そうなんですね。「red strand」は、“いくつもなくした/それでも進み続けると決めたんだ”という最初の言葉が強いので、アルバムの1曲目はこれだなって決めたんですけど。
松本:改めてすごいよね。このアルバムの中では「迷路」を除くと、「red strand」は一番古いシングルだと思うんですけど、中村の世界観や考えがブレていないなと思う。最新の曲と混ぜても、1曲目としてすごく映えるし、アルバム全体のキーワードとして印象に残る曲になっている。さすがだなと思います。
──もっと理路整然とお話したいところなんですが、アルバム全体をうまく言い表せなくて申し訳ないです。
中村:いえ、“言葉にできない”って言うのは、正解なんです。わからない感覚を知っている言葉に無理くり当てはめてしまうくらいなら、そうお話ししてもらったほうがいいし、聴いてくれる人にもそう思います。みんな安心したいからジャンル分けしたりもするけど、そうじゃなく、私たちは私たちとして、個として扱ってもらえたら嬉しいんですよ。
松本:うん。形容できない気持ちというのは正解ですよね。
中村:実は、歌詞はなくていいんじゃないかなと思っていた時期もあって。音楽は言葉にできないものを言葉にしないままで表現できるけど、歌詞は言葉という狭い箱に閉じ込めてしまうなというイメージがあったので。だから、言葉はなくて音楽だけでいいんじゃないかって考えていたところに(石田)スイさんから直接、『東京喰種』(TVアニメ『東京喰種トーキョーグール:re』オープニングテーマ「asphyxia」)のオファーをいただいて。それが、もう一回、気を引き締め直して歌詞と向き合おうっていうきっかけになったんです。それは表現者として必要なことだったし、今でも向き合い続けていますけど、やっぱり言葉にできない感情や空間というものはあって……例えば、“青春”なんて特にそういう言葉ですよね。いろんなものを内包している。だから、「青春にして已む」の英語タイトルを“teenager”とは訳せなくて、“SEISYUN”のままにしましたし。大切に扱うほど難しいものなので、すごくわかります。
──ありがとうございます。ちなみに、アニメ作品を通して楽曲が世界中に届いていることはどう感じていますか。
中村:単純に嬉しいです。もともとインディーズのときから、日本よりも海外の反応が多かったんですよ。バンドのサウンド自体に親和性があったことにプラスして、アニメという大きな文化に関われたことによって、もっともっとたくさんの人たちに出会えた。アニメに対しては感謝しかないですよね。
松本:僕、最近、誕生日だったんですけど、めちゃくちゃ海外の方からお祝いのコメントをいただいて驚きました。届いている、しっかり聴いてくれている人がいるんだなということを改めて感じましたし、海外のアニメファンの方はかなり熱量が高い気がしますね。
中村:うん、熱い人が多いですね。
■“一緒に連れていくよ”と言っている「迷路」がみんなの曲になればいい
──そして、後半の3曲ですよね。インストナンバー「nightmare feathers_」から「迷路〜序章〜」「迷路〜本編〜」という流れはどんなイメージですか。
中村:ライブで常々この流れでやっているので、そのまま伝えたいという感じですかね。
松本:「nightmare feathers_」もライブで「迷路」の前に流れていて。
中村:そう、ライブで流すSEを“コール”と呼んでいるんですが、その“コール”で流していたものがかなり進化してきていて、いろいろと変わってきています。過去の音源で聴いたことのある音を使っていたりもするし、これまでの私たちの軌跡が全部入っている感じですね。私的には、やっぱり、今回「迷路」を入れたのは大きかったんですよ。
──ライブでやってきたという曲ですよね。
中村:ずっとやってきて、途中で歌詞も変わって。それに折り合いをつけるように、自分の中で納得できたというか、腑に落ちた部分があったので、今回、収録したんです。今は“一緒に連れていくよ”って言っているところが、もともとの歌詞では“忘れてしまいたいよ”って言っていた。“忘れてしまいたいよ”って言っているうちは、忘れられないなと思って。ライブごとにそのときの気持ちで歌詞を変えていたりしたんですけど、ある日、すんなりと出てきた言葉でやっと答えが出た感じで。コロナ禍でライブが少なかったこともあリますが、ライブといえば「迷路」というイメージだったので、やっとツアーも回れるし、そこに向けて、“一緒に連れていくよ”と言っている「迷路」がみんなの曲になればいいなと思っていますね。
──ちなみに最後の“決めたの/もうわたしは迷わない”というフレーズは最初から?
中村:そうです。迷わない方向性が変わった。もともとは、“忘れてしまいたい”と言っているくらいなので、全部置いて行こうとしていたんですよね。新しい自分に生まれ変わるというか。でも、今はちゃんと筋を通してバンド活動をやって生きてきたつもりではいるので、すべてを曲げることなく、一緒に連れていこうっていうモードになっています。
──最後の歌唱には“ついてこい!”という頼もしさを感じています。
中村:あはは。そうですね。みんなで安心して、不幸が訪れないように生きていきたいですね。
──そして、4月からツアー『Co shu Nie TOUR 2022 “Flos Ex Machina”』が決まっています。
中村:いったいどうやってライブで再現するんだろうって思われるような曲もあるし、新曲は挑戦できることも多いのですごく楽しみですね。やりたいことはいっぱいあるので。
松本:意外とライブでもロックな曲だけじゃなくて、『LITMUS』に入っている「ice melt」のようにトリッキーな曲もやっちゃったりして。
中村:生での再現が楽しみですね。音作りもライブにあったものにしていくつもりです。音源は、その曲の世界観を表現するために、スネアの音だの、キックの音だの、かなりいじくり回して作っていますけど(笑)、それを生でどう表現するのかは楽しみにしておいてほしいところではありますね。
松本:みんなの反応も楽しみだな。
中村:ライブで聴くとまた印象が変わるからね。
松本:会場で鳴るこの曲たちが、どんな見え方をするのかなっていうのはすごく楽しみ。ライブでどう変貌するのかワクワクが強いですね。
──お客さんにはどんな気持ちで足を運んでほしいですか。
松本:Co shu Nieのお客さんの楽しみ方は、バラバラなんですよ。頭を振っている人もいれば、立ち尽くして目を閉じて聴いている人もいる。ほんとに様々なんですけど、自分の世界により浸ってもらえるように、“今日は音楽を浴びてくるぞ”っていうマインドで来てほしいですね。
中村:ライブって、別世界に行くようなもんだからね。“ここではないどこか”という逃避の部分もあるし、答えを探しにくる部分もある。いつも「絶対的に美しい時間にします」と言うんですけど、本当に特別な空間にしたいと思っている。みんながどんな気持ちで来ようと、特別で奇跡のような時間にしたい。だから、安心して来てほしいですね。
──アルバムのアートワークも“ここではないどこか”ですよね。
中村:YUKARIさんというディレクターの方と作りました。私の好きなものやハマっているものを共有して、お互いの作家性を大事にしながら一緒に作ってみて。新しく出来た、オリジナルの世界ですね。ここは、新しい星かな。
──機械の花が咲いている星のようです。
松本:有機物と無機物が融合しているような面白い世界観になっていますね。ただ、このビジュアルを続けていくわけではなくて。あくまで表現のひとつとして、この作品の一部として、楽しんでもらいたいです。
中村:アートワークはパッケージもこだわっているので、盤で楽しんでほしいですね。アルバムの表現としては、初回生産限定盤はボックス&アートカード仕様になっているので、特別感もあると思います。蝶になっている私たちもぜひ見てほしいです。
リリース情報
2022.03.16 ON SALE
ALBUM『Flos Ex Machina』
プロフィール
Co shu Nie(※「o」はウムラウトありが正式表記)
コシュニエ/中村未来(Vo,Gu,Key,Manipulator)、松本駿介(Ba)から成るバンド。2018年にテレビアニメ『東京喰種トーキョーグール:re』オープニングテーマ「asphyxia」でメジャーデビュー。2021年にはテレビアニメ『呪術廻戦』第2クールのエンディングテーマ「give it back」、2022年にはテレビアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』第2クールエンディングテーマ「SAKURA BURST」などを手がける。本作リリース後、4月より『Co shu Nie TOUR 2022 “Flos Ex Machina”』を開催。
Co shu Nie OFFICIAL SITE
https://coshunie.com