映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソング「勿忘」のヒットを受け、『第63回日本レコード大賞』にて「優秀作品賞」を受賞、さらに『第72回NHK紅白歌合戦』へ初出場した、Awesome City Club。
飛躍の年を駆け抜けてきた彼らが、改めて自身の音楽と向き合い制作したのがニューアルバム『Get Set』である。取り巻く環境の変化、そのなかで今鳴らしたい音楽は何か──?
3人が目の当たりにした“売れる”ということ、そしてその次をどう歩んでいくのか、話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY レジー
PHOTO BY 関 信行
HAIR & MAKE UP BY 千葉彩子 / 黒川 麗
STYLING BY 池田未来(インザピンク)
■そうか、このくらいかかったか
──前作『Grower』から今作『Get Set』に至るこの一年間で、バンドを取り巻く状況が劇的に変わりましたね。去年の年末はテレビで何度も皆さんの姿を拝見しました。
PORIN:年末は…「忙しかった」って言っていいと思ってます(笑)。
──Awesome City Clubが「マツケンサンバⅡ」を踊るとは…と家で感慨にふけっていました(注:昨年末の紅白歌合戦にて松平 健「マツケンサンバⅡ」のステージに参加)。
PORIN:気づきました!?
atagi:誰も気づいていないかと思って全力で踊りました(笑)。
モリシー:俺らだけ大学生ノリだったね(笑)。
──元々“売れること”を志向して活動を続けてきた皆さんにとって、2021年の状況に対しては感じる部分も大きかったのではないかと思うのですが。
PORIN:不思議というか、夢を見ているような感じでした。特にコロナ禍になってから、どれだけ準備しても全部流れちゃうみたいなことが続いていたので…。
モリシー:そうだね。2020年に仕事がパタッと止まっちゃった時は本当に地獄だったので。それに比べると、ただただ幸せだったなと。
──atagiさんは年末に雑誌のアンケートで「来年また音楽ができる安心感がある」と回答されていましたが、お気持ちとしては今のモリシーさんのお話とも近いんですかね。
atagi:「これでしばらく音楽を続けられるな」と思うことがいかに精神衛生上良いか、という実感はあります。もっと前からこのくらい気楽にやれていたら良かったなと思うことはあるんですけど…ただ、去年の出来事は自分にとっては浮かれるようなものではなくて、ずっしりと重い何かが残ったみたいな感じなんですよね。デビューした時から「こうなったら良いな」と思い描いていたことが現実になっていったのはうれしかったんですけど、「そうか、このくらいかかったか」というような感情もあって。
──なるほど。
atagi:自分がそこまで苦悩や苦労をしたとは思っていないんですけど、今だからこそわかることもいっぱいあるなと…去年はそんなふうに考えることが多かったです。
■伝えたいことをストレートに発信したい
──『Get Set』は先ほど話していただいたような状況を呼び込んだ「勿忘」での大ブレイクを経てのアルバムとなりますが、ああいう形でバンドの代表曲が生まれた後のプレッシャーみたいなものはあったんでしょうか?
atagi:「勿忘」がどんどん聴かれていっているなかで、「次の曲が書きづらいな」とは思っていました。でも、わりとその感じはすぐになくなったかな。そういうことを考えてもキリがないというか、出せるものをどんどん出すことが求められる環境になっていったので…結果的にそれが良かったと思います。もしもっと時間があったら、ずっとウジウジ悩んでいた気がしますね。
──なるほど。『Get Set』はそういうある種の開き直りというか、それぞれの楽曲がサウンド面でも歌詞のメッセージでもすごく振り切れている印象を受けました。
PORIN:今回は“アルバムを作ろう”というよりも“単曲ごとに全力で作ろう”“その集大成としてのアルバム”という形になっているので、今のオーサムの状況がピュアに詰まっているってことなんじゃないかなと思います。こういう作り方をしたのは初めてだったので。
──それぞれの曲に全力で向き合うなかで、自分たちの伝えたいことをストレートに伝える覚悟のようなものが改めて生まれた実感はありますか?
atagi:あると思っています。「どんな人が聴いても伝わる表現を選ぼう」という意識は前より強くなりました。阿吽の呼吸が成り立つコミュニティから一歩踏み出したい、っていう気持ちがあったのかなと思いますね。
──フィルターをかけずに思いを前面に出すコツみたいなものを「勿忘」で掴んだのかもしれないですね。
atagi:そうかもしれないですね。ちょっと嫌な言い方に聞こえるかもしれないんですけど、「勿忘」がリリースされてからはライブよりもテレビの歌番組に出る回数の方が多いくらいの状況になっていて…で、テレビの現場に行くと、まわりにいるのが乃木坂46さんとかGENERATIONS from EXILE TRIBEさんとか、自分たちみたいなバンドとは違うフィールドで一級のエンターテインメントをやっている人たちばかりなんですよね。そういうなかで僕らが今まで大事にしてきた“お出汁のきいた繊細な味わい”みたいなものにこだわるだけじゃなくて、伝えたいことをストレートに発信したいというふうに自然とマインドが変わっていきましたね。
──そういう開放的な感じはアッパーな曲に顕著ですね。「Life still goes on」のポジティブな雰囲気だったり。
モリシー:あの曲は聴いていて元気になりますよね。
PORIN:「なんか明るい曲作ってよ」ってアタさん(atagi)に言った気がする。
atagi:そうだっけ?
PORIN:うん。私自身、不安で内省的なムードから抜け出したかったんだと思う。で、最初は「作りたくない」って言われたんですけど(笑)、そこから「明るいって何?」ってディスカッションして、昔のオーサムっぽさもある軽やかでステップを踏んじゃうような感じがいいんじゃないかとなりました。
モリシー:自分も「これ以上くよくよしていてもしょうがないな」という気持ちになりつつあるタイミングだったので、この曲を聴いたときは胸に響くものがありました。
──リード曲の「On Your Mark」も力強くてインパクトがあります。この曲は蔦谷好位置さんのプロデュースによるものですが、時代のど真ん中のプロデューサーの方と制作に取り組む中で刺激を受けた部分はありますか?
atagi:蔦谷さんのアレンジで曲としての強さが引き出された部分もあると思っています。ご一緒して、軽々しく「技を盗む」とか言えないくらい次元が違うなというのが感想なんですけど…音選びとか目に見えるところよりも、アレンジを考えるうえでの時代の切り取り方とか、そういうスタンスの部分について勉強になることが多かったなと思います。
■バンドマンとしてのアティテュードは残っている
──アッパーな曲がよりアッパーになっていくいっぽうで、「ランブル」のようなメロウな曲もさらに切なさを増しているように感じます。
atagi:「ランブル」は、自分がソロでやるとしたらこういう音楽になるだろうなというニュアンスが色濃く出た楽曲になっていると思います。この感じをバンドに持ち込んで曲として完成させることができたのは、個人的にもうれしかったですね。
──楽曲としての幅がまた広がりましたよね。「雪どけ」はマッキー(槇原敬之)を彷彿とさせる冬の歌ものになってますし…。
atagi:たしかにマッキーっぽいかもしれない(笑)。
──サウンド面では狭義の“バンド”像からは離れていっていると思いますが、皆さんのなかで“自分たちはバンドである”というような意識はあるんでしょうか。
atagi:どうだろうな…今は“バンド”というよりは“ミュージシャン”だと思っているかもしれない。どう?
モリシー:個人的には、大きく変わった感じは実はしていないんですよね。“バンドである”というよりは元々ミュージシャンとしての意識のほうが強かったなと。
PORIN:私は今となってはどっちでもいいというのが正直なところです。元々はライブハウスを中心にバンドとして活動していて、最近はマスなフィールドでいわゆるバンドとは少し違うことをやっているかもしれないけど、両方の良さがわかっている自分たちのあり方が良いなと思っています。
──バンドとしての出自がありながらマス向けの音楽を作っていくことについて、最初に属していたシーンを背負って出ていっているような感覚はありますか? 以前Suchmosが紅白で「臭くて汚ねえライブハウスから来ました」と言っていたことに通じるレペゼン感というか…。
PORIN:いざ今までと違うステージに立った時に、意外と自分らみたいな人たちってあまりいないんだなと気づかされました。ストリートやライブハウスの文化をちゃんと背負ってマスに出ていけるのは自分たちの活動の説得力にも繋がっているはずなので、そういう場所での経験があるのはすごく良かったなと。
atagi:うん。編成が変わるなかで音楽的な自由さをさらに楽しめるようになったいっぽうで、皆さんが“バンド”として思い浮かべる絵から離れた部分はやっぱりあると思うんですよね。だけど、バンドマンとしてのアティテュードはまだ自分たちに残っているなと今の話を聞いていて感じました。
──サウンド面で自由になっていくなかで、ギタリストとしてのモリシーさんはご自身の役割をどのように定義していますか?
モリシー:大前提として、そんなに自分を出さないのがいちばんだと思っているんですよね。そう思っていても勝手に滲み出ちゃうのがその人のエッセンスだと思うので、「自分の特徴を出そう」と意識するものでもないなと。曲によって求められるものも違うので、それを読み取りながらパズルを組み立てていく感じでやっています。それがはまった時、メンバーやアレンジャーの方の意図とうまく噛み合った時は本当に快感というか、ギタリスト冥利に尽きますね。
■ジャンルに縛られていないのがオーサムらしさ
──新しい編成でバンドとしての代表曲も育っていったなかで、改めて“オーサムらしさ”みたいなものは見えてきていますか?
atagi:そうですね…さっきのモリシーの話とも重なりますけど、『Get Set』は“何をどうやっても、こういう感じのものが出てきちゃう”というアルバムになったのかなと思っています。あらたなチャレンジもたくさんしているんですが、一周まわって自分たちがやりたいことをちゃんと示せたんじゃないかなと。
モリシー:元々オーサムって音楽的にはノージャンルというか、いろいろなことをやってきたと思うんですよね。今作を作ったことでそれをもう一度確認できたというか、「ジャンルに縛られていないのがオーサムらしさだ」って誰に気兼ねすることなく言えるようになりました。
──バンドとしてまた新しいフェーズに入っていくことになると思いますが、3人での役割分担というか、それぞれの立ち位置が固まってきた実感はありますか? これまでのオーサムにはメンバー間のパワーバランスが絶えず変わっていっているような印象があって、それもスリリングで面白かったのですが、そういった状況を抜けてより盤石な感じになりつつあるのかなと思ったのですが。
atagi:どうでしょうね。この先どうなるかはもちろんわからないですけど、「変化するにしてもこのくらい」みたいなあたりがつく状況にはなってきたのかな。
モリシー:僕がリードボーカルやりますって言わない限りは変わらないと思いますよ(笑)。
atagi&PORIN:(笑)。
──そうしたらだいぶ変わりますね(笑)。
PORIN:「固まってきた」というよりは「気にしなくなってきた」というほうが近いかもしれないですね。以前はそれぞれの役割がないとだめという意識が強かったんですけど、今はもっとラフでもいいのかなって思いますし、そういう自然体な感じは大事にしたいです。
──リード曲が「On Your Mark」、アルバムタイトルが『Get Set』ということで、日本語にすると「位置について、よーい、ドン」になりますよね。音楽的にも、精神的にも、またここから出発する準備ができたのかなと。
PORIN:何回目の出発だよって気もしますが(笑)、そういう側面はあると思います。
atagi:これはつねにそうなんですけど、アルバムを作り終えるとミュージシャンとしては一回死んだ気分になるんですよね。で、そこから生まれ変わるっていうプロセスをずっと繰り返している感覚なんですけど…今回もちゃんとひとつの答えを出して、次に向けて新たな出発をするためのものは作れたんじゃないかなと思っています。2021年は自分たちにとって特別な年だったので、そこにすがりたくなる気持ちももしかしたら出てきちゃうかもしれないですけど、そういうものに負けないように気を引き締めていきたいと思います。
リリース情報
2022.03.09 ON SALE
ALBUM『Get Set』
ライブ情報
Awesome Talks – One Man Show 2022 –
04/02(土)愛知・Zepp Nagoya
04/03(日)大阪・Zepp Namba
04/10(日)東京・Zepp Diver City
04/15(金)北海道・Zepp Sapporo
04/17(日)宮城・仙台PIT
05/01(日)福岡・Zepp Fukuoka
https://www.awesomecityclub.com/live/
プロフィール
オーサムシティクラブ/atagi、PORIN、モリシー。2013年、東京にて結成。ポップス、ロック、ソウル、R&B、ダンスミュージック等、メンバー自身の幅広いルーツをミックスした音楽性を持つ、男女ツインボーカルの3人グループ。
Awesome City Club OFFICIAL SITE
https://www.awesomecityclub.com/