ザ・リーサルウェポンズがメジャー1stアルバム『アイキッドとサイボーグジョー』を完成させた。
2019年1月に始動したザ・リーサルウェポンズはアメリカ生まれのサイボーグジョー(Vo)そして、彼を“発明”した日本人プロデューサー・アイキッド(Gu)による2人組ロックバンド。1980〜90年代のカルチャーを背景にした楽曲で注目を浴び、2020年夏にメジャーデビューを果たした。
アルバムには1stシングル「半額タイムセール」から「94年のジュニアヘビー」までの表題曲のほか、戦国時代をテーマにした新曲「川中島の戦い」、アイキッドが上坂すみれに楽曲提供をした「快走!ラスプーチン」のセルフカバーなど15曲を収録。80’sを現代的なロックにアップデートさせた音楽性、エンターテインメント精神に溢れたリリックなど、バンドとしての個性とセンスをたっぷり体感できる作品に仕上がっている。
THE FIRST TIMESではサイボーグジョー、アイキッドにインタビュー。唯一無二のサウンドと世界観を描いたアルバム『アイキッドとサイボーグジョー』について語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 大橋祐希
■“外国人を主役にしたコメディ映画を作ろう”から始まった
──1stフルアルバム『アイキッドとサイボーグジョー』がリリースされます!「半額タイムセール」「特攻!成人式」「押すだけDJ」などのシングルのほか、「川中島の戦い」「さよならロックスター」などの新曲もたっぷり。手ごたえはどうですか?
アイキッド:非常に濃いアルバムを作ってしまいましたね(笑)。15曲入ってるんですけど、こんなにまとめて曲を作ったのは人生初です。この2年の間に1曲ずつ作っていったので、そこまで大変じゃなかったんですけど、(アルバム制作の)追い込みの時期はかなりきつかったです。
サイボーグジョー:めっちゃ楽しいアルバムができて、ベリーベリーうれしいです!全曲MVを撮ったので、忙しかったかな(笑)。もちろん、先生(アイキッド)のほうが大変なんですけど。
アイキッド:作詞・作曲はすべて僕ですからね。MVも12曲分は僕が撮ったんですよ。曲はLogic Pro(楽曲制作用のソフト)で作ってるんですけど、制作と同時にMVのカット割りも書き込んでるんですよ。“このシーンを撮るのは無理かな”と思ったら、歌詞を変えちゃいますね。いちばん大事なのは曲なんですけど、歌詞と映像だったら、映像を優先してるので。
サイボーグジョー:珍しいよね(笑)。
■ちゃんとコミュニケーションが取れたし、“これはいいぞ!”って
──脚本を自分で書く映画監督みたいですね。
アイキッド:そうですね(笑)。ザ・リーサルウェポンズはもともと、“外国人を主役にしたコメディ映画を作ろう”というところから始まってて。『ナポレオン・ダイナマイト』(さえない高校生を主人公にしたコメディ・アメリカ映画/2004年)とか『Mr.ビーン』(1990年代に大ヒットしたイギリスのコメディ・TVシリーズ)とか。
サイボーグジョー:『Mr.ビーン』は思い切りイギリスだね。
アイキッド:“言葉に関わらず、表情だけで伝わる”ということかな。それも含めて、このバンドを作ったことで回収できてる気がします。
サイボーグジョー:2年前に「都立家政のブックマート」のMVを作ったとき、撮影がめちゃくちゃ楽しかったんですよ。先生のディレクションがシンプルで面白くて。当時、私の日本語はめっちゃヘタだったんですけど、なぜかちゃんとコミュニケーションが取れたし、“これはいいぞ!”って。コメディ映画もいつか作りたいよ!
アイキッド:やるのは僕だけどね(笑)。「都立家政のブックマート」は地域振興みたいなものというか、街の人たちと一緒に楽しいことがやれたらいいかという感じだったんですけど、たしかにあれがきっかけでしたね。
サイボーグジョー:そのときからアイキッド先生と呼んでます!
アイキッド:(笑)その時点ではぜんぜん説明してなかったんですけどね、ジョーには。2020年に(メジャーレーベルから)オファーをいただいて、そのとき初めて「このバンドはこういう構造になってて」と話して。よくわからないままメジャーデビューしちゃったんじゃない?
サイボーグジョー:ハハハ!そうだね!
アイキッド:もともと歌いたがってたからね。昔、パンクバンドをやってたんでしょ?
サイボーグジョー:そう、ガレージパンク系のバンドをやってた。そのときはぜんぜん未来は見えてなかったけどね。
──ザ・リーサルウェポンズは80年代の洋楽ロックが軸になってますね。
サイボーグジョー:(小声で)もともと90年代ロックが好きだったんだけど、(大声で)今は80’sも大好きです!
アイキッド:君は“ボーカル役”だから、それでいいんだよ。
■90年代に観ていたプロレスだったかもしれない
──アイキッドさんが80年代の音楽に興味を持ったきっかけは?
アイキッド:今振り返ってみると、90年代に観ていたプロレスだったかもしれないです。当時の外国人のレスラーたちは、80年代のロックの名曲を入場テーマにしていることが多くて。ガンズ(・アンド・ローゼズ)とかモトリークルーとか、たぶん彼らが青春時代に流行った曲だと思うんですけど。
──なるほど!アルバムにも収録されている「94年のジュニアヘビー」はテレビ朝日「ワールドプロレスリング」テーマソング。MVには獣神サンダーライガーをはじめとする、当時活躍していたレスラーたちの映像が使用されています。
アイキッド:ありがたいですよ、ほんとに。歌詞にも書いてますけど、1994年の『BEST OF THE SUPER Jr.』(新日本プロレス主催のジュニアヘビー級選手によるリーグ戦)は現場で見てますから。僕の歌詞は基本、実際に体験したこと、考えていることがほとんどなんですよ。たとえば「川中島の戦い」も、どうやら戦に参加した相木市兵衛という人が、僕の先祖らしくて。…まあ、あまり信憑性がないので微妙なんですけど(笑)。
サイボーグジョー:ジャパニーズ歴史、私も興味あります!細かいことはわからないけどね(笑)。“大名”くらいはわかるけど。
アイキッド:ローカル・キングね。
サイボーグジョー:そうそう!サムライ、ニンジャも大好きだし、三船敏郎さんも尊敬してます。
──「川中島の戦い」はアルバムのなかでもかなりヘビィメタル色が強いですね。
アイキッド:「川中島の戦い」は別のアレンジャーさんにお願いしたんです。リフやどは私が作ってるんですけど、リズムやギターソロなどはお任せして。超速弾きなので、なかなか弾けず…。
サイボーグジョー:ハハハハハ!大変だね(笑)。
アイキッド:がんばってコピーします(笑)。私はもともとベースやキーボードがメインで、ギターを本格的に弾き始めたのはザ・リーサルウェポンズを作ってからなんです。サイボーグジョーを造ったときに、“私は何をやればいいだろう?”と考えて。最初は“後ろでキーボード弾けばいいか”と思ったんだけど、それだとバンドとして弱いし、カリスマボーカルとギターヒーローはセットかなと。
■ヴァン・ヘイレンをオマージュしつつ、自分たちらしい曲になった
──80年代はギターヒーローが活躍してましたからね。「さよならロックスター」のモチーフになっているエディ・ヴァン・ヘイレンは、まさに80年代洋楽ロックの象徴です。
アイキッド:エディの曲は“いずれ作らなくちゃいけないな”と思ってたんです。2020年に彼が亡くなって、“エディ・ロス”みたいになってしまって。そのときの思いを込めたのが「さよならロックスター」なんです。ヴァン・ヘイレンをオマージュしつつ、自分たちらしい曲になったと思いますね。
──やはりヴァン・ヘイレンには影響を受けているんですね。
アイキッド:80年代ハードロックが好きな人、特にフロイド・ローズ(ギターに装着するロック式トレモロユニット)のギターを使っている人で、ヴァン・ヘイレンに影響を受けてない人はいないと思います。エディはタッピングでも有名ですけど、“シンセをロックにどうやって取り込むか?”を初めて成功させた人なんですよ。ギタリストとしてはもちろん、音楽家として非常に尊敬してます。
サイボーグジョー:曲もいいし、私もリスペクトしてます!昔は“ヴァン・ヘイレン、ださいなー”と思ってたけど(笑)。
アイキッド:日本でもそう思ってた人が多かったよ(笑)。
■80年代に対する憧れがある
──80年代のアメリカンロック自体、90年代以降はダサいものとされてましたよね。
アイキッド:そうですね。70年代はハードロックが盛り上がっていたし、90年代以降はグランジが出てきて、内省的なことを歌うバンドが増えて。80年代のロックはただただ明るいイメージなんだけど、私はそれが好きなんですよ。日本もバブル経済がハジけるまでは、そういう雰囲気だったし。私自身はそういう(明るく楽しい)タイプではないんだけど(笑)、80年代に対する憧れがあるんですよね。
──アルバムには映画「トップガン」(1986年)のテーマ曲「デンジャー・ゾーン」のカバーも収録。現代社会の“デンジャーゾーン”を描いた歌詞も素晴らしいですが、特に“下北沢住んだからって才能UPしなひ”というフレーズは笑いながら、身につまされました。
アイキッド:(笑)下北沢や高円寺に住んでることと、才能とは関係ないですから。
サイボーグジョー:そうね(笑)。
アイキッド:有名なアーティストがソーホーに住んだからといって、マネして住んでも意味がないのと同じですね。我々は都立家政(東京・中野区)ですから(笑)。
──中野、高円寺、吉祥寺など、古くからカルチャーの発信地が多い中央線のちょっと北あたりですね。
サイボーグジョー:都立家政、いい町だよ!僕が住んだのはたまたまなんですけど(笑)。
アイキッド:高円寺を拠点にするのもいいかなと思ってたんですけどね、最初は。コーエン兄弟(「ファーゴ」「ノーカントリー」などで知られる映画監督)をモジって、高円寺兄弟っていう(笑)。
サイボーグジョー:え、そんなこと考えてたの?知らなかった!
アイキッド:今はじめて言ったから(笑)。
──(笑)上坂すみれさんに楽曲提供した「快走!ラスプーチン」のセルフカバーもすごいインパクトですね。モチーフはロシア帝国の崩壊の一因となったと言われる“怪僧”として知られるグリゴリー・ラスプーチンです。
アイキッド:上坂さんはロシア語が堪能なので、わかりやすくロシアをテーマにしようと思って。
サイボーグジョー:ラスプーチン、面白いよね。レジェンド・ロシア人ですね!
アイキッド:興味深いですよね。なぜか為政者の横にいて、いろんなことをやっちゃう人って、いつの時代にもいると思いますが。
──たしかに…。壮大なバンドサウンドも素晴らしいですね。
アイキッド:上坂さんに提供させてもらった原曲はもっとメタルだったんですけど、同じようなアレンジでセルフカバーするのは失礼かなと。北欧メタルみたいな曲にしようと思ってたんですけど、ちょっとフランスっぽいところもあって。もともとの題材はロシアだし、ヒッチャカメッチャッカです(笑)。
──「ポンズのテーマ」もイントロから80’sテイスト全開ですね。
アイキッド:「ポンズのテーマ」は80〜90年代のCM、ドラマ、バラエティ番組の曲のことを歌っていて。特に思い入れがあるのは『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』ですね。視聴者が送ってきた面白ビデオを見て、ツッコミながら笑いを取るって、YouTubeやSNSの先がけじゃないかなと。
サイボーグジョー:私も志村けんさんは大好きです。ダウンタウンじゃなくて…。
アイキッド:ドリフターズね。ドリフの加藤茶さん、志村けんさんがコンビを組んでテレビ番組をやってたんだよ。志村さんがボケて、加藤さんが“しっしっしっ(笑)”って笑ってるっていう。まあ、君と僕みたいなもんだね(笑)。
──そうかも(笑)。「昇龍拳が出ない feat.カプチューン」も話題を集めてます。
アイキッド:すごいですよね。もともと「昇竜拳が出ない」は(カプコンのゲーム「ストリートファイター2」をテーマにして*2=正しくはローマ数字の2)勝手に作った曲なんですよ。“都立家政商店街の人たちを笑わせよう”と思ってただけなんだけど(笑)、カプコンの公式バンドとコラボさせてもらえるなんて、どういう世界線なんだろう…。
──「昇竜拳が出ない」は、「80年代アクションスター」と並び、ザ・リーサルウェポンズのインディーズ時代の代表曲。この曲、めちゃくちゃ人気ですよね。
アイキッド:皆さん、“昇竜拳、なかなか出なかったよな”って思ってたんでしょうね(笑)。
サイボーグジョー:アメリカにも同じ問題がありましたよ!昇竜拳、ぜんぜん出なかった…。
■ヤンキー文化にもめちゃめちゃ興味あるんですよ
──本当に濃密でバラエティに富んだ楽曲が揃ってますね。ちなみにジョーさんのいちばん印象的な曲は?
サイボーグジョー:全部好きだけど、1曲選ぶとしたら「特攻!成人式」かな。いちばんパンクサウンドだし、レゲエのリズムも入っていて、歌ってて楽しい。ヤンキー文化にもめちゃめちゃ興味あるんですよ。私はオハイオ州出身なんですけど、高校のとき、友達が「車、リペアしたいな」ってよく言ってたんですよ。
アイキッド:ホイールやマフラーをいじったりね。
サイボーグジョー:そうそう!以前、埼玉でダサくてうるさい車を見たことがあるんだけど、“アメリカとまったく一緒だ!”と思って。
アイキッド:埼玉とオハイオ、似てるかもね。ずっと平地だし。
──海もないですからね(笑)。アルバムリリース後は大阪、札幌、名古屋、東京で初の全国ツアーを開催。
サイボーグジョー:イエス!絶対楽しいライブにしたいです!
アイキッド:ライブはずっと楽しい感じでやってきたので、それを継続したいなと。今回のツアーに関しては映像にも凝ろうと思ってます。今は“声出し禁止”なので、そこは大変ですけどね。特に我々はコール&レスポンスが生命線なんですけど、コロナになってからはずっと片翼というか、ジョーだけが頑張ってる状態なので。
サイボーグジョー:お客さんの声が聴こえないのはさみしいよ。「どっから来ました?」「沖縄!」みたいな軽いトークが楽しみだったのに、今はそれもできないので。でも、大丈夫!ベリー楽しいライブにします!
■急に評価されはじめてビックリしてます(笑)
──期待してます!今年は「ゴーストバスターズ」の続編「ゴーストバスターズ/アフターライフ」、「トップガン」の最新作「トップガン マーヴェリック」の公開もあって、再び80’sカルチャーに注目が集まっていて。ザ・リーサルウェポンズにも時代を追い風が吹いているのでは?
アイキッド:80年代リバイバルは何度かあったと思うんですけど、私はそういうつもりではなくて、曲を作るとどうしても80年代っぽくなっちゃうんですよ。ずっと同じスタイルでやってるんだけど、急に評価されはじめてビックリしてます(笑)。
サイボーグジョー:いいことだね。これからも頑張ります!
リリース情報
2022.02.23 ON SALE
ALBUM『アイキッドとサイボーグジョー』
ライブ情報
全国ツアー「ポンズの野望・全国版~もうがまんできねえ~」
2/26(土) 大阪・Banana Hall
3/5(土) 札幌・Bessie Hall
3/12(土) 名古屋・Electric Lady Land
3/21(月祝) 東京・Liquid Room
プロフィール
ザ・リーサルウェポンズ
2019年1月、突如として出現。狂気の発明家アイキッドが最終兵器サイボーグジョーと共に贈る、80~90年代カルチャーをモチーフにした2人組バンド。 2020年8月26日シングル「半額タイムセール」でメジャーデビュー。
ザ・リーサルウェポンズ OFFICIAL SITE
https://www.tlw80s.com