吉田沙良(Vo)と角田隆太(Ba)からなるソングライティング・デュオ、モノンクル。繊細な感情表現と心地よい開放感を併せ持ったボーカル、ジャズ、R&B、エレクトロなどを自由に取り入れたハイブリッドな音楽性によって、音楽ファンから高い支持を得ているふたりから、ニューシングル「salvation」が届けられた。表題曲「salvation」は、TVアニメ『ヴァニタスの手記』のEDテーマ。“救い”をテーマにしたこの曲について、メンバーふたりに聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 関信行
■自分たちにとっても新しい経験でした
──2021年は「GOODBYE」「音の鳴るあいだ」「ずるいよ」を次々と配信リリース。コロナ禍においても、新しい曲をコンスタントに発信していました。
吉田沙良(以下、吉田):「GOODBYE」「ずるいよ」は、『ヨムオト』(原作マンガを活用したMVとともに配信を行うプロジェクト)とのコラボレーションなんですよ。モノンクルとして大事にしているものは忘れずに、だけど何かのテーマに向けて作ることで、さらに幅が広がった気がしますね。
角田隆太(以下、角田):コラボレーションを含めて、いろんな機会をいただきましたね。
吉田:特に「ずるいよ」は、マンガの主人公の気持ちを読み解きながら作ったんです。原作にも描かれていないくらいの本音を読み解きながら制作をして、自分たちにとっても新しい経験でしたね。
角田:最近は歌詞を書いてから、サウンドを作ることが多いんですよ。なので自然と(原作のマンガの)世界観も投影されていると思います。
──詞先で制作をはじめたのはいつ頃ですか?
角田:2年くらい前からですね。
吉田:意識的にね。
角田:うん。作り方を変えてみたくて。
吉田:角田さんが歌詞やテーマを決めて、そこから制作を始めることがほとんどですね、今は。
角田:当然、曲における言葉が強くなるし、“人に届きやすい言葉を探そう”という感じもあって。それが自分たちに合ってるし、やるべきことだなと思ってますね。
──ポップスとしての精度を高めることにもつながりそうですね。ちなみにおふたりはJ-POPは聴いてました?
吉田:はい。私はJ-POP大好き人間です(笑)。角田さんはそうでもないよね?
角田:小さい頃からあまりテレビを見てなかったから抜け落ちているところがたくさんあります(笑)。
──モノンクルは「アポロ」(ポルノグラフィティ)や「抱いてHOLD ON ME!」(モーニング娘。)をカバーしていますが、あの選曲も…。
吉田:2曲とも私です。世代というか、どちらも10代のときに流行った曲なんですよ。テレビからもバンバン流れてたし、街を歩いていても聴こえてくる、誰もが知ってる曲だし、私もすごく好きで。「抱いてHOLD ON ME!」なんて、メロディと言葉のパンチ力がハンパなくて。“2021年バージョンを作ったらおもしろそうじゃない?”と思って、カバーさせていただきました。
角田:今聴いても、“こんなふうになってたんだ”という面白さがあって。子どものときはそういう聴き方はしてないですからね。
■モノンクルというジャンルになれたら
──一方でモノンクルの音楽には、オルタナR&B、現在進行形のジャズなどのテイストも感じられて。活動を重ねて、作品を発表するごとにジャンルレスになっている印象もあります。
吉田:モノンクルというジャンルになれたらいいなと思ってますね。人にも言われるし、自分たちもそう思うんですけど、「どんなジャンル?」と聞かれても伝えづらいんですよ。
角田:リスナーとしてもジャンルはまったく気にしてないですからね。サブスクが普及したことで、そういう人はどんどん増えてるだろうし。
──音楽のトレンドもあまり気にしてないですか?
角田:耳にした音楽は自然に残るというか、自分たちのろ過装置を通って、曲の中に入っているとは思いますけどね。そこも無理に寄せるのではなくて、自然に出ているんだと思います。
■キーワードは“救い”
──では、ニューシングル「salvation」について。タイトル曲「salvation」は、TVアニメ『ヴァニタスの手記』のEDテーマですが、この曲も歌詞が先ですか?
吉田:「salvation」は歌詞が先だったよね?
角田:うん。詞先で作った断片程度のデモがもともとあって、それを今回の監督さんが聴いて気に入ってくださり、そのうえで原作のコミックを読ませてもらって。もちろん作品に寄り添っている部分もあると思いますが、自分が受け止めたことをもとにして歌詞を書きました。キーワードは“救い”ですね。“救いって、どういう形で訪れるんだろう?”とか“何が救いになるんだろう?”と自分なりに考えて、それをうまく歌詞に織り込めたらなと。
──“呼吸を始めた僕らルールも知らず/引き金ひき続ける/救いの日を信じて”という最後の歌詞、とても印象的でした。これは“何が救いになるかわからない”ということでもある?
角田:人によっても、場合によっても違うと思うんですよ。他人から見て“バッドエンディングだな”と思うような結果が、その人にとっては救いかもしれないし。あと、一時的なものでもないんですよね。ひとつの出来事が不幸な結果を招いて、そのときは“損なわれた”と感じても、今の目線で見ると“あれが起きてよかった”と思えることもあるので。
──すごい。深いですね…。
吉田:深いんですよ、角田さんは(笑)。
角田:(笑)僕がというより原作にそういう部分が描かれていたと僕は受け止めました。
吉田:『ヴァニタスの手記』はヴァンピール(吸血鬼)が存在している世界が舞台なんですが、主人公のヴァニタスは吸血鬼の意志に関係なく、“救ってやる”って勝手に行動するんです。周囲から“それはどうなの?”というシーンもあるんですけど、私自身もそういう部分が好きだし、「salvation」の歌詞ともリンクしてますね。
■そのまま使っている歌詞もある
──なるほど。楽曲のデモを聴いたときの第一印象は?
吉田:アニメソングっぽいなと思いました。いつもより表現が尖っているというか、言葉の使い方がちょっと違っていたし、中毒性があっていいなと。
角田:歌詞に関してもうひとつ言うと、2017年に出したアルバム(『世界はここにしかないって上手に言って』)に入ってる「花火」から引用もしていて。そのまま使っている歌詞もあるんですけど、“一度世に出してもまだ気持ちに残っていて言いたいと思うフレーズは何度でも使っていい”という独自ルールがあるんですよ(笑)。
──「salvation」と「花火」のつながりを考察するのも楽しそうですね!濃密なグルーヴを感じさせるトラックも素晴らしいです。
角田:アレンジは冨田恵一さんにお願いしました。
吉田:最初に聴いたときに“やば!”って打ちのめされて、踊り狂ってました(笑)。ライブで歌うのも楽しみですね…どんな感じになるんだろう?
──確かにライブで演奏すると、さらに変化しそうですね。アニメの映像とコラボレーションしたMVも話題を集めていますが、アニメの視聴者のみなさんからもかなりリアクションがあるのでは?
吉田:そうですね。「このアニメで初めてモノンクルの曲を聴きました」とDMを送ってくれる方もいて、すごくうれしいです。
角田:アニメ側のYouTubeチャンネルにノンクレジットエンディングムービーがアップされているんですが、コメントもたくさんいただいて。反響があるのはうれしいことだし、これを機会にモノンクルの音楽を聴いてもらえたらなと。
吉田:うん。私はもともとアニメやマンガが好きなんですけど、『ヴァニタスの手記』、すごく面白いんですよ。音が左右に振られてたり、サウンドのこだわりもすごくて。イヤホンで音を聴きながら見るとすごく没入感があって、おすすめです。
──シングルのカップリングには、昨年配信リリースされた「GOODBYE」を収録。恋人同士の別れをリリカルに描いた楽曲ですが、洗練されたトラック、言葉と旋律の一体感がすごく気持ちいいです。
吉田:ありがとうございます。
■いちばんシックリ来たのが「GOODBYE」だった
──こういう切ない曲、すごく似合いますよね。
吉田:そうかもしれないですね。コロナ禍になって、つながることの大切さとか、平和を歌った曲が増えている印象があるんですけど、モノンクルはけっこう寂しがっていて(笑)。別れの曲が多いバンドかも。
角田:別れは心が動く瞬間だし、自然とテーマになることが多いでしょうね。「GOODBYE」をシングルに入れたのは、「salvation」と合いそうだからなんですよ。この曲の次に何が来たらいいだろう?と考えて、いちばんシックリ来たのが「GOODBYE」だったので。
吉田:曲をつなげて聴いても、ぜんぜん違和感がなくて。ぜひ続けて聴いてみてほしいです。
──吉田さん、角田さんが一緒に音楽をやりはじめて、約10年。ミュージシャンとして、お互いどんなところに惹かれているんだと思いますか?
吉田:そうですね…人としては真逆なんですけど、だから一緒に続けられるのかも。
角田:うん。
吉田:私が右脳派、角田さんが左脳派くらい違うので(笑)。ないものねだりというか、角田さんは私にないものを全部持ってる人なんです。まず、歌詞が唯一無二すぎるんですよ、角田さんは。そこは譲れないというか、絶対に書いてほしい(笑)。私には絶対に書けない言葉遣いだったり、目線があるんですよね。
■“彼女がどういう人なのか”というところにフォーカスを当てる
──角田さんの歌詞、描き方が一方的じゃないんですよね。もちろん吉田さんが歌っても馴染むし、男性のリスナーが聴いてもそのまま共感できて。どんなジェンダーの人が聴いても、スッと入ってくる歌詞ですよね。
吉田:うん、まさにそれです。
角田:自分としては“越えなくちゃいけない壁がある”という感じもあるんですけどね。普遍性は大事だと思いますけど、沙良の個別性というか、“彼女がどういう人なのか”というところにフォーカスを当てることも必要なので。最近は一緒に歌詞を書くことが増えて、いい効果を生んでいると思います。
吉田:自分で歌詞を書く場合は、“私がどういう人間なのか”を意識的に入れようと思っていて。
──“この歌詞には、歌っている人のパーソナリティが出ている”と感じられるのも大事ですからね。
吉田:そうだと思います。アーティスト自身が本当に感じていることを歌っているのか、聴いている人はわかりますからね。
角田:肌でわかるよね。
吉田:そうそう。アーティストを好きになるときって、その人のキャラクター込みだと思っていて。私も“下手くそでもいいから、もっと自分を出していこう”とマインドチェンジしてるんですよ、最近。
角田:いいと思う。さっき「子どものときに耳にしていた曲は、大人になると聴き方が変わる」という話をしましたけど、時間が経たないと“この人はこんなことを感じて詞を書いてたんだな”ってわからないこともたくさんありますよね。子供の頃好きでずっと聴いてたaikoさんの「お薬」って曲があるんですけど、大人になってから改めて聴くと絶対子供には歌詞の意味なんて理解できてなかったろうと思うんですよ。でも歌詞が理解できてなくても好きだと感じるのって、その想いが乗った声を通じて共感してるからだと思うんです。
──吉田沙良さんもシンガーとしてのキャラクターはめちゃくちゃ強いですよね。
吉田:ホントですか?見た目じゃなくて?
──(笑)メロディと歌詞がすごく自然に一体化しているし、そこに身体性が伴っいてて、聴いていて気持ちいいんですよね。
吉田:うれしいです。
角田:なんでもできるんですよね、沙良は。クラシックの声楽から始めてジャズを学んで。日本語のポップスも歌いながらも、この間はSNSでジェイコブ・コリアーにフィーチャーされるくらい世界に通じるものも持ってるし、いろんな要素があるんですよ。これは僕の感覚なんですけど、2年くらい前までは、沙良の中でそれぞれの要素が独立していた感じがあったんです。でも、最近は全部がひとつに混ざってきているように感じるし、それが吉田沙良というシンガーの魅力になっているんだろうなと。
■ライブでもいろんなサウンドを作っていきたくて
──3月10日に東京・渋谷WWW Xで行われる「salvation」のリリースパーティーも楽しみです。
角田:去年のビルボード公演は僕らとギタリストふたり、コーラスひとりの編成だったんですけど、3月のライブはドラム、ギター、僕らでやろうと思っていて。
吉田:今までのワンマンライブの中では最少人数ですね。
──ライブのスタイルもどんどん変化している?
吉田:そうですね。せっかくデュオ(2人組)なので、ライブでもいろんなサウンドを作っていきたくて。模索するのが楽しいし、毎回毎回、そのときのベストをお見せできたらなと。
──この先の楽曲については?
角田:今もずっと制作しているんですよ。これからどんなものが作れるか、自分たちも楽しみですね。
吉田:今後のモノンクルにも期待、ですね(笑)。
リリース情報
2022.02.23 ON SALE
SINGLE「salvation」
ライブ情報
モノンクル “salvation” RELEASE PARTY
3/10(木) 渋谷WWW X
プロフィール
モノンクル(MONONKVL)
吉田沙良(Vo)と角田隆太(Ba)によるソングライティングデュオ。2020年10月にシチズンクロスシーのCMソングとして書き下ろした「Every One Minute」を、2021年3月にはモーニング娘。の「抱いてHOLD ON ME!」をメロウでアーバンなファンクアレンジでリリースし話題に。2021年ビルボードライブ東京、横浜、大阪の単独公演を成功させる。同年5月に「GOODBYE」6月に「音の鳴るあいだ」8月に「ずるいよ」をリリース。詩情豊かな世界観と洗練されたポップセンスから、感度の高い音楽愛好家や幅広いジャンルの著名アーティストから支持されている。
モノンクル OFFICIAL SITE
https://mononkvl.tumblr.com