SUPER BEAVERのニュー・アルバム『東京』は、「名前を呼ぶよ」(映画『東京リベンジャーズ』主題歌)、「愛しい人」(TVドラマ『あのときキスしておけば』主題歌)、「東京」(アサヒスーパードライ×THE FIRST TAKE WEBCMタイアップソング)を含む全12曲を収録。
今作は前作から約1年ぶりのリリースになるが、汗臭いエネルギッシュな楽曲から、大人びた表情漂う曲調もあれば、壮大なスケールを帯びたものまで、聴き手の心情や生活に寄り添い、より“大きな歌”を届けようとするビーバーの意志や思いが詰まった傑作に仕上がった。今作に込めた感情や多岐に渡るサウンドについて、メンバー4人に話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 荒金良介
PHOTO BY 大橋祐希
■聴いてくださる方の生活や人生を想像しながら作ったアルバム
──今作も素晴らしい作品ができましたね。前作『アイラヴユー』にも収録されたシングル曲「突破口」では「正々堂々」、「正面突破」と歌詞にもあったように自分たちの強い意志やスタンスをぶつける楽曲も入ってました。対して、今作は“WE LOVE SUPER BEAVER”という気持ちに応えた内容だなと感じましたが、いかがですか?
柳沢亮太(以下、柳沢):仰ってくれることはすごくわかりますし、その通りの作品になったんじゃないかと。前作はメジャー再契約のタイミングで初めてのアルバムだったので、「突破口」もそうですけど、「ハイライト」、「自慢になりたい」とか、自分たちの歩みを象徴して、今一度ここで決意表明するような曲も入ってましたからね。そのツアーを2021年に回ることができて、自分たちがこう思うという部分の一歩先にあるものを歌えた気がして。
──ええ、わかります。
柳沢:もちろん、その根底には17年の歴史の中で固まってきた意志や価値観が根差したうえですけどね。今作はSUPER BEAVERの物語というよりも、聴いてくださる方の生活や人生を想像しながら作ったアルバムですね。
■誰かの生活で鳴るような歌になったら
──そういう意味で歌詞や楽曲の世界観が一段と大きくなりましたね。それは前作以降の活動の中で自然と変化したところ?
柳沢:そうだと思います。最初からそういう作品にしようと思ったわけではないし、制作も徐々に進めていきましたからね。知らず知らずのうちに、自分たちが見てきた光景、自分たちが味わらせてもらった気持ちが、そういうモードに向かわせたのかなと。
渋谷龍太(以下、渋谷):うん、聴いてくださる方の気持ちを投影しやすい作品になったと思います。だから、聴いた人によって作品の印象は違うのかなと。それは一枚の作品を作ることでとってもいいことだし、印象が一つに偏らない作品ができたのはいいことですね。
上杉研太(以下、上杉):2021年に活動してきたことが大きいのかなと。こういう時代にライヴをやるバンドがいて、今だからこそ放つことができる音やメッセージもあると思うから。もともとメンバー4人で成立する音楽はやっているつもりはないけど、さらに相手に曲が届いたときに完成する音楽に辿り着けたんじゃないかと。
藤原”33才”広明(以下、藤原):僕らの歌というよりは、あなたの歌になったらいいなという気持ちはありました。聴いてくださる方が今聴きたい歌というか…どんな音で、どんなメロディで、どんなリズムがいいのかな、と考えましたからね。誰かの生活で鳴るような歌になったらというイメージで作りました。
──今作の冒頭を飾る「スペシャル」、「人間」の2曲はSUPER BEAVERのライヴで感じる熱量がふんだんに詰め込まれた楽曲です。この2曲はいつ頃にできたものなんですか?
柳沢:その2曲は近い時期にできました。厳密には「人間」が先にできて、その後に「スペシャル」ができたんですよ。アルバムに向けて作った楽曲ではありますね。そういうモードになり、最初にできた2曲です。ただ、『東京』というタイトルは最後に決まったんですよ。
──あっ、そうなんですね。
柳沢:『東京』というタイトルに向かって作ろうと思ったわけじゃなく、何がキーワードになるんだろうと思い、ライヴの中で「人間冥利」(「スペシャル」)という言葉が出てきて、ライヴハウスの匂いがするサウンドメイクをしたいなと。人間臭い作品になったらいいなと思い、最初に書いたのが「人間」なんです。
■“こう思う”という道中にある感情にフォーカスを当てたら
──そのまんまですね。
柳沢:はい(笑)。で、曲が揃っていくうちに、きれいに物語をまとめるよりも、まだ迷ったり、まだ悩んだりしてしまう部分も素直に言葉にしたのが「人間」なんですよ。今まではSUPER BEAVERの考えとしてこうなったら素敵だな、こうなったらかっこ良くないとか、それを歌にしてきたバンドなんです。“こう思う”という部分にフォーカスを当ててきたけど、“こう思う”という道中にある感情にフォーカスを当てたらどうなるかなと。ヘンに答えまで行き着こうとせず、音楽にしてみようと思ったんです。
──そうして作られた「人間」の雰囲気は今作全体にも通じる部分ですね。
柳沢:結果、そういう感じになったと思います。
──あと、「スペシャル」の“楽しくありたいと願うと 「誰かのため」が増える 人間冥利”の歌詞も胸に刺さりました。
柳沢:まさにこの曲はライヴができない時期があり、またライヴをやれたことで再確認できた感情ですね。ステージ上で「何があっても 何がなくても」とぶーやん(渋谷)が言ったんですけど、それが「スペシャル」を書く取っ掛かりになりましたね。何があろうと何がなくても、最初からずっと大切なものは、何かがあったから突然大切になったわけじゃなく、最初からずっと大切なものなんだよなと。それをSUPER BEAVERとして歌にすることが大事なんじゃないかと。それで「スペシャル」ができたんですよ。
■コロナ禍じゃないと響かない音楽をやっていたつもりはない
──渋谷さんは「何があっても 何がなくても」とステージで言ったときの気持ちは覚えてますか?
渋谷:ほとんど覚えていないんですけど、コロナ禍だから響くと言われることが結構多くて、そうじゃないだろうと思っていて。コロナ禍じゃないと響かない音楽をやっていたつもりはないし、そうであってもなくても響く音楽をやっていた自覚があったんです。だから、そもそも思っていたり、そこにある感情が大事だったんだなと。そこで自分と向き合ったときに出てきた言葉だと思います。
──自分の中にあった気持ちを再確認できたと?
渋谷:そうですね。難しいことを歌っていたわけではないですからね。いや、そもそもそういうことだったでしょ、いや、知っていたはずだみたいな。何があってもなくても、というのは真理だと思うんです。それは原点だよな、と自分では思ってます。
■大事にしてきたことや状況に左右されない価値観
──「スペシャル」は曲調からもSUPER BEAVERの原点を感じます。
上杉:この曲はストレート・パンチですよね。自分たちがバンドを通して、大事にしてきたことや状況に左右されない価値観みたいなものが出てますからね。こういう時代からこそ、高らかに歌っていきたいなと。メッセージやサウンド面においてもそうですね。
藤原:思っていることをシンプルに伝えてくれるボーカルがいるので、サウンドは楽しくあるべきだと思うし、ノレた方がいいと思うから。リーダー(上杉)とライヴっぽい音源になればいいと話していたので、もっと音楽っぽく、イントロからどうしたらテンション上がるかなと。「スペシャル」はそういうことを考えました。
──今作は作品トータルの流れも素晴らしくて。中盤にはいろんなタイプの曲が並んでいますが、「VS.」は重めのオルタナ・ロックと言えるアプローチですね。
柳沢:「VS.」と次の「318」を作っているタイミングが連動していたんです。深く考えずに「どんな曲があればいいと思う?」とメンバーにも質問するんですけど、ライヴのことを考えてロックンロールぽい曲があったり、「紫っぽい雰囲気の曲がほしい」とぶーやん(渋谷)に言われたりして。なるほどと思いつつ、まだ掴み切れていない頃に「VS.」という曲ができたんです。この曲はこれでいいけど、紫っぽい雰囲気とはまた違うなと。「VS.」はいろんな要素を引っ張り出して作りました。今回は音数や住み分けも含めて、ユニゾンしている部分を少なくしたんですよ。その中でもこの曲はギターとベースが鬼ユニゾンしていたり、ドラムもアンサンブルのカタマリも意識したので、とにかくカッコ良くできたらいいなと。実はアルバムの中でこの曲が最初に録り終えたものなんですよ。
──そうでしたか。それはちょっと意外です。
柳沢:ライヴ感もあるし、アルバムの中でいいフックになっているので、作品の真ん中に置こうかなと。
上杉:サウンドもかっこいいし、バンドらしさがいちばん出ている曲ですね。細かいことをやる曲は他にもあるけど、動物っぽい勢いが出てますからね。現場でテンションが上がって、このまま行っちゃえ!って、今の形になったんですよ。
藤原:いろいろ準備してレコーディングする予定だったけど、その場のノリを採用して作りましたからね。ドラムの音も大げさに振り切りました。
──そして、「318」は大人っぽい雰囲気も漂っていて、ウッド・ベースを使っているんじゃないかと勘ぐりたくなる仕上がりです。
柳沢:そういうイメージですね(笑)。
上杉:うん、ウッド・ベースは使っていないけど、“紫っぽい雰囲気”と渋谷が提案してくれたおかげですね。アリーナでこういう風に鳴りそうだなって、想像力も掻き立てられるから。新しい武器になりうる一曲になったんじゃないかと。
──「318」が渋谷さんの「紫っぽい雰囲気」というリクエストに応えた楽曲なんですね。
渋谷:そうですね。自分たちの中にない色が欲しかったんですよ。同じ色の曲が並んでも、ライヴで表現するのは難しいですからね。紫という色に関しては、ないところを探っていった結果です。そういう曲を入れた方がアルバムが華やかになるし、ライヴでも力を発揮できるんじゃないかと思いましたからね。
──紫という色のインスピレーションもステージ上で感じたことですか?
渋谷:自分はそうですね。ライヴで立ったときのイメージを考えますからね。
柳沢:紫と聞いて、歌の方向性としては子供というより、大人びたイメージになりますからね。スカッと晴れているよりも、煙が漂っているような感じですね。
──さきほども作品の流れが素晴らしいと言いましたが、後半の「未来の話をしよう」からラストを飾る「最前線」の流れは感動的でした。特に表題曲「東京」はスケールの大きな楽曲ですよね?
柳沢:19年に曲自体はあったんですよ。振り返ると、19年はライヴばかりやって、今年はリリースしませんと決めていた年なんです。空いた時間を使い、思うがままにできた曲が「東京」なんですよ。自分たちでもすごくいい曲ができたなと思いました。SUPER BEAVERの王道感もあるし、ただそれだけでいい曲みたいなものができた手応えがあったんです。タイトルも後で付けたので、「東京」という歌を作ろうと思ったわけじゃないんです。この曲にタイトルを付けるなら、「東京」だなと思えたんですよ。
■自分たちの帰る場所は東京
──なぜそういう風に思ったんですか?
柳沢:“愛されていて欲しい人がいる”の歌詞を書けたときに、思い浮かぶ人がたくさんいたんです。それは数年会っていない人、お世話になった人、友人や親戚かもしれないし、もしくは二度と会えない距離にいる人も含まれているかもしれない。出会った日から今日まで繋がっている人やそうではない人もいるし、その中で自分の意志や価値観が培われたと思うので。それも自分たちにとっては東京という土地で生まれた感情や出会いだったなと。もちろんバンドでいろんな場所に行き、そこで出会いはあるけど、自分たちの帰る場所は東京なんですよ。そう思えたときに「東京」というタイトルを付けたいなと。ただ、聴いてくださる方は今生活している自分の街だったり、そういう風にイメージしてくれたら、その人だけの曲になるのかなと。
──なるほど。「東京」は絶対にコロナ禍の中で作った楽曲だろうと思ってました(笑)。
柳沢:全然コロナ禍以前なんですよね。
──そこが渋谷さんがさきほど言われていた、もともとあった感情に気付くという話に繋がりますね。
渋谷:そうですね。俺たちもそうだし、みんなも思っていたことだと思いますからね。
──「東京」の歌詞前半はバンド・ストーリーという風にも読み取れますし、後半になるにつれて、多くの人を巻き込んだ大きな歌になっていくという。“見つけられた歓びも 手が離れた 感覚も 込めて”の歌詞はまさに疎遠になった人の姿も浮かんでくる描写です。
柳沢:SUPER BEAVERは喜びと、その逆にある喪失感の両方の感情から生まれていた楽曲を歌い続けてきたバンドですからね。そこで“愛されていて欲しい人がいる”と歌えることもSUPER BEAVERらしいなと思います。
■バンドの顔がいちばん思い浮かぶ曲かもしれない
──あと、今作の中で「ロマン」という曲も大好きで。「東京」の流れから「ロマン」のイントロが聴こえたときにグッとこみ上げてくるものがありました。この曲もSUPER BEAVERが持っているピュアな部分を気持ちよく叩きつけた楽曲だなと。
柳沢:今作の中ではSUPER BEAVERというバンドの顔がいちばん思い浮かぶ曲かもしれないですね。制作の最後にできた曲なんですけど、どうしてもこういう感情を入れたくて。ライヴのステージからそのまま持って来たような感情ですね。“それぞれに頑張って”という歌詞はまさにそうですね。
──“台所にどんな歌があったら”の生活感に溢れた歌詞もいいですね。この言葉はどんな思いから出てきたんですか?
柳沢:配信ライヴの経験もあり、こういう生活まで想像したいという気持ちがあったんです。自分では自然に出てきた言葉ですけど…初めて出てきた言葉ですね(笑)。でも“それぞれに頑張って”というのは、そういうことなのかなと。
──後半の“報われろ”と呪文のように連発する歌詞も凄いなと。
柳沢:そこはぶーやん(渋谷)も歌録りのときに気にしてました(笑)。
渋谷:どんな風に響くかなと。個人の願いってプレッシャーになりやすいので、それは回避したかったんですよ。
■毎回、過去最高の日を作りたい
──プレッシャーには感じなかったですよ。そして、今作を提げた全国ホールツアーが3月から始まりますが、どんな内容になりそうですか?
渋谷:毎度そうですけど、このツアーだからと特別に思うことはないです。毎回、過去最高の日を作りたいので、それを今回もやりたいですね。あと、日や場所によってもルールが替わってくると思うので、限られた環境の中ですごく楽しかった!と言ってもらえるような、自分たちがすごく楽しかった!と思えるようなライヴをやりたいですね。
リリース情報
2022.2.23 ON SALE
ALBUM『東京』
ライブ情報
SUPER BEAVER 『東京』 Release Tour 2022 〜 東京ラクダストーリー 〜
3/26(土)【千葉】森のホール21(松戸市文化会館)
4/1(金)【東京】TACHIKAWA STAGE GARDEN
4/3(日)【静岡】静岡市清水文化会館マリナート 大ホール
4/8(金)【福岡】福岡サンパレス
4/9(土)【熊本】市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
4/16(土)【石川】本多の森ホール
4/17(日)【新潟】新潟県民会館
4/22(金)【北海道】札幌文化芸術劇場hitaru
4/23(土)【北海道】函館市民会館
4/29(金・祝)【岡山】倉敷市民会館
4/30(土)【広島】広島文化学園HBGホール
5/7(土)【愛媛】松山市民会館
5/8(日)【香川】レクザムホール(香川県県民ホール・大ホール)
5/19(木)【兵庫】神戸国際会館 こくさいホール
5/20(金)【大阪】フェスティバルホール
6/5(日)【愛知】名古屋国際会議場センチュリーホール
6/18(土)【滋賀】滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール
6/24(金)【岩手】盛岡市民文化ホール
6/26(日)【宮城】仙台サンプラザホール
7/5(火)【東京】東京国際フォーラム ホールA
SUPER BEAVER 「都会のラクダSP ~東京ラクダストーリービヨンド~」
10/19(水)【神奈川】横浜アリーナ
10/20(木)【神奈川】横浜アリーナ
10/25(火)【大阪】大阪城ホール
10/26(水)【大阪】大阪城ホール
12/10(土)【東京】有明アリーナ
12/11(日)【東京】有明アリーナ
12/24(土)【愛知】ポートメッセなごや新第1展示館
12/25(日)【愛知】ポートメッセなごや新第1展示館
プロフィール
SUPER BEAVER
スーパービーバー/2005年に結成された東京出身4人組ロックバンド。2009年にメジャーデビューを果たす。2011年にインディーズへと活動の場を移し、年間100本以上のライブを実施。その後、日本武道館、国立代々木競技場第一体育館のワンマン公演を開催し、チケットは即完売。2020年には結成15周年を迎えメジャー再契約を果たす。その後、ドラマやCM、そして話題の映画『東京リベンジャーズ』主題歌を務める。2021年10月から11月にかけて、さいたまスーパーアリーナを含む3都市6公演のアリーナツアーを開催しチケットは完売。2022年2月23日(水)にはフルアルバム『東京』を発売することが決定。併せて全国ホール・ツアーを発表。今年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも控えており、今最も注目のロックバンド。
SUPER BEAVER OFFICIAL SITE
http://super-beaver.com