禁断の愛を題材にしたNetflixシリーズ「金魚妻」の主題歌「Crazy for you」を歌う謎のアーティスト“sino R fine(シノールフィーネ)”の正体が、主演を務める篠原涼子であることが明かされた。
1990年に東京パフォーマンスドールの一員としてデビューし、1994年には篠原涼子with t.komuro名義によるシングル「恋しさと せつなさと 心強さと」が大ヒットし、ソロアーティストとして紅白歌合戦に出演。2000年以降は女優として目覚しい活躍を見せてきた彼女が、2003年に椎名純平with篠原涼子名義でリリースされた「Time of GOLD」以来、実に19年ぶりの歌唱に至った経緯と歌への思いを聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY 関 信行
■名前やビジュアルに邪魔されずに、歌だけで勝負してみたかった
──シンガーとして活動するのは19年ぶりになります。
そうですね。歌い方を忘れてしまってるんじゃないかという不安はあったんですけど(笑)、私としては、久しぶりに音楽を表に出せる喜びと、また歌えるんだといううれしさがありましたね。
──歌いたいという気持ちはありましたか?
ありました。ずっとやりかったんです。でも、なかなかチャンスがなくて。今回、お話をいただいたときに、これはチャンスだなと思って、引き受けさせていただきました。
──ドラマの主演と主題歌のどちらも担うことに対してはどんな心境ですか。
ふふふ。一瞬ちょっとやりすぎなのかな?って自分では思ったりしましたけど(笑)、先方から「ぜひ歌っていただけないか」というお願いがきたときには、このチャンスを逃したら、歌がただの趣味になってしまうなと思って。私は本当に歌うことが大好きで、それ以上のものはないんですけど、自分の歌を世の中の方に聴いてもらえる場を作っていただけるだけことはすごくうれしく思ってますね。
──名前を伏せた形での発表となったのは?
もともと、もしまた音楽活動ができるのであれば、そのときは名前を変えてやりたいなと思っていたんです。心機一転と言いますか。篠原涼子ではなく、違う名前を使って、自分自身、新しい第一歩を踏み出したいなという気持ちがあったんですね。また、今回はドラマの主演もさせていただいているので、篠原涼子という名前が出ちゃうと、きっと“あっ…”って思う人もいるんじゃないかと思って。だから、最初は名前を出さないでやりたいなというのもあったし、純粋に誰だかわからない人の歌を聴いたときに皆さんがどう感じるのかなというのも気になったんですね。名前やビジュアルに邪魔されずに、歌だけで勝負してみたかったという気持ちもありましたね。だから、皆さんの素直な意見を聞くのも楽しみです。
──アーティス名に込めた思いも聞かせてください。
音楽用語の“sino al fine/シーノアールフィーネ”からの造語ですね。“al”をRyokoの“R”にすることで、なんとなく篠原涼子っぽさもあるし、“〜が終わるまで”という用語の意味も、ドラマが放映されている間は、私は歌いますというメッセージも感じていいかなと思ってつけた名前ですね。
──楽曲制作はどんなところから始まったんですか。加藤ミリヤ・Che’Nelle・SUNNY BOYのコライトによるバラードになってます。
いろんな楽曲があったんですけど、この曲がいちばん、ドラマ『金魚妻』という作品にマッチしてるなと思って。しかも、“よく、こんないい曲があったな。ラッキーだな”と思ったくらい、いい曲だなと感じたんですね。SUNNY BOYとは仕事ではなくプライベートで、趣味の形で音楽を作ったりしてたんですよ。4年くらい前に知人の紹介で出会って。私は音楽が好きだし、歌いたいんだけど、誰かいい人いるかな?って思っていたときに、仲良しの仕事仲間の人に「SUNNY、すごくいいよ」って言われて。「チャンスがあったら会えたらいいね」って話していたその場で偶然、会えることになったことで、一緒に曲を作るようになって。ただ、それはあくまでも趣味の段階で、ラフな感じで作っていたものだったので、今回、私だけではなく、みんなの意見が合致して、SUNNY BOYと一緒にやれることになって、とても驚いてるし、うれしいですね。
■自分がさくらになり変わったような気持ちになって歌って
──篠原さんがドラマにぴったりだなと感じた部分は?
ドラマの主人公である“さくら”は自分の思いを内に秘めていて、誰にも伝えられない弱い女性なんですね。そんなさくらという役と、作品を壊さないような楽曲を作りたいなという思いにマッチしてたのがSUNNY BOYの曲だった。だから、歌詞に関しても、歌い方に関しても、自分自身の歌い方を出すというよりは、自分がさくらになり変わったような気持ちになって歌ってて。さくらだったら、どういう気持ちになるんだろうという感覚で歌ってみた感じですね。
──今、お話に上がった曲、歌詞、歌い方について、ひとつずつ聞かせてください。楽曲はドラムもベースもない、ピアノだけのミニマムな演奏になってます。
最初に私が聴いたのはシンプルなデモで、そこから音を重ねてもいいよねという話になっていたんですけどSUNNY BOYが「歌詞を伝えるためには音がない方がいい。ピアノ一本がいちばんいいですよ」って言うんですよ。だから、ピアノと歌声だけで勝負しよう、挑戦しようっていうことになって。
──とても潔いとは思いますが、久々の歌唱で歌声だけで聴かせることにプレッシャーはなかったですか。
ピアノ一本で誤魔化しようがきかない曲ですよね。バックの演奏で盛り上げていただいて、ボーカルの粗が目立たないようにしたいという気持ちもありましたけど(笑)、ピアノ一本の良さは捨てがたいなと思って。最後は単音で終わるし、ピアノ一本勝負の方が大人っぽくておしゃれで切なさも引き立つんじゃないかって。だから、プレッシャーはなくはなかったですけど、せっかくのチャンスなので、挑戦したい気持ちの方が強かったですね。
■女心をくすぐられる
──歌詞はどう感じましたか。
タイトルも歌詞の内容も、ドラマ『金魚妻』にぴったりだなって思いました。さくらが言っていそうな言葉でもあるし、他の登場人物のメッセージにも重なるところがある。何より、共感性も高いし、聴いてて切なくもなる。作品を盛り上げつつ、登場人物に寄り添う歌詞だなって思いましたね。SUNNY BOY、加藤ミリヤさん、Che’Nelleさん、皆さんのお力でこの形ができたので、女性としてはすごく共感して、グッときて。歌うときも気持ちがすごく入りやすかったですし、本当に好きですね。女心をくすぐられる。
──その共感した部分というのは?
最後のサビですね。“今、愛になって/あなたとひとつに溶けたい/夢の行方/誰もいない二人この世界に堕ちたい/心溺れるほど Crazy for you”っていう。ドラマの内容が全部ここに描かれているというか、溢れているというか。ここが私はいちばん好きですし、伝えたい場所でもありますね。どんなことがあってもあなたを愛してる。気がおかしくなるほど愛してるっていう。恋愛した女性はきっと誰しもこんな思いを抱くんじゃないかなって思うんですよ。しかも、かなり深い部分で描かれてるなって。
──ミリヤさんとChe’Nelleさんとも会いましたか。
はい。ミリヤさんはレコーディングスタジオで密着してくださって。ずっとそばでいろいろなアドバイスをくれました。Che’Nelleさんは今、日本に来れないので、レコーディング中はテレビ電話をずっとつけっぱなしにしたままでリモートで見守ってくれて。
■私がぽろっと“溺れるほど”はどう?って
──歌詞についても4人で話し合いながら詰めていったとおうかがいしました。
そうですね。“心溺れるほど”の“溺れるほど”の部分をどうするかをみんなで考えながら作っていて。“離れるほど”とか、いろんなフレーズの案が出てたんですけど、メロディを歌いながら考えていたら、“溺れるほど”という言葉が自然と出てきて。語呂もいいし、溺れちゃうほどあなたが大好きなの、愛してるのっていう気持ちもつながる。それに、金魚屋さんで運命的な出会いを果たすドラマ『金魚妻』の内容にもリンクするなと思ったんですね。そこで、私がぽろっと“溺れるほど”はどう?って言ったら、みんながわーって盛り上がってくれて、これにしようって決定したんですね。歌詞においては、唯一みんなで作った場所ですね。
──レコーディングにはどんなアプローチで臨んだんですか。
最初は、何しろ20年ぶりなので、まずは声が出るか出ないかの戦いをしてて。だから、最初はニュアンスをつけるとかではなく、ただただストレートに歌ってたんですね。だから、全然ダメだったんですけど、ミリヤさん、Che’Nelleさん、SUNNY BOYがいてくださったことによって、味付けをいっぱいしてくださって。たくさんの料理をしていただいたおかげでこの曲が出来上がって。時間は少しかかりましたけど、皆さんの力で作った。これは本当にひとりの力ではなく、みんなで考えて作った曲になってますね。本当に愛が溢れてます。
──息声が多めになってますし、歌い上げてないけど、心に染みるバラードになってます。
そうですね。強く、張り上げるように歌うのは良くないという話をしてて。強く歌うと主人公の脆さや儚さを壊しちゃうし、作品も邪魔しちゃうし、篠原涼子が出すぎちゃう(笑)。その辺をどうすればいいんだろうって話したときに、「ちょっとウィスパーっぽい感覚で」って言われて。そこで、あ、なるほどねってなって、いきなり歌い方を変えたんですよ。そしたら、そっちの方がグッとくるって皆さんに言っていただけたので、スイッチを入れ替えてやりました。
■“ああ、歌を歌ってる。懐かしいな”って
──久々のレコーディングの感想は?
アフレコとか、声を入れる仕事はあったんですけど、歌うのは久しぶりだったので、“ああ、歌を歌ってる。懐かしいな”って感じましたね。20年前とは歌の録り方も変わっていたし、そもそも、私は歌謡的な曲しか歌ってなかったところで終わっていて。オシャレな感じで、大人っぽくて、少しマニアックかもしれないけど、誰もが普通に聴ける曲というのも、私にとっては初めてでした。自分が歌いたい曲、好きな曲を選んで歌うという経験が初めてだったんですよね。今まではどちらかというと、用意していただいたものを歌わせていただいてて。それはそれで贅沢なことだったんですけど、本来、自分自身がやりかった曲、普段、自分が好きで聴いてるような曲に並んでいても違和感のない曲を自分が歌えたのは大きな変化だし、初めましてですね(笑)。
──英語歌詞が多めですし。
そこは、発音が全然わからないので、Che’Nelleさんに「どうやっていうの?」って聞いて。カタカナで書き直して歌ってました(笑)。Che’Nelleさんがいてくれて、すごく助かりましたね。
──楽曲が完成してどう感じましたか。
歌入れが終わった後、SUNNY BOYがどうしてくれるのかな?というのが気になっていて。でも、SUNNY BOYに「これ以上、いじりません」って言われて。「え、ちょっと綺麗に整えてよ」って言ったんですけど(笑)。「いやいやいや」って返されて。だから、出来上がったのを聴いたときに…私はデモの段階から何回も聴いてるし、自分が歌っているから、どうしても客観的に聴けないんですよね。だから、自分だとダメ出しが出ちゃう。本当に平気かなって思ったりするけど、完成した曲を一緒に聴いていたみんなが、“うんうん”って、何度も頷いてくれていたので、その気持ちを信じて。私としては、“これ以上は無理。精いっぱいです”っていうところまでできたので、とにかく感無量でした。
──歌う楽しさも感じましたか。
ありましたね。終わりに近づくにつれて、テンションがどんどん上がってて、もっとやりたいなっていう気持ちになって。みんなで“ものづくり”をしてるんだなという実感があったし、本当に楽しかったんですよ。しかも、急かす人はいないし、時間をかけてゆっくりゆったり、いいものを作ろうっていう雰囲気があった。SUNNYもそういう姿勢の人だったからすごく救われましたね。ミリヤさんも“頑張ろう”って感じで応援してくれたし、ブースの向こうで、みんなが「すごーい」とか言ってる声が聞こえて。私がいないところで声をあげて喜んでくれていたこともうれしかったです。
■私だと知らずに初めて聴いた方の意見がすごく気になります
──ドラマに流れることに関してはどうですか。主題歌だけでなく、劇中歌としても使われてます。
夢中でドラマを見てくださってる方が、音楽がかかったことで、さらにテンションが上がっていってくれたらうれしいなと思いますね。私は先に見せてもらったんですけど、やっぱり自分自身だと素直になれなくて。客観的に見れないのは仕方ないけど、本当にたくさんの作り手の方と一緒に完成させた作品なので、自信を持ってお届けしたいなと思いますし、みんながどうやって感じてくれるのかがすっごい楽しみです。私だと知らずに初めて聴いた方の意見がすごく気になります。
──どう届いたらいいなと思いますか。
見る方にはあまり自分の思いを押し付けたくないんですけど、日本にはなかなかない作品が完成しましたという気持ちでいます。そして、みんな体当たりで、いろんな心情で向き合える作品になったと思ってて。それぞれの登場人物がいろんなテーマを抱えていて。私はドラマと同じ思いでレコーディングをしたので、曲が流れたときに、何かを感じていただけたらいいなと思います。逆に、この曲を先に聴いた人にはぜひドラマを見てもらいたいですね。あとは、女性の心情を歌った曲ですけど、性別や年齢問わず、いろんな方に届いて、聴いてもらえたらうれしいです。例えば、車に乗ってるときとか。自分の好きなプレイリストに入れてくれたらうれしいなと思います。
──今、車の話がありましたが、ジャケットとMVで車が使われてますね。
車の中ってひとりになれる空間だと思うんですよね。ひとりになって、いろんなことを考えたり、人には見せられない感情や表情が湧き上がってきたりする。このジャケットや映像に映っているsino R fineという女性にもなんかあったんでしょうね。悲しい気持ちになって、思いを巡らせてるっていう。
──MV撮影も久しぶりですよね。
とっても久しぶりですね。でも、基本的には車の中がメインのシンプルな撮影だったので、そこだけに命をかけて頑張ればいいという気持ちで挑ませていただきました。ただ、かなり寒かったです(笑)。本当に強烈な寒さで、タイトなスケジュールの中でバタバタな感じでやったにもかかわらず、いい作品が出来上がったなって思います。
■これまでの私と新しい私が抱き合う感じ
──どんなストーリーだと言えばいいですか、
私としては、そんなにドラマチックにやるという感覚はなくて。何かから逃げて、ひとりになれる車の中に隠れた。そこで、何かの想いに耽って、ただ思い出して歌ってるっていうことだけを意識してました。ただ、監督さんは“二面性も見せたい”ということを熱くおっしゃっていて。現状の私と、新しい考え方の私。これまでの私と新しい私が抱き合う感じというか、自分自身の内側に秘めるものと抱き合ってる。自分の中で逃げたい、救われたい人が存在してるのかなっていうイメージですね。もうひとりの自分の強い人間と抱き合ってるっていう。ただ、いろんな見方ができる映像になっているので、見てくれた方がそれぞれの感性で捉えていただけたらいいなと思いますね。
──最後になりますが、今後の歌手活動も期待していいですか。
はい!これを機に私も歌っていけたらいいなと思ってます。ひとりでは決められないので、いろんな話し合いがあるかとは思いますが(笑)、チャンスが来たら違う曲も届けたいですし、楽しみに待っていてほしいですね。
リリース情報
2022.02.14 ON SALE
DIGITAL SINGLE「Crazy for you」
プロフィール
sino R fine
シノールフィーネ/篠原涼子が19年ぶりに歌唱。音楽用語[sino al fine|シーノアルフィーネ]からの造語。意味は「〜が終わるまで」。ドラマが放映されているあいだは私は歌うというメッセージを込めて。
sino R fine OFFICIAL SITE
https://www.sonymusic.co.jp/artist/sinoRfine/