沖縄・伊江島出身のシンガーソングライター、Anlyから2022年最初のシングル「VOLTAGE」が届けられた。TVアニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のエンディングテーマに起用された表題曲は、“VOLTAGEを上げろ”という力強いラインが響くパワーソング。彼女のルーツであるロックを現代的なポップミュージックに昇華させたサウンド、シンプルかつダイレクトな歌詞、ダイナミックな歌声がひとつになったこの曲は、Anlyの普遍的なアーティスト性を改めて証明することになるだろう。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 大橋祐希
■落ち込むよりも“次”に向かってポジティブに
──まずはこの2年間を振り返ってみたいと思います。2020年春にアルバム『Sweet Cruisin’』をリリースしましたが、その後はコロナ禍での活動となりました。
忘れもしない、『Sweet Cruisin’』のリリース日が初めて緊急事態宣言が出された日と重なったんですよ。でも、発売できたのはよかったですね。その後はリリースも難しくなったし、延期になることも多かったので。
──アルバムのツアーも1年延期され、昨年5月からスタート。
アルバムを出して1年経ってからツアーを回ったのはもちろん初めてで。そのぶん、お客さんもアルバムを聴き込んでくれたと思うし、私自身も『Sweet Cruisn’』と長く一緒に過ごした感じがありました。アルバムには「We’ll Never Die」「Not Alone」という曲も入っていて。コロナ禍で書いた曲ではないんですが、今の状況にフィットしていたし、自分自身も元気をもらえる作品だと思います。ジャケットもピンクで明るいし(笑)。
──たしかにこの2年は、音楽の力を実感することも多かった気がします。
私も音楽の聴き方が変わった気がします。他のアーティストの曲を聴いていても、“リスナーを元気づけよう”みたいな気持ちを感じるようになって。ツアーが延期や中止になったときは、もちろん“残念だな” “悔しい”と思いましたけど、だんだんと“生きてれば大丈夫でしょ”みたいなマインドになってきて。周りの人たちにも助けられましたね。ライブ制作のスタッフも事務所のみなさんも“またいい時期が来るはずだし、そのときにもう一度やりましょう”というテンションだったんですよ。落ち込むよりも“次”に向かってポジティブに進むメンツが集まっているというか。なので私自身も意外と元気でしたね。
──素晴らしい。楽曲の制作も続けていたんですか?
はい。去年は沖縄に結構長い期間、滞在していて。地元(伊江島)ではなくて那覇なんですけど、沖縄だから出来る曲ってあるんですよ。東京で見る空とは違うし、空気感もほのぼのしていて。自然とそういう雰囲気の曲が生まれたんですよね。あと、台湾のnoovyとコラボして曲を作ったんですけど(「Before We Die(feat.Anly)」)、「MVに使いたいから、沖縄の風景を撮って送って」と言われて、撮影したり。
──制作においては充実していた、と。
そうですね。週に1回インスタライブもやっていて、その中に即興で曲を作るコーナーがあって。お題をもらってその場でギターを弾きながら曲を作ってたんですけど、その中から良さそうなものを形にしたり。いろんな形で自由に曲を作ってましたね。
──では、ニューシングル「VOLTAGE」について。表題曲「VOLTAGE」はTVアニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のエンディングテーマです。
以前、「NARUTO-ナルト-疾風伝」のオープニングテーマ「カラノココロ」を作らせてもらったんですけど、その縁がまた繋がったなって。まず「BORUTO-ボルト-」の原作を全巻読んで、アニメも観させてもらってから曲を書いたんです。これまでのタイアップ曲は、最初から“何かしら自分と重ねて書かなくちゃ”と思いながら作ってたんですけど……。
■アニメに登場するキャラクターたちを後押しできる曲に
──Anlyさん自身と映像作品の共通するテーマを探して?
はい。共通点を探して、スタッフともいっぱいディスカッションしながら時間をかけて制作していたというか。今回の「VOLTAGE」はかなり違っていて、「BORUTO-ボルト-」の世界のためだけに書こうというところからスタートしたんですよ。アニメに登場するキャラクターたちを後押しできる曲にしようと。でも、書いているうちに自然と自分自身に向けた応援歌みたいになってきて。今までとは気持ちの入れ方や制作のスタンスが違っていたし、そのうえですごくいい曲ができて。シンガーソングライターとして表現の幅、書き方の種類が増えたし、「私も成長したのかも」と思いました(笑)。
──「カラノココロ」のときは制作のベクトルがまったく違うんですね。
そうなんですよ。あと、「カラノココロ」は私の曲のなかでいちばん聴かれている曲なんです。ストリーミングの人気ランキングでもずっと1位なんですけど、「カラノココロ」と「VOLTAGE」の関係って、“ナルト”と“ボルト”の関係にちょっと似てる気がしていて。ボルトにとってナルトはあまりにも偉大な存在で、リスペクトもありつつ、“超えたい”という気持ち持っている。その感じは、私が「カラノココロ」に持っている気持ちに近いのかなと。
──代表曲の「カラノココロ」を超えるような曲を作りたい、ということですか?
そうですね。「カラノココロ」はすごく頑張って作った曲だし、もちろん好きなんですけど、一度くらいは「VOLTAGE」がランキング1位になってくれたらなって。その一方で、「カラノココロ」と「VOLTAGE」は親子というか、DNAを感じられるところもあるんですよ。アレンジはどちらも同じ方にお願いしていて、ストリングス・ワークに関しても、「カラノココロ」を意識してもらってたので。
──なるほど。「VOLTAGE」はロックのテイストもかなり反映されていて。Anlyさん自身のルーツに根差している印象もありました。
「VOLTAGE」の原型はインスタライブの即興なんですよ。2019年の6月9日だったんですけど、“ロックを思い出せ”みたいなテーマをもらって、その場でギターを弾きながら歌って。スタッフが「あの曲、カッコ良かったよね」と言ってくれて、そのときの音源をもとに作り始めたんです。
■原点回帰みたいなところはあるかも
──即興の曲がもとになっているからこそ、AnlyさんのロックのDNAが自然に入ってるのかも。
原点回帰みたいなところはあるかもしれないです。あとアニメのタイトルが“NEXT GENERATIONS”なので、そこも意識してたんですよ。「VOLTAGE」で使っている生楽器はストリングスとエレキギターだけで、あとは打ち込みなんです。トラックには今の音楽、私がリアルタイムで触れてる音楽の要素がいい感じで混ざってるんですよね。
──アニメのファンのみなさんの反応はどうですか?
たくさん来てますね。先にアニメのエンディングで流れて、国内外のファンの方がいろんな言葉でコメントしてくれて。わからない文字は翻訳かけて読んでるんですけど、「いい曲だ」みたいな感想が多くて「良かった!」って(笑)。以前からインドネシアの方がよく聴いてくれてるんですよね。インスタライブのときも“from indonesia”のコメントがすごく多くて。
──MVのパフォーマンスも素晴らしかったです。あのエキゾチックな雰囲気の撮影場所はどこですか…?
それは内緒ということで(笑)。今回のMVは、以前からずっと撮ってもらいたかったISSEIさんにお願いしたんです。ISSEさんはラッパーのRude-αのクリエイティブ面に関わっていて。彼のライブにゲストで参加したときに告知動画を撮ることになって、そのとき初めてISSEIさんにお会いしたんです。後日、ISSEIさんが撮影したMVをいくつか見たときに映像がとても素晴らしくて、“いつか自分のMVも撮ってほしいな”と思って。ISSEIさんは撮影や編集も自分でやるし、DJもうまくて、本当にマルチプレイヤーなんですよ。私、“憧れのアーティスト”っていないんですけど──憧れると、その人に寄ってしまう気がして──ISSEIさんにはすごく憧れていて。なので「VOLTAGE」のMVを撮ってもらえることなったときは、めちゃくちゃうれしかったです。ミーティングの段階から緊張してましたね。“こいつ、カッコ悪いな”とか“センスない”って思われたくなくて、言葉を発するのが怖くて(笑)。
──手話の動きを活かした振り付けも話題を集めてます。
手話を取り入れるのは、私の中で最初から決まってたんですよ。以前、ゴスペラーズの北山(陽一)さんにHANDSIGN(歌、ダンス、手話を融合したボーカル&パフォーマー)のおふたりを紹介していただいて、いつかご一緒にしたいなと思ってたんです。あと、私はループペダル(その場でギターのフレーズを録音、再生し、音を重ねる機材)を使うんですけど、なぜか手が動いちゃうので(笑)、“何か意味のある動きだったら、もっといいのに”と思ってて。もうひとつ、Youtubeで偶然見たんですけど、エミネムのライブでラップに合わせて手話通訳をしてる方の映像がカッコ良かったので。いろんな記憶や思いが重なって、「VOLTAGE」のMVに集約された感じです。撮影もすごく楽しくて。ISSEIさんの指示は「今はリズムに乗らなくていい」とか「目線はここ」とか、指示が的確なんですよ。MVをプレミア公開したときは、普通のダンスだと思った人が多かったみたいで。その後「もしかして手話ですか?」というコメントが増えてきたんですけど、ISSEIさんは最初から「手話を押し出さず、さりげなく見せるほうがいい」と言ってたんですよね。やっぱりすごい人だなって改めて思いました。
──カップリング曲の「大切なものはいつも歌の中にある」は、題名通り、歌に対する思いをストレートに表現した楽曲。
これも即興なんですよ、じつは(笑)。たぶん“大切なもの”みたいなお題だったんですけど、そのときにスッと出てきたのがサビのフレーズで、それをそのままタイトルにして。歌い出しの「空を見上げれば青いことに気づいた」という歌詞もそのときあったのかな。
■こんなシンプルな歌詞を書いたのは久しぶり
──即興の段階で、ほぼ形ができていた?
あ、そうですね。そのとき自分が何を歌ったか覚えてないので、あとから音源を聴いて、“なるほど、そういうこともあるよね”みたいな(笑)。自然に出てきた言葉ばかりだし、それを曲にすることで“私、こういうことを思ってたんだ?”と再発見できるというか。なんて言うか、音楽が仕事になるってとても幸せなことなんですけど、ときどき“もっといいものを作らなくちゃ”“たくさんの人に届く曲を作らないと”みたいなことで悩むこともあって。最近はいい意味で“そんなこと気にしてたら、自分自身がなくなるでしょ”というテンションになってきたんですね、ようやく。「大切なものはいつも歌の中にある」を作った頃は、結構考えていた時期で。私の音楽は届きづらいのかしら?とか──実際、届いている人がたくさんいるのに──いろいろ迷ってたんですよね。でも、“大事なことは?”というテーマをもらったときに、スッとこの曲の歌詞が出てきて。自分にとってもうれしい歌詞だし、しっかり形にできてよかったです。
──すごくシンプルな歌詞だし、Anlyさん自身の本心がまっすぐに伝わってきます。
そう言ってもらえるとうれしいです。“忘れかけていた笑顔取り戻しにゆこう”もそうですけど、こんなシンプルな歌詞を書いたのは久しぶりだったので。曲を作り続けてると、ストレートな歌詞を書かない時期が訪れるんですよ。もっとヒネらなきゃとか、比喩表現を考えたり。「大切なものはいつも歌の中にある」は“実家に帰りました”みたいな曲かも(笑)。あと“こういう曲をカップリングで入れよう”という決断できたのも、大人になったってことかな。
──どういうことですか?
今までだったら“シンプルすぎるから、ちょっとタイトルを変えよう”とか“英語の題名にする?”と思ったんじゃないかって。このままシングルに入れたいと思えたこと自体、いろんなことを超えられた気がします。
■“とにかくボルテージを上げよう”ということにフォーカス
──「自分がやりたいことを素直にやろう」と思えたのは、何かきっかけがあったんでしょうか?
それこそ「VOLTAGE」がそうだと思います。私の曲、「カラオケで歌いづらい」って言われるんですよ(笑)。そのことを気にして、“歌いやすいほうがいいのかな”と思ったりしてたんですけど、「VOLTAGE」はそんなこともいっさい考えないで、“とにかくボルテージを上げよう”ということにフォーカスして。自分にとっても大きなきっかけになった曲ですね。
──そして3月9日からは全国47都道府県の弾き語りツアー「Anly“いめんしょり” -Imensholy Tour 47-」がスタート。
47都道府県ツアー、初めてなんですよ。今回はループペダルも使わず、ギター1本で回ろうと思っていて。“原点”という感じのライブになると思うので、ぜひ会場に足を運んでほしいですね。もちろん「VOLTAGE」も歌います!
──まだ行ったことがない県もあるんですか?
結構ありますね。今、観光マップでいろいろ調べてます。こういう状況のなかで(観光地などに)行けるかどうかわからないけど、どんなものがあるのか知りたいので。私自身も楽しみです。
リリース情報
2022.02.16 ON SALE
SINGLE「VOLTAGE」
ライブ情報
2022年3月~7月にかけて、全国47都道府県をアコースティックギター1本の弾き語りで回るツアー『Anly“いめんしょり” -Imensholy Tour 47- 』を開催予定。詳しくはオフィシャルサイトにて。
プロフィール
Anly
アンリィ/1997年1月、沖縄・伊江島生まれ。沖縄本島からフェリーで約30分、北西に浮かぶ人口約4,000人、風光明媚な伊江島出身。英語詞、日本語詞、様々なジャンルの音を楽曲の随所に感じさせるミックス感覚、ループ・ペダルを駆使したソロ・ライブ、バンド編成ライブ、アコースティック・ギター弾き語りなど、イベントや会場にあわせパフォーマンス・スタイルを変え、日本国内、香港、台湾、ドイツなど海外でもライブを行う、唯一無二の空気を感じさせる沖縄出身シンガーソングライター。新曲「VOLTAGE」がテレビ東京系アニメ「BORUTO -ボルト-NARUTO NEXT GENERATIONS」の新エンディング・テーマに決定しており注目が集まっている。
Anly OFFICIAL SITE
https://www.anly-singer.com