2021年12月31日、Zepp Tokyoが22年の営業を終えて閉館した。
1999年3月20日、東京・お台場に爆誕したライブハウス・Zepp Tokyo。“ロックの殿堂”と呼ばれた渋谷公会堂(現・LINE CUBE SHIBUYA)などのホール会場よりも収容人数の多い2,700人のキャパを誇るスタンディングスタイルの巨大ライブハウスの登場は、日本のライブシーンに大きな変化と影響を与えた。Zepp Tokyoを目標とする新人アーティストから、ドーム会場も埋める大物アーティスト、さらに海外の有名アーティストにも愛され、これまで開催したライブや催事は約6,000以上、動員した観客は約1,300万人以上と、その名を轟かせた。
ここでは多くのアーティストや音楽ファンに忘れられない思い出を刻んだZepp Tokyoのクローズドを惜しみ、関係者による座談会を実施。思い出や功績をたっぷり語っていただいた。
INTERVIEW & TEXT BY フジジュン
■試行錯誤しながら積み重ねてきて最高の形で迎えられた閉館
──2021年12月31日、22年の営業を終了したZepp Tokyo。近年のZepp Tokyoに深く関わるお三方、Zeppホールネットワーク ホール運営事業部から元支配人・戸井田隆男さん、現支配人・多田明夫さん、現副支配人・山口伸也さんに思い出など、たっぷり語っていただきたいのですが。まずはそれぞれのご経歴から聞かせてください。
戸井田隆男(以下、戸井田):私は2007年からZeppの業務を務めているのですが、Zepp Tokyoは、2015年から5年間支配人を務めました。現在は新しく出来たZepp Hanedaの支配人をやりつつ、ホール全体の運営部長も兼任させていただいています。
多田明夫(以下、多田):僕は2012年から2015年までZepp Tokyoの副支配人を務めて。2020年にZepp Tokyoに戻ってきて支配人になり、現在に至るという感じです。
山口伸也(以下、山口):僕は2009年くらいからZeppの業務を務めるようになって、2017年からZepp Tokyoの副支配人とブッキングを担当しています。
──まずお聞きしたいのが、2020年から現在に至る新型コロナの影響。観客が入れられずに無観客配信ライブが行われたり、現在も多くの規制があったりと、全国のライブハウスが大きなダメージを受けていますが、Zepp Tokyoはいかがでしたか?
戸井田:2020年2月くらいから雲行きが怪しくなって、2月後半には「ライブを止めましょう」という世の流れになりました。最初はすぐに再開できるだろうと思っていたんですが、3月からは完全に中止せざるを得なくなりました。その後7月から状況をみながら無観客での収録や生配信から営業を再開、徐々にお客さんを入れられるようになってきましたが、2021年に入ってまた緊急事態になりました。感染症対策もしっかりやりながら4月からは収容人数は50パーセントとなる全椅子席という形にての営業を再開。
やはりコロナ禍でも前に進まないといけないというのは、私たちと同じようにアーティストの方々も思っていて、「椅子席で声が出せない状況でもいいから2デイズやろう」とかいろいろなアイデアを出しながら、お客さんと会える場所を作ることに尽力してくださって、夏以降は収容人数が半分ではありますけど、稼働日数は100パーセントに近い状態で営業することができ、たくさんのお客さんに来ていただきました。閉館というところでも「最後にZepp Tokyoでやりたい」と言ってくださるアーティストや、「最後にZepp Tokyoで観たい」というお客さんのおかげで、この数ヵ月は非常に盛況で充実した毎日を送らせていただきました。
多田:僕らにしてもアーティストにしても、最後はスタンディングで思いきり盛り上がって締め括りたかったという想いもあるのですが。この2年間、僕らもアーティストも、お客さんも含めて、日々変わる新しいルールに試行錯誤しながら積み重ねてきたもののひとつの完成形が、今の形だと思っていて。お客さんは椅子席でマスクをして声を発せないなかでの新しい声援の送り方、楽しみ方を考えてくださったり、アーティストも表現の方法を変えて見せていくという、今やれるなかでの最高の形まで辿り着いたうえで閉館を迎えられたことは良かったなと思っています。
『Zepp Tokyo Thanks & So Long!』と冠した最後の3日間も素晴らしいステージで盛り上げていただいたのですが、フレデリックさんやBIGMAMAさんなどZeppを愛してくださっていた方々に出演いただいた『GT-Z』を29日にZepp Tokyoでやれたことは嬉しかったです。30日のTHE NINTH APOLLOの企画は、『1つの目標として存在してくれたZepp Tokyoにて』と、Zepp Tokyoへの想いをライブタイトルに掲げてこれからの若いアーティストが出てくださって、次に繋がるイベントになったと思います。また、31日の最終日はELLEGARDENさんとBRAHMANさんの2マンで、皆さんが気合十分で臨んでくださって。すごく良い3日間で締められたと思います。
──この状況下で観たライブもきっと月日が経てば、みんなの忘れられない良い思い出として心に残ると思います。山口さんはコロナ禍で思ったこと、いかがでしょうか?
山口:僕はブッキングをやっているので、海外アーティストの交渉も多くありまして。コロナが想像以上に長引いたために、公演延期を6~7回繰り返して結局ライブができなかったアーティストが出てしまったのは心苦しかったですね。
戸井田:この12月のaikoさんの公演も、2020年3月のツアーファイナルの振替でしたからね。
山口:そうなんです。aikoさんみたいに閉館前に間に合って良かったという例もあるのですが……延期公演を消化しきれないアーティストも多いうえに、感染状況によっていつまたライブができなくなるかもしれないというリスクのなかでのブッキングはすごく大変でした。でも、最終月の12月を31日間全部埋めることができましたし、埋まってみれば、すごく豪華なラインナップで終わりを迎えることができたので、すごく嬉しかったです。
多田:12月はaikoさんが5日間ライブをやってくださったんですけど。Zepp Tokyoで最も多く公演を行なったアーティストは、HYDEさんで100公演以上、2番目に多いのがaikoさんなんですよ。
──コロナ禍を経験して、ライブハウスの在り方、Zepp Tokyoの在り方というところで思うことや、考えることはありましたか?
戸井田:できなかった期間があったからこそ、Zepp Tokyoが皆さんに必要とされているんだなという実感が改めてありました。だからこそ、いろんな制限があるなかでも、お客さんが安心して楽しめるようにと、ずっと考えながらの2年間でした。
──ライブに行くと、お客さんが徹底してルールを守っている姿がすごく健気で。ライブハウスというのがそれだけ大事な場所だし、守りたい場所なんだなと思わされます。
戸井田:そうですね。HYDEさんの公演では声を出せない状況下のお客さんにスマホのボイスレコーダーに「HYDEさ~ん!」って声援を録音してきてもらって、それをライブ中に流してもらったり(笑)。HYDEさんも、その健気さに「嬉しくなるわ~」って感動されていましたけど、それを観た僕らも感動をもらいましたし、「やっぱりライブっていいな」と思える機会が意外と多かった気もします。
多田:Zeppの在り方というところでいうと、やはりライブハウスというのは、すごく近いところでリアルを感じてもらえる場所で。Zeppの場合はライブハウスとしては少し大きいですけど、ライブハウスを回ってきたアーティストたちの目標になる小屋というのは、どんな状況下でも変わらないと思っています。今は収容人数に制限がありますが、その人数を埋める自力がある方が、その先にある日本武道館だったり、アリーナだったりに行かれることは変わらないと思いますし、ライブハウスの中でも次に繋ぐためのハブ基地的な存在であり続けると思います。それに加えて、アリーナ公演もできるようなアーティストもたまに帰ってきてくれて、初心に帰れるような場所であって欲しいとも思っていますね。
■アーティストたちが会場の価値を上げてくれた
──全国各地にZeppはありますが、Zepp Tokyoの魅力を挙げるなら何でしょう?
戸井田:なんといっても、全国のフラッグシップという役割を22年間担ってきたということですね。Zepp Tokyoから全国に繋がっている感じがあって、アーティストがツアーをやるときにも「Zepp Tokyoを拠点に、全国Zepp会場でやろう」と思ってもらえるくらい、重要度が高くなった。Zepp Tokyoが大黒柱で、全国各地に家族がいるという感じはあると思います。あと、東京のコンサート会場で考えたとき、東京ドームがあって、日本武道館があってという序列の中に確実にZepp Tokyoが存在するようになったと思っていて。12月29日の『1つの目標として存在してくれたZepp Tokyoにて』という公演タイトルを聞いた際、「最高だね!」と言ったんですが……例えばCLUB QUATTRO満員から次を目指そうとなったときにイメージするのはZepp Tokyoだったと思うんです。
そうやってZepp Tokyoを“目標”として成り立たせてくれたのは、これまで出演してくださったアーティストたちで。若いアーティストたちに「あの人も出ていたZeppに出たい」と思わせたアーティストたちが、Zepp Tokyoという会場の価値を上げてくれた。そして、そこを突き抜けて大きくなっていったアーティストがZeppを愛してくれました。また、例えば矢沢永吉さんや長渕剛さんやB’zさんといった、より大きなアリーナやドームクラスの会場をメインとするようなアーティストがあえてZeppを選んでライブをやってくれたりすることも、Zepp Tokyoの価値をさらに上げてくれたというのもありますね。
多田:日本の大物アーティストもですが、洋楽アーティストも好んで使ってくださって。ボブ・ディランさんには2010年にZepp Tokyoを1週間くらい使っていただいたのが、中止にはなってしまいましたが2020年の全国Zepp会場を回るキッカケになったとも思いますし、リンゴ・スターさんやガンズ・アンド・ローゼズさんなど海外のビッグネームにも多く公演いただいて、どんどんZeppの名前が広がっていった。BTSも世界的に売れる前、Zeppでライブをやっていましたよね?
山口:2014年の日本初ライブはZepp Tokyoでした。BTSサイドから「Zeppツアーをやりたい」と相談されたんです。Zeppは韓国でも高く評価されていますね。
──日本人アーティストと同じ感覚でZeppを目標としているんですね!
多田:“Zeppツアー”というのが、韓国でも通り名としてあるのがすごいよね(笑)。
──全国にZeppが出来る前は、“Zeppツアー”は、なかった言葉ですからね。
山口:それが確立したのも、やはりアーティストがZeppを好んで使ってくれたからなんですよ。アーティストは、やはり会場の音の鳴りとか中音とかにこだわられるので、そこに納得がいかなければ絶対に次は使ってくれない。Zeppはどの会場も音を気に入ってくれる方がすごく多いのですが、「Zepp Tokyoでやって良かったから、全国のZeppも間違いないだろう」というところで、Zeppツアーを組んでくれたりするんです。
──Zeppブランドの信頼ですね。歴史というところで、現場にいて感じるライブシーンの移り変わりについても聞かせてください。
戸井田:Zepp Tokyoは“ロックの聖地”と呼ばれていて、ロックバンドにとっては変わらず大事な場所ではあったと思うのですが、この20年でK-POPやアイドル文化も成長して、さらにジャンルの幅も広がってきた。そのなかで、Zeppはどんなジャンルも許容できる小屋なので、ロック以外のジャンルの人が使い始めてくれたことで可能性を広げてくれたと思います。
──音楽ジャンルの裾野が広いということもあって、“初めてのライブハウス体験がZepp Tokyo”というお客さんも多いと思います。
多田:そうですね。最近はYouTuberとかVTuberとか、新しいメディアから出てくるスターも出てくださっていますから、ロックバンドのファンが通る道とは少し違って、初めて行くライブが小さいライブハウスだったり、大きなホール会場ではなく、Zepp Tokyoだったという人は多くいると思います。
山口:僕自身もブッキングの際に初めて名前を聞くアーティストが、2年後には『NHK 紅白歌合戦』に出ていたみたいなことも多々あって。Zeppにいると全体のシーンが見えるので、シーンに助けられているし、シーンを助けてもいる。そういう面白さがすごくありましたね。
■お客さんに愛されるブランドに育ったZepp
──では、“Zepp Tokyo事件簿”というところで、それぞれ語り継いでいきたいZepp Tokyoの思い出について聞かせていただきたいのですが?
戸井田:僕にとって一番思い出深いのは、2019年3月の『Zepp Tokyo 20th ANNIVERSARY』ですね。その2年くらい前から企画し始めて、歴代の出演回数上位のHYDEさん、aikoさん、DIR EN GREYさんに出てもらいたいと考えたのですが、当然それぞれリリースやツアーの予定があるので、そんな簡単なブッキングじゃない。事務所やご本人に何度も相談に上がって、最終決定したのが半年前くらいで。だから、発表できたときは本当に嬉しかったし、ホッとしました。イベントはDIR EN GREYさん1日、aikoさん2日間、HYDEさん2日間の合計5日間、皆さん本当に素晴らしいライブをやっていただきました。HYDEさんもaikoさんもMCでZepp Tokyoへの想いをいっぱい話してくださったし、またMCをしないDIR EN GREYさんも演奏を終えてステージをはけたあとに「Congratulation Zepp Tokyo」とスクリーンに文字を出してくれたのも嬉しくて。皆さんがZepp Tokyoを愛してくれているのがすごく伝わりましたし、お客さんも一緒に全員でお祝いしてくれているようで、やり遂げられて感動しました。
多田:僕は2021年末での閉館が決まって12月の最終月に向けて粛々と動いてきたのが、思い出深いですね。1年くらい前から、コロナが終わっていることを想定しながらブッキングに動いてはいたんですけど……コロナが終わる気配が見えなくなってきて、「この状況下でアーティストが出演の決断をしてくれるだろうか?」とヒヤヒヤしながら進めてきたので。11月30日に最終発表をするまでは胃の痛い日々が続いていましたから(笑)、忘れられない思い出になりますね。ライブだと、2005年に観たヴェルヴェット・リヴォルヴァーですね。ガンズ・アンド・ローゼズのメンバーを含むバンドなんですが、本当にカッコよかったですし、ステージにメンバーが出てきた瞬間、おっさんたちの叫び声が「ウォ~!」と響いたのが、Zeppっぽくて印象に残っています。
山口:僕は、竹内まりやさんから「39年ぶりにライブハウスでやりたい」というお話をいただいて、2020年に一度はライブを実施することになったんですが、結果、コロナでお客さんを入れることができずに行なった無観客配信ライブですね。“39年ぶりのライブハウスでのライブ”にZeppが逆指名を受けたというのが本当にすごいなと。それと、オープンした頃からフジテレビとZepp Tokyoで『FACTORY』という音楽ライブ番組をやっていて、現在は定期的には放送していないんですが、12月19日に一夜限りの復活を果たせたこと。最後に『FACTORY』をZepp Tokyoでできたことは、すごく良かったですね。
──Zepp Tokyoは閉館しますが、全国のZeppは引き続き営業していきます。最後に他のZeppに託していきたいこと、これからのZeppに期待することを教えてください。
戸井田:Zepp Tokyoが大黒柱という存在だったとしたら、今、僕がいるZepp Hanedaはその役割を新たに引き継ぐべく出来た小屋だと思っていて。そんなZepp Hanedaも含めて全国のZeppはZepp Tokyo22年の歴史を受け継ぎ、Zeppブランドを育ててくれたアーティストやお客さんの想いも背負って、さらに大きく成長していかなければいけないと思っています。今、考えたらゼロからスタートして、長い年月をかけて多くのアーティストやお客さんに愛されるブランドに育ててきた先輩たちはすごく大変な想いをされてきたと思うので。我々もコロナで足踏みして苦労した時間もありましたが、ここを抜けて今まで以上に日本の音楽ファンの力になり続けられるライブハウスでありたいと心から思っています。
Zeppホールネットワーク
https://www.zepp.co.jp/