今年の8月にグループ結成から10年目を迎えた乃木坂46が10周年を記念した初のベストアルバム『Time flies』をリリースする。2012年2月にリリースされたデビューシングル「ぐるぐるカーテン」から最新シングル「君に叱られた」までの全シングル曲に加え、配信シングル「世界中の隣人よ」や「Route246」、2期生曲「ゆっくりと咲く花」などパッケージ未収録曲の他、卒業を発表した生田絵梨花がセンターを務める新曲「最後のTight Hug」も収録。
グループ結成からの10年間という歳月が詰まった初のベストアルバムを前にメンバーは何を思うのか。(*取材時は新内眞衣の卒業発表前)1期生の樋口日奈と2期生の鈴木絢音のふたりに乃木坂46のメンバーとして歩んだ10年間の思い出を振り返ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY 藤城貴則
■乃木坂らしさ、雰囲気が変わらないのはすごいこと
──グループ結成10周年を迎えた心境から聞かせてください。
樋口日奈(以下、樋口):今、思うとあっという間だったなって思うんですけど、まさか10年目も自分がまだ乃木坂でいられるとは思っていなかったんですね。そういう意味では、すごく不思議な気持ちというか。
──樋口さんは加入当時13歳でした。
樋口:そうなんですよね。今、23歳になって、人生のほとんどを乃木坂として過ごしたんだなって思うと、自分の中での乃木坂の存在の大きさを10周年にしてまた改めて感じて。次は何周年まで自分はいるんだろうってワクワクしてます。メンバーは変わったりしても、ずっと乃木坂らしさというか、乃木坂の雰囲気が変わらないのはすごいことだなと思うので、11年目も変わらずに、楽しみたいなと思います。
鈴木絢音(以下、鈴木):私は2期生として途中から入ったので、自分は9年目なんですけど、こうして先輩方と一緒に10周年という節目をお祝いできることをうれしく思います。やっぱり10周年を迎えた先輩たちがカッコ良くて。私たちもあと2年で10年を迎えるんですけど、こんなにカッコ良い姿になれるのかなっていうプレッシャーみたいなものも感じたりします。
──今、お隣にいる先輩の樋口さんはどんなところがカッコ良いですか。
鈴木:まず、ビジュアルですね。
樋口:えー、うれしい!
鈴木:ショートにしてからカッコよさが増してます。あと、男まさりで勝気な部分があるところも好きです。
樋口:あら、うれしい(笑)。でも、2期生は、入った年は違っても、築き上げてきた日々は、3期生や4期生とはまた違ったものがあって。同期じゃなくても“同志”な感じがするので、改めて、“先輩”って言ってくれるのはすごくうれしいですね。正直、2期生が入ってきた頃はまだ1期生に受け入れ態勢ができてなかったから、すごく大変な思いをしてきたと思うんですね。だから、期は違うけど、3期4期とはまた違う絆があるなって感じますね。
──同志って言われてます。
鈴木:うれしいです。私の中ではずっと先輩で、先輩方にとってもずっと後輩なのかなと思っていた部分があるんですけど、仲間として受け入れられてもらえてるんだっていうのを実感できてうれしかったです。
──10年間を振り返ると、どんな日々でしたか。
樋口:今は楽しいですけど、正直、つらい…つらいというのもまた違うんですけど、どんどん自分に自信がなくなっていく日々だったんですね。13歳で何もわからずに入って、ほんとに乃木坂がすべてになって。“自分がわからなくなっていった”時期があったんですけど、今、振り返ってみると、その“自分がわからなくなった”ときにやめないで良かったなって思える10周年を迎えられていて。ほんとにいろんなことがあったんですよ。1回、自分がわからなくなって…最近、やっと自分で自分を肯定できるようになった。人それぞれだと思うんですけど、私は長く続けて良かったなと思っています。
■心の底からやめたいと思ったことは一度もなかったんだろうなって
──自分自身を見失った時期があり、それでもやめずに続けてこれたのはどうしてですか。
樋口:すごく厳しい世界だから、人気も目に見える数字で分かったりするんですよね。それに、批判的な意見が──全体としては少ないとしても、そっちばっかり気になっちゃったりして。自分の殻に閉じこもっちゃったというか、“自分なんか…”って思っちゃう時期があって。特に、アンダーのときとか、個人のお仕事がないときとか。“自分ってなんなんだろう?”って思う時間の方が多かったんですけど、私は心の底からやめたいと思ったことは一度もなかったんだろうなって思う。もう少し頑張ろうっていう気力が少し残っていたから、お母さんに「やめたい」ってこぼして、「じゃあ、やめれば」って言われた瞬間に、“いや、やっぱやる”っていう自分がいて。そのお母さんのひと言は大きかったですね。「やめないで」ではなく、「やめなよ」って言われたときに、自分の根底にある“やっぱ、やめたくない”っていう負けず嫌いな部分が出てきて。あと、秋元先生が何かのインタビューで、「何事も長く続けたもの勝ちだ」っておっしゃっていて。私は勝手にその言葉を自分と重ねてしまって。もうちょっと頑張ろう、もうちょっと頑張ろうって思ってましたね。
──そこでやめなかったことが、近年の活躍に繋がってますよね。ドラマ『教場2』や主演舞台『フラガール』はもちろん、昨年末の『乃木坂46 アンダーライブ2020』での存在感といったらなかったので。
樋口:いやいや。
鈴木:うんうん、マジでカッコ良かったです。
樋口:ほんとに楽しいです、今。
■感覚的には歳をとっていない不思議な空間にいる感じ
──鈴木さんはどんな8年間でしたか?
鈴木:あっという間でした。ここに入ってしまうと、みんな同じく年を重ねていくので、なんというか…箱の中に入っている感じがあって。
樋口:あははははは。でも、わかる。そうだね。
鈴木:私たちは年齢を重ねているけれど、感覚的には歳をとっていない不思議な空間にいる感じなんですよね。幼いままの部分もあるし、大人になっていないわけではなくて。留まっている部分と、進みすぎていった部分と、いろんなものが自分の中で混在しているなっていう8年間でした。
──それはどんな箱なんですか?
鈴木:ピーターパンみたいな…。
樋口:ネバーランドだ(笑)。芸能をやってない友達と話すと、同級生は今、ようやく就職して社会人になってるんですよね。私たちの方が早くに仕事は始めているけど、見た目も社会人になったばかりの同級生の方が大人っぽかったりして。例えば、まいちゅん(新内眞衣)を見てても、まいちゅんの世代で言ったら、周りは結婚して子供がいる人も多いじゃないですか。でも、まいちゅんは悪い意味ではなく、若々しいというか。不思議なんですよね。ずっと同じ感覚なんです。私と絢音ちゃんの関係も変わらないし、年少メンバーもずっと歳が止まってままでいて。自分もそんなに歳を重ねてる気がしてないんですよ。(秋元)真夏もまだ24歳くらいの感覚でいるんだけど、もう28歳だって聞いて。
鈴木:わかります!そうなんですよね。
樋口:真夏が28歳ということは、自分ももうすぐ24歳になるんだって気づくというか。そう思うと、ほんとに怖いです(笑)。
鈴木:感覚がおかしくなる箱ですね(笑)。おかしくなる箱。
──(笑)樋口さんは「今、楽しい」とおっしゃってましたが、いつから楽しくなりましたか。また、それぞれの転機になった出来事を聞かせてもらえますか。
樋口:私は本当に最近です。今までが楽しくなかったわけじゃないですけど、緊張しなくなったのは本当に最近なんですね。外のお仕事で、ひとりで出ることが多くなったことで、自然と緊張しなくなったのもあるんですけど、自分に自信がついたのがいちばん大きいのかなって思います。今までは自分たちの冠番組でさえ、発言するのが難くて。“今、話しても盛り上がらないだろうな”とか、長くやってきたからこそ、空気を読みすぎてしまっていたんですね。“今は自分が出る幕じゃないな”とか、“私より人気のメンバーが出たほうがいいだろうな”とか。ずっと計算をしすぎていたんですけど、そういうのを取っ払って楽しもうって思えたのが本当に最近なんです。自分でもどこがきっかけかわからないですけど、ライブも自然と楽しめるようになったのはほんとに最近。
──二十歳を超えてから?
樋口:いや、ほんとに去年、一昨年レベルの最近です。ようやく楽しんでいいんだなって思えるようになりました。
鈴木:私も最近、応援してくれる方から「明るくなったね」「笑うようになったね」って言われるんですけど、「君に叱られた」のときなので、ほんとについこの間(笑)。
樋口:あはははは。ふたりとも転機が“ついこの間”。
鈴木:ふふふ。同じく、楽しめるようになったのが良かったのかなって思ってます。私も気にしすぎな部分が多かったのかなと思っていて。そうじゃなくて、素のままの自分でいられるようになったのが良かったのかなって思います。
──では、この10年と8年でいちばんの思い出というと何が浮かびますか。
樋口:なんか…意外と記憶がないんですよね。
鈴木:そうなんですよね。1年ごとに記憶がどんどん薄くなっていっちゃってて。
樋口:つらい記憶と共に消してる可能性もあるんですけど(笑)。
鈴木:記憶を掘り起こすと…私は、昇格したときですね。もういつのバースデーライブかも言えないほど忘れてるんですけど。
■やっとグループのために何か活動できる人間になれた
──(笑)2015年2月22日に西武ドームで開催された『乃木坂46 3rd YEAR BIRTHDAY LIVE』ですね。
鈴木:そのときのことが、乃木坂人生の中でのひとつの転機ではあったかなと思っています。当時は、研究生でいることが、自分にとっても、グループにとっても当たり前のことだったんですね。未熟な人間だった自分が、数年後にようやく認めてもらえて。やっとグループのために何か活動できる人間になれたっていうのがすごくうれしかったですね。
樋口:私は…なんだろうな〜。感動した場面は多々あるんですけど、レコード大賞のときにみんなで手を繋いでやった円陣は、このグループでよかったなって思わせてくれた瞬間でしたね。最初の「インフルエンサー」(2017年)、2度目の「シンクロニシティ」(2018年)のときもそうだったんですけど、みんながゾーンに入った瞬間があって。それを感じられたのが貴重でしたし、だからこそ、あんなに素敵な賞をいただけたんだなって思って。今でも思い出すと涙が出てくるくらい、不思議な体験でした。あんなに、みんなの心がグッとひとつになる瞬間を感じれるのは他にはないし、乃木坂で良かったなって心から思えた瞬間でしたね。
──ここのふたりでの思い出はありますか。
樋口:絢音ちゃんと仲良くなったのは、一緒に舞台『GIRLS REVUE』(2019年)をやったのが大きくて。絢音ちゃんはおとなしくて、クールなイメージだったんです。あんまり口を大きく開けて笑うタイプではないと思っていたので、その舞台で、つらいことも一緒に経験したからこそ、お互いに包み隠さず、素で笑い合えるようになって。確か、クリスマスも一緒だったよね。
鈴木:稽古ですよね。一緒でした。
樋口:みんなで頑張ってたあのときは楽しかった。なんだかんだ楽しかったなって思いますね。
鈴木:私は勝手な思い出なんですけど…。
樋口:え?なんだろう?
鈴木:15thシングル「裸足でSummer」(2016年7月)のカップリング曲「シークレットグラフィティー」で日奈さんが初めてセンターになった時が本当にうれしくて。そのときは、まだ距離感が掴めてなくて、“うれしい”っていうことを伝えられなかったんですね。乃木坂に入った時期は遅かったですけど、日奈さんがこれまでどういう道を歩いてきたかを少しだけ知っていたので、MV撮影でセンターに立っていらっしゃる姿を見て、勝手に感動してました。
樋口:うれしいな、それは。
■ピンチヒッターでも必要とされたことがうれしかった
──今のお話の中に何曲が出てきましたが、初のベストアルバムの収録曲の中からも1曲ずつ、思い入れのある曲を選んでいただけますか。
樋口:私、メンバーカスタムジャケット盤で着た衣装の19thシングル「いつかできるから今日できる」(2017年10月)ですね。アンダーメンバーだったんですけど、選抜が出れないときに代打で呼ばれることが多くて。だからこそ、すごく思い出深いというか、頑張ってたなって思える曲ではありますね。アンダーメンバーは、いろんな気持ちを抱えている子が多いから、より繊細だったりするんですけど、私は代打で呼ばれたときに、複雑な思いよりも、うれしい気持ちの方が大きいんですね。自分が必要としてもらえたことに喜びを感じていた。悔しいとか、なんか複雑っていう思いよりは、素直に嬉しい、頑張ろうって思ってて。ピンチヒッターでも必要とされたことがうれしかったので、頑張ってたなっていう思い出がありますね。しかも、この曲の歌詞が心に響くんですよ。“ここで逃げ出せないで/前を向いて大地に立つんだ”とか。当時、もう少しやめないで頑張ろうって自分に言い聞かせていた部分もあったので、自分は参加してないけど、すごく好きな曲です。
鈴木:私はやっぱり2期生曲「ゆっくりと咲く花」ですかね。いちばん最初に2期生ライブができるって決まったときいただいた曲なんですね。結局、コロナ禍になってできなくなってしまったけれど、配信ライブで初めて披露させていただいて。それもうれしかったんですけど、その後にMV集の発売に合わせてMVを作っていただけることになって。緊急事態宣言が明けてまもなくだったので、長い撮影はできずに、ワンカットで撮ったりもして。あのときに…なんていえばいいんだろうな、2期生楽曲にわざわざMVを作っていただけるというのが、みんなで本当にうれしくて。最初にいただいた2期生楽曲「かき氷の片想い」はMVがないですし、楽曲数も、3期生と比べると少ないので、こうして素敵な曲をいただけて、しかも、MVを作っていただけたのがうれしかったです。
──2020年の『乃木坂46 幻の2期生ライブ』のときは8人いましたが…。
鈴木:2期生はこの1年で半分以下になってしまったので、びっくりしちゃいますし、寂しいですけど。
樋口:最後の歌詞がやばいよね。もう涙腺がね。
鈴木:ボロボロ涙が出ちゃいますね。
■乃木坂のカラーを作ってくださった人
──また本作には卒業を発表した生田さんがセンターを務める「最後のTight Hug」も収録されています。おふたりにとって生田さんはどんな存在ですか。
樋口:同期ですけど、尊敬してますね。乃木坂のすごいところって、メンバーそれぞれに必ずひとつは尊敬できる面があるところなんですよ。生ちゃんは同期だけど、ただひと言、“すごいな、この子。天才だな”って思ってます。きっと、たくさん努力をしてるんだろうけど、それをあんまり見せないんですよね。ピアノもさらっと弾いてるように見えて。あまり努力を見せないから天才だって思うけど、きっと、今までたくさんの練習を重ねてきたんだろうなと思う。アイドルの枠は全然超えているし、ひとりのタレントさんとして、“この人、すごすぎる”って思わせてくれるメンバーです。
鈴木:私は乃木坂のカラーを作ってくださった人だなと感じています。私がオーディションを受けていたときのシングルが「君の名は希望」で、生駒さんがセンターで、お隣に生田さんと(星野)みなみさんがいたんですね。そこに乃木坂の色を感じて、このグループに入りたいなと思って、オーディションを受けた。新しいメンバーが入ってきたり、時代が変わっても、そういう色を残し続けてくれた人だなって感じてます。
──楽曲はどう感じましたか。
樋口:2番の歌詞を見てほしいんですね。ぱっと見は、恋愛っぽい歌詞なんですけど、“引き止めちゃいけないんだ/僕だってわかっているよ”とか、卒業する生ちゃんを思うと胸がキュッと苦しくなりますね。卒業しないでっていう思いもあるけど、やっぱり応援しなきゃなっていう思いもある。メンバー間でも2番のサビは特にやばいねっていう話をしてます。フリもすごく素敵なので、きっとファンの方もみんな感動するんじゃないかなと思います。
鈴木:私も2番でうるっときました。MVも生田さんを送り出す映像になっているので、ファンの方も見たら感動するんじゃないかなって思います。
■全メンバーが、心から“乃木坂でよかったな”って思ってる
──おふたりはこれから先の未来はどう考えてますか。
鈴木:10周年で卒業していかれる先輩方を見ていると、私も10周年に何か決断するときがくるかもしれないなと思ったりします。でも、確実に言えるのは、20年まではいないだろうなというのはわかっていて。10年を迎えて、さらにあと10年とはならないので、折り返しは過ぎたなというのは自分で実感してる。だから、いつくるかわからないけど、卒業のときに向けて、後輩に残せるものをしっかりと残していきたいなと思っています。
樋口:1期生は特に10年目は決心する、決断するタイミングというか、みんな、考えたと思うんですよね。“10年で卒業”っていうのは絶対に頭をよぎると思うんですけど、自分はそのタイミングを越えようとしている。じゃあ、次は何年目まで自分はいるんだろうって考えるんですけど、あまり具体的には決めてないですし、逆に楽しみですね。自分が何周年までいるのかなっていうのが今から楽しみで、ワクワクしながら活動するだろうなって思います。また、きっと5期生も入ってきて、さらにメンバーが変わっていくと思うんですけど、乃木坂の根底にあるものは変わらずに、また歳を重ねていくんだろうなって思います。
──その根底にあるものというのは?
樋口:言葉にはできないですけど、温かさかな。みんなが温かいから、一緒にいてすごく心地いいんですよね。しかも、それぞれが強みを持っていて、それぞれに尊敬できるところがある。自分のグループでありながらも、みんなカッコ良いなと思うし、すごいなって感じてて。そして、何より全メンバーが、心から“乃木坂で良かった”って思ってる。そこが、言葉にできない乃木坂らしさにつながっているのかなと思いますね。
プロフィール
乃木坂46
ノギザカフォーティシックス/2011年8月21日に、秋元康プロデュースにより誕生したアイドルグループ。2012年2月、シングル「ぐるぐるカーテン」でメジャーデビュー。同年5月、シングル「おいでシャンプー」で初のオリコンランキング1位を獲得。2015年には『第66回 NHK紅白歌合戦』に初出場を果たす。2021年8月に結成10周年を迎えた。
リリース情報
2021.12.15 ON SALE
ALBUM『Time flies』
乃木坂46 OFFICIAL SITE
https://www.nogizaka46.com/