今年2月、全曲の作詞作曲を手がけた初のソロアルバム『THE END』をリリースしたアイナ・ジ・エンドが、たったの10ヵ月という短いタームで、早くも2ndアルバム『THE ZOMBIE』を完成させた。
BiSHとしての活動と並行し、ソロアーティストとしても精力的に活動する彼女が“ゾンビ”と名づけた本作で表現したかったこととは?
INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY 冨田 望
■音楽でしか触れ合ってないけれども、熱量の高い触れ合いをしてくれる
──ソロ2枚目のフルアルバム『THE ZOMBIE』が完成。2021年はすごいリリースラッシュでしたね。
アイナ・ジ・エンド(以下、アイナ) そうですよね(笑)。私はまわりの人に恵まれてるんですよ。友達、お世話になってるプロデューサーの亀田誠治さん、関口シンゴさんとか。音楽でしか触れ合ってないけれども、熱量の高い触れ合いをしてくれる方々で、その人たちのパワーが大きいです。私が生み出しているのはつたないデモなので。
──全曲の作詞作曲も責任を持ってやってるのもすごいなと思ってます。0から1を生み出すことがいちばん大変なんじゃないかと。
アイナ そうかもしれないんですけど…私のデモをひとつずつ、みんな手探りで音楽にしていってくれてる。その友達たちと作ったデモが、編曲者の手によって、もっと音楽になる、みたいな。それが本当に“愛”でしかなくて。音楽を通して、人の愛を知れた日々でしたね。
■人間の感情や精神を落とし込んだら等身大のアルバムになった
──2枚目はどんなアルバムにしたいと思ってましたか?
アイナ 人は元気な時もあれば、病気で弱ることもある。それらをしっかりと乗り越え、元気になって、また落ち込む…そういう波があると思うので、人間の感情や精神をそのままアルバムに落とし込んでみようと思ったら、等身大のアルバムになりました。
──先行デジタルEP『BORN SICK』『DEAD HAPPY』で打ち出していた“ダーク”と“ポップ”という二面性を分けて考えていた?
アイナ チームでの定例会議で「アイナ・ジ・エンドは暗がりにいる曲が多いから、明るい曲を聴いてみたいな」っていうシンプルな意見をもらったので、「じゃあ、作ってみます」と。ポップな曲を作ってみたら、案外に楽しかったです。
■同じ思いの“あなた”がいるから、一喜一憂するのに飽きた
──その“暗がりにいる曲が多い”ことから生まれる、パブリックイメージをご自身ではどう捉えていますか?
アイナ 私のことを好きな人と嫌いな人はきっちり50:50で分かれる気がするんです。50はすごい褒めてくれるけど、50は「あいつ、ちょっと暗すぎて無理なんだよな」「もう二度と見たくない」みたいな。でも、私と同じ気持ちの人が絶対にどこかにいて。“私もあなたと同じ気持ちだよ、悲痛な気持ちの時もあるよ、一緒に成長できたらいいね”と歌っているので、別に今のスタイルを変えるつもりはなくて。変わる時はその人たちと一緒に乗り越えた時だと思うので、今はどう思われてても、それはそれでいいっていうか。
──嫌いだと言う50%を黙らせたい…とは思わないんですね。
アイナ あんまり思わないです。BiSHもテレビ出演で荒れることもあるので。最初は悔しい気持ちもありましたが…心が若かったのでいちいち反応してしまってたんですよね。その人たちの言葉に一喜一憂して「しね」って言われたら、本当に死にたくなったこともありました。でも、それでは本当に心がもたないし、自分を見失ってばかりになるので…もう飽きました(笑)。悩み飽きて、もう何も思わないです。褒めてくれる言葉もそうですけど、批判的な言葉に対しても一喜一憂するのに飽きた。ふふふ…ま、今はそうですけど、わかんないです。1年後にすごく気にし出すかもしれません。
──世間の声に振り回されて自分を見失うくらいなら、気にせずに自分らしくいたいですもんね。
アイナ 私は良くも悪くも、日々生きている中で起こることがステージにも出ちゃうんですよ。出さないようにしながら歌うこともできるけど…そういう日の夜は「これって私が歌う意味あったのかな?」「私じゃなくてもいいライブだったな」とか、思っちゃう。なので、そのままの自分を出すからこそ、好き嫌いが分かれるのは当たり前で、そこはもう腹を括んなきゃいけないなって思ってます。私自身が“自分であること”を選んだので、全員に好かれないのは承知の上ですかね。
■グレーな世界でも、星だけは光ってる「ペチカの夜」
──今作でいわゆるアイナさんのパブリックイメージに近い“ダーク”を象徴する曲を挙げると?
アイナ 「ペチカの夜」ですかね。どれだけ疲れても星はいつだってきれいだなっていう、ただそれだけの歌です。逃げ出したいし、もう無理だと思っても、いつだって星はきれい。
──口笛を吹いたりもしてますよね。
アイナ 疲れてどうでもよくなっちゃって“無”な心境の主人公を歌っていて。街でお散歩してきれいに咲いた花を見ても、全部グレーに見える。それが主人公にとっての当たり前だから、その“当たり前”な状況を口笛で表現しました。ちょっと妄想の架空なお話ですかね。主人公がどんな女の子か、自分の中では具体的にあったのでそれを浮かべながら書いていきました。
──それはどんな女の子ですか?
アイナ 本当におとぎ話みたいな感じなんですけど、その子が歩くところが砂になっちゃうくらい、暗いというか重い心を持っちゃった子です。その子の見るものも、全部見ただけでグレーな世界になっちゃう。でも、その子にとって星だけは光ってるんですよ。逃げ出したいけど、逃げ出せないから、ずっとグレーの世界にいる。ただ、現実だと届かないけど、夢の世界では星が掴めるから、夢でもいいから逃げよう…みたいな女の子を浮かべてました。
■出さなくてもいいから、形にしておきたかった「Sweet Boogie」
──逆に、意外と楽しかったという“ポップ”を表す曲は?
アイナ 音的には「Sweet Boogie」ですね。元々、電子マンガ・ノベルサービス『ピッコマ』のCMソングとして「Sweet Boogie」を書き下ろしたんですけど落ちてしまい、作り直した「ワタシハココニイマス for 雨」が採用されたんですね。「ワタシハココニイマス for 雨」もめちゃめちゃ好きなので、本当に作り直して良かったと思ったものの「Sweet Boogie」も諦められなくて。こんなにかわいいメロディが浮かんだことはなかったので、「出さなくてもいいから、形にしておきたい」って思いまして。
──キュートなテクノポップで。
アイナ ポップに振り切りました。でも、ちょっと憂いがあるというか。淀みまではいかないんですけど、私は全身全霊でハッピーな曲はまだ作れないんだって思いました。やっぱり声なんですかね。声にもう淀みがあるから(笑)。
──いや、淀みはないですよ! 苦味や渋みはあるけど。
アイナ ふふふ。でも、それを受け入れられたというか。これが私のポップなんだっていうのを「Sweet Boogie」でわかりました。
■出し切ったら上がるしかなくて“生き抜こう”と描けるようになった
──ちなみに「ワタシハココニイマス for 雨」はどんなイメージで作りましたか。
アイナ CMで有村架純さんが雨の中を走り、私も高架下でずっと自分の葛藤を壁に落書きしてる、という脚本が届いたんですよ。それが自分の今の精神とすごくマッチして。自分もずっと居場所を探してたし、CM内では言葉にできない思いを絵に描いてたけど、私だったら踊りや歌にしてるなと。(CMの内容と自分自身の心理状況が)一緒だなと思ったので、歌詞は描きやすくて、スラスラ自分の気持ちをかけました。“こんな自分だけど生きていかなきゃいけない”っていうのを少し前向きに。この音たちのおかげで書き下ろせました。
──生き抜こうという強いメッセージが込められてますね。
アイナ 1stアルバムだったら、絶対に言わないですね。前作で自分の中にある葛藤や暗がりを出し切ったから、もうないんですよ。言葉が出ないくらいすべてを出し切ったら上がるしかなくて“生き抜こう”と描けるようになりました。
■犬みたいに“ワンワン”だけでも伝えられる人になりたい
──曲の並びについて訊いていいですか。特に冒頭なんですけども。
アイナ 今回ってる『AiNA THE END Solo Tour “THE ZOMBIE”』のSEをアルバムにも収録しました。ライブに来た人は「このSE聴いたことあるな」って気づくように、知ってる人は楽しめる感じで。
で、その後に言葉に煮詰まった時に出来た「ZOKINGDOG」で始まります。私、犬が大好きで飼ってるんですけど、本当に羨ましくて。人間は言葉があるせいで煩わしいことがあるし、言葉がいちばん伝わるツールだから、みんな当たり前みたいに言葉を使う。でも、犬みたいに“ワンワン”だけでも伝えられる人になりたい…みたいな気持ちから作りました。「誰誰誰」や「ロマンスの血」のように言葉の強い曲を持ってきちゃうと、言葉のイメージが強いアルバムだと思われちゃうかなと思って。“ワンワンワン”で始まったら、どういうアルバムなんだろう? って(アルバムの)全貌が見えづらくていいなと思ったのがきっかけで最初に持ってきました。
──エルヴィス・プレスリーの「Hound Dog」やビートルズの「Hey Bulldog」の系譜を意識したロックンロールなのかと思ってました。
アイナ 全然です! お風呂でボイスメモを持って、“わんわんわん”って犬になって歌いながら作りました。
■人が好きです、私は
──(笑)。ちなみに東京スカパラダイスオーケストラ・加藤隆志さんとのコラボはどうでしたか? 作曲が共作になっていますが。
アイナ 加藤さんは人としても好きですし、音楽も好きですけど、顔も好き(笑)。ギターも声も全部好きなんで、幸せ極まりないです。今までは作詞作曲、すべてアイナ・ジ・エンドで、人のメロディを入れたことが一回もなかったんですけど、加藤さんが「今サビの前に一節、メロディを入れることで、この曲がよくなるよ」って言ってくださって。加藤さんのおかげで曲も広がり、初めての経験ができました。
──MVでは、スカパラ・茂木欣一さんや沖 祐市さんに加えて、SOIL&”PIMP”SESSIONSのタブゾンビも参加した賑やかなものになっています。
アイナ 驚きましたが楽しいですよね。人が好きです、私は。人とMV撮影ができるのはうれしい。ソロだとひとりで撮っていただくことが多いけど、人がいるだけでマインドも変わるし、本当に撮影が楽しかったです。
──すでにツアーでも披露していますね。
アイナ みんなと一緒に踊りを一緒にやってますね。わんわんダンスをみんなでやりたいなと思って。客席の右と左をブルドッグとドーベルマンに分けて、吠えあってます。
■初めて“まだ好きなんです”と曝け出せました
──新曲2曲ついても触れたいのですが、まずはストリングスの入った「神様」について。
アイナ これも元々はドラマ『死にたい夜にかぎって』のために書いたけど、落ちました(笑)。ワルツって知らずに作ってて、アレンジャーの関口シンゴさんに「ワルツだよ」って言われて知りました。関口シンゴさん、忙しい時期だったんですけど、タイトなスケジュールの中、こんな素晴らしい音楽にしてくださって、頭が上がりません。
──歌詞は別れを描いてますよね。
アイナ 2019年のドラマの書き下ろしの時に描いてた歌詞が、喪失感、いなくなった人への気持ちだったので、そこは根本にあって。そこから、最近の自分のマインドを付け足していったので、昔の自分と今の自分が混ざり合った感じになりましたかね。
──3年後にあたる今の心境というのは?
アイナ 本当に大切で、愛おしくて、ずっと一緒にいるんだって思ってる人が急にいなくなる。その時は辛いし、生きていけないっていうくらい落ち込むんですけど…結局自分は生きてるし、何気ない生活もできてる。喪失感も日に日に忘れたりするんだなってことに気づいて。2019年から時間が経った今、別に普通に生活できてることが悲しいな、あんなに辛かったのに生活できるんだってことに直面して戸惑ういっぽうで、ずっと好きではいる…そんな心境です。生きていて、同じ経験をしたことがある人も多いと思うんですけど、私はそういうシンプルな気持ちを音楽に乗せたことがなかったので、初めて“まだ好きなんです”と曝け出せました。
■自分たちが毎日、生まれていることに感謝して生きていきたい
──その人を思う、今の時間も大切にしている感じが伝わってきました。もう1曲の新曲「はっぴーばーすでー」についても教えてください。
アイナ 「神様」から急にシフトチェンジというか、マインドを変えてもらいたいなと思ってメランコリックな編曲をお願いしました。そして、歌詞には自分の中のちょっとした哲学を入れて“人はいなくて当たり前で、たまたまいてくれることが奇跡なんだよ”としました。「神様」で人を失った喪失感を、「はっぴーばーすでー」ではそれが当たり前なんだから、今人がいてくれることを大切に思おうねと。僕たちは生まれてるんだって、聴いてる人の気持ちをポジティブにしたくて、この並びにしています。
──“僕”じゃなく“ぼくたち”なんですね。誕生日だけど、自分を祝うのではなく、あなたとの出会いを祝ってる。
アイナ そうですね。一年に一回しか言われないけど、本当は毎日言われてもいいくらいうれしい言葉だと思うんですよ。朝起きた瞬間から、今日も生まれた! っていうくらい、頻繁に使ってもいいなと。どうせなら、人に良い言葉を使いたい。どうせなら、自分たちが毎日、生まれていることに感謝して生きていきたいという意味で、“ぼくら”にしました。歌詞は初めて、全部ひらがなにして。小学生の子が聴いてもわかってくれたらいいなと思ってます。
■髭の人とチューしたらどうなるんだろう? って妄想する
──では、ご自身で個人的に好きな曲は?
アイナ 「家庭教師」がめちゃめちゃ好きです。アルバムの中でも1、2を争うくらい好き。
──アレンジは新進気鋭のトラックメイカー・Shin Sakiuraさんが手がけています。
アイナ 小さい時からダンスをやってたので、ニュージャックスイングをやりたかったんですよ。Shin Sakiuraくんは10代の頃からの友達で、お金がない頃から一緒にライブをしてたんです。お互いこうして地に足つけて活動して、Shinくんなんてもう立派に忙しくなっちゃって。そんな大切な友達とだからこそ出来た曲ですね。「Shinくん、ニュージャックやりたい」「いいよー。じゃあ、2週間後くらいまでにトラック作っとくわ」みたいな。で、1コーラスくらいの軽いデモがきて。「メロ乗っけたわ、どう?」「めっちゃええやん、出そうや」って、完璧に出す気満々だったんですけど…これがEP『内緒』の時で、毛色が違ったんですよね。だから、今回やっと世に出せて、私的には念願の曲ですし、本当はこれをイチオシしたいくらい好き!
──歌詞はエロチックですよね。髭の感触がリアルだし。
アイナ 髭の人とチューしたらどうなるんだろう? って妄想して。意外に痛くないのかもって考えたりして書きました。
──「お出かけワンピース」では髭をそるあなたが出てきますよね。
アイナ これも妄想です。“あなたが髭を剃るジョリジョリ/わたしは野菜をザグザクと/二人で迎える朝の音”っていう3行からできました。
──そうなんですね。髭の男性に興味があるのかなって思ってました。
アイナ あははははは……あるんかな、興味。うーん…潜在意識ではあるかもしれないですね(笑)。
■今は小さい幸せを見つけるのが得意で、本当に毎日幸せ
──タイトルについて。2枚のEPは『BORN SICK』『DEAD HAPPY』で、生まれると病気、死ぬと幸せという、相反する単語を組み合わせていましたね。
アイナ ハッピーは暗がりを知ってないと生まれないし、病んだり、辛い気持ちになることも、幸せを知ってるからこそ生まれる感情だから、私の中では共存してるんですよね。だから、ただ単にハッピーなアルバムにはできない。一回、死んでる人が感じる幸せが本当の幸せだと思うから“DEAD HAPPY”。生まれてきたからこそ病気も知ったよねっていう気持ちで、“BORN SICK”とつけました。
──では、『THE ZOMBIE』は?
アイナ 幸せもは暗がりにいないと感じないし、病気も生まれないと知らなかった。そういう相反する事柄が共存する日々を過ごしていくのは、生きてるけど死んでるゾンビみたいだなと思って、まとめてゾンビにしました。
──…わかったようなわからないような。哲学的ですね、とても。
アイナ ふふふ、しっかり生きるというのは、しっかり死なないと生きれないと思うんですよ。何気なく生きていくことはできるけど、果たしてそれでいいのか。自分が絶望を感じた時に、しっかりとそこに向き合わないといけない。決して乗り越えなくてもいいとは思ってて。ずっと悲しみが心の端にあってもいいんだけど、そこと向き合うことが、自分をちょっと強くさせてくれる。悲しいことがあった時に、斜に構えて「いや、辛くないし」って、気づいてないフリして、友達とお茶する、みたいな。私はそういう生き方をしてきちゃったけど、今、音楽を通して、しっかりと向き合ったからこそ、幸せをいっぱい感じられるようになって、今は小さい幸せを見つけるのが得意で、本当に毎日幸せ。それは、一回ゾンビになったからだなと思います。
──ゾンビになったんですね。
アイナ そうなんですよ。私、ゾンビなんです(笑)。ゾンビと言ってもかわいいゾンビですよ。血だらけのゾンビというよりは、ポップでかわいいゾンビ。ダークサイドから来たゾンビじゃなく、“てへぺろ”みたいなゾンビですね(笑)。
プロフィール
“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。2021年2月3日に全曲作詞作曲の1st アルバム『THE END』をリリースし、ソロ活動も本格始動。2021年11月24日に2stアルバム『THE ZOMBIE』をリリース。最も注目の表現者。
アイナ・ジ・エンド OFFICIAL WEBSITE
https://ainatheend.jp/
アイナ・ジ・エンド OFFICIAL YouTube
https://youtube.com/channel/UCFPb0Vc0Cjd3MpDOlHPQoPQ
アイナ・ジ・エンド OFFICIAL Twitter
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アイナ・ジ・エンド OFFICIAL Instagram
https://www.instagram.com/ainatheend_official/
リリース情報
2021.11.24 ON SALE
ALBUM『THE ZOMBIE』
ライブ情報
AiNA THE END Solo Tour “THE ZOMBIE”
11/24(水)大阪・オリックス劇場
11/25(木)大阪・オリックス劇場