菅田将暉が、TBS系 日曜劇場『日本沈没─希望のひと─』の主題歌「ラストシーン」を通算6枚目のCDシングルとしてリリースした。作詞作曲を手がけたのは、映画『STAND BY ME ドラえもん2』の主題歌として書き下ろされた「虹」に続き、「さよならエレジー」「いいんだよ、きっと」「台詞」「クローバー」と、数々のタッグを組んできた盟友の石崎ひゅーい。2月に開催された初のオンラインライブで共演した際、「虹」の制作に関して「でかい山を登ったね」と感慨深そうに語っていたふたりは、『日本沈没─希望のひと─』という目前に現れた大きな山にどんな想いで挑んだのだろうか。
PHOTO BY 中野敬久
INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
■今のこの状況で生きていくことを自分らなりに歌う
──『日本沈没─希望のひと─』の主題歌のオファーを受けた際の心境から聞かせてください。
びっくりしましたね。話がデカすぎるじゃないですか。TBSの日曜劇場で、これまでに何度もリメイクされている名作で。しかも、物語自体のスケールも大きい。そこに自分が対峙できるのか、というのが最初の感想です。しかも、10代の頃からお世話になっている小栗旬さんが主演されるドラマに、自分が役者ではなく音楽で関わることもサプライズでした。
──ドラマ主題歌でいうと、今年2月に配信リリースされた、ドラマ『君と世界が終わる日に』の主題歌「星を仰ぐ」、2018年のドラマ『トドメの接吻』の主題歌「さよならエレジー」に続き3作目になります。
山崎賢人(崎は、たつさきが正式表記)や竹内涼真のドラマの主題歌を歌わせてもらったことも嬉しかったし、楽しかったんですね。そのときもこんな出会いがあるんだなと思いましたけど、小栗さんはもうひとつ先の喜びがあったし、すごく大きなプロジェクトなので、本当にびっくりでしたね。
──楽曲制作はどんなどころからスタートしたんですか。
まず、小栗さんに電話をしました。ちょうど『日本沈没─希望のひと─』の撮影中だったので、大変なこと、うまくいっていること、現状はどうなのか、とかいろいろ話を聞いて。当時はコロナももっと大変なときだったので、そんななかで『日本沈没』という作品において希望を見出して生きていく人たちがいて。その対自然に生きる人間と、対コロナ禍で生活している現状は似ているものがありますよね。僕らも今、生きて、普通に生活をしながら、希望というと大げさだけど、これだけ大変なんだから、少しは幸せをくださいよっていう気持ちがそれぞれにあると思うんです。そのあたりのすり合わせはどうしたって避けられないものなので、ドラマの世界と日常生活が共鳴できるものにしなきゃいけない……そんな話をしながら、小栗さんから出てきた言葉をメモを取ったりして。それをひゅーいくんにも見せて。
──石崎ひゅーいさんと一緒にやろうと思ったのはどうしてですか。『STAND BY ME ドラえもん2』という“大きな山をふたりで登って”、やっとひと息ついた感じでしたよね?
そうなんですよ(笑)。でも、ひゅーいくんとじゃないとできないって思ったんですよね。もちろん自分で全部できれば、それが一番いいんでしょうけど、そんな余裕も技術もない。ちょうど、ひゅーいくんが隣にいたので、可哀想なことに巻き込まれるという(笑)。
──あははははは。
だから、「さよならエレジー」「虹」「ラストシーン」と3部作のような気持ちで挑んだ感じです。
──ひゅーいさんとは具体的にどんな話をしましたか。
とにかく今回はテーマが難しい、と。僕らが今までやってきたものとはちょっと次元の違うものを作らないといけないなっていう話にはなりました。「さよならエレジー」も「虹」も想いを歌えば良かったんですけど、「ラストシーン」はそういうわけにもいかない。ちゃんと外側から埋めていかないといけないというか……この作品のテーマの大きさに値する曲のムードから逆算して作っていく感じでした。
──重厚感のあるサウンドというところから始まって。
そこについては結構話しましたね。ドラマのサブタイトルに“希望のひと”と入っているので希望を歌うんですけど、最初に希望はないわけじゃないですか、絶望から始まらないと。だから、音色的にも地震やサイレンの音が聞こえるような不穏ななかでクリアにまっすぐ歌う方がいいのかなということを話して。そこから言葉をどうするかと考えたときに、最終的にはシンプルに、今のこの状況で生きていくことを自分らなりに歌ったものがドラマにハマればいいのでは、ということになりました。やっぱり、奇をてらったり、自分を大きく見せようとしても仕方がない。素直にやった方がいいと考えましたが、歌うときは難しかったですね。何に向ければいいのかわからないから。今回はあまりエモーショナルに歌いすぎない感じに自然となっていきました。デモではもうちょっといろいろやったりしていたんですが、結果、余計なことはしなくていいかなっていう感じになりました。
──歌声がこれまでとは違いますよね。おっしゃったように「クリアにまっすぐ」になっているように感じました。
そうなんですね。山田優さんにも言われました(笑)。そのへんは意識しつつも、そこが一番大事なところでもなかったんですけど、そういうふうに聴こえるんだなと思います。
──先ほど、「何に向ければいいかわからない」とおっしゃっていましたけど、具体的な友達や家族のような対象がいる曲は、もっとエモーショナルに歌っている印象があります。でもこの曲は、もうちょっとフラットで、聴き手が自分の感情を入れ込めるような隙間があるというか。
それは良かったです。音として鳴ればいいかなと思っていましたし、そのへんは新しかったです。ただ、この歌、難しいんです。ずっと自分の目標だった、高音をどれだけ優しくクリアに歌うかというのが、今回のテーマになったので。かといって、Aメロで力を弱めすぎると、サビとのボリュームが変わってしまうし、聴いていると気持ちいいんだけど、リズムもどこに乗っていけばいいのかを掴むまでが難しくて。ひゅーいくんに一回歌ってもらって、“ここで息継ぎをしてるんだな”とか“あそこを頼りに歌ってるんだな”みたいなものを客観的に見て確認して、“それだ!”っていう感じでレコーディングしていました。
■強く生きようと意識して、やっと普通に生きられる
──先に歌の感想を話してしまいましたが、歌詞はどう作っていったんですか。
ひゅーいくんも脚本を読んでくれて、1話の仮映像を一緒に観たりもして。何度もリメイクされている題材で、この間のアニメも観ましたけど、グサグサきました。自然災害って、本当に当たり前のことが全部できなくなるから。そこで、当たり前のことを素直に歌える曲にはなったから、それでいいのかなという気もしていますけど。
──ドラマとの関連性でいうと、小栗さん演じる天海啓示が、杏さん演じる椎名実梨に「一緒に戦ってみないか?」と呼びかけるシーンがありましたが、この曲の中でも“戦うのさ 僕らは強く生きるため”というフレーズがあります。
そこも何度も細かく変えたりしてみましたね。例えば、“戦うのさ”ではなく“戦うのは”がいいのかとか。文字で見る言葉にするのか、話し言葉の方がいいのか、話し言葉でもストリートでの会話のようなものがいいのか。いろいろと試して歌ってみた結果、“戦うのさ”が一番いいかとなって。生き物は生きるわけじゃないですか。「なんで生きないといけないの?」って言われると難しいけど、どうやら生き物は生きるようにプログラムされている、と。そのなかで、どうあるべきかはべつに決まってない。普段は気にしなくていいんだけど、危機的状況になると、強く生きるってことを意識せざるをえないですよね。今のコロナ禍もそうだけど。強く生きようと意識して、やっと普通に生きられるというか。
──個人的な感情と重なる部分もありましたか。
結果としては、半々くらいになりましたね。“2021年しるしをつけよう”はまさにそうですけど。
──このフレーズを歌詞に入れるのは……。
なかなかの思いきりですよね。ドラマが2023年の設定なんですよ。だから、「ややこしい!」っていう話もあったんですけど、自分がこの先もこの曲を歌っていくことを想像すると、そういうものがあったほうが記録に残る。それこそ、この歌は想いを歌っているんだけど、それ以上に記録として、メモに残しておくための曲というところもあり。この今の時代を忘れない、というのがテーマだったりもするから、そのへんの共感度はありますかね。
■“ほら、ラストシーンは凛とした青だ”っていうフレーズ
──“青”という色も出てきます。
“ほら、ラストシーンは凛とした青だ”っていうフレーズが個人的にパンチラインすぎて好きなんです。ここでの“青”は、シンプルに海の青と、目線を上げた空の青。涙も出てくるので、悲しさという意味での青でもある。あとは、赤いアラートから青くなる、“進め”の青でもありますね。ネガティブとポジティブが行き来している状況の歌でもあるので、その両方の青かなと思います。
──ジャケットも水戸部七絵さんが描いた青の絵画になっていますね。
今回は“青”縛りで、スタッフの“青”木さんが見つけてくれた、“水”戸部さんの絵なんですけど、これはたまたまです(笑)。カッコいい青が描ける方をSNSで調べていたら、水戸部さんと出会えて。アトリエにお邪魔させてもらったんですけど、ごちゃごちゃしていて、廃材だらけなんですよ。劇中に出てくるような場所でもあったけど、方や絵を描いていて、方や必死に生きようとしている。ドラマの中だと生きることで精一杯。食べる、寝る、身体を温める。それが整ったあとに“芸術”は出てくるんですよね。そういう意味でも、改めてアートっていいなって思いました。
──実際出来上がった絵を見てどう感じましたか。
水戸部さんには「曲を聴いて、もし、描けたら」くらいのお願いをさせていただいたんですが、そしたら、すぐに曲を聴いてくださって。もともと描いていた絵に青を足してくださったんです。よく見ると、すごく分厚い絵なんですよ。ふたりの人のような何かが半分水に浸かっているようにも見えるし、日本地図のようなものにも見える。素晴らしい絵を描いてくださったと思います。これ、実物を見るとすごい迫力があるんですよ。
──どこかで実物見たいですね。
やがて僕の元に来るそうなので、うちに来ていただければ見れます。
──え!? 見に行ってもいいですか?
観覧料として、500円くらいいただきますけどね(笑)。
■自分が人生で最後に見る景色を想像する
──改めて、「ラストシーン」というタイトルについてはどう思われましたか。
ひゅーいくんが付けてくれたんですけど、すごくしっくりきました。俳優業をやっている身からしても、“ラストシーン”という言葉はグッとくるポイントがたくさんあって。“マティーニ”(その日の最後の撮影)より全然いい。名残り惜しさと、安堵感がある。ラストシーンということは、それまでに戦ってきたシーンもあるわけで。そういう意味でも、秀逸なタイトルだなと思いますね。
──このドラマのラストシーンの意味合いも?
ありますね。どこに向かっていくのかっていう。何に向かっていいかわからない話だから、どうしようもないなかでの“ない最後”を探す感じでもあります。
──自分の人生の“ラストシーン”でもあるんでしょうか。
そうですね。そう思うと、「さよならエレジー」は若いときの青春で、「虹」は結婚という人生の節目で、「ラスシーン」は終活っていう。3部作としては、そういう段階を追っている気がしますね。
──結婚から終活まで、一気に飛びましたね。
あはは! たしかに。でも、実際、最期を迎えるときには、そんなことも考えられないと思うから、自分が人生で最後に見る景色に凛とした青のラストシーンを想像しているっていう。
──この曲が実際にドラマで流れたのは観ましたか。
もちろん観ました。役者目線で観てしまうと、あの大先輩方の顔が並ぶなか、他の声、しかも自分の歌声が流れるなんてみたいな感じもあって。でも、ドラマの世界を邪魔はしないっていうテンション感が伝わるものになっていたので良かったです。
──後半に向けては演出のひとつとして大きな力になるんじゃないかと思っています。
そうなってもいいようには作っているし、小栗旬さんの背中に向けて歌っているので、そうなったところも観たいですね。
──小栗さんは何かおっしゃっていましたか。
喜んでくれてます。今、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の撮影を一緒にやっているんですけど、“戦うのさ〜”って口ずさみながら、カツラをつけて、合戦に出て行ってますね。「違う戦いだなあ」って言いながら(笑)。
■家で夢中になってひとりでギターを触っている時間が好き
──カップリングに収録された菅田さん作詞作曲の「ギターウサギ」についても聞かせてください。
実は、こんなにちゃんとレコーディングするとは思っていなかったんです。そんな強度のある曲として作ったつもりはなくて。「ラストシーン」のカップリングとしては対比が効いていいなと思って。すごくスケール感の大きな青と、小さな赤で、いい塩梅になりました。アコギの練習用に作っていた曲をトオミヨウさんがアレンジすると、こんな聴けるものになるんだなと思いました。
──いつ頃に作った曲だったんですか。
4年くらい前です。よく行くバーで、僕が「来週、Mステだから」とか言いながら(笑)ギターの練習をしていたら、周りのみんなも触発されて、ギターブームみたいになったんですよ。そこにひゅーいくんも来るから、みんなで習ったり、一緒に歌ったり、そんな夜を過ごしていて。そのあとにそれぞれが持ち帰って練習している様を含めて描いています。家で夢中になってひとりでギターを触っている時間が僕も好きなんです。ヘタくそだからこそ、家で一生懸命に練習しているんですけど、あのときの脳内って、すごく無意識で変な感じだから。それをそのまま形にしました。
──“ウサギみたいに瞳は赤い”と歌っていますが、この赤はどんなイメージでしたか。先ほど、対比と言っていましたが、まさに青と赤、非日常と日常、壮大さと親密さという対照的な曲になっています。
そうですね。ウサギはそもそも単独行動の生き物なんです。ひとりでいることが多いから、寂しがり屋のイメージがあるけど、実は性欲旺盛で一匹狼的なところがあるっていう。寂しくないウサギが、側から見ていると寂しそうに見えるっていうのを表している感じなんですかね。
──2月のオンラインライブで披露したときとは歌詞も少し変わっています。初回限定盤に収録される初のオンラインライブはどうでしたか。
楽しかったです。それこそ、「ギターウサギ」じゃないですけど、家でよく歌っていたりするものをそのまんま出せた感じ。オンラインライブだからこそ、バンドやオーケストラじゃなく、最低限の人数で、アコースティックでもできましたし、それはずっとやりかったことなので。僕、音が多すぎるとパニックになるので、あのくらいのサイズ感の方が馴染みがあって落ち着いてやれました。
──とてもリラックスした雰囲気で、等身大で歌えているように見えました。
はい、すごく自然にできましたね。それに、自由に歌えた感じが良かったです。やっぱり目の前にお客さんがいて、バンドがいると、ちゃんとCDに沿って歌わなきゃいけないというモードになるんですよ。そんな決まりはないんですけどね。でも今回はドラムやベースがいなかったので、自然と歌い方も変わってくるし、その場の空気感でできて楽しかったです。職業的にも二度と同じことができないことをしている方がありがたいというか。
■楽しめる楽曲も作っていきたい
──全曲揃って、6枚目のCDシングルはご自身にとってどんな一枚になりましたか。
もう6枚目ですか! 一個一個の作業が、やっと楽しめるようになってきました。今までは背の高い木がいっぱいあって、あんまり遠くが見えないなかでやってきましたけど、やっと整地されて、見通しが良くなった。みんなの顔も見えるし、何が行われているかもだんだんわかってきた、そんな感じですね。
──整地された土地にどんな家を建てますか。
どうしていきましょうね。ツリーハウスみたいな。自然と一体化したものがいいなあ。まだタワマンはちょっと早いなっていう……。
──え!? いつかタワマンが建ちますか?
あはは。もちろんですよ! ツリーハウスから始まって、いつかタワマンになるんで(笑)。でもその前に、まずはギターをもっと弾けるようになりたい。ライブでもまだ歌でいっぱいいっぱいだから。あと、楽曲的に歌に重きを置いているものが多いので、そうじゃない曲も欲しいですよね。真剣に歌わなくていい、真剣に聴かなくていい、楽しめるもの。だって「まちがいさがし」「虹」「ラストシーン」と続くとふざけられないんでね(笑)。
──生と死みたいなシリアスなテーマじゃない曲があってもいいですよね。
そうなんですよ。シェイクスピアばっかり!みたいなのもね(笑)。ストレートのコメディもやりたいですね。やっとできるようになってきた気もするので。
プロフィール
菅田将暉
すだまさき/1993年2月21日、大阪府生まれ。2009年に『仮面ライダーW』(EX)で俳優デビュー。2013年公開映画『共喰い』にて第37回日本アカデミー賞新人俳優賞、2017年公開映画『あゝ、荒野』にて第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞などを受賞。また、第68回芸術選奨映画部門文部科学大臣新人賞受賞。2017年より音楽活動を開始。シングル「見たこともない景色」でデビュー。「さよならエレジー」、「まちがいさがし」、「虹」など発表する曲すべてが大ヒット。アーティストとしても大きな注目を集めている。2021年は映画『花束みたいな恋をした』『キャラクター』『キネマの神様』『CUBE』で主演を務め、2022年には大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)、『ミステリと言う勿れ』(CX/主演)への出演も決定している。
リリース情報
2021.11.24 ON SALE
SINGLE「ラストシーン」
菅田将暉 OFFICIAL SITE
https://sudamasaki-music.com/