デジタルEP「I am ME」でメジャーデビューする三阪咲。謳い文句は“SNSを中心にZ世代から熱い注目を集めるシンガー”。X世代としてこれは調べなければと片っ端から検索して動画を観た。特に惹かれたのが、路上でエド・シーランを軽々と完璧に歌いこなす姿。いや、どの映像でも印象はひとつ。心を込めた無欲の歌だ。陳腐に響くかもしれないが、それこそが抗いがたい破壊力。ここまで直に歌と繋がって聴き手の心を鷲掴みにするというのは、ちょっと異次元。Z世代だけじゃなく、世代を超えて旋風を巻き起こしそうな三阪咲なのである。
INTERVIEW & TEXT BY 藤井美保
PHOTO BY 冨田望
HAIR MAKE UP BY Ayaka Kanno(ENISHI)
STYLING BY Hiromi Nakamoto
■音楽番組出演が、歌手になる確信へ繋がる
──小さい頃からピアノやギターをやっていたと、うかがいました。
父はバンドをやっていた人、母も音大出身なので、家の中は常に音楽に溢れていて、気づけば私も音楽が大好きになっていました。ピアノは記憶にないくらいの頃から習っていたんですけど、そんなに長くはやっていないです。ギターは小5くらいから。ある日納戸で、昔、父が使っていたアコースティックギターを見つけたのがきっかけでした。「これ何?」って興味津々だったのが父もうれしかったのか、「アコギの弦は硬いから」とエレキギターを買ってくれて、そこからネットで独学。ライブハウスに出るようになってからは、対バンのおじちゃんにギターの基本を教えてもらったりもしていました(笑)。
──歌やダンスをやり始めたのは?
小学生のときに、放課後外部から先生が来ていろいろ教えてくれる「アフタースクール」というプログラムがあって、その中にダンスもあったんです。それで、「ヒップホップをやりたい」と言い出した友達と一緒に私も習い始めました。そのうち先生が「もしダンスが楽しいならこっちにおいで」とあるスクールに誘ってくれて、さらに「もっと上にいきたければ」と、次のダンス&ボーカルスクールも紹介してくれました。歌をちゃんと習い始めたのは、そこに行くようになった小4からです。ボーカルも一緒に習ったらレッスン料が半額になるって言われて(笑)。
──あはは! そのスクールにいる頃から路上やライブハウスで歌うようになったんですか?
はい。一度出るとまた声をかけてもらえるということが続いて、仲良くなったライブハウスが企画するイベントに呼んでもらったり。小・中学生の頃なので、父母の協力のもと活動をしていました。
──その頃から歌手になりたいと?
なんとなくは思っていたんですけど、しっかり思い描くようになったのは中学生になってからですね。特にその当時に出させていただいた音楽番組が大きかったです。そこで過去のライブ映像も皆さんに見てもらえて、たくさんの反応をいただいたときに、“ああ、自分はこの道でやっていくんだな”と確信しました。
──TwitterやInstagramなどから火がついたわけですが、それ以前からSNSをプロモツールとして使っていたんでしょうか?
Twitterやインスタは年齢制限があったので、最初は母の管理のもとライブの告知をするくらいだったんです。自分自身を広げていくみたいな使い方があるんだと知ってからは、私以外の人が目当てでライブに来た方にも「Twitter、ぜひフォローしてください!」と言うようになりました。当初は1,000人くらいだったと思いますが、番組に出た日に一気に8,000人くらい増えて、さらに、そのタイミングで、以前からのファンの方たちが路上やライブハウスの動画を上げてくださったので、検索数とともにどんどん拡散していって、いつの間にか10万人以上になっていました。
──すごい! 誰に頼まれるでもなく、ファンの方たちが自分の意思でやってくださったことですもんね。
本当に感謝していますし、やってきたことがひとつ実ったと思った瞬間でもありました。
──そこからはインディーズでの作品リリースが続きました。中でも「繋げ!」は、第98回全国高校サッカー選手権大会の応援歌にも。
はい。番組に呼んでいただいてから半年しないうちに「繋げ!」を作っていました。
──作詞は三阪さんが手がけていますね。
それまでカバー曲を歌っていたし、そもそも誰かが書いた歌詞を自分なりに咀嚼してその主人公になって歌うというのが好きだったので、最初は自分の言葉を歌うこと、書き上げることはとても大変でした。参考になればと、サッカーも観させていただいたり、部活ってどんな感じなのかいろんな人に話を聞いたりもして。
──いきなりお題があったわけですもんね。
次の「私を好きになってくれませんか?」もABEMA『今日、好きになりました。』の主題歌だったので、とにかくたくさん情報を集めて、テーマに沿った歌詞を書きたい、という意識で臨んでいました。
──でも、早々にいい経験ができましたね。
今ではお題ありきで書くのも、自分の書きたいことを書くのも両方楽しいです。
──「繋げ!」から2年で『INDIES PERSONAL BEST』が10月13日に発売となり、そのレコ発ライブ『「INDIES PERSONAL BEST」SPECIAL LIVE』でメジャーデビューを発表。感慨深い表情をしていましたよね。
そうですね。感慨深かったですね。ただ今はもう、インディーズとかメジャーとかの垣根ってないと思っているんですね。実際TikTokとかで話題になって飛び立っていく人にはメジャーレーベルじゃない人もいっぱいいる。なので、メジャーデビューで自分が大きく変わるわけではないんですけど、ずっと応援してくださっているファンの皆さんの前で発表したときに、“あ、ここから私、前に進んでいくんだ”と急に実感が湧いてきて、こみ上げてくるものがありました。拍手も大きくてすごくうれしかったです。
■今までも、今も、そしてこれからも、私は私
──では、メジャーデビュー第1弾「I am ME」の話にいきましょう。作品の匂いがこれまでとまったく違っていてまず驚きました。健康的な可愛さから、大人っぽいカッコよさになっていますね。
路上ライブでカバーをやっていた時代、等身大の作品を作っていた時代といろいろあって、どの私が好きかは人によって違うと思うんです。でも、私自身は常に進化したいと思って進んできていますし、メジャーというスタートラインに立つ今もそこは同じで、挑戦する姿を見てもらいたいという想いで制作に臨みました。どの時代も、変化じゃなくて私の進化。今までも、今も、そしてこれからも、全部、私は私なんだよ、と、そういう意味を込めた“I am ME”なんです。
──素敵なタイトルです。トータルとしてどんな作品にしたいと思いましたか?
小さい頃から洋楽を聴いて育ってきたし、洋楽のカバーもたくさんやってきていたので、そういう曲を歌ってみたいと思っていました。
──三阪さんがエド・シーランやケリー・クラークソンを完璧に自分のものにして歌う姿を拝見していたので、「I am ME」を聴いてなるほど!と思ったんです。
ありがとうございます。今回新しい出会いもあっていろいろと意見交換するなかで、今、私自身がやりたい音楽、シンプルにカッコいいと思える曲を選んでいきました。
──作詞に、Mayu Wakisakaさん、ASOBOiSMさん、NTskiさん、Yui Muginoさんと、知る人ぞ知る気鋭の女性アーティストが参加しています。今回は、歌詞はその方々に委ねたということでしょうか?
そうですね。4曲とも海外の作曲チームの楽曲なので、デモの仮詞が英語で。その仮詞のまままず歌ってみたときに、スタッフさんから「英語で歌うときの声の感じがいいね」という意見が出て、今回は英語メインの歌詞でいくことになったんです。それで、一曲一曲どういう歌にしたいかというのは私からも意見を出して、スタッフの皆さんと一緒に歌詞を書いてくださる方を探しました。先ほども言ったように、もともと誰かの書いた歌詞を咀嚼して歌うのが好きなので、それを自分のオリジナル曲でできるのもすごくうれしいことでした。なので今回は、一曲一曲の世界観をしっかり歌で届けることに集中しました。
──海外進出は意識していますか?
もちろん、海外でも活躍できる人になりたいです。単に海外向けの曲をやるということじゃなくて、日本人として持っているJ-POPのセンスと海外のエッセンスとを融合させた新しい音楽、三阪咲というジャンルみたいなものができたらいいなと。そういう曲を持って海外でもたくさん音楽を届けられたらなと思っています。
──英語は子音が多いから、日本語を歌うときとはまた違った声の成分が出て、それが魅力になっているなと思いました。
ずっと“等身大”というところを大事にしていたので、パーンとした高音を引き出す曲が多かったんですけど、今回はそこまで声を張ったりはしていないですね。いい意味でちょっと肩の力を抜いて、でも、カッコよく、というところを目指しました。
──発音がキレイですが、英語は得意なんですか?
いや(肩をすくめて小さな声で・苦笑)。学校ではちゃんと勉強していましたけど、まだ全然喋れないです。でも、将来的には英語の歌詞も自分で書きたいので、これから頑張って勉強します!
■彼女のリアルが詰まった歌詞、こだわりの歌入れ
──では、1曲ずつエピソードを聞かせてください。「My Type」はSNSのやりとりが登場するトキメキと冷静の間みたいな歌ですね。
この曲にはどんな歌詞がいいかというスタッフさんたちとの打ち合わせのときに、「私たちの世代は、会ったことのない人とインスタとかで繋がって恋に発展することもある」ということを話したら、「それ、今っぽくていいね」ということになって(笑)。だから“Instagram”とか“DM”という言葉も入っているんです。
──相手が打ってくるひと言で一喜一憂したりとか?
学校で直に話すときとは違う気持ちになったりはしますよね。「今、何の勉強してるの?」とか「気づいたら共通の友達いっぱいいるね」とかが出会いになって、トキメキを感じたり、不安になったり。「My Type」の歌詞の世界って結構、私の世代の“あるある”なんです。
──なるほど。個人的にずっと同じリズムをキープするベースラインがすごく好きなんですよ。
あ、わかります。ゆったりとして、サラッと感があって、“チル”っぽく聴けるんですけど、歌詞はキュンキュンするという。
──コーラスやフェイクなどもいっぱい入っていて、特に後半は作り込んでいるなと思ったのですが。
歌入れのレコーディングは、これまでとは全然違いました。通しで1本とかじゃなくて、3〜6本くらい録るんです。声がたくさん重なっているし、フェイクも入っているんですけど、その全部がないと、このトラックの味にはならない。だから、ひとつひとつを大事に歌いました。
──これも個人的好みなのですが、2番の頭に一発だけ“yep!”(歌詞カードにはない)と入っているのが可愛くて、ツボりました(笑)。
そうなんですよ! 作曲チームからの最初のデモを改めて聴いてみたときに、そういう声が入っているのに気づいて、どうしても入れたくて、最後の最後に録りました。
──「Get Stronger」はラップもあって、ちょっとダークな感じの、文字どおり力強い曲。
この曲は、スポーツの試合で勝ち負けだけでは終わらず、負けた側の人たちやチームが負けからどう成長していくかを描いた曲です。負けてしまっても終わりじゃないし、次に向かって歩き出せばきっと報われるときがくる、というイメージです。何度も繰り返される“Get Stronger”がキャッチーで、一聴してカッコいいと思ってもらえるんじゃないかなと。
──クセ強系のラップも出てきます。
ASOBOiSMさんが入れてくれた仮歌のラップがカッコよすぎて、「これ、使おうよ」って思いましたけど(笑)。何回も聴いて、歌って、なんとか自分なりにできたかなと思います。
──三阪さんがマッチョ系のダンスを踊る姿を想像しました。
たしかにそういう感じかも! ダンスをやっている皆さんがこの曲をレッスンで使ってくれたらうれしいですね。
──さて「DANNA」ですが、まず歌詞の“ダンナ”って?
“旦那”なんですよ(笑)。出来た経緯はこれが一番面白いかも(笑)。
──ぜひ聞きたいです。
今、女子高生は、自分がお気に入りのアーティストとか好きな俳優さんのことを、“旦那”って言うんです。もしかしたら、自分の周りだけかもですが。「ウチの旦那、昨日テレビ出てたわ」みたいな(笑)。男子はよく「俺の嫁、今日も可愛い」とか言いますけど、その逆ですね。そしたらスタッフさんたちが、「“旦那”っていいね」と言い出して、「エッ、それが歌詞になるの?」と思いましたけど出来上がりました(笑)。
──NTskiさん、さすがですね。
歌詞カードも“旦那”でいいくらいなんですけど、ただ、“旦那”と日本語に聞こえるようには歌っていないので、聴いただけでは謎だと思います(笑)。
──耳が引っ張られますね。ラテンな感じがまた魅力的。
パワフルな歌い上げ系です。ガツンとくるサウンドなのに、歌詞は“旦那”(笑)。
──気持ちよくダマされました。「Rollercoaster」はガラッと変わってカントリーロック風。完全に恋に落ちている曲ですね。
Muginoさんとはリモートで歌詞の相談をさせていただきました。といっても、お互いの恋バナをずっと話していただけなんですけど(笑)。その中から「それ、めっちゃいいかも」とMuginoさんがうまく歌詞に拾ってくれました。大好きな気持ちを受け止めてほしいのに、素直になれなくて、ちょっとツンデレになっちゃう歌。そうそう、この曲、歌入れにいちばん時間がかかりました。12時間くらいやってたかも。
──いちばんストレートに聴こえるので、ツルンといけちゃっただろうと思ってました。どこに苦戦しましたか?
4曲の中でこれがいちばん日本語の割合が多いんですね。で、日本語を普通に日本語として歌うと、サウンド的になぜかうまくハマってくれなくて。日本語をちょっと英語っぽく歌ってみたりとか、いろいろトライしました。英語の発音もMuginoさんにしっかり見ていただきました。自分では“めっちゃうまく歌えた!”と思っても、「発音が違う」でやり直したり。
──シビアにやっていったんですね。
はい! 細かく丁寧に。日本語の分量が多いと英語がこんなに歌いづらいんだとか、歌い方によるバランスの取り方とか、いろいろ気づけましたね。サビはスコーンと抜けた感じだし、構成もいわゆるJ-POPに近いので、今までのファンの方にも親しみやすい曲になったかなと。“この曲、エモいな”と私自身は思ってます。
──三阪さんの恋愛観も入っているわけですしね。
はい。私の恋バナが、等身大より少し背伸びした歌詞になっているのがポイントです(笑)。
──さて、来年春の卒業と同時に、活動が本格化しそうですね。
今回違ったジャンルの4曲に挑戦したので、まずは、どの曲が好きかなど、皆さんからの反応が楽しみです。その声と自分のやりたいことを重ねながら、またいろんな曲を作っていけたらなと。
──作品を携えたライブも近い将来あると思います。ライブは好きですか?
ライブがいちばん好きです! 小さい頃からライブしかやってこなかったと言ってもいいくらいなので、自分の居場所という感じがします。ライブは皆さんにいちばん届けたいもの。もっともっと大きなステージに立てるよう、いい曲を作って、たくさんの人に聴いてもらえるようになりたいです。
──三阪咲ワールドが花咲くのを楽しみにしています。
ありがとうございます! 頑張ります!
プロフィール
三阪咲
ミサカサキ/2003年4月23日生まれ、大阪府出身。11歳のときに歌手を目指し、音楽活動を開始。2019年に史上最年少で第98回全国高校サッカー選手権大会の応援歌を担当(「繋げ!」)したほか、ABEMA『今日、好きになりました。』の主題歌(「私を好きになってくれませんか?」)や、ティーン誌『Seventeen』史上初のテーマソング(「Bling Bling」)に抜擢。SNSを中心に話題を集める。本作でメジャーデビュー。11月6日(土)より、全国9店舗のアリオ系列のショッピングモールでスペシャルフリーライブ『Saki Misaka “I am ME” MALL TOUR 2021』を開催。
リリース情報
2021.11.01 ON SALE
DIGITAL EP「I am ME」
ライブ情報
Saki Misaka One-Man Live 2022 at KT Zepp Yokohama
2022/03/06(日)KT Zepp Yokohama
三阪咲 OFFICIAL SITE
https://sakimisaka.com/