中島美嘉から両A面シングル「SYMPHONIA/知りたいこと、知りたくないこと」が届けられた。
「SYMPHONIA」(スマートフォン向けアプリゲーム『takt op. 運命は真紅き旋律の街を』主題歌/TVアニメ『takt op.Destiny』エンディングテーマ)は、ベートーヴェンの「運命」のフレーズをコラージュした壮大なナンバー。戦うことを運命づけられた少女たちを描いた『takt op.』の世界観と重なるリリックも心に残る。そして、「知りたいこと、知りたくないこと」(ドラマ『漂着者』挿入歌)は、久しぶりのタッグとなる秋元康が歌詞を手がけたバラード。切なくも愛らしい想いを描いた歌詞、ドラマチックなメロディラインを含め、まさに王道と呼ぶにふさわしい楽曲に仕上がっている。
昨年10月にアルバム『JOKER』をリリース。今年の夏には延期になっていた全国ツアーを完遂し、さらにニューシングルを発表。充実した活動を継続している中島美嘉の“今”に迫った。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 増田慶
HAIR & MAKE UP BY 小林潤子(AVGVST)
STYLING BY 松尾明日香
■楽しく充実していた3年半ぶりのツアー
──まずは今年の夏に開催された全国ツアー『MIKA NAKASHIMA CONCERT TOUR 2021 JOKER』について。3年半ぶりのツアーでしたが、本当に素晴らしかったです。
ありがとうございます。そう言っていただけてうれしいです。
──アルバム『JOKER』の楽曲と代表曲、ヒット曲のバランスも最高だったし、観客も集中して聴いていて。中島さんのコンサートはもともと、丁寧に楽曲を届ける演出が中心なので、“声出し禁止”“マスク着用”の影響を受けづらいのかなと。
そうかもしれないですね。私のライブはもともとドーンと派手に始まることもないし、今回も自分らしくやればいいと思っていたので。そこはあまり悩まなかったかな。
──それと、歌自体が向上していた印象も受けました。端的にいうと、さらにうまくなったような…。
それは自分ではわからないけど(笑)、(音が)よくわかるようになったんですよね。去年から兆候はあったんですけど、耳の調子がずっと良くて、聴力もかなり戻ってきて。以前みたいに立てなくなるようなことはないので、変わったといえば、そこかな。“耳の調子がいいから、歌も良くなった”とはあまり言いたくないけど、耳の不安を抱えたままステージに上がるのは、やっぱり怖かったので。
──そうですよね…。
今回はまったく不安がなかったし、全然違いました。ピッチがはずれたことがわかるのも、ちょっとうれしくて。はずれたとわかれば、修正できるじゃないですか。以前はそれもわからなかったから。
──本当に良かったです。最終日の8月29日@パシフィコ横浜の公演を観させてもらいましたが、ボリュームもたっぷりで。
そう言ってもらえるんですけど、私自身はあまり実感がないんですよ。最終日は少し曲を増やしたので長くなっちゃったんですけど(笑)。“この曲は歌わないとね”という曲はメドレーにしたりしていたからかも。
──特に「FIND THE WAY」「ORION」「Dear」などを繋いだバラードメドレーは印象的でした。バラードでメドレーが構成できるのも、中島さんの特徴だなと。
バラードなら、2、3個メドレーが作れますね(笑)。ずっとライブを観てくださっている方には“メドレーは消化不良になるから、一曲ずつじっくり聴きたい”って言われたこともあるんですけど、そういう意見もうれしくて。
──最終日は、最後に次作曲を披露。ツアーを支えた人たちに向けた曲ということですが、作詞だけではなく、作曲も中島さんが手がけたとか。
そうなんです。ライブでは「私が書きました」と言ったので、皆さん“歌詞を書いたんだな”と思われたみたいですけど。それでいいんです、私としては。作曲なんて言っても…ねえ?(笑)
──素敵なメロディだと思いましたよ(笑)。歌詞にも感謝の気持ちが溢れていて。
もしかしたら恋愛の歌に聴こえたかもしれませんね。今回のツアーは、初めてのスタッフの方が多くて、皆さんも最初は探っていた部分があっただろうし、私も“やり方が変わるところもあるだろうな”と少し不安に思う部分もあったんですけど、スタッフの皆さんがいつも笑顔で接してくれて。かなり少人数で回していたのですが、明るくて楽しい現場だったんです。もちろん、私がやることはひとつだけなんですが、皆さんのおかげでとてもいい雰囲気でツアーを回らせてもらいました。
■葛藤や悩みと戦い、自分の生きやすさを見つける
──そして10月27日にはシングル「SYMPHONIA/知りたいこと、知りたくないこと」をリリース。「SYMPHONIA」はツアーの最終日で初披露されましたが、かなり緊張していたそうですね。
アンコールで歌わせてもらったんですけど、ステージに出ていく直前まで心配していました。あの瞬間をよく覚えていないくらい、気持ちがブチ上がりましたね(笑)。
──繊細さとダイナミックな手触りが共存していて。すごくドラマチックな楽曲ですよね。
初めて聴かせてもらったときは、“なんて曲なんだろう!”と思いました。本当にキレイだし、メロディも美しいんですけど、“私に歌えるのかな”って。最初は不安でドキドキしていました(笑)。
──(笑)。実際歌ってみたときの手応えはどうでした?
やっぱり難しかったです。音程の幅も広いし、高い音と低い音の行き来も速くて。上がるのはできるんだけど、下がるのが苦手なので(笑)。デモ録り、ゲームの音源用とか、何度か歌いながら少しずつ馴れていった感じです。
──ベートーヴェンの「運命」の旋律がコラージュされているのも「SYMPHONIA」の特徴です。
どこに使われているのかわからなかったんですよ、最初は。「ほら、今のところだよ」って教えてもらったんですけど、“え、どれ?”って(笑)。そういえばこの前、高崎のイベント(『高崎音楽祭』)に呼んでいただいて、オーケストラ(トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア)と一緒に「SYMPHONIA」を披露したんですけど、皆さんすぐに「『運命』のメロディが入っているんですね!」と気づかれて。クラシックの方々は、むしろそっちのほうが耳に入ってくるみたいですね。
──中島さんもクラシック好きですよね。ツアーでも、ショパンの「葬送行進曲」を使った演出があったし。
そうなんですよ。初めて聴いたときに“こんなに自分のツボにハマる曲があったのか!”と思って。あの曲でバレリーナのふたりに踊ってもらおうと思ったときに、バンマスの河野伸さんが「弾けるよ」と言ってくれて、贅沢にも生演奏してもらいました。家でもクラシックを聴くことが多いですね。あとは、教会の音楽とか、スパでよくかかっているような(笑)、眠たくなるような曲も好きです。
──「SYMPHONIA」の歌詞は、『takt op.』(ゲーム、アニメ)ともリンクしています。戦うことを運命づけられた女性たちが、葛藤を抱えながらも敵に挑む姿を描いたストーリーですが、この世界観に対してはどんな印象を持っていますか?
“女性が戦う”という題材自体が好きなんですよね、私は。葛藤や悩みがなければ、そもそも戦う必要はないだろうし。イヤなことがあるから“戦おう”と思うのであって、ハッピーだったら戦わなくてもいいでしょ?
──なるほど。中島さんもいろいろなものと戦ってきたイメージがあります。世間だったり、自らのアーティストとしての在り方だったり…。
そうですね。突き詰めて考えると、すべてが戦いだなという気もするんです。例えば“何を食べるか”もそう。ひとつを選べば、他のものは捨てなくちゃいけないので。自分の人生を振り返ってみると、“あのときは本気でやってやったぞ!”みたいなことはそんなに多くはないんですけど(笑)、だいぶヤバイ人生だったなと思います。たぶんいろんなことに気づいていなかったし、“わかりません”で許されていたところもあったのかなと思います。デビューして仕事を始めてからはそんなことは言えなかったから、だいぶ生きづらくなりました…けど、去年かな、自分を変えようと思ったんですよ。
──アルバム『JOKER』のインタビューでも、“考え方、生き方を変えて、かなりラクになった”と言っていましたよね。
はい。“人生を丸ごと変えた”みたいな感覚があったので。それまでは、どちらかと言うと、YESもNOもなく、目の前のものをやるという感じだったんです。今も“自分がやりたいこと、やりたくないことを言っていいのかな”とか“こういうことを言うとどう思われるかな”と考えることはあるけど、まずは相談ができるようになったし、周りの人からも“どう?”と意見を聞いてもらえるようになって。それは私にとって、すごい前進なんですよ。
■秋元康との久しぶりのタッグ
──「知りたいこと、知りたくないこと」は、ドラマ『漂着者』の挿入歌。切ないラブバラードですが、この曲の印象はいかがでした?
大好きです。最初に聴いたときから自分が歌っているところを想像できたし、前例があるというか、“この感じ、知っている”という感覚があって。「SYMPONIA」は“どうなるんだろう。歌えるのかな”だったので、全然違いましたね(笑)。
──この曲の抗体が身体の中にある、みたいな?
そうかも(笑)。ライブで歌ったときも、まったく不安がなかったです。
──作詞は秋元康さん。秋元さんは中島さんのデビュー曲「STARS」、5thシングル「WILL」などの歌詞を手がけていますが、実にデビュー曲以来20年ぶりのタッグだとか。
そうなんです。デビュー当初に3曲(「STARS」「WILL」「TEARS(粉雪が舞うように…)」の歌詞を書いていただいたんですが、それ以来、ご無沙汰していて。4曲目を20周年のタイミングで書いていただけてうれしかったです。
──なるほど。それにしても“20年ぶり”ってすごいですね。
ホントですよね(笑)。当時から秋元さんは大御所の作詞家だったんですけど、ラジオ番組でご一緒したり、講義みたいなものに呼んでくれたり、何かと接点があったんです。「STARS」「WILL」の歌詞も本当に素晴らしくて、今も歌いながら泣きそうになるんですよ。デビュー当初はわからなかったことも理解できるようになって、実はこんなに深いことを表現していたんだなって気づくことがあります。
──そう言われると、聴き直したくなりますね。実際、「STARS」「WILL」は今やスタンダード的な存在になりつつあって。
ずっと歌える曲だと思います。王道のバラードは、ピアノやストリングスが中心なのもあって、あまり時代感が出ないんですよね。アップテンポの曲はどうしてもそのときの時代感が出てしまう。(自分に)バラードのイメージが強いのはありがたいことだなと思っています。自分で歌詞を書くときも、流行語みたいなものは使わないようにしているんです。
──「知りたいこと、知りたくないこと」も、キャッチーでありながら、普遍的なテーマが込められていて。
タイトルもすごいですよね。大切な人のことはどんなことでも知りたいし、今って、知りたくないことも(SNSなどを通して)流れてくるじゃないですか。この時代にもピッタリだし、本当に大事なことも表現されているなと思います。例えばインスタとかも、本当のことは載せないでしょ? インスタ映えする一瞬だけを切り取って、普段は家でラーメン食べているかもしれないのに(笑)。もはや私にはついていけない…というか、ついていく必要もないんですけどね。
──(笑)。この曲もそうですが、中島さん自身の恋愛観の変化によって、歌の表現も変わっているところもありますか?
男女の恋愛の枠ではなくなっているかもしれないです。恋愛の歌に聴こえるけど、親に対する感謝を歌っていることもある。愛の捉え方が広くなっていると思います。若い世代の恋愛のことはもうわからないですからね(笑)。甥っ子たちと話をしていても、“?”ばっかりなんで。
──告白のやり方とか?
そこまでもいけないみたいなんです。“いいな”と思う人がいても、もし付き合ったとして、周りから“釣り合わない”とか“なんで?”みたいなことを言われたり、思われるかもということを見越して、行動に出られないって。周囲の目のほうが気になるみたいですね。
──たしかにその感覚はちょっと……。
わからないですよね(笑)。私は、自分がわかることだけを書くようにしているんです。あとはきれいな風景とか。そこはこれからも変わらないでしょうね。
──最後に、この後の活動について聞かせてください。まず11月には初のBLUE NOTE TOKYOでの公演があります。老舗ジャズクラブですが、あのシックなムードは中島さんにピッタリだなと。
デビューした頃、ジャズバーみたいなところで歌うことが何度かあったんですが、BLUE NOTEは今回が初めてで。お店には行ったことがあって、いい雰囲気だなと思っていたのですごく楽しみです。さっきも言いましたけど、私がやることはひとつなんですけどね(笑)。
──心を込めた歌をうたうだけ、と。今も制作は続いているんですか?
うん、やっていますよ。いつ出せるかはまだ言えないけど、結構忙しくしています。“こんなに詰め込んで大丈夫?”みたいなスケジュールなんですけど、まあ、なんとかなるでしょう(笑)。もう少ししたら発表できると思うので、楽しみにしていてください。
プロフィール
中島美嘉
ナカシマミカ/2001年にドラマ『傷だらけのラブソング』(CX)で主演に抜擢され、同作主題歌「STARS」でデビュー。「雪の華」、「GLAMOROUS SKY」など数多くのヒット作を発表し、唯一無二の存在感を放つ。アーティスト活動のほかに、国内外の映画・ドラマ・ファッションなど活躍は多岐にわたる。
リリース情報
2021.10.27 ON SALE
SINGLE「SYMPHONIA/知りたいこと、知りたくないこと」
ライブ情報
MIKA NAKASHIMA LIVE at BLUE NOTE TOKYO
11/07(日)・08(月) BLUE NOTE TOKYO
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