■アコースティックギターによる落ち着いた音色に乗る歌声は繊細でいたいけで、ナチュラルでありながら可憐
miletといえば、深みと広がりのある歌声で暗く霞んだ、美しく壮大な音像風景を引き連れてくるシンガーというイメージを持っている方も多いのではないか。しかし、映画初出演にしてヒロインを務めた映画『知らないカノジョ』の主題歌と劇中歌をコンパイルしたシングル「I still/Nobody Knows」で、彼女はこれまでのイメージとは異なる歌声を響かせている。特に、主題歌「I still」のアコースティックギターによる落ち着いた音色に乗る歌声は繊細でいたいけで、ナチュラルでありながら可憐。TBS系日曜劇場『アンチヒーロー』の主題歌として多くの考察を巻き起こした前作「hanataba」以来、約半年ぶりのシングルとしてリリースされるが、“Minami Maezono starring milet”名義でリリースしてもおかしくないほど、作品に寄り添い、新たな魅力が引き出された楽曲となっている。
2月28日(金)より全国ロードショーとなる映画『知らないカノジョ』は、2021年に日本公開されたフランス映画『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』を原案とし、現代の日本なりの改変が行われたリメイク作品となっている。
映画の主人公は、小説家志望の神林リク(中島健人)と歌手を目指す前園ミナミ(milet)。大学時代に出会ったふたりはお互いに一目惚れで恋に落ちて結婚。8年後、自身の夢を諦めて応援するミナミのサポートもあり、リクはベストセラー作家となるが、ある夜の喧嘩をきっかけに、ふたりが出会っていなかったifの世界が始まってしまう。リクは人気作家から文芸雑誌の編者となった世界でミナミは日本では知らない人がいないほどのカリスマ的な人気を誇るトップアーティストとなっていた。リクは妻との関係を反省し、かつての人生を取り戻そうと必死にもがくのだが…というファンタジック・ラブストーリーとなっている。
■miletが演じたミナミの心境がストレートに表現された楽曲
そんなふたりの出会いのきっかけとなるのが、ミナミが夜の大学の講堂でひとりひっそりと歌っていた「I still」だ。miletが「台本を読んでいちばん最初に出来た曲で、この作品に対する私の素直な気持ちが表れた曲です。歌っていても、今までのmiletになかったような、ミナミと一緒に作った曲になったと思います」とコメントしているように、聴き手によって様々な捉え方のできる複層的な構造を持っているmiletの楽曲とは一線を画し、まさにmiletが演じたミナミの心境がストレートに表現された楽曲となっている。
ただ、ミナミと言っても、この楽曲の中にはリクが書く小説の“いちばん最初の読者”として、自分の夢に蓋をして、彼を献身的に支えるミナミと、敏腕プロデューサーと二人三脚で海外展開を目指す直前のアーティストであるミナミの“ふたりのミナミ”がいる。「I still」はひとつの人格でふたつの世界に存在し、元の世界に戻ることを半ば諦め、劇中で「ここで生きるしかない」と肩を落とすリクに対する“ふたりのミナミ”からのラブレターのようなものだろう。
■“私”はずっと“あなた”のそばにいるから忘れないでねという、リクへの揺るぎのない強い愛
大学の講堂で出会ったふたりは、リクの「もう一度君の歌が聴きたい」というリクエストに応えて、路上で「I still」を披露し、“こんな鮮やかに映るよ / あなたがいる世界”というフレーズを歌う瞬間にふたりは目を合わせる。一方、もうひとつの世界では、横浜アリーナのアンコールの舞台(24年3月に横浜アリーナで開催された『milet 5th anniversary live “GREEN LIGHTS”』で実際に撮影)に立ったミナミが「ある人があの頃の自分を思い出させてくれた」と語る。歌詞にある“I still believe in you and me”というフレーズが示す通り、「I still」は、どんな世界(ここにはリクの小説「蒼龍戦記」の舞台も含まれる)でも、“私”はずっと“あなた”のそばにいるから忘れないでねという、リクへの揺るぎのない強い愛が込められた楽曲となっており、エンディングで流れ始めたときは優しく温かい涙が誘われた。
「I still」
Lyrics by milet
Composed by milet,TomoLow
Arrangement by TomoLow時が止まる 指が触れる
まだ聞こえているかな
不器用同士 愛おしいページをめくったあなたがいて私がいる
二人だけの世界みたい
名前を呼んでいたいよ
消えちゃいそうな気がしたからこんな鮮やかに映るよ
あなたがいる世界
魔法みたいだね
いつか解けてしまうかなここにいるよ 何度 さよならをしたって
歌いたい 伝えたい 想いが溢れてるのに
忘れないでね ここにいるから
あなたとずっと当たり前に隣にいた
奇跡はいつの間にか
自分勝手どうして逸らして
霞ませてしまっていた 愛流されないで 泣いてしまっても
嘘つかないで 笑ったあなたじゃなくても
I loved, I love
今度は離さないでねここにいるよ いつか あなたがいなくなって
愛したい 探したい 日々に意味があるなら
失くさないでね 心にいてね
あなたはずっとAs long as you love me
As long as you loveAnd I still believe it
Yeah I still believe in you and me魔法みたいだね
いつか解けてしまうかなここにいるよ 何度 さよならをしたって
愛したい 伝えたい 想いが溢れてるのに 今でも
忘れないでね ここにいるから
あなたとずっと
■劇中歌「Nobody Knows」は、映画に込められた隠れたテーマを投げかけてくる楽曲
一方の劇中歌「Nobody Knows」は、リクとミナミが付き合い始め、結婚し、次第に気持ちがすれ違っていくという時間の経過と関係性の変化を描いた“点描”シーンで使用されたほか、アーティストであるミナミによる歌唱シーンもあった。この“誰も知らない”=“何者でもない私”は、リクのために歌うことをやめたミナミの心情でもあり、“誰かのために生きること”という映画に込められた隠れたテーマを投げかけてくる楽曲となっている。
■果たして映画の結末はどうなるのか
最後に余談ではあるが、アーティストのミナミは劇中で、“相反する感情や意見が同時に存在する”という意味の単語をタイトルに掲げたミニアルバム『Ambivalent』と“反転”を意味するアルバム『inversion』をリリースしていた。映画に内包されたメッセージを表したようなタイトルだが、果たして映画の結末はどうなるのか。オリジナルの映画『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』とは違うエンディングとなっているので、ぜひ映画館で確認してみてほしい。
TEXT BY 永堀アツオ
リリース情報
2025.2.26 ON SALE
SINGLE「I still/Nobody Knows」
milet OFFICIAL SITE
https://www.milet.jp/