ゲーム『原神』やNetflixドラマ『三体』など、中国発エンタメが世界的に注目を集める現在。この記事では、現在のC-POP(中国語のポップミュージック)シーンと人気楽曲を、中国の2大プラットフォームの年間ランキングを読み解きながら詳しく紹介する。
■C-POPとは?
C-POPとはずばり“中国語のポップミュージック”のこと。中国大陸、香港、台湾アーティストが演奏・歌唱する中国語の楽曲、または中国の伝統的な音楽の要素を取り入れたポップミュージックを指している。
■C-POPの要注目アーティストたち
現在のC-POPシーンを語るうえで必ず話題に上がる存在と言えば周杰倫(Jay Chou/ジェイ・チョウ)。1979年1月18日生まれ。台湾出身の男性アーティストだ。
幼少よりピアノとチェロを習い始め、クラシック音楽を学んだ周杰倫(Jay Chou/ジェイ・チョウ)は2000年にアルバム『Jay』でデビュー。中国の伝統文化とR&B、ヒップホップ、ロックなどを組み合わせた音楽性、卓越したボーカル表現を兼ね備えた楽曲は中華圏を中心に大きな影響を与え続けている。
2005年には日本デビュー・アルバム『Initial J』をリリース。同年、周杰倫(Jay Chou/ジェイ・チョウ)主演の『頭文字<イニシャル>D THE MOVIE』が公開され大きな話題に。最新アルバム『最偉大的作品「Greatest Works of Art」』は725万枚以上の販売記録を達成し、売上高は2.17億元(日本円で約43億円)超え。2022年の世界のアルバム売り上げランキングで1位を獲得した。
昨年のSUMMERSONICに出演した張恵妹(aMEI/アーメイ)も今のC-POPを代表するアーティストのひとり。
切ない恋心を綴ったバラードナンバー『記得「Remember」』、“聴いて 海の泣く声を”という思いを込めた失恋ソング『聴海「Listen to the Sea」』などのヒット曲は中国のカラオケでは定番ソング。ロックからR&Bまで幅広い音楽性も彼女の特徴で、アルバムのトータルセールスは全世界で5500万枚を突破。今年5月には日本武道館2days公演を開催するなど、日本国内でも高い人気を得ている。
新世代のC-POPシーンを象徴しているのが、劉柏辛(Lexie Liu/レクシー・リウ)。17歳のとき韓国のオーディション番組で注目を集め、アジア圏を中心とした音楽活動はもちろん、PCゲーム『League of Legends』の仮想K-POPアイドルK/DAのセラフィーン役をつとめるなど多方面で才能を発揮。最新のR&B、ヒップホップを取り入れた音楽性、凛とした佇まいと官能性を持ち合わせたボーカルは、2023年にFUJI ROCK FESTIVALに出演した際も話題を集めた。
最近では、満島ひかりは台湾公演で、有名な歌手であり女優である王菲(Faye Wong/フェイ・ウォン)の『夢中人』をカバーしたことも記憶に新しく、透明感溢れるメロディーで会場を魅了した。
この投稿をInstagramで見る
■ランキングから読み解くC-POP最新トレンド
ここからは2023年の中国音楽界でのヒット曲を振り返りながら、現在のC-POPのトレンドを探っていきたい。
2023年の中国の音楽シーンの中心は、間違いなくラップ・ミュージックだった。
網易雲音楽(NetEase Cloud Music:中国の主流音楽プラットフォームのひとつ。以下、NetEase)が発表した年間シングルランキングにおけるラップ楽曲の割合は、なんと50%以上。その要因としてはまず、前述した周杰倫(Jay Chou/ジェイ・チョウ)の影響が挙げられる。『龍拳「Dragon Fist」』『以父之名「In The Name of The Father」』『爺爺泡的茶「Grandpa’s Tea」』などラップを取り入れた彼のヒット曲は幅広い世代に知られており、中国の音楽ファンはこれらの楽曲を通してラップに親しみを覚えてきたようだ。
さらに特筆すべきは、絶大な人気を誇る中国のバラエティ番組『中国新説唱「The Rap of China」』の存在だ。ラップを大々的に取り上げたこの番組の関連タグ「#中国新説唱#」は中国最大のSNS・新浪微博で閲覧回数75億回を達成するなど、全土に拡散。それ以来、ラップの番組やラップ系アーティストが中国のネット動画プラットフォームで数多く配信されるようになった。
NetEaseが発表した『中国語ラップ音楽報告(2022)』によると、2020年以降、ラップミュージックの再生数は第2位のジャンルとなり、ポップミュージックに次ぐ人気を博している。ラップ系の音楽祭も中国で次第に盛り上がりを見せており、2023年に南京で開催された『FullHouse満堂』には2日間で約5万人の音楽ファンが来場した。
その一方で、レトロな音楽、伝統的な音楽も全世代からの支持をキープしている。台湾出身・1968年生まれのシンガー伍佰は、2019年の人気テレビドラマ『想見你』で彼の1996年の楽曲「Last Dance」が使用されたことをきっかけに再ブレイク。56歳になった現在も幅広い人気を得ている。また、新しい民謡音楽のスタイルを作り上げてきた男女ユニット鳳凰伝奇(Phoenix Legend)も再び注目を集めるなど、ベテランアーティストの活躍も目立っているのだ。その理由はTikTokをはじめとするショートビデオプラットフォームの台頭。TikTokに動画がバズり、往年のヒット曲やベテランアーティストが再注目される傾向は、中国でも同様のようだ。
続いて、網易雲音楽(NetEase)とQQ音楽(QQ Music=中国最大の音楽配信会社テンセント・ミュージックの配信サービス)が発表した2023年のシングルランキングTOP10を紹介。バラエティに富んだラインナップからは、現代のC-POPの多様性を感じてもらえるはずだ。
■中国2大プラットフォームランキング①<網易雲音楽 TOP10>
1位「雪 Distance」/Capper、羅言(Luo Yan)
ランキング1位の『雪 Distance』は、2000年代以降生まれのラッパーCapperが、気鋭のアーティスト羅言をフィーチャーしたコラボシングル。アコギの響きを軸にしたトラックとともに恋人たちの喜怒哀楽の感情を綴った楽曲だ。Capperはラップバラエティ番組のブームを牽引したひとり。本格的なラップのスキルと抒情的な歌心を併せ持ったアーティストとして注目を集めている。ノスタルジックなメロディライン、切ない恋心を歌った歌詞、そして、心地いいラップがひとつになったこの曲は、網易雲で100万件以上の「いいね!」と12万件以上のコメントが寄せられ、現代のC-POPのトレンドを見事に捉えていると言えるだろう。
2位「向雲端」/小霞、海洋Bo
86年にデビューした女性シンガー小霞(黄綺珊)。長年にヒットに恵まれなかったが、2013年放送のリアリティ番組『我是歌手(I Am A Singer)』に出演したことをきっかけにブレイク。3オクターブのハイトーンボイスで脚光を集めた。「向雲端」は、ラッパーの海洋Boとのコラボ曲。街の人々の話し声、お茶を入れる音からはじまり、フォーキーな手触りのサウンドと郷愁を誘うメロディが印象的なミディアムバラードだ。曲発表と同時にシングルランキングのトップにランクインし、10日間でウェブ上の再生回数が14億回超えという記録を樹立。人生に迷ったとき、背中を押してくれる応援ソングとして中国視聴者を魅了した。
3位「籠」/張碧晨(Diamond Zhang)
第3位を獲得したのは人気女性歌手・張碧晨の「籠」。2023年の中国映画『消失的她(Lost in the stars)』のエンディングテーマだ。旧ソ連映画『A Trap for Lonely Man(Ловушка для одинокого мужчины)』を原作としたサスペンス映画(中国で35.23億元<日本円で約718億円>興行収入)のストーリーに寄り添ったこの曲は、映画のヒットとともに幅広い人気を得た。張碧晨は韓国のガールズグループSunny Daysのメンバーとして活動した後、2014年に中国でソロデビュー。感情豊かなバラードを歌い上げることに長けた実力派で、中国の人気ドラマや映画の主題歌を数多く歌っている。
4位「我想念」/汪蘇瀧(Silence Wang)
『我想念』は中国のシンガーソングライター汪蘇瀧が2017年に書いた作品。以前は別の歌手が歌っていたが、2023年に新たなアレンジを加えてセルフカバー。美しくも切ないピアノ、ストリングを中心としたサウンドのなかで、過去の恋愛への思いを切々と歌い上げている。汪蘇瀧は2010年にアルバム『Slowly Understand』でデビュー。若い世代の青春を彩る楽曲を多数リリースし、時代を超えて音楽ファンに親しまれている。
5位「羅刹海市」/刀郎(Dao Lang)
「羅刹海市」は、中国・清代の小説家である蒲松齢の名作『聊斎志異』に収められた同名短編を引用した楽曲、ネットユーザーから芸能界の混乱を風刺する曲だと解釈され、国民的な議論を巻き起こした。TikTokでの楽曲の再生回数が30億回を突破。レゲエ調のリズム、華やかなホーンセクション、中国の伝統的なメロディを融合させたスタイルも個性的だ。1971年生まれの刀郎は2004年にアルバム『2002年的第一場雪「The First Snow in 2002」』でブレイク。2013年以降は長年沈黙を続けていたが、2020年に音楽活動を再開させた。
6位「風駛過的声音是」/海洋Bo、費米Frieme、Zy
バラエティ番組出身で、数多くのアーティストとコラボしている海洋Boがラッパー費米Friemeをフィーチャーしたコラボシングル「風駛過的声音是」もランキングで6位にランクイン。女性の繊細な歌声をサンプリングしたミニマムなトラック、抑制を効かせながらも奥深い感情表現をたたえたラップ、そして、孤独を抱えながら生きる人々に“寂しいときはこの曲をループして”と呼びかける歌詞が心地よく共鳴している。
7位「Da Capo」/HoYo-MiX
世界的ヒットとなったオープンワールドRPG『原神』で知られる中国のゲーム開発会社miHoYoの人気スマホゲーム『崩壊3rd』のテーマソングとして制作された楽曲。儚くも美しいシンセの音色、繊細なエモーションを含んだボーカル、クラシカルな弦楽器などが加わった後半の盛り上がりを含め、ドラマティックな楽曲に仕上がっている。HOYO-MiXは、miHoYoの傘下のオリジナル音楽チーム。「DA CAPO」の歌唱は、女性シンガーの車子玉(Ziyu Che)が担当している。
8位「崇拜」/薛之謙(Joker Xue)
2005年のデビュー以来、「Serious Snow」「ビギナー」など数多くのヒット曲を生み出し、2018年にはワールドツアーを開催。ドラマ、映画などにも出演するなど、アジア緒を代表するスターの座を手にしている薛之謙。生々しいバンドサウンドと美しい弦の響きが心に残る「崇拝」は、愛する人に身を捧げようとする熱い思いを描いたバラード。まるで恋人に語り掛けるような歌声、楽曲が進むにつれて感情が溢れ出す表現力に心を打たれる。
9位「C級浪漫」/法老、鄧典果DDG、KnowKnow
バラエティ番組『説唱聴我的』への出演で一躍有名になったラッパー法老と鄧典果、そして、世界的な評価を得たヒップホップグループ・Higher BrothersのメンバーだったKnowKnowのコラボシングル。トラップ系のトラックのなかで、鋭利にしてメロウな3人のラップが絡み合い、“あなたは私の愛を感じていますか?”といったロマンティックなリリックを際立たせている。ラップの高い技術とポピュラリティが同時に堪能できる優れた楽曲だ。
10位「佤咖啡」/王雲宏
「あなたは私の観音菩薩、私はあなたの劉徳華」(劉徳華/アジアの大スター、アンディ・ラフ)という歌い出しではじまる「佤咖啡」は、シンプルなトラックと情熱的なラップを軸にしたミディアムチューン。コーヒーの産地としても知られる雲南省の方言で歌われ、ネットユーザーから「スターバックスでジャガイモを食べるような気分になった」と大きな反響を呼び起こした。雲南省出身の王云宏は1990年半ばからキャリアをスタートさせたアーティスト。「佤咖啡」のヒットにより新境地を切り開いた。
■中国2大プラットフォームランキング②<QQ音楽 年間シングルランキング>
・Most Commented Single「躺着真舒服(Lying Down)」/時代少年団
2019年に結成された7人組男性アイドルグループ、時代少年団。これまでに2作のアルバム「舞象之年」(2021年)「鳥托邦少年」(2022年)をリリースし、微博(Weibo)のフォロワー数は1250万人と中国でもっとも人気のあるグループとして知られている。「躺着真舒服」は爽やかさと切なさを併せ持ったポップチューン。優しい雰囲気のボーカル/ラップの魅力を活かしながら、“都会のストレスを離れ、ゆったりと過ごしてみては?”というメッセージを込めたリリックを響かせている。
・Most Viraled Single「烏梅子醤」/李栄浩(Li Ronghao/リー・ロンハオ)
2017年に発表したアルバム『Hmm』で第22回グローバルチャイニーズチャートにおいて「アジアにおける影響力を与えた最優秀男性歌手賞」を受賞。今年4月に鳥の巣国立競技場で初の単独コンサートを開催するなど中国を代表するアーティストに上り詰めた李榮浩。「烏梅子醤」は2023年に中国のネット上で大流行した“小甜歌(「甘酸っぱい恋の歌」)”と呼ばれるジャンルの楽曲。恋が始まる瞬間のあどけなさと甘い恋心をリアルに表現し、抖音(中国版TikTok)での再生回数は26億回を超えた。マーケットでの圧倒的な支持を得た一方、一部の音楽評論家からは「TikTokのような短いショット動画用に制作された曲であり、市場での成功を収めたもの、C-POPの発展が止まってしまうのではないか」という声もあるという。
・Most Nostalgic Single「涙橋」/伍佰 & China Blue(Wubai & China Blue)
「涙橋」は台湾出身のベテランアーティスト・伍佰が2003年に発表した楽曲。叙情豊かなピアノの音色、力強く、真っ直ぐなボーカルを軸にしたロックバラードだ。気持ちがすれ違い、思いを上手く言葉にできないまま終わってしまった恋愛を描いたこの曲は、昨年、若いシンガーたちにカバーされたことをきっかけにリバイバルヒットを記録。現在のC-POPにおけるレトロブームを象徴する楽曲となった。2023年、伍佰はアジア各地で29公演にも及ぶ大規模なコンサートツアーを開催。彼の曲は非常に人気で、伍佰のコンサートは会場全体が大いに盛り上がることで知られ、どんな曲が演奏されても、観客全員が大合唱を始めるので、ファンは冗談交じりに「お金を払って伍佰のために歌を歌いに来た」と言うほど。
■独創的なアーティストや楽曲を生み出し続けているC-POPマーケット
ラップ・ミュージックの流行、ベテランアーティストの再ブレイク、SNSでのショート動画から生まれるヒット曲など、ダイナミックな動きを見せているC-POPシーン。伝統的な音楽とグローバルポップを融合させながら、独創的なアーティストや楽曲を生み出し続けているC-POPマーケットは今後、ここ日本でも大きな注目を集めることになりそうだ。
TEXT BY 森朋之
制作協力/Elisie