2014年の渡米から10年を経て再始動するアンジェラ・アキ。リリースから15年を超え、今もなお多くのリスナーに感動を与えている名曲「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の歌詞の考察を中心に、シンガーソングライターとしての彼女の魅力を紹介する。
■「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」とは?楽曲情報
▼アンジェラ・アキ「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」
・歌唱アーティスト:アンジェラ・アキ
・発売:2008年9月17日発売
・作詞 / 作曲 / 編曲:アンジェラ・アキ
オリコン週間アルバムランキングで1位を獲得したメジャー3作目のアルバム『ANSWER』(2009年2月)に収録され、アルバムに先駆けてシングルリリースされた「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」。『NHK全国学校音楽コンクール』中学校の部課題曲として書き下ろされた楽曲だ。
アンジェラ・アキが十代の頃、未来の自分に宛てた手紙がもとになったというこの曲は、15歳の思春期をテーマにしたバラードナンバー。ノスタルジックな手触りのピアノのイントロからはじまり、彼女の基本的なスタイルである“ピアノと歌”を中心に進行する。
楽曲の中盤ではハンドクラップとゴスペル風のコーラスが挟まれ、音楽的な高揚感を演出。シンプルかつエモーショナルなサウンドとともに、いろいろなことで迷い、悩みながら日々を一生懸命に過ごしているリスナーに向けて、“自分を信じて”というメッセージを真っ直ぐに伝えている。
この曲は10代のリスナーを中心に注目を集め、ロングヒットを記録。この曲の合唱を練習する中学生たちの学校にアンジェラが訪れるドキュメンタリー番組が放送されるなど、大きな反響を呼んだ。さらにこの年のNHK紅白歌合戦で歌唱され、国民的なヒット曲となった。
中高生の合唱曲として歌い継がれ、卒業ソングとしても親しまれているこの曲は、ToshI、May J.、などがカバー。俳優の杏が出演したMVは8300万回を超え、今もなお幅広いリスナーからのメッセージが寄せられている。世代、時代を超えたスタンダードナンバーと言っていいだろう。
▼Toshl「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」
▼May J.「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」
■「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の意味は?歌詞考察
手紙 ~拝啓 十五の君へ~
作詞 / 作曲 / 編曲:アンジェラ・アキ拝啓 この手紙読んでいるあなたは どこで何をしているのだろう
十五の僕には誰にも話せない 悩みの種があるのです未来の自分に宛てて書く手紙なら
きっと素直に打ち明けられるだろう今 負けそうで 泣きそうで 消えてしまいそうな僕は
誰の言葉を信じ歩けばいいの?
ひとつしかないこの胸が何度もばらばらに割れて
苦しい中で今を生きている
今を生きている拝啓 ありがとう 十五のあなたに伝えたい事があるのです
自分とは何でどこへ向かうべきか 問い続ければ見えてくる荒れた青春の海は厳しいけれど
明日の岸辺へと 夢の舟よ進め今 負けないで 泣かないで 消えてしまいそうな時は
自分の声を信じ歩けばいいの
大人の僕も傷ついて眠れない夜はあるけど
苦くて甘い今を生きている人生の全てに意味があるから 恐れずにあなたの夢を育てて
Keep on believing負けそうで 泣きそうで 消えてしまいそうな僕は
誰の言葉を信じ歩けばいいの?
ああ 負けないで 泣かないで 消えてしまいそうな時は
自分の声を信じ歩けばいいのいつの時代も悲しみを避けては通れないけれど
笑顔を見せて 今を生きていこう
今を生きていこう拝啓 この手紙読んでいるあなたが
幸せな事を願います
“拝啓 この手紙読んでいるあなたは どこで何をしているのだろう”
そんなフレーズで始まる「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」は、1番は“15歳の自分から大人の自分に宛てた手紙”、2番は“大人になった自分が15歳のあなたに宛てた手紙”という形式で構成されている。
1番のモチーフになっているのは、アンジェラが10代の頃、“30才の自分”に向けて書いた手紙だ。幼少期〜思春期を徳島、岡山で過ごした彼女は、母親はイタリア系アメリカ人、父親が日本人のミックスルーツを持つ。誰しもが経験する、思春期であるが故の悩みを抱えていた彼女が、未来の自分に相談に乗ってもらうような気持で書いた手紙が、「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の起点になったというわけだ。
30才の誕生日にこの手紙を受け取ったというアンジェラ。誰にも言えない悩みを抱え、“負けそうで 泣きそうで 消えてしまいそうな”気持ちを綴った手紙を読んだ彼女は、「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の2番の歌詞を手紙の返事を書くようにーー“拝啓 ありがとう 十五のあなたに伝えたい事があるのです”という言葉から始めている。大人になっても傷つくし、眠れない夜もある。でも今の私は“人生の全てに意味がある”ことを知っている。だからあなたも、自分の夢に向かって進んでほしいーー。丁寧で真摯な思いを込めたこの歌は、“Keep on believing”というラインによって豊かな感動へとつながっていく。また“いつの時代も悲しみを避けて通れないけれど / 笑顔を見せて 今を生きていこう”という歌詞も心に残る。まさにどんな時代にも当てはまる、普遍的な一行だ。
中学生の合唱曲として制作された楽曲だが、中学生に向けたメッセージだけではなく、彼女自身のリアルな経験を色濃く反映することで、強い説得力を持った歌へと結びつける。だからこそ「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」は今もなお幅広い年齢のリスナーの共感を呼び起こし、“私ももう少し、未来に向かって生きてみよう”というパワーを与えているのだろう。
■『THE FIRST TAKE』での「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」
▼アンジェラ・アキ – 手紙 ~拝啓 十五の君へ~ / THE FIRST TAKE
グランドピアノとマイクが置かれたスタジオに登場したのは、ジーンズとシャツというカジュアルな装いのアンジェラ・アキ。笑顔で「学生のみなさん準備はいいですか」と問いかけ、「はい!」という元気な返事を受け取ると、「では、参りましょう」とパフォーマンスをスタートさせる。
イントロは原曲通りのピアノの旋律、そして、女子生徒たちの瑞々しいハーモニー。ピアノ、歌、合唱の編成によって、「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」に込められたストーリーとメッセージを生き生きと表現していく。ハンドクラップとゴスペル調のコーラスのよるパートの躍動感にも強く惹きつけられた。繊細さと切なさ、そして、未来に向けた強い思いをストレートに響かせるアンジェラの演奏と歌も絶品。この映像を見れば、音楽家としてのさらなる向上を実感してもらえるはず。演奏を終え、「緊張した…手震えるてるのによく弾けたなという感じ。みんな上手に歌えたよ。ありがとうね」と感謝を伝える表情も印象的だ。
■アンジェラ・アキのこれまで
アンジェラ・アキ
・メジャーデビュー:2005年9月15日
・デビュー作品:1st シングル『HOME』
・Instagram https://www.instagram.com/angelaaki_official/
・X(旧Twitter) https://twitter.com/angelaaki_x
・YouTube https://www.youtube.com/@angelaakiSMEJ
・OFFICIAL SITE :https://www.angela-aki.online/
1977年生まれのアンジェラ・アキは幼少の頃からピアノのレッスンを開始し、様々な音楽に触れながら成長した。中学までを徳島、岡山で暮らした後、ハワイへ移住、さらにアメリカ・ワシントンD.C.に移り、ジョージ・ワシントン大学で政治経済学を専攻。学生時代に見たサラ・マクラクランのライブをきっかけに音楽活動をスタートさせた。
2005年にシングル「HOME」でメジャーデビュー。1stアルバム『Home』(2006年)が60万枚を超えるセールスを記録し、ブレイクを果たした。
▼アンジェラ・アキ 『HOME』
この年の12月には初の武道館公演を開催。ソロアーティストのピアノ弾き語りによる武道館公演は、史上初だった。
その後も「サクラ色」「孤独のカケラ」などのヒットシングルを生み出し、2ndアルバム『TODAY』(2007年)でチャート1位を獲得。40か所以上の全国ツアーを開催するなどライブにも力を入れ、ピアノと歌を軸にした音楽性とアーティスト・イメージを確立させた。
▼アンジェラ・アキ 『サクラ色』
▼アンジェラ・アキ 『孤独のカケラ』
「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」によって国民的なアーティストに上り詰め、その後も順調な活動を継続したアンジェラは、2014年初のベストアルバム『TAPESTRY OF SONGS – THE BEST OF ANGELA AKI』と全国ツアー、武道館公演を最後に無期限活動停止を宣言。再度一から音楽を学び直す為に渡米し、音楽大学で学んだ後、楽曲提供などを行ってきた。
2023年11月、10年ぶりに日本での活動再開を発表。2024年5月から上演されるミュージカル『この世界の片隅に』の音楽担当として参加し、同ミュージカルより、2024年2月7日に配信シングル「この世界のあちこちに」がリリースされた。
■アンジェラ・アキの音楽解説
◎洋楽とJ-POPの融合
日本で生まれ育ち、母国語は日本語。音楽的なルーツは、ミュージシャンへの道を志すきっかけとなったサラ・マクラクランをはじめ、フィオナ・アップル、ジャニス・イアン、アラニス・モリセット、ベン・フォールズ、スマッシング・パンプキンズなど洋楽が中心。日本語特有の響きや抒情性をしっかりと活かしたリリック、そして、洋楽的な手触りのメロディラインの絶妙なバランスこそが、アンジェラの音楽の軸だ。アレンジは歌とピアノが中心だが、バンドサウンドやストリングスなども積極的に取り入れ、音像自体はきわめてカラフル。生まれ育ちやルーツといった核をしっかりと持ちながら、自らの音楽性を大きく広げているところも彼女の魅力だろう。
◎生々しい歌の表現力とライブパフォーマンス
「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」における一つ一つの言葉を手渡すようなボーカルから、「Again」のおけるパワフル&ポジティブな歌声まで。幅広い表情を備えた歌はまちがいなく彼女の最大の武器だ。特にライブでは生々しい感情表現が露わになり、リスナーを魅了し続けてきた。またピアノ演奏のスタイルも特徴的で、色彩豊かなフレーズはもちろん、曲によっては強く鍵盤を叩き、まるで打楽器のような効果を生み出す。“史上初のピアノ弾き語りによる武道館公演”を実現できたのも、ピアノと歌の相乗効果の賜物だろう。常に“1対1”でオーディエンスと向き合う姿勢、そして、まるで友達ような親密さを感じさせてくれるMCも素敵だ。
▼アンジェラ・アキ 『Again』
◎ミュージカル作品
2014年にシンガーソングライターとしての活動を停止し、家族とともにアメリカに渡ったアンジェラ。カリフォルニアの音楽大学に入学し、音楽理論、作曲の勉強を続けてきた彼女が目標としていたのは、ミュージカル音楽の制作だった。最初の仕事は、東京ディズニーシーのシアターで上演されたショートミュージカル『アウト・オブ・シャドウランド』の3曲の作詞。そして2024年春に上演されるミュージカル『この世界の片隅に』の音楽を担当し、ミュージカル音楽作家としてのキャリアを本格的にスタートさせた。
これまで培ってきたシンガーソングライターとしての経験を活かしながら、登場人物たちの心情を表現するミュージカルの世界へ。アンジェラ・アキの新たなフェーズにぜひ注目してほしい。
■聴くべき人気曲&おすすめ曲5選
「This Love」
2006年5月にリリースされた4thシングル。アニメ『BLOOD+』EDテーマに起用された。
“愛とは何か?”“この恋愛はどこに向かい、私たちの関係はどうなるのか?”そんな根源的なテーマを込めた歌詞、ピアノ、ストリングスを軸にした有機的なサウンド、切なさと力強さを兼ね備えた声が響き合うバラードナンバーだ。最後に到達する“信じる力が 私を自由にする”というフレーズの刻まれた普遍的な意味にも心を奪われる。
「サクラ色」
初の日本武道館公演でサプライズ的に披露され、2007年3月にリリースされた5thシングル。楽曲のバックグランドは、10代後半から20代を過ごしたワシントンD.C.の思い出。音楽家を志し、仕事とライブを掛け持ちしながら夢に向かって必死にがんばっていた日々を振り返りながら、“サクラ色の時代を忘れない”というフレーズに落とし込んでいる。デビュー曲「HOME」の歌詞が引用されているのもポイントだ。
「HOME」
2005年9月にリリースされたメジャーデビュー曲。“HOME=ふるさと”をテーマにしたバラードナンバーだ。楽曲の背景になっているのはもちろん、彼女が生まれ育った徳島の情景。窮屈に感じていた“小さな場所”から離れ、“都会の空に夢を託した”主人公は、淋しさや葛藤を抱えながら日々を生きている。そんなときに思い出すのは、“ふるさと”のことーー。ピアノを中心に据えたアレンジを含め、シンガーソングライターとしての原点となる1曲だ。
「夢の終わり 愛の始まり」
2013年7月リリースの13thシングル。発売後4か月後にアメリカへの音楽留学を発表し、活動休止前最後のシングルとなった。楽曲の主人公は、店に駆けこんできた“君”に強い恋心を持ちつづける店員。時間が経ち、引っ越しした後、たまたま“君”と再会し、そこから恋が始まるーーというストーリーを描き出している。歌詞の物語性、登場人物たちの表情や感情を際立たせるメロディとサウンドは、まるでミュージカル音楽のようだ。
「この世界のあちこちに」
2024年2月リリース。10年ぶりに日本での音楽活動を再開させたアンジェラの復帰第1弾シングルは、彼女が音楽を手がけるミュージカル『この世界の片隅に』のために制作された楽曲。時代の波に翻弄されながら、それでも自分の居場所を探し、懸命に生きる人々の思いを投影しながら、誰もが心を寄せることができる普遍的な楽曲へと昇華している。洗練と抒情性を共存させたソングライティング、そして、さらに豊かさを増したボーカルも素晴らしい。
■再始動したアンジェラアキの活動に注目
ミュージカル『この世界の片隅に』の音楽制作、配信シングル「この世界のあちこちに」で本格的な活動を再開させたアンジェラ・アキ。音楽家としての新たなキャリアをスタートさせた彼女にぜひ注目してほしい。
TEXT BY 森朋之
▼アンジェラ・アキ最新情報はこちら
https://www.thefirsttimes.jp/keywords/1559/