■毎年こんなにも瑞々しいロックンロールを響かせるくれることに驚かされる
ザ・クロマニヨンズが、17枚目のオリジナルアルバム『HEY! WONDER』を2月7日にリリースした。昨年1月18日に発表した16枚目のアルバム『MOUNTAIN BANANA』からほぼ一年。ファンの心と体の中にある、この“クロマニヨンズのペース、リズム”にきちんと応えてくれた。何より本人たちがクロマニヨンズを、ロックンロールを楽しんでいる。
昨年12月13日に27枚目のシングルとして発売された「あいのロックンロール」を始め全12曲が収録されているが、まず18年間、ブルーハーツ時代を含めると約40年もロックンロールをかき鳴らし続けているキャリアがあるバンドが、新しい気持ちで毎年こんなにも瑞々しいロックンロールを響かせるくれることに驚かされる。そして心を躍らせ、こんなにも熱くさせてくれることに、もう感謝しかない。
アルバムが発売される度に甲本ヒロトに新作についてあれこれ聞いてみるのだが「楽しくロックをやっているだけ。それで出来たもの」という言葉が必ず返ってくる。だからそのうちクロマニヨンズに対しては、アルバムのことを根掘り葉掘り聞くのは“野暮なこと”という思いが自分の中に芽生えてきた。
今回もそうだ。「この曲で何を伝えたいんですかって聞かれるってことは、何も伝わってないってことなんですよ。だからもう世に出した瞬間、主導権はお客さんにあります。その曲はみんなのものです」と、明快な答えが返ってきた。そして「どうやって聴いてくれても、替え歌にしてくれてもおもちゃにしてくれてもいい。とにかく世の中の楽しいことのひとつとして機能すればなんでもいいです」と、自分たちもとことん楽しんで作ったのだから、それを聴いた人もただただ楽しんでほしいだけと──。
■徒然なるままに自然体で言葉とメロディを紡いでいる“だけ”と教えてくれた
例えば「ハイウェイ61」という曲について、自身が影響を受けたブルース誕生の地をタイトルにしているのでしょうか──という質問にも「ただつらつらと出てくる歌詞がそれだっただけのことで、ひとつの言葉が次の言葉を呼んでくるんですよね。そうすると何か整合性の取れたものに聞こえてくる。それが面白いんです。最初から結末を見据えて歌を作るんではなくて、ひと言目がふた言目を連れてきて、それから三言目を連れてきて、そうやって出来ていく」と、徒然なるままに自然体で言葉とメロディを紡いでいる“だけ”と教えてくれた。だから毎作純度が高いロックンロールを届けてくれるのだ。もちろん日々聞こえてくるニュースや会話、目に入ってくる映像や風景が心と脳に蓄積し、それが曲を作るときに思いとして出てきて、昇華されるのかもしれない。これも推測に過ぎないが…。日々アナログレコードで昔のグッドミュージックを楽しんでいるということは、大きく影響していると思うが。
■「何かが伝わったと思えば、それはすべて正解」ということだ
自然体で言葉とメロディを紡いでいる、もう一人のソングライター・マーシー(真島昌利)が書いた「くだらねえ」は、最初から最後まで“くだらねえ”という言葉だけで貫いている。前作の『MOUNTAIN BANANA』に収録されている同じくマーシー作の「さぼりたい」も、“さぼりたい ふけたい 今日は”という言葉だけで構成されており、この曲を初めて聴かされたとき甲本は“もうほかの言葉は出てこないでほしい”と思ったというが、「くだらねえ」もそうだった。「マーシーがこんな曲出来たんだって弾き始めたときに、これは終わりまで “くだらねえ”っていう言葉しか出てこないんだろうなって感じてたよ」と教えてくれた。これも聴き手の感じ方は自由なのだが、今の日本の政治や社会に感じる様々なことについて、この言葉ほど言い得て妙なものはないと感じた。これが前述した甲本の「何かが伝わったと思えば、それはすべて正解」ということだ。
「よくあの歌に込めたメッセージの意味は?って聞かれるし、言うじゃないすか。それは僕らが発信したものではなくて、最初からあなたの中にあったもので、あなたが気付くきっかけとして僕の歌が採用されただけで、それを伝えるつもりで作ったことじゃない」と甲本のスタンスには一切ブレがない。
甲本は「ロックンロールは若気の至りと思う。なんかいきがってるんですよね、どっかで。できもしない恐れ知らずの自信があったり。そこに若気の至りが凝縮されるんですけど」とロックンロールとの出会いに感謝しながら、その出会いに敵うものはないと信じ、歌い続けている。そんな、まさに骨の髄までロックンロールに魅せられた人間の生き様が、剥き出しになって襲い掛かってくるザ・クロマニヨンズのアルバムほど強いものはないと思う。新作『HEY! WONDER』を聴いて改めてそう感じた。
■全43公演、全国のファンに熱狂を届ける
ザ・クロマニヨンズはこのアルバムを引っ提げ全国ツアー『ザ・クロマニヨンズ ツアー HEY! WONDER 2024』に臨む。2月の埼玉を皮切りに全43公演、全国のファンに熱狂を届ける。
「僕はライブやってるとき、1ステージ1ステージがもう至福の時間ですよ。自分が楽しむことに精一杯でみんなのことを気にする余裕がないんです。でもきっと観ている方はそれがいちばんいいんでしょうね。それがお客さんが盛り上がってることに少し影響してくれてるんだったらうれしいな」と、ロックンロールがそこにあって、甲本は常に受け身で自分が楽しませてもらっているという感覚だ。
「お客さんも自由に楽しんでほしい。客席で寝てもいい。俺は全部出す。余計なものまで全部出す。あなたの嫌いなものが出るかもしれない。全部出すから、好きなもんだけ食らってほしいです。もう1回食べたいと思ったらまた来ればいいし」
こんなことを言われたら、絶対に観たくなる──“完全無欠のロックンローラー”、甲本ヒロト(Vo)、真島昌利(Gu)、小林勝(Ba)、桐田勝治(Dr)=ザ・クロマニヨンズのライブで純度120%のロックンロールを“食らいたい”。
TEXT BY 田中久勝
リリース情報
2024.2.7 ON SALE
ALBUM『HEY! WONDER』
ライブ情報
https://www.cro-magnons.net/live/
ザ・クロマニヨンズ OFFICIAL SITE
https://www.cro-magnons.net/