テン年代のヒップホップシーンに大きな変革をもたらした東京出身の大人数クルー・KANDYTOWN。スタイリッシュさとタフさを併せ持ち、“街”を描き続けた彼らが日本武道館公演をもって“終演”する。
そんなKANDYTOWNが与えた影響と、揺るぎない存在性を考察していく。
■東京発、大人数で形成するヒップホップクルー
KANDYTOWN(読み:キャンディタウン)
・OFFICIAL SITE https://www.kandytownlife.jp/
・Twitter @kandytownlife
・Instagram @kandytownlife
・YouTube @KANDYTOWN
東京の世田谷エリアを中心に同じ時を過ごしてきたほぼ同世代の仲間によって構成されるKANDYTOWN。このクルー名は、彼らに縁のある喜多見や経堂といったエリアの頭文字が“K”であることから一帯を「K-TOWN」と呼んだところからついたという。
メンバーの中でも年上組を中心にIO、Ryohuなどで構成されるBANKROLLと、その活動に影響を受けた年下組KEIJU、DJ WEELOWなどで構成されたYaBastaが合流し、2012年頃からKANDYTOWNとしての活動を開始。
ラップやトラックメイク、DJといった音楽面だけではなく、デザインや映像、ファッションなど、多方面に渡るアートフォームを自分たちのクルーやソロプロジェクトとして制作。
既存の価値観や流儀をトレースするのではなく、自分たちで新しい流行を生み出していく鋭い感性と、メンバー同士の濃厚な個性が絡まりあうことで生まれる複合性が大きな魅力である。
『BLAKK MOTEL』などの音源のインディーズ/ストリートリリースを経て、2016年にメジャー1stフルアルバム『KANDYTOWN』をリリース。並行して各メンバーも積極的なソロリリースを展開し、ストリートカルチャーシーンに新風を巻き起こした。
▼KANDYTOWN – BLAKK MOTEL (Trailer)
■KANDYTOWN × ファッション
IOやKEIJUなど、同じ学校の出身者を擁するKANDYTOWN。KEIJUの「学年のイケてる集団は絶対にお洒落」という言葉からも、そしてメンバーがアパレルショップで働いていたという経験からもうかがえる通り、ストリートの感性に基づいた彼らのファッション性は、様々なブランドやメーカーからも注目され、積極的なコラボレーションを展開。
当時、ニューカマーであるKANDYTOWNが伝統ある街・浅草を闊歩し、その足元をReebokが固めるという意匠も印象的な『Reebok CLASSIC X KANDYTOWN』 の「GET LIGHT」は、彼らを一躍スターダムに押し上げた。
▼Reebok CLASSIC X KANDYTOWN [GET LIGHT]
また、ヒップホップの定番ブランド・ティンバーランドとのコラボ楽曲「Few Colors」では、KANDYTOWNの映像チーム・THE TAXi FILMSがMVを制作。さらに、NIKE『AIR MAX 2090』をテーマに制作した「PROGRESS」(ディレクターは彼らと縁の深い山田健人)など、KANDYTOWNとファッションには密接な関係がある。
▼KANDYTOWN-Few Colors
▼KANDYTOWN – PROGRESS
■終演の発表、『LAST ALBUM』発売、最初で最後の武道館
そんな彼らは昨年9月に3rd ALBUM『LAST ALBUM』のリリースを発表。発表するや否やファンの中で憶測が飛ぶ中、10月に活動の“終演”を発表。クルーとしての音楽活動より先に自然発生的に繋がった仲間で構成されるKANDYTOWNらしく“解散”という言葉を用いないことが彼らの繋がりの強さを際立たせる。
さらに、昨年11月3日、東京・両国国技館にて、BAD HOP、梅田サイファー、NITRO MICROPHONE UNDERGROUND、YENTOWN、Creative Drug Store、そしてKANDYTOWNという6組のクルーが登場したヒップホップイベント『THE CREW -6MAN SPECIAL LIVE-』でトリを飾った際、ライブ終了後に2023年3月8日の日本武道館公演を発表。この知らせを受け、会場からは大きな拍手が上がった。
なお、武道館公演のチケットは約10時間で即完。ファンからのリクエストを受けてステージレイアウトを変更して行った追加販売も販売直後に完売している。
その武道館公演に先駆けて2022年11月3日にリリースされたのが、アルバム『LAST ALBUM』である。
故YUSHIが描いたイラストでパッケージされた『KANDYTOWN』、メンバーのマグショット的な写真がコラージュされた『ADVISORY』に続く、クルーとしては3枚目となる本作のジャケットは、路上にラフに屯するメンバーが活写され、そのビジュアルからも“KANDYTOWNの原点”を感じさせる。
それと同時に、これまでの経験で培われたスキルやサウンドクリエイト、集団グループならではのバラエティとクオリティを聴くと、その終演をあまりにも惜しく感じさせるアルバムだ。
先日2月14日には、Billboard Live TOKYOで開催された購入者特典ライブより、バンドセットでの「Blue Verse」のパフォーマンスがYouTubeにて公開され、発売と同時に即完した武道館公演への期待をさらに高める。
▼KANDYTOWN – Blue Verse from Session at Billboard Live TOKYO
■『THE FIRST TAKE』で「Curtain Call」を披露
KANDTOWNにとって最後のアルバムと銘打たれた『LAST ALBUM』。
その作品のオープニングを飾る「Curtain Call(feat. KEIJU, Ryohu, IO)」のパフォーマンスが『THE FIRST TAKE』にて公開された。
KANDYTOWNのメンバーが集結したMVとは打って変わり、『THE FIRST TAKE』のパフォーマンスは、 この曲のマイクを取るKEIJU、Ryohu、IOの3MCと、ライブでもDJを務めるDJ Weelowの4人のみが登場するシンプルなスタイル。
画面向かって右にRyohu、中央にIO、左にKEIJUが立ち、マイクを握り、イヤモニをはめると、「Weelow Go」というKEIJUのアナウンスでライブはスタート。その多くを語らないスタンスからも、この曲にある“喋らずに分からせる royalty”(KEIJUのリリック)というメッセージ性や、現在の彼らの思いが伝わってくるようだ。
楽曲通りKEIJU、Ryohu、IOとマイクを回し、それぞれのパートのライムの部分にメンバーが言葉を被せ、さらにその楽曲のメッセージを増幅させるパフォーマンスを展開。楽曲を演じ終えても、MC的な言葉は存在しない。そこからも彼らにとっていちばん雄弁にメッセージするのは、このラップの内容であるのだと意思を感じた。
パフォーマンスを終え、視線をこちらに向ける彼らの眼差しの先には、一体どんな光景が広がるのか、大いに期待させられる仕上がりだ。
■その他にチェックしておきたい5曲
「R.T.N」
KANDYTOWNの年上チームである、BANKROLLのメンバーがイニシアチブを取った一曲。KANDYTOWNの中心的人物とも言えるYUSHIの声をフックに据え、サンプリングを基調とした疾走感のあるビートが耳に飛び込んでくる。メンバーのラップも、ナイトクルージングや夜の街へ繰り出すことへ心を弾ませるような喜びに満ち溢れ、“遊ぶ”という彼らの原点やモチベーションを濃厚に感じさせる。
「You Came Back」
KEIJU、IO、Holly Q、Gottzがマイクを握る、『LAST ALBUM』収録の「You Came Back」。電車の整備場と思しき場所で、楽曲の中でメインを取る順にラッパーをカメラが追いかけるというワンカットで制作されたMVは、スタイリッシュでありながらも、どこか彼らの持つ彼ら泥臭い部分も表現される。そして、そういった“輝きと汚れ”という両面性こそが、KANDYTOWNの持つ魅力だと改めて気づかされる。
「One More Dance」
コロナ禍での緊急事態宣言の発出に伴い“STAY HOME EDITION”として発表され、2021年2月14日にリリースの『LOCAL SERVICE 2』にブラッシュアップした形で音源収録された「One More Dance」。踊ることが禁じられた情勢の中で、「One More Dance」とメッセージを発信し、トロピカルハウス的なビートアプローチはダンサブルではあるが、全体のトーンとしては渋く彩られ、そのバランスもKANDYTOWNならでは。この曲にはアディショナル・アレンジでYaffleが参加。
「Last Week」
IO、Gottz、MUDがメインとなる「Last Week」。何台も停められた高級車と、レザージャケットに身を包んだKANDYTOWNのメンバー、そしてTRAPサウンドという面では、KANDYのMVではメンバーの色気が強く押し出されており、進行形のユースカルチャーとしてのヒップホップとの親和性を高く感じさせる。いっぽうで、それがあまりダーティに映らないスマートさがあるのは、彼らが醸し出す空気によるものだろう。
「KOLD CHAIN (Kruise’ Edition)」
KANDYTOWNとトラックメイカーのnoshがタッグを組み制作され、2015年に500枚限定という形でストリートリリースされた「Kruise」。そこに収録された楽曲をメガミックス的につなぎ合わせたのが本MV。コインランドリーや雨の路上などを舞台に、スターダムに登り始める直前のKANDYの面々が登場し、飾らないスタイルの中にも“次世代の主役”を狙うような鋭さを感じさせ、単なる都会派では決して終わらないタフさを感じさせる。
■KANDYTOWN 楽曲リンク
“終演”の武道館公演で、シーンへの足跡をいっそう色濃く残すことになるであろうKANDYTOWN。そんな彼らが残した軌跡を、改めて感じ取ってほしい。
TEXT BY 浦沢裕太