昭和、平成、そして令和を華麗に駆け抜ける、老若男女問わず支持され続ける稀代のエンターテイナー・郷ひろみ。そのレコードデビュー50周年を記念したオールタイム・ベストアルバム『Hiromi Go ALL TIME BEST』が12月21日にリリースされた。1972年8月1日、シングル「男の子女の子」でレコードデビュー以来、シングル108作をコンスタントにリリースし続け、それぞれの時代を代表する数々の名曲を発信してきた。それは日本の音楽シーンの変遷を映す鏡でもある。
■鮮烈だった16歳でのデビュー
16歳の郷ひろみのデビューは鮮烈だった。シングル「男の子女の子」のジャケットを見てもわかるが、当時としては珍しかったその中性的なルックスと甘い歌声は、瞬く間に多くの女性ファンの心を掴み、この年の「第14回日本レコード大賞」新人賞に輝き一躍トップアイドルに躍り出た。甘酸っぱさが薫るメロディが印象的な「男の子~」は、当時32歳で“新進気鋭”というべき存在だった大作曲家・筒美京平が作・編曲を手がけている。ソウルの佇まいを感じるギターのフレーズ、ブラス、ストリングスが重なる、72年当時のシーンを見渡してみても感度が高い歌謡ポップスだ。この筒美と作詞・岩谷時子のゴールデンコンビは、9枚目のシングル「君は特別」まで続くが、中性的な魅力やアイドルとしての瑞々しさを前面に押し出しながら、「男の子~」では“一度の人生 だいじな時間”という普遍的な言葉を使ったり、少し背伸びした少年の気持ちの光と影を鮮やかに描いてきた。
■新たな郷ひろみの世界観を作り上げた10枚目シングル
シンガーとしての転機は74年に発売された10枚目のシングル「よろしく哀愁」(作詞:安井かずみ 作曲:筒美京平)ではないだろうか。少年から大人への階段を上りながら変化し、揺れる心を見事に描いた安井の歌詞と、どこか翳りを感じさせてくれる筒美のメロディが、新たな郷の世界観を作り上げた。この曲で初のオリコンシングルチャート1位を獲得。
■稀代のプロデューサー・ジャニー喜多川さんに厳しく叩きこまれたエンターテイナーとしての基礎
以前インタビューした際、郷はジャニー喜多川氏について「ジャニー喜多川という人が郷ひろみの生みの親です。3年間しか一緒にいなかったけど、一度も褒めてくれませんでした。でもその時教えてもらったこと、例えばステージに立ったら絶対に下を向いてはいけないということは、今も守っています。佇まいが大きく見えるし、声も出ます。3年間でジャニーさんに教わったこと、そして自分の中で自分にしかわからない、ソロシンガーとして培ってきたことがたくさんあるので、それが伝わるかは別として、若い人に伝えていかなければもったいないなという気持ちはあります」と語ってくれた。郷のエンターテイナーとしての基礎、芯になっているものは、稀代のプロデューサー・ジャニー喜多川さんに厳しく叩きこまれたことが、今も郷の心と体の中に息づいているのだ。
■人々の心をワクワク、ドキドキ、そして切なくさせるヒットソングたち
その後も郷は人々の心をワクワク、ドキドキ、そして切なくさせるヒットソングを数多く歌ってきた。「お化けのロック」に続き樹木希林とのデュエットで、そのコミカルなキャラクターを印象付けた「林檎殺人事件」。同じく1978年には阿木燿子作詞×都倉俊一作・編曲の、美メロとビッグバンドジャズサウンドが印象的なメロウなAOR歌謡「ハリウッド・スキャンダル」では、コミカルとは真逆のエレガントさを見せ、振れ幅の大きさを見せつけた一年だった。本人出演のドラマ挿入歌で名匠・萩田光雄のアレンジが光る「マイ レディー」、南佳孝作曲のラテンフレーバーのダンサブルな「セクシー・ユー (モンロー・ウォーク)」は、その後「お嫁サンバ」(81年)、「GOLDFINGER’99」と続く、ラテン歌謡ポップスともいうべき郷の音楽の大きな流れのひとつの基点になっている。誰もが知る“ジャパーン”というフレーズが印象的な「2億4千万の瞳 -エキゾチック・ジャパン-」は、「NHK紅白歌合戦」では4度も歌い、まさに国民的ソングだ。
■一年一年丁寧に、しっかりと現在地の“郷ひろみ”を打ち出す
郷は「時代が何を求めているのか、そこでどんな音楽を響かせるべきか、時代を知らないといけない」と、以前のインタビューで語ってくれた。ロックミュージックが席捲していた1990年代前半のヒットチャート。郷は「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」(1992年)、「言えないよ」(1994年)、「逢いたくてしかたない」(1995年)という、キャリアの代表曲にもなる“バラード3部作”でヒットさせる。郷は「たまたまタイミングがよかったと思う」と謙遜するが、「この年代の郷ひろみは、こういう音楽をやっていたと一目瞭然なのがシングルの在り方だと思う」と語ってくれたように、一年一年丁寧に、しっかりと現在地の“郷ひろみ”を打ち出している。
『Hiromi Go ALL TIME BEST』の完全生産限定盤にはCD5枚にディスクごとに1970年代、1980年代、1990年代、2000年代、2010年代以降に発表されたシングルナンバーが81曲セレクトされていて、郷ひろみの濃密でカラフルな50年の歩みを楽しむことができる。
通常盤(CD3枚組)は前述した代表曲から最新シングルを完全網羅している。
■令和になっても変わらない、郷ひろみのエンタテイメントを貪欲に求める姿勢
「歌謡曲は僕ら世代の人には懐かしくて、歌謡曲を知らない世代には新鮮だと思う。歌謡曲の存在を若い人にもっと知ってもらいたい」という思いから、昨年8月には郷の楽曲555曲がサブスクリプションサービスで全世界に向け解禁され、それがニュースにもなった。令和になっても郷が貪欲にエンタテイメントを求める姿勢は変わっていない。「音楽もアナログからまさかデジタルの時代に変わりました。でもデジタルの時代になったからこそ、永遠に残っていくものという意識が強くなりました。だからよりしっかり考えて、大切に作っていかなければいけません。まだまだ歌っていないジャンルもあるので、挑戦していきたい」と語ってくれている。「変化の先に絶対に進化がある」と、心の柔軟性を大切している郷だからこそ、いろいろな音楽にチャレンジし続け、それが自身の引き出しとなり、エネルギーに昇華させ50年歌い続けてくることができたのではないだろうか。
■まさに金字塔といえる『Hiromi Go ALL TIME BEST』
70年代から現在まで、ジャパニーズポップスのど真ん中を闊歩する郷の“強さ”を実感できるまさに金字塔のような作品が『Hiromi Go ALL TIME BEST』だ。
「僕はいつも”郷ひろみ”をやるだけです」──55周年の郷ひろみはどんな歌で我々を楽しめせてくれるのか、60周年のときの郷ひろみはどんなライブを見せてくれるのか、ますます楽しみになった。
TEXT BY 田中久勝
楽曲リンク
リリース情報
2022.12.21 ON SALE
ALBUM『Hiromi Go ALL TIME BEST』
郷ひろみ OFFICIAL SITE
https://www.hiromigo.com