ずっと真夜中でいいのに。「秒針を噛む」を始め、「フラジール」「ロウワー」など、これまで手がけた楽曲がYouTube累計再生回数1億超えのボカロPぬゆりによるソロプロジェクト・Lanndoが1stアルバム『ULTRAPANIC』をリリース。
本稿では、ぬゆり本人に訊いたLanndo始動の経緯、アルバムの魅力を紹介したい。
▼Lanndo 1st Album 「ULTRAPANIC」Album Trailer
■ボカロP・ぬゆりのソロプロジェクト
Lanndo(読み:ランド)
・始動年:2019年
・影響を受けたアーティスト:東京事変、ハヌマーン
・OFFICIAL SITE https://nuluth.com/
・『ULTRAPANIC』SPECIAL SITE https://ultrapanic.com/
・Twitter @nulut
・Instagram nulut
・ニコニコ https://www.nicovideo.jp/user/10917285/mylist/29361813
・YouTube https://www.youtube.com/channel/UCTpvP62LES9r-5xyxZBsUWg
2012年より、ボカロPとして活動を開始した“ぬゆり”。代表曲「フラジール」はYouTube2,300万回再生を超え、他にも「命ばっかり」1,770万再生、「ロウワー」2,180万再生などボカロヒットを連発し、チャンネル総再生数は1億超える。
昨今では、ずっと真夜中でいいのに。「秒針を噛む」の作曲(共作)・アレンジを担当したことでも話題に。
▼ずっと真夜中でいいのに。『秒針を噛む』MV
そんな彼が2019年、ソロプロジェクトとして立ち上げたのがLanndo(ランド)である。
2021年にゲストボーカルにEveとsuis(fromヨルシカ)を迎え、「宇宙の季節」をリリースすると、2022年4月にはTVアニメ『シャドウバースF』オープニング楽曲「心眼」を 須田景凪とタッグを組み配信リリース。
▼Lanndo feat.Eve,suis (from ヨルシカ)「宇宙の季節」Music Video
▼TVアニメ「シャドウバースF」ノンクレジットOPムービー
同年12月7日、ゲストボーカル9組を迎えた1stフルアルバム『ULTRAPANIC』を発表する。
■衝撃だった、ボカロ音楽との出会い
ここで、ぬゆりの音楽遍歴を遡っていきたい。
親の勧めで3歳からエレクトーンを始め、途中でピアノに転身。中学2年生までクラシックを弾いていた。さぞかし幼少期から音楽が好きだったのかと思いきや、本人はクラシックが好きだったわけでも、巷で流れるJ-POPが好きだったわけでもない。ましてや、曲を作ろうと考えたこともなかったという。転機が訪れたのは高校生になってから。
ある日、知り合いの小学生に「最近はボーカロイドが流行ってるんだ。すごく面白いよ」と教えてもらう。試しに聴いてみると、これまで耳にしたことのなかった音楽に衝撃を受けた。これがぬゆりにとって本当の音楽との出会いだった。そこからハチやwowakaを聴き、さらにボカロ楽曲の世界へとのめり込んでいく。
▼ハチ MV「パンダヒーロー」
▼wowaka 『裏表ラバーズ』feat. 初音ミク
間もなくして、自身でもiPod touchでシーケンサー機能の付いた作曲アプリを使って曲作りをスタート。初めて手ごたえを感じたのは、2012年に投稿した「やけるさかな」。
▼【GUMI】やけるさかな【オリジナル】
その曲がリスナーだけでなく、同年代のボカロPの間でも話題となり、次第に彼の名前は業界内外から知られるようになった。
■“ぬゆり”と“Lanndo”の違い
ぬゆり本人曰く、ぬゆりとLanndoは明確に差別化しているとのこと。
まず、ぬゆり名義では自分を曲に投影するよりも、人を驚かせることや、語感を大事にして感性で歌詞を書いてきたが、そんな創作活動を続けていくなかで、ある種のマンネリを感じるようになる。それを脱却するために、これまでひとりの力で作ってきた制作スタイルを変えることを思いつく。
「人の力を借りようと思いました。ドラムとかベースとかギターはもちろん、ミックスまで人の力を借りて作ろうと始めたのがLanndoなんです」(Lanndo)
自分が楽しめることに重きを置いてスタートしたソロプロジェクト“Lanndo”。そのテーマを表すに相応しい名前なのだと続ける。
「このプロジェクトはとにかく“楽しいこと”を重視しているので、名前も楽しいことを表す言葉が良いなって思いました。で、『楽しいことってなんだろう?』と考えた時に、象徴的な存在として“ランド”が浮かんだんです。“~~ランド”って聞くと、楽しそうな場所だろうなって(笑)。ディズニーランドとかそうですよね。ゲストボーカル、クリエイター、リスナー…仲間と一緒に楽しめる音楽を発信する場所として、ローマ字打ちの“Lanndo”と名づけました」(Lanndo)
曲の向き合い方にも違いがある。ぬゆりでは、誰がどのように歌っても成立する曲作りをしていたのに対し、Lanndoは先に曲を作ったうえで誰に歌ってもらうのかを考える。いわゆる当て書きではないが、そのボーカルが歌うことで、より曲の魅力を引き立たせることを計算している。
■ゲストボーカルと描く『ULTRAPANIC』
Lanndoとして待望の1stアルバム『ULTRAPANIC』。TVアニメ『シャドウバースF』オープニング曲 「心眼」、 フィーチャリングにEve,suis(ヨルシカ)を招いた「宇宙の季節」に加え、 YouTube再生回数2,100万超えした、ぬゆり名義のボカロ楽曲「ロウワー」のセルフカバー、 さらにはACAね(ずっと真夜中でいいのに。)、 Reolなど豪華ゲストボーカルが参加する全12曲入りだ。
タイトルには、彼なりの筋の通った想いがある。2020年にインストアルバム『Control You』をリリース後、人と人の繋がりを描いたフィクションの楽曲を集めたアルバムを作ろうと決める。ところが制作を始めてすぐ、ぬゆりは体調を崩し、自身の周りでもいろんなことが起こった。それをきっかけに、一度立ち止まって本当に表現したいことを模索する日々へ。
その結果、「もっと自分の内面にフォーカスしたアルバムにしよう」という気持ちに変わっていく。それから、自分とはどんな人間なのかを考えた。
「全然落ち着いてないし、良くないところもいっぱいある。それってどういう状態なんだろうって考えた時に、“パニック”だなと思ったんです」(Lanndo)
自分の人間性や、取り巻く環境を“パニック”と言い表したことで、『ULTRAPANIC』へと結びつく。
これまで作詞にかける時間は1日程度だったが、今回は作品の方向性もあって、楽曲制作には時間を要した。これは「自分をさらけ出すのって…恥ずかしいことなんです」とのこと。それが色濃く表れているのは、Reolがフィーチャリングで参加した「仇なす光」。
楽曲を渡した時、Reolがふと「これは創作に対する苦悩の歌だね」と言った時、自分の想いが伝わったうれしさと、曲を聴いて心を見透かされた恥ずかしさを初めて感じたのだと語ってくれた。
アルバムに寄せて参加アーティスト様よりコメントを頂いております。
本日はReolさんより頂いたコメントを公開いたします。#ULTRAPANIC pic.twitter.com/7p762OJARA— ぬゆり/Lanndo (@nulut) November 30, 2022
また、アルバムの骨子になっているのは、須田景凪の「冬海」であるとも付け加えている。
「この曲を出したくて『ULTRAPANIC』を作った気がします」(Lanndo)
▼Lanndo feat. 須田景凪「冬海」Music Video
ストリングスアレンジなど、壮大な世界観は彼がずっと挑戦したかったサウンドプロダクト。それがようやく形となったのだ。今作はぬゆりが発表してきた楽曲とは一線を画すアルバムとなっており、本人にとっても感慨深さがあるようだ。
「やりたいこと、言いたいことを含めて、自分の心に忠実に作りました。正直…『ここまで言いたいことを曲にして、大丈夫かな?』という不安はありました。結構まとまりのないアルバムに仕上がっちゃったけど、いろんな人たちが僕の楽曲と向き合ってくれたおかげで納得のいく出来になりました。これは自分だ! って胸を張って言い切れる作品です。すごく満足しています」(Lanndo)
インタビューを通して感じたのは、彼は周りやリスナーに対して気配りの人である、ということだ。「こういう言い方でもいいのかな…」と、終始自分の発言で誰かを嫌な気持ちにさせないか、誤解を生まないかを気にする。音楽制作はもちろんのこと、そんな人が「自分の心に忠実に作った」と発したことに、すごく大きな変化を感じる。そういう意味で『ULTRAPANIC』は、彼の内面を見せた純度100%の作品だと言えるだろう。
■ハマるならコレ!人気曲5選
「フラジール」
ぬゆりが多くの人に注目されるきっかけとなった「フラジール」。YouTubeで公開されているMVは、2022年11月現在までに2,366万回も再生されている。「とにかく聴いた人を驚かせたい」という狙いで作っただけあり、約50秒あるイントロでは徐々にピッチが落ちて、再び盛り上がっていく斬新なアプローチや、途中でギターがカッティングだけになったり、ボーカルのカッティングが入るなど、実験的な要素が多い。いっぽう、歌詞は物語性が高く、曲と歌詞と引き込む求心力が高い。
「ロウワー」
スマートフォン向けゲーム『プロジェクトセカイ』のユニット・25時、ナイトコードで。に書き下ろされた楽曲。Aメロの捲し立てるように歌うボーカルから、サビで開ける流れが秀逸。シームレスなメロディラインでありながら、各パートの存在感が強い。歌詞については、とある理由でグループから離れないといけないと思った子が、仲間たちの力で輪に戻っていく姿が描かれている。サウンド的には、初期と最新のぬゆりらしさがバランス良く出ている。
「フィクサー」
サウンドにフォーカスを当てて作られた楽曲。ぬゆりは今作で初めてエレクトロスイングに挑戦していて、キックが入りつつ、スネアをほとんど使っていないのが特徴だ。ちなみにボーカロイド版を投稿してから一年が経ったのを記念して発表したセルフカバーは、自分が歌唱したらどうなるのかを知りたくて作ったという。これまで自ら歌唱する音源を出してこなかったが、ソングライターとしてだけでなく、ボーカリストとしての魅力も堪能できる。
▼フィクサー / ぬゆり – fixer / nulut
「宇宙の季節 feat. Eve,suis(fromヨルシカ)」
suis、Eveとプライベートで遊んでいた時に「一緒に何か作ってみない?」という話になり、生まれた一曲。ふたりの声質をイメージして曲を書いただけあり、音域の広さ、ツインボーカルの魅力を巧みに引き出している。さらに歌詞でもお互いの掛け合いが魅力的。ふたりの人物が出会って、そこから別れることになってしまい、どんな行動に出るのかが描かれたストーリー。彼の書く曲で登場人物が複数出ることは珍しいので、その点においても新鮮。
「心眼 feat.須田景凪」
アニメのオープニング曲ということもあり、実は王道のギターロック曲を用意していたそうだ。ところが須田の「ぬゆりらしさもちゃんと出ているうえで、アニメの楽曲として発表できたら面白いよね」というアドバイスで最終的に「心眼」が選ばれた。サウンド的には、彼が2017年に発表した「フィクサー」っぽさもありつつ、ジャズ要素を抑えてロック調の仕上がりになっている。歌唱パートはもちろんピアノソロにもぜひ注目してほしい。
■Lanndoの最新情報をチェック
Lanndoを通して、ぬゆりはサウンドアプローチだけでなく、音楽に対する意識も大きく変わったと断言。それは自分の胸の内を音楽に投影したことで、楽曲の持つメッセージ性が明らかに強度を増したからである。
今後、彼の音楽はさらに進化を遂げるだろう。ぬゆり、Lanndoの存在がさらに大勢の人に見つかる日も近いはずだ。
INTERVIEW & TEXT BY 真貝 聡
▼Lanndo 最新情報はこちら
https://www.thefirsttimes.jp/keywords/949/
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https://www.thefirsttimes.jp/keywords/951/