今や日本のポップカルチャーを代表する存在となった、YOASOBI。
彼らはどのようにして数々のヒット曲を生み出し、幅広い世代から人気を集めるようになったのか? その成り立ちを代表曲と共に改めて紹介していきたい。
■小説を音楽にするユニット・YOASOBI
YOASOBI(ヨアソビ)
・結成日:2019年10月1日
・メンバー:Ayase / ikura
・OFFICIAL SITE https://www.yoasobi-music.jp/
・YouTube https://www.youtube.com/channel/UCvpredjG93ifbCP1Y77JyFA
・Twitter @YOASOBI_staff
・TikTok yoasobi_ayase_ikura
YOASOBIは、コンポーザーのAyase、ボーカルのikuraからなる2人組。“小説をもとに楽曲を作る”というユニークなコンセプトで2019年10月に結成、同年11月に公開した第一弾楽曲「夜に駆ける」で一躍ブレイクを果たした。
▼YOASOBI「夜に駆ける」 Official Music Video
同曲はBillboard Japan 総合ソングチャート“HOT100”にて2020年の年間1位を獲得し、2022年6月には史上初のストリーミング累計8億回再生を突破する爆発的なヒットを記録。
その後も数々のヒット曲を世に放ち、『NHK紅白歌合戦』2年連続出場(第71回・第72回)や夏フェスへの出演など、活躍の場を広げている。
■Ayase、ikura、自由に音楽活動できる場所
Ayase、ikuraともに個人活動を積極的に行っているのも、YOASOBIのひとつの特徴だろう。
そもそも、YOASOBIの名前の由来も、それぞれの個人の活動を“昼の姿”、ユニットとしての活動を“夜の姿”に喩えた自由なスタンスから来ている。
10代から音楽の道を志してきたふたりの抜きん出た才能がYOASOBIのブレイクの大きな理由であることは間違いないだろう。
Ayase(アヤセ)
・担当:VOCALOID producer / YOASOBI composer
・生年月日:1994年4月4日
・出身地:山口県
・Twitter @Ayase_0404
・Instagram ayase_0404
・YouTube https://www.youtube.com/c/Ayase0404
・ニコニコ https://www.nicovideo.jp/user/86488427/mylist/64177300
Ayaseは16歳の時にバンドを結成し、ラウドで激しいロックサウンドを武器にライブハウスで切磋琢磨してきたキャリアの持ち主。
自身の体調不良でバンドが活動休止したのをきっかけにボーカロイドを用いた楽曲制作に取り組むようになった。
▼シネマ / 初音ミク
aikoやスキマスイッチやEXILEなどを聴いて育ち、バンド時代はマキシマム ザ ホルモンやBRING ME TO THE HORIZONなどのハードコアなバンドに憧れてきたルーツを持つ。
また、LiSA×Uru、森七菜、Hey! Say! JUMP、IDOLiSH7といったアーティストへの楽曲提供を行っている。
▼LiSA×Uru – 再会 (produced by Ayase) / THE FIRST TAKE
▼Hey! Say! JUMP – 千夜一夜 [Promotion Video (Short Ver.) ]
最近では、ボカロ曲のセルフカバー(※「夜撫でるメノウ」はストリーミング累計再生回数1億回を突破)や、書き下ろし楽曲「飽和」を発表するなど、Ayase自らがボーカルを担う機会も多い。
▼Ayase「飽和」Official Music Video
ikura(イクラ)
・担当:YOASOBI vocal / シンガーソングライター(幾田りら)
・生年月日:2000年9月25日
・出身地:東京都
・OFFICIAL SITE https://lilasikuta.jp/
・Twitter @ikutalilas
・Instagram lilasikuta
・YouTube https://www.youtube.com/channel/UCztEY6czNyJKjRWMwuur9bg
・TikTok lilaasikuta
ikuraは物心ついた時から歌手を目指し、中学3年生の時に自ら作詞作曲するシンガーソングライターとしての音楽活動をスタート。
子供の頃からミュージカル映画シリーズ『ハイスクール・ミュージカル』がお気に入りで、テイラー・スウィフトなどの海外アーティストに憧れて育ってきた。
シンガーソングライターとしては“幾田りら”名義で活動中。また、2021年公開の細田守監督映画『竜とそばかすの姫』では初の声優をつとめるなど、多方面に活躍している。
▼幾田りら「スパークル」Official Music Video
■小説×音楽:ユニット始動から展開の広がり
YOASOBIの楽曲には原作小説の存在が欠かせないが、“小説を音楽にする”というコンセプトはどのようにして生まれたのだろうか。
YOASOBIは、小説・イラスト投稿サイト『monogatary.com』から生まれたユニットだ。
『monogatary.com』では、運営が提案するお題に対して、ユーザーが自由に物語を投稿することができ、その運営スタッフからAyaseに声がかかり、ボーカリストとしてikuraが加わったのがYOASOBIのはじまりである。
「夜に駆ける」の原作小説である『タナトスの誘惑』(星野舞夜・著)は、『monogatary.com』上で開催されたコンテスト『モノコン2019』にてソニーミュージック賞で大賞に輝いた作品だ。
他にも「たぶん」や「大正浪漫」など、『monogatary.com』への投稿小説を原作にしたYOASOBIの楽曲は少なくない。誰でもヒットソングの“原作者”になることができる、というのもYOASOBIの新しさのひとつだ。
▼YOASOBI「たぶん」Official Music Video
▼YOASOBI「大正浪漫」Official Music Video
活動の幅を広げる中で、YOASOBIは『monogatary.com』投稿作品以外にも様々なタイプの小説を原作にした楽曲を生み出してきた。
例えば、2022年2月に発表された「ミスター」は直木賞作家の島本理生による短編小説『私だけの所有者』が原作。
▼YOASOBI「ミスター」Official Music Video
同作を収録した短編小説集『はじめての』には、他にも辻村深月、宮部みゆき、森絵都が“はじめて〇〇したときに読む物語”をテーマに書き下ろした小説を収録。
2022年5月には森絵都の小説『ヒカリノタネ』を原作にした「好きだ」がリリースされるなど、4人の直木賞作家による小説を原作にYOASOBIが楽曲を制作する意欲的なプロジェクトが進んでいる。
また、2022年夏には楽曲の原作小説やAyaseとikuraがセレクトした書籍などの関連作品を販売する移動式書店“旅する本屋さん YOASOBI号”が始動するなど、小説×音楽を軸とした企画が続々と行われている。
■YOASOBIで聴くべき10曲
「夜に駆ける」
まずは記録的なヒットとなったデビュー曲「夜に駆ける」。2019年11月に発表された段階ではYOASOBI自身もまったく無名の存在だったが、2020年に入って楽曲が作り手の意図を超えたところで“現象”を生み出していく。
『THE FIRST TAKE』から派生した、アーティストの自宅やプライベートスタジオから一発撮りで届ける『THE HOME TAKE』で披露したパフォーマンスも大きな話題を呼び、この曲で『第71回NHK紅白歌合戦』への初出場も実現。
▼YOASOBI – 夜に駆ける / THE HOME TAKE
一度聴いたら耳から離れなくなるキャッチーなメロディ、印象的なピアノのフレーズ、ノリの良いリズムと、YOASOBIの魅力がぎゅっと詰まった一曲だ。
原作は『タナトスの誘惑』(星野舞夜・著)。シリアスな物語にもぜひ触れてみてほしい。
「群青」
『第72回NHK紅白歌合戦』でのパフォーマンスも印象的だった「群青」もYOASOBI屈指の人気曲。
美術大学に挑む学生たちを描いた、山口つばさの漫画『ブルーピリオド』とのコラボレーションによる“アルフォートミニチョコレート”CMに提供された一曲だ。
原作のストーリーテキスト「青を味方に。」には、『ブルーピリオド』の主人公・矢口八虎が、苦悩し、足掻きながら、絵に挑む情景が描かれる。
楽曲のポイントは華やかな合唱のコーラスワークとダイナミックな曲展開。起伏のある楽曲構成と共に、好きなものに向き合うことで葛藤しながら成長していく、まさに青春ど真ん中のストーリーをエモーショナルに歌い上げている。
「怪物」
アニメ『BEASTARS ビースターズ』第2期オープニングテーマとして書き下ろされた「怪物」は、疾走感溢れるビートが身体を駆り立てるダークなエレクトロナンバー。ライブでも大きな盛り上がりを見せるエネルギッシュな一曲だ。
エッジの鋭いシンセのフレーズ、あえて抑えた歌い出しからサビで大きな広がりを見せるikuraの歌声の表現力が聴きどころ。
原作は『BEASTARS ビースターズ』作者の板垣巴留が書き下ろしたオリジナル小説『自分の胸に自分の耳を押し当てて』。肉食獣のオオカミでありながら草食獣のウサギに恋をした主人公・レゴシの葛藤と決意が、アグレッシブな曲調を通して表現されている。
「もう少しだけ」
朝の情景が思い浮かぶような優しく柔らかなテイストを持っているのが「もう少しだけ」。冒頭ikuraの“Have a nice day”という呼びかけもとてもキュートだ。
『めざましテレビ』2021年度のテーマソングとして書き下ろされた一曲で、原作は『monogatary.com』にて行われた「夜遊びコンテスト vol.3 with めざましテレビ」の大賞を獲得した『めぐる。』(千春・著)。
ありふれた日常を舞台に、朝のニュースのちょっとした占いの言葉から思いやりや喜びの輪が広がっていく情景が描かれる。Ayaseのポップセンスが垣間見える、とてもハッピーな一曲だ。
「ハルカ」
人生の門出を迎えた人にとって、特に心に染みるのが「ハルカ」である。イントロから鳴っている木琴のフレーズと歌のメロディが絡み合いながら、聴き手の胸にそっと寄り添うように響く。
原作は放送作家・鈴木おさむによる書き下ろし小説『月王子』。売れ残りだったマグカップを買い、愛用してきた主人公の少女・遥の成長や思い出を、ずっと生活を共にしてきたマグカップの視点から描く。
勉強に励む姿や新生活の喜びと寂しさなど、いろんな場面を見守り、感謝を告げる歌はとてもハートフル。卒業や就職や結婚や、いろんな旅立ちの前にある人はきっと共感するものがあるのではないだろうか。
「ハルジオン」
恋を失った痛みから少しずつ立ち直り、再び未来に向けて前を向くまで…「ハルジオン」に描かれているのは切なさと爽やかさが混じり合ったような感情だ。
原作は小説家・橋爪駿輝の短編小説『それでも、ハッピーエンド』。エナジードリンク『ZONe』(ゾーン)とのコラボ企画に書き下ろされた楽曲で、楽曲のテーマは“没入”。夢中になれるものを見つけることで未来に向かっていくポジティブな変化が歌われている。
聴きどころは曲後半の転調、そしてikuraのボーカルだろう。地声とファルセットを自在に操り、曲後半に向けて力強さを増していく歌声で、ストーリーを巧みに表現している。
「あの夢をなぞって」
YOASOBIの第二弾楽曲として発表された「あの夢をなぞって」は、「夜に駆ける」と同じく『monogatary.com』の「モノコン2019」でソニーミュージック賞を受賞した『夢の雫と星の花』(いしき蒼太・著)が原作。
夏の夜、花火大会を舞台にした少年少女の恋を描いた小説から生まれた楽曲は、ドキドキする胸の高まりを表しているかのようなアップテンポなナンバーになっている。
歌始まりの楽曲が多いのもYOASOBIの特徴だが、この曲は冒頭の約20秒、ワンフレーズまるまるikuraのアカペラから始まるので、歌声が持つ力を改めて感じられる。2022年3月にリリースされたバラードバージョンも必聴。
▼YOASOBI「あの夢をなぞって (Ballade Ver.)」 – スマホ映画『夢の雫と星の花』コラボスペシャルムービー
「アンコール」
2021年1月6日に発売されたYOASOBI初のEP『THE BOOK』で初音源化された楽曲。7曲入りのEPは「Epilogue」というピアノのインストゥルメンタル曲から幕を開けるのだが、そこから続けて聴くと“明日世界は終わるんだって”という歌い出しで始まる冒頭がさらに鮮烈に響く。
原作は『世界の終わりと、さよならのうた』(水上下波・著)。世界が滅んでしまう日を前に、古びた楽器が並ぶ倉庫で出会った男女が織り成すストーリーだ。
それぞれのビターな思い出を抱えながらピアノとギターの音を重ね、心を通い合わせるふたり。終末世界の虚無感に訪れた音楽の喜びを表現する楽曲構成もとてもドラマチックだ。
「たぶん」
軽快に跳ねるビートに、しっとりとした音色。海外のベッドルーム・ポップにも通じる心地よい浮遊感を持っている。
原作は『たぶん』(しなの・著)。決定的な事件があったわけではないけれど、気持ちのズレからなんとなく別れを選んだふたりの心情を描く。
“たぶん”という曲名は、そんな曖昧な思いを象徴するような言葉だろう。キャッチーなメロディを短い時間に詰め込んだスピーディーな曲展開を得意とするAyaseだが、こういうタイプのゆるくチルなムードを持った曲からはその音楽センスの幅広さを感じることができる。2020年11月にはYOASOBI原作小説初の実写映画となる『たぶん』も公開された。
「優しい彗星」
「優しい彗星」はTVアニメ『BEASTARS ビースターズ』第2期エンディングテーマとして書き下ろしされ、ダークな「怪物」とは対照的に包容力たっぷりのバラードに仕上がっている。
原作は板垣巴瑠が書き下ろしたオリジナル小説『獅子座流星群のままに』。
漫画のストーリーに描かれる、鹿のルイとライオンのイブキの互いに思い合う気持ちや感動的なシーンを表現した内容になっている。
“類のない日々”“別れの息吹”と両者の名前を織り込んだ歌詞もポイントだ。原作漫画やアニメを観ていない人にも、立場の違いを超えて信頼の絆で結ばれた深い関係の尊さを楽曲から感じることができるだろう。
■多角的な活動を続ける、その先
こうして多くの名曲を発信し続けているYOASOBIは、今後も自由な創作活動と挑戦を繰り広げていくことだろう。
現に、新曲「祝福」(10月1日配信 / 11月9日CDリリース)も『機動戦士ガンダム 水星の魔女』オープニングテーマとして話題を集めている。
▼YOASOBI「祝福」Official Music Video (『機動戦士ガンダム 水星の魔女』オープニングテーマ)
2022年は初のフェス出演を果たし、2023年4月からは6都市12公演の初単独アリーナツアー『YOASOBI ARENA TOUR 2023』の開催も決定。他にも様々なプロジェクトが進行中。
小説を音楽にするユニット・YOASOBIからは、この先も目が離せない。
TEXT BY 柴 那典
▼YOASOBIの最新情報はこちら
https://www.thefirsttimes.jp/keywords/116/
▼Ayaseの最新情報はこちら
https://www.thefirsttimes.jp/keywords/805/
▼ikura / 幾田りらの最新情報はこちら
https://www.thefirsttimes.jp/keywords/609/