TEXT BY もりひでゆき
■革新的なアルバムだということがわかる
「アポロ」での衝撃的なデビューから約23年。ポルノグラフィティはバンドとしてのアイデンティティをより明確なものとして認識し、強靭で揺らぎなきアティチュードを掲げながらさらなる未来へと突き進んでいくことを決めた。その証明となるのが8月3日にリリースされた、約5年ぶりとなるニューアルバム『暁』だ。
本作のリリース時、ボーカル・岡野昭仁はこんなことを語ってくれた。
「これまでのポルノは音楽シーンというデカい場所にボンと自分たちの音楽を落としていたイメージだったんですよ。でも今はまずファンの人に向けて曲をストンと落とす意識になったというか。そうすれば自ずとファン以外の人にも広がっていくような感覚になっているんですよね」
これまでもファンを何より大事にしてきたポルノであるが、アーティストとして自らの音楽を全方位に鳴り響かせ、なんらかのうねりを呼び起こしたいと欲することは至極、自然なことだと思う。2017年にリリースされた11thアルバム『BUTTERFLY EFFECT』は、音楽シーンに楽曲という一雫を落とすことで何が生まれるかを試す思いがまさに溢れた作品だった。だが、今のポルノは楽曲を落とすべき場所をファンのもとにフォーカスした。そして、フォーカスを絞ったからこそ、これまで以上に自由で柔軟なクリエイティビティをナチュラルに発揮できるようになったのである。
アルバムはタイトル曲「暁」で幕を開ける。BPMが速いマイナー調のスタイルはポルノの大きな武器のひとつであり、ファンならばニヤリとするタイプの楽曲だ。だが、キーのレンジを広くすることで低いトーンまでを効果的に使ったメロディは新たな聴き心地を生んでいるし、多用されるファルセットを含めた圧巻のボーカリゼーションは昭仁のボーカリストとしての進化をまざまざと見せつける。本作においてすべての作詞を手掛けている新藤晴一は、この曲では意識的に韻を踏み楽曲にリズムをもたらせながら、アルバムを象徴する壮大な世界観をしっかりと紡ぎ出してもいる。ライヴでのサポートミュージシャンでもあるtasukuがトラックをまず作り、そこに昭仁がメロディを乗せていったという楽曲制作のアプローチ自体もポルノとしては新しいトライと言えるだろう。1曲目からしてここまで斬新なエッセンスが盛り込まれていることからみても、本作が革新的なアルバムだということがわかってもらえると思う。
晴一が作曲を手掛けた4曲目「悪霊少女」も大きなくくりで言えば「暁」と同じカテゴリーの楽曲だと言えそうだが、こちらはストーリー性の強いリリックとの融合によって、聴き手をダークで耽美な世界へと一瞬で誘ってくれる。この曲もまたレンジの広さが特徴的で、昭仁の最新の歌が満載されている。アレンジャーである江口亮のディレクションによって導かれたというロングトーンやアウトロのフェイクでの表情もぜひ堪能してほしい。楽曲のムードを踏襲したアニメーションで作られたMVも話題を呼んだが、映像喚起力の高い楽曲だけにライヴでの演出にも期待したいところだ。
■ふたりの音楽的ルーツや、現在のフェイバリットが色濃く反映
また、昭仁が作曲をした「ナンバー」はUKロックの雰囲気を纏い、「バトロワ・ゲームズ」にはシティポップやファンクのニュアンスが盛り込まれている。さらに晴一が書いた「You are my Queen」は、The Beatlesにインスパイアされたものだという。そこにはふたりの音楽的ルーツや、現在のフェイバリットが色濃く反映されているわけだ。これまでもルーツを盛り込んだ楽曲は当然あったはずだが、もっとポルノとしてのカラーでカモフラ―ジュされていた印象がある。だが、今回の楽曲ではそこを明確に浮かび上がらせ、アピールさえしている。それはきっと彼らのことを深く理解し、信頼しているファンにフォーカスして制作を進めた過程で生まれた大きな変化と言えるのではないだろうか。この流れが定着すれば、ポルノの音楽はもっと面白いことになるはずだ。
そして、「VS」での爽快なエンディングを前に、壮大でドラマチックなシーンを描き出しているのが昭仁作曲の「証言」だ。シリアスなテイストで終焉を迎えた恋愛への思いを紡いだ晴一のリリックに胸を撃たれる。曲に求められたことでてらいなく使うことができたという“愛”というワードの意味を表現し尽くす昭仁のボーカルも圧巻の仕上がりだ。圧倒的なスケールで展開するポルノの最新ラブソングは、長く歌い継がれていく重要な曲となっていくのではないだろうか。
■ライヴを通してより鮮烈に届けられるだろう、変化と進化
自分たちの楽曲を落とすべき場所を明確にしたことで、求められているものにしっかりと応えながら、様々なトライアルを盛り込むことに成功した最新作『暁』。それは結果として、ファンのみならず、シーンへと大きなインパクトを残し得る作品へと昇華したように思う。本作を引っ提げ、9月22日からは全国ツアー『18thライヴサーキット“暁”』もスタート。アルバムで見せた変化と進化の全貌は、ライヴを通してより鮮烈に届けられることになるはずだ。“暁”の時を経て、ポルノが掲げる新たな光に期待したい。
リリース情報
2022.08.03 ON SALE
ALBUM『暁』
“暁”特設サイト
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