シンガーソングライター・Tani Yuuki(たにゆうき)の“現象”が大きく広がっている。
2020年5月にリリースしたデビュー曲「Myra」(読み:マイラ)がTikTokで大きな反響を呼び一躍ブレイクを果たすと、続く「W/X/Y」(読み:ダブリューエックスワイ)が異例のロングヒットで2022年8月にストリーミング総再生回数2億回を突破。
すでに「W/X/Y」は「Myra」を上回るヒットとなり、一曲だけのバズに終わらない才能の持ち主として、評価を着々と高めてきている。
▼「W/X/Y」Tani Yuuki
そこで、この記事では、Tani Yuukiとは何者か、その魅力はどんなところにあるのかを、新曲や代表曲、コラボレーション楽曲などを紹介しつつ、改めて解説したい。
■祖父からもらったアコギから始まった音楽キャリア
・名前:Tani Yuuki(たに ゆうき)
・楽器:ギター、ピアノ
・作詞作曲、編曲、サウンドメイク
・生年月日:1998年11月9日
・出身地:神奈川県・茅ヶ崎
・血液型:A型
・影響を受けたアーティスト:RADWIMPS
・OFFICIAL SITE https://taniyuuki.com/
1998年、神奈川県生まれのTani Yuuki。音楽の道を志したのは中学2年生の時に祖父からアコースティックギターをもらったことがきっかけだ。
小さい頃は母の影響で知ったゆずや絢香などをよく聴いていたという。アーティストとして最も大きな影響を受けたのは高校時代に出会ったRADWIMPS。彼自身、様々なインタビューでRADWIMPS・野田洋次郎をルーツのひとつとして語っている。
学生時代にはバンドを組んだり、ユニットとしての活動を行なったりもしていたが、専門学校を卒業してからDTMを始め、自らトラックメイキングを手がける現在のシンガーソングライターとしての制作スタイルを確立。
TikTokを始めて最初に投稿した発表した「Myra」がいきなりバズるという、シンデレラストーリーのような成功を手にした。
▼「Myra」Tani Yuuki
ただ、取材を通して感じた本人の素顔に、バズを狙う戦略家のようなところは一切なかったのも印象的だった。筆者は当サイトに掲載されたオーイシマサヨシとの対談記事の取材も担当したのだが、その時にも「SNSはそこまで得意というわけではない」と語っている。デビュー当時も「Myra」が伸びなかったら伸びるまでオリジナル曲の投稿を続けるつもりだったとも付け加えた。
奇をてらうのではなく、シンプルに良い曲、心に沁みる曲を書いて、丁寧に歌っていく。そういう繊細で実直なタイプのシンガーソングライターがTani Yuukiなのだ。
そのうえで、一度聴いたら耳から離れないメロディと、リズミカルなフロウ、巧みに韻を踏んだ歌詞という、彼独特の楽曲の心地良さがたくさんの人に受け入れられたのがヒットの理由だろう。
■関和亮監督作「夢喰」MV:殺陣&ワイヤーアクションに挑戦
そんなTani Yuukiの楽曲として、まず紹介したいのが、6月22日に配信リリースし、その後7月28日にMVが公開された「夢喰」(読み:ばく)。
▼「夢喰」Live ver. / Tani Yuuki Presents LIVE “LOTUS”
打ち込みのビート、ピアノやアコースティックギターを用いた軽やかな曲調を得意としてきたTani Yuukiだが、「夢喰」は疾走感溢れるバンドサウンドを持つアグレッシブなロックナンバー。熱く、鮮烈な一曲だ。
本MVはサカナクションやPerfume、藤井 風などを手がけてきた映像作家の関 和亮が監督をつとめ、Tani Yuuki本人が出演。ライトセーバーのような刀を握り、殺陣に挑戦している。
「夢喰」撮影に関して関監督に話を聞くと、「とにかく今までのTaniさんの楽曲とはひと味違う曲だなぁと言う印象を持って、映像も今までTaniさんがやられたことのないことをしようと決めました。楽曲の中のTaniさんが戦っているイメージがあったので、それをそのままやってみるというのがTaniさんには新しいのではないか? と思ったのがテーマを作ったきっかけです」とコメントしている。
“悩んでも 迷っても 妄想全部喰らっていけ”“言いたいこと 言えない孤独も 掻っ攫っていけ”と歌う「夢喰」は、不安や葛藤を抱えている人に向けての力強いメッセージが込められた楽曲だ。
▼「夢喰」MV
MVでも、そういった曲のテーマとリンクするような“自分との戦い”というモチーフが表現されている。
「撮影に至るまでの準備や撮影当日のハードさを乗り越えたなら大抵のことは乗り越えられると思う」と関監督が言うように、かなり大変な撮影だったようだ。
関監督は他にも「忙しいスケジュールを縫ってたくさん練習していただいたので、その成果が出ていると思ったのと、表情を作るのがとても上手だなと感じました。ちゃんと世界に入り込んでやっていたところがとても印象に残っています」と、出来上がったMVについて語っている。
■Tani Yuukiのソングライティング力の高さがわかる5曲
そして、Tani Yuukiの代表曲としては、こんな5曲が挙げられる。
「W/X/Y」
まずはロングヒットを記録している「W/X/Y」。Tani Yuukiのソングライティングの魅力のひとつである、美しいメロディ、流れるように歌われる語感の心地良さが前面に出ている一曲だ。特にサビで歌われる“2人酸いも甘いも/噛み合わないとしても”や“2人対の細胞/絡み合う特別を”という部分がグッとくる。
ゆったりとしたグルーヴに乗せて歌われるのは、何気ない日常生活の描写から浮かび上がる、愛し合うふたりのかけがえのない関係。その共感性の高さも人気の理由のひとつだろう。
「Myra」
Tani Yuukiの名を世に知らしめたデビュー曲。“愛してるよ Myra/腕の中でMy love”という韻を踏んだサビのフレーズには、思わず口ずさんでしまうような中毒性が宿っている。
聴き所は曲中盤のCメロの部分だろう。全体的にシンプルな構成の曲なのだが、ここだけドラマチックなコード進行で“幸せだった日々も/重ね合う肌の温もりも/最初から無かったかのように/すべて嘘に変わるのが怖いの/押し潰されてしまいそう”と歌う。失恋ソングとしてのリアリティがこの部分に詰まっている。
「愛言葉」
ピュアな愛情を真っ直ぐに綴ったバラード。この曲は曲構成が印象的だ。
“花束の代わりにこの歌を”と歌う冒頭から、思い合うふたりのストーリーを綴っていく歌詞と共に、少しずつ情景が広がるような曲展開を見せていく。
ラップのように畳みかける符割りで“この世のどこにもたった1人絶滅危惧の/あなたという存在を隣で見守りたいの”と歌う中盤の展開や、かけ合いのようなコーラスが重なる後半のサビなど、耳を惹くフックもたくさん持っている。
「Unreachable love song」
トロピカルハウスのテイストを持ったリズミカルで軽妙なダンスポップ。
EDM的なトラックメイキングも得意にするTani Yuukiのセンスを活かした、お洒落な聴き心地を持っている。
そのいっぽうで、歌詞に描かれるのは失恋に打ちひしがれる主人公の切ない思い。“嫌でも探してしまうよ/至る所に君のことを”という歌い出しから、忘れられない相手への募る思いを綴った歌詞が胸に迫る。
「Over The Time」
フジテレビ系月9ドラマ『ナイト・ドクター』オリジナルナンバーとして書き下ろされた一曲。壮大なスケールとエモーショナルな響きを持つミドルバラードだ。
“今まであたり前と思ってた世界 何一つも永遠はない”や“間違いだと言い切れなはしない 誰を思い 守るかの違い”といった歌詞には、医療ドラマである『ナイト・ドクター』の物語性や、コロナ禍の世相に寄り添ったものになっているはず。
Tani Yuukiの歌声の表現力の進化を感じる一曲でもある。
■絢香、優里、足立佳奈…コラボ曲で見えるあらたな魅力
また、数々のコラボレーションも、Tani Yuukiの音楽性の広がりを示している。
「手をつなごう」 絢香 × Tani Yuuki / Re:tter(レター)
“憧れていたアーティストと一緒に思い入れある曲を歌う”というコンセプトで始めたプロジェクト「Re:tter」の第1弾に、Tani Yuukiたっての希望で出演をオファーした絢香が登場。
絢香が2008年にリリースした「手をつなごう」をTani Yuukiと共に新しいアレンジでデュエットしている。ルーツへの敬意を感じるプロジェクトだ。
「W/X/Y」acoustic ver. – 優里×Tani Yuuki
初のワンマンツアーのファイナル公演でサプライズゲストに登場するなど、Tani Yuukiと親交が深い優里。
「W/X/Y」をアコースティックバージョンでデュエットしたこの動画では、芯が太い優里と伸びやかなTani Yuukiというふたりの声質の違い、それが重なり合ったハーモニーの美しさを堪能できる。
「ゆらりふたり」足立佳奈 feat.Tani Yuuki
同世代のシンガーソングライター足立佳奈とのコラボレーションは、すれ違いながらも思い合い、繋がっている男女の関係を描いた一曲。
それぞれが作詞を手がけることで、男女の距離感が絶妙に表現されている。曲名の「ゆらりふたり」という言葉の心地良い浮遊感、ふたりの波長のあった歌声もポイント。
「ふぞろい feat. Tani Yuuki & ひとみ from あたらよ」KERENMI
蔦谷好位置によるプロジェクト・KERENMIの楽曲。
作詞作曲は蔦谷好位置が手がけ、Tani Yuukiはあたらよのボーカル・ひとみと共にボーカルとして同曲に参加。
隙間を活かしたハイセンスなトラックにリズミカルなフロウを持ったメロディで、Tani Yuukiのボーカルの旨味を引き出すようなソングライティングがなされている。
「運命」片寄涼太(GENERATIONS)
先日放送を終えた、GENERATIONS from EXILE TRIBEのボーカル・片寄涼太が主演をつとめるドラマ『運命警察』にて、片寄演じる主人公・福山七瀬が生前TikTokでバズらせた曲としてたびたび作中に登場した「運命」。
Tani Yuukiが同曲を楽曲提供するにあたり、「台本をいただき、鈴木おさむさんと打合せをしました。いちばん最初に聞いたのは、この作品における『運命』は変えられるものなのか不変なものなのか、ということ。そこでの話を踏まえ、僕なりの解釈と想いを込めた楽曲になっています」とコメントしている。
■可能性に満ちたTani Yuukiのこれから
こうしていくつかの楽曲を挙げてきたが、Tani Yuukiのソングライティングはさらなる名曲、さらなるヒットを生み出す可能性を持っている。
本人の飾らない、実直な優しさを持ったキャラクターもあって、アーティストやクリエイターとのコラボもさらに多方面に広がっていくだろう。
新世代ミュージシャンの代表格として、よりいっそう存在感を高めていきそうだ。
TEXT BY 柴 那典