TEXT BY 森 朋之
今年初めに『THE FIRST TIMES』で実施した、“MY FAVE=私の推し”アーティストを紹介してもらう『MY FAVE 2022』(※1)でも名前の挙がった“にしな”。
※1…にしなは音楽ライター編、音楽関係者編、それぞれで名前の挙がる人気ぶり。
業界内での高評価ぶりもさることながら、惹きつけて離さない彼女の魅力にハマるリスナーも増え続けており、2022年以降の活躍がいっそう期待されるアーティストだ。
そもそもどんなアーティストなのか? ぜひ聴いてもらいたい推し楽曲を交えながら、にしなを紐解いていきたい。
■心に残る、あの歌声。にしなとは?
・名前:にしな
・出身地:東京都
・楽器:ギター
・影響を受けたアーティスト:コブクロ、スピッツ、槇原敬之、aiko、椎名林檎…etc.
・OFFICIAL SITE https://nishina247.jp/
東京生まれのアーティスト、にしな。幼少期から歌うことが好きで、コブクロ、スピッツ、槇原敬之、aiko、椎名林檎の他、母親の影響でブラックミュージックにも親しみながら育ったという彼女は、高校時代からライブハウスに出演。
アコギの弾き語りでオリジナル曲も作り始め、ライブとSNSの両軸で少しずつキャリアを重ねてきた。
実体験と想像を組み合わせた、映像が浮かぶような楽曲。そして、透明感と鋭さを同時に感じさせるボーカルによって、音楽ファンの支持を得てきた、にしな。
2021年にはSpotify『RADAR:Early Noise』に選出され、同年4月に1stアルバム『odds and ends』(読み:オッズ・アンド・エンズ)でメジャーシーンに進出するなど、大きな飛躍を果たした。
知名度が上がり、活動の規模が大きくなっても、どこかマイペース。自分自身の表現を見つめながら、着実に音楽性の幅を広げ続けている。
■3つのキーワードで語る、にしなの魅力
ここからは大きく3つのキーワードに分けて、彼女の魅力を紹介したい。
【POINT 1】歌詞
彼女自身の息遣いが感じられるような生々しさ、頭で情景がはっきりと浮かぶ映像喚起力、フロウ(言葉とメロディの組み合わせ)の気持ち良さ。この3つの要素が自然に共存していることが、にしなの歌詞の良さだと思う。
例えば、「真白」。心地良いテンポと流れるようなメロディに“真っ白のランジェリー”など具体的に想起しやすい言葉を散りばめながら、彼に対して“返してよ私のはじめてを”というフレーズを投げかけ、聴く者に切なさと痛みを与えている。
▼にしな「真白」
また、最新アルバム『1999』(読み:ナインティーンナインティナイン)の同名表題曲「1999」では、現在の社会の状況を踏まえ、“もし世界が終わるとしたら、その瞬間は大切な人のために時間を使うはず”という思いを表現。こういう真摯なメッセージ性も、彼女のリリックの魅力だ。
▼にしな「1999」
【POINT 2】歌声:ボーカルの多彩さ
にしなのボーカルには、多彩な魅力が宿っている。
フォーキーな手触りの「ワンルーム」における“語り”を交えた素朴で切ない声。エモーショナルなバンドサウンドの「真白」では好きな人に対する揺れる感情をリアルに描き出し、エッジ―なギターが響く「アイニコイ」では、リスナーのテンションを上げるような高揚感に溢れたボーカルを披露。
▼にしな「ワンルーム」
監督:ふくだももこ×主演:田中みな実で描いた映画『ずっと独身でいるつもり?』主題歌の「debbie」(読み:デビー)では、ポエトリーラップ的なスタイルに始まり、サビでは解放感のあるメロディをしっかりと歌い上げるなど、楽曲によって様々な表情を見せてくれる。
▼にしな「debbie」
心地良い透明感、そして、凛とした強さを同時に放つハイブリッドな歌声と言えるだろう。
【POINT 3】ライブパフォーマンス
どこまでも自然体で自由。まるで自分の部屋で歌っているようなナチュラルさが、彼女のライブパフォーマンスを観た時の印象だった。
2021年6月に東京・Zepp Tokyoで行われた初ワンマンライブ『hatsu』では、それまでほとんど経験がなかったバンドセットのステージを披露。
▼にしな『hatsu』- 2021.6.25 | YouTube Music Weekend Edit
始まる前は不安と緊張を抱えていたようだが、「ライブが始まったらすごく楽しめて、『次のステップに進みたいな』と思えた」という。
また、2022年春に東京と大阪で開催されたホール公演『虎虎』(読み:とらとら)では、持ち前の多彩なボーカル表現をたっぷりと見せつけた。舞台が大きくなっても観客一人ひとりに歌を届けようとする“1対1”の感覚もまた、彼女のライブの魅力。
じっくりと聴き入ったり、ゆったりと体を揺らしたり、好きなように楽しむオーディエンスの姿も心に残った。
■『THE FIRST TAKE』に出演
最近では、アーティストが一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取る『THE FIRST TAKE』にも出演。
▼ヘビースモーク / THE FIRST TAKE
メディア初歌唱となった「ヘビースモーク」は、ピアノとストリングスを交えた特別アレンジで披露。
生楽器の響きを活かしたダイナミックなサウンドと共に“銀色の灰皿に強く押し付け”というフレーズが聴こえてきた瞬間、タバコ好きな“君”、そして、繊細な恋愛感情に揺れる“私”の物語が立ち上がる。
この曲で描かれているのは本当にわずかな時間だが、その背景には強烈な感情――好きな人を自分のものにしたい、拘束したいという欲望――がしっかりと宿っているのだ。
サビの最後で声が裏返る瞬間に見せる、切なくて愛らしい表情も印象的。フレーズの端々に宿る強いエモーション、ストーリーテラーとしてのセンスが前面に溢れた素晴らしいパフォーマンスだ。
▼青藍遊泳 / THE FIRST TAKE
さらに、曲のタイトルに合わせ、青の衣装をまとって歌唱された「青藍遊泳」は活動を共にしてきた音楽仲間と離れ、ひとりで進む決意を表現した楽曲。
ピアノと歌だけのシンプルな編成によって、リアルな経験に裏打ちされたす言葉と旋律をストレートに描き出している。
特に心に残るのは“さらば友よ、忘れてしまえよ/ただ好き勝手に泳いでいく”というライン。この楽曲を生み出した当時、彼女自身が抱えた思いを率直に反映したフレーズは、視聴者のなかにある別れの思い出と結びつき、感情を強く揺さぶるはず。
そう、プライベートな出来事を普遍的なパワーを持った歌に昇華できるのも彼女のすごさ。このパフォーマンスによって、そのことを改めて実感させられた。
■聴いてほしい!にしなオススメ曲
楽曲によって様々な表情を見せる、にしな。ここからは今現在のにしなを代表するようなオススメ5曲を挙げていく。
「東京マーブル」
ドラマ『お耳に合いましたら。』エンディング主題歌。きらびやかな都会の夜景、様々な感情を抱きながら行き交う人々の姿を“マーブル(色)”というモチーフをもとに描写したミディアムチューンだ。
いろいろな欲望や夢が渦巻き、手に入れたと思った瞬間に逃げていくようなシリアスな感覚も反映されているが、ネオソウル~オルタナR&B系のサウンド、耳に心地良いメロディラインによって、都会的なポップチューンに仕上げている。
浮遊感と透明感を感じさせる歌声も気持ち良い。
「ダーリン」
恋愛バラエティショー『恋とオオカミには騙されない』挿入歌としても話題を集めた失恋バラード。
近くにいても遠く感じてしまう恋人との関係を終わらせる瞬間を、“恋を優しく吹き消す夜”というフレーズと共に描き出している。
切なさと悲しみ、少しの優しさを滲ませるボーカルも絶品。その歌声からは、最後まで相手に対する思いやりを持ちづけようとする主人公の姿がリアルに伝わってくる。
繊細に震える感情を支える、生楽器の響きを活かしたサウンドメイクにも注目してほしい。
「ケダモノのフレンズ」
軽やかにステップを踏むようなトラック、かわいらしく揺れるメロディ、ファンタジー的な世界観を映し出すリリック。
生々しくリアルな感情を歌った曲で注目を集めた彼女だが、この楽曲ではまるで童話のようなイメージを表現している。それを象徴しているのが“ゆらりゆらり揺れる/ケダモノのフレンズ”という歌詞。
ライブの風景ようでもあり、絵本の中の世界のようでもあるフレーズは、にしなのソングライティングの豊かさを端的に示していると思う。
「centi」
ネオソウル系のシックなサウンド、流麗にして切ないフロウと共に綴られるのは、子供から大人になる時期の葛藤や不安。
“無情な時も 夜更の不安も/その先の朝焼けを抱きしめ続けている”という歌詞は、進学、就活など、進路を決める時期のリスナーはもちろん、何か(誰か)を選んだり、何か(誰か)を手離さなくてはいけない経験をした人には強く響くはず。
切実な感情を軸に置きながら、ソフィスティケートされたポップスに導くセンスも素晴らしい。
「サンタガール feat. にしな」
にしながゲストボーカルとして参加した、シンガーソングライター・WurtS(ワーツ)の楽曲も紹介したい。
クリスマスのロマンティックな風景、ボーイ・ミーツ・ガールな胸キュンを映し出す歌詞、80’sテイストのサウンドとポップに振り切ったメロディを描き出す歌声は、彼女のオリジナル曲とはひと味違う魅力を放っており、“ポップでキュートなにしな”を堪能できる。
■『1999』撮り下ろしインタビュー掲載中
リアルと想像を自然に融合させたソングライティング、ネオソウルからギターロックまでを自由に行き来するような歌詞、そして、楽曲によって色とりどりの表情を見せるボーカル。
ひとつの枠に収まらず、奔放に音楽を生み出し続けるにしなはこの先も、さらに創造性に溢れた楽曲を届けてくれるはず。心をオープンにして彼女の音楽世界を楽しんでみては?
また、『THE FIRST TIMES』では最新アルバム『1999』の撮り下ろしインタビューも掲載しているので、彼女の胸中を知ってもらいたい。
▼にしなの最新情報はこちら
https://www.thefirsttimes.jp/keywords/2088/