TEXT BY 浦沢裕太
ヒップホップだけではなく、いまやポップスやダンス&ボーカル楽曲にも欠かせない要素となっている“ラップ”。
ラッパー同士がラップで戦うMCバトルも、様々なメディアコンテンツの中で定番に。ここではラップのそもそもの意味から、話題のアーティストを紹介していく。
■ラップの起源、主要なキーワードは?
【ラップの起源】
1973年にアメリカのニューヨーク、ブロンクスで行われたとあるパーティーからヒップホップは生まれ、その後パーティーの中で発展。
そこで行われていた「ブレイクダンス」「DJ」「グラフィティ」、そして「ラップ」がヒップホップの四大要素とされ、音楽に乗せてオーディエンスを言葉で盛り上げたのがラップの原点だといわれている。
その内容にはパーティーだけではなく、日常の不満や社会への怒りも込められていた。
【リリック】
歌詞のこと。パーティーについて、暴力について、恋愛について、金儲けについて、単純に友達を笑わせるためのコミカルな歌詞など、ラップのリリックに制約がない。
そして、ラップの歌詞は自分の置かれた環境など“自分の持つ思想や視点”を中心に歌詞を書くことが多く、絵空事ではなく、ドキュメントともいえる“リアルさ”が人気を博するようになった理由のひとつに挙げられる。
【ライム】
韻のこと。童謡「ハンプティ・ダンプティ」のように、英語圏の詩は韻を踏むことが多く、そこで生まれるリズムは、ラップにも重要な要素だ。
日本語では「A」「I」「U」「E」「O」という母音を合わせたり、「マルガリータ」と「丸刈りだ」のように言葉の連なりは同じでも、意味が変わる子音を合わせた韻など様々なバリエーションがあり、文の最後をあわせる脚韻や文の最初を合わせていく頭韻など、韻を置く場所でもその聴感は変わっていく。
【フロウ】
発声と言葉の抑揚のこと。“ラップのメロディ”と言い換えてもいいだろう。
高らかに歌い上げるようなラップや、ボソボソと一聴では聞き取りづらいような歌い方、クリアでハキハキとした発声など、それがアーティストの聴感上の特性とも繋がっている。
また歌った音程を補正したり、音楽ソフト上で指示することで、声にエフェクトをかける“オートチューン”も現在のフロウの一種といえる。
■ラップを語るうえで外せない&注目の日本人ラッパー
ひと言に“ラップ”と言っても、そのスタイルは千差万別。ここからは日本の音楽シーンで活躍するラッパー10組を紹介していこう。
【1】R-指定(あーるしてい)
1991年生まれ、大阪府堺市出身。Creepy Nutsのラッパーとして活動するR-指定。
MCバトルでの活躍で頭角を表し、MCバトル番組『フリースタイルダンジョン』では初代モンスターと、二代目のラスボスとして活躍。
Creepy NutsとしてはDJ 松永とともに2022年9月7日に最新アルバム『アンサンブル・プレイ』をリリースし、数々のフェスにも登場。またヒップホップグループ“梅田サイファー”にも所属。
【2】呂布カルマ(りょふかるま)
1983年生まれ、愛知県名古屋市在住。『戦極MC BATTLE』や『凱旋MC BATTLE』など、数々のMCバトルで優勝を果たす絶対王者。
相手の弱点をピンポイントでつくような鋭い切り返しや、その状況に応じたワードチョイスとライミングなど、MCバトルにおける高度な即興性は、現在のMCバトルシーンには欠かせない存在。
ACジャパンのCM「寛容ラップ」にも登場し、大きな注目を集めた。ソロ作に『Be kenja』など多数。
【3】KREVA(くれば)
1976年生まれ、東京都出身。90年代中盤から活動をスタートさせ、トップを走り続ける日本のヒップホップシーンのリビング・レジェンド。
LITTLE、MCUと共に結成したKICK THE CAN CREWのブレイクは、ジャパニーズ・ヒップホップをポップスシーンの中でも注目させ、多くのリスナーをヒップホップに呼び込んだ。
ソロ楽曲はもちろん、布袋寅泰や三浦大知、石川さゆり、PUNPEEなどともコラボを展開し、幅広い活動を行っている。
【4】ZORN(ぞーん)
1989年生まれ、葛飾区新小岩出身。複雑に組み込まれたライミングと、自身の生活や心情をすべてさらけ出すような作風がリスナーの心を掴んではなさない。
アルバム『新小岩』からも分かる通り、現在も地元である新小岩に在住し、“フッド”(地元)からラップを発信している。
ソロアーティストとして武道館、横浜アリーナに続き、11月にはさいたまスーパーアリーナでライブを行う予定。
【5】般若(はんにゃ)
1978年生まれ、東京都出身。ストリートを描く「路上の唄」や、自身の人生を振り返る「じんせいさいこおお」、そしてコミカルな「寝言」など、バラエティに富んだ作品をコンスタントにリリースする般若。
『フリースタイルダンジョン』では初代ラスボスに起用され、R-指定や晋平太などと、数多くの名勝負をお茶の間に届けた。
俳優としても活躍し『レッドアイズ 監視捜査班』などにも出演している。
【6】Zeebra(じぶら)
1971年生まれ、東京都出身。グループ・キングギドラやソロアルバム『THE RHYME ANIMAL』で表現したライミングは、日本語でラップをするうえで必要な韻の踏み方の基礎を作り、現在でも大きな影響を与えている。
『フリースタイルダンジョン』のオーガナイザーや、ヒップホップ専門ネットラジオ局『WREP』を立ち上げるなど、ヒップホップアクティビストとしても日本のヒップホップを20年以上にわたって牽引する存在。
【7】ANARCHY(あなーきー)
1981年、京都市伏見区向島育ち。その生い立ちを綴った自伝『痛みの作文』からもうかがえる通り、ハードな生活の先に生み出されたアルバム『ROB THE WORLD』などの作品は、リアルな言葉に貫かれ、同じような境遇に育ったリスナーをはじめ、特に若いリスナーから絶対的な支持を集めている。
ドラマ『HiGH&LOW〜THE STORY OF S.W.O.R.D.〜』の出演や、自身の生い立ちもリンクさせた映画『WALKING MAN』の監督なども手がける。
【8】輪入道(わにゅうどう)
1990年、千葉県出身。相手の言葉を真正面で受け止める、熱のこもったタフなラップスタイルは、数々のMCバトルで名を上げることになり、『フリースタイルダンジョン』では2代目モンスターに抜擢。リリースアーティストとしても『HAPPY BIRTHDAY』などを自身のレーベル“GARAGE MUSIC JAPAN”からリリース。
長渕 剛の『富士山麓 ALL NIGHT LIVE 2015』には般若とともに出演し、大きな話題を呼んだ。
【9】RHYMESTER(らいむすたー)
MUMMY-D、宇多丸、DJ JINによるヒップホップユニット。1989年結成と、活動歴は30年以上に渡る、日本でのヒップホップの礎を作ったユニット。「B-BOYイズム」や「Once Again」といった楽曲は、日本語ラップのクラシックとして長く聴き続けられている。
宇多丸はラジオパーソナリティやコメンテーター、MUMMY-Dは俳優業やプロデュース、DJ JINはDJイベントの主催など、ソロとしても活動は多岐にわたる。
【10】韻マン(いんまん)
2001年、大阪府堺市出身。中学時代からラップを始め、NHK『ヤングラップバトル~Bring the Beat!~』や『高校生RAP選手権」などに出場。
そのアーティスト名通り、韻に強いこだわりをもち、イントネーションやリズムによって韻を感じさせる“語感踏み”を武器にしている。「Change My Life」はYouTubeで1000万回再生を超える。
■ラッパーも続々と出演する『THE FIRST TAKE』
ここで紹介したのはあくまで一部のラッパーであり、続々とスターが誕生しているので、好きなアーティストを探してみるのも面白いだろう。
またアーティストの一発撮りを届ける『THE FIRST TAKE』に梅田サイファー、Creepy Nutsが出演しているほか、ちゃんみなが「美人」を、nobodyknows+が「ココロオドル」で賑わせていたのも記憶に新しく、マイク1本に立ち向かう、彼らの勇姿をこの機会に知ってもらいたい。
『THE FIRST TAKE』紹介記事一覧
https://www.thefirsttimes.jp/?s=%E3%80%8ETHE+FIRST+TAKE%E3%80%8F