TEXT BY 森朋之
■最新アルバム各国1位! 世界最大の音楽フェスでヘッドライナーも務めるハリーの代名詞5曲とは
コロナ禍を経て、3年ぶりに開催された世界最大級の音楽フェス『コーチェラ・フェスティバル』(アメリカ・カリフォルニア/4/15~4/17・4/22~24)。日本からは宇多田ヒカル、きゃりーぱみゅぱみゅが出演したこのフェスで、ひときわ大きな注目を集めたのが、ヘッドライナーをつとめた“ハリー・スタイルズ”だった。(ハリーの名前を知らない人も、“イギリスのアイドルグループONE DIRECTIONの末っ子メンバー”と言えばお分かりだろうか。)
レインボーカラーのスパンコールで覆われたGUCCIのボディスーツ姿で登場したハリーは、巨大な会場を埋め尽くしたオーディエンスを完全に掌握し、熱狂の渦に巻き込んだ。
映像を観てもらえれば一目瞭然だが、ド派手なパフォーマンス、快楽と官能、圧倒的な開放感に溢れたボーカルなど、その存在感はまさにスーパースターそのものだ。
2年半ぶりとなる最新アルバム「ハリーズ・ハウス」が米ビルボードをはじめ、世界各国のチャートで1位を記録。アメリカでは2022年最多初週セールスを記録、アナログレコードも初週の売上が“91年以降で最高”となり、圧倒的なセールスパワーを発揮している。
向かうところ敵なし状態のハリー・スタイルズがなんとYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』に出演することが決定! この情報が伝えられると同時に、国内外のSNSで大きな話題を集めている。
ここではハリーの“チェックしておくべき代表曲”を5曲セレクト。今や世界的なポップ・アイコンとなったハリー・スタイルズのキャリアを振り返ってみたい。
■ONE DIRECTION活動休止から明けたハリーのソロデビューシングル
「サイン・オブ・ザ・タイムズ」(2017年)
世界的アイドルグループとして人気を博したONE DIRECTIONは2016 年に活動休止。「サイン・オブ・ザ・タイムズ」は、約1年のインターバルを挟んで届けられたハリー・スタイルズのソロデビューシングルだ。
繊細なピアノのイントロから始まり、エモーショナルな音色のエレキギター、壮大なコーラスワークなどが重なるこの曲は、ドラマティックな雰囲気を持ったロックバラード。明るくポップなONE DIRECTIONのイメージとは一線を画し、アーティストとしての姿勢を明確に打ち出した。全体的なムードはデヴィッド・ボウイに代表される70年代のグラムロックにも近く、ハリーのルーツが感じられるのも興味深い。
“Just stop your crying/It’s a sign of the times/We gotta get away from here”(もう泣かないで、新しい時代の兆しだよ/ここから抜け出さなければ)というラインも印象的。この曲の歌詞についてハリーは『僕たちが厳しい時を過ごすのはこれが初めてじゃないし、これが最後でもない』っていうテーマから来ている」とコメントしているが、生々しい感情と普遍的なメッセージを内包したソングライティングは、ソロデビュー直後から高く評価された。
■2作目のアルバムからリカットされた全米チャート1位のサマーチューン
「ウォーターメロン・シュガー」(2019年)
2017年5月にリリースされたデビューアルバム『ハリー・スタイルズ』は本国イギリス、アメリカ、オーストラリアなどで1位を獲得。「トゥー・ゴースツ」「キウイ」などのヒット曲を送り出し、ソロアーティストとして順調に滑り出したハリーを世界的なスターに押し上げたのが「ウォーターメロン・シュガー」だ。
2作目のソロアルバム『ファイン・ライン』(2019年)からリカットされたこの曲は、軽快なギターカッティングを軸にしたトラック、滑らかなラインを描くメロディ、そして、“I just wanna taste it/Watermelon sugar high”(ただ味わいたいんだ/ハイになるようなスイカの甘さを)というリリックが溶け合うサマーチューン。チルポップ~ネオソウルの潮流を感じさせる音楽性、セクシーな歌声を含めて、ハリーのポップセンスが端的に示された楽曲と言えるだろう。(その後のインタビューで、この曲が男女の行為をモチーフにしていること告白している。)
ロサンゼルスのマリブ・ビーチで水着の男女がスイカやイチゴを味わうMVも話題を集めたこの曲は、この曲で史上初となる全米シングルチャートで1位を記録。2021年のグラミー賞で最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞を受賞するなど、名実ともに世界のポップシーンの頂点に立った。
■“スターであることの孤独”が描かれたMVが印象的! ダンサブルなラブソング
「アドア・ユー」(2019年)
「ウォーターメロン・シュガー」と同じく、アルバム『ファイン・ライン』からのリカットシングル。心地よいファンクネスを感じさせるトラック、“I’d walk through fire for you/Just let me adore you”(君のために 火の中をも歩く/ただ好きでいさせて)という超ストレートな歌詞が一つになったラブソングだ。思わず身体を動かしたくなるダンサブルな音像、リフレインを効果的に使ったリリックを含め、ライブでも心地いい空間を生み出している。
MVのエクステンデッド・バージョンは、7分45秒に及ぶストーリー仕立て。舞台は、いつも曇っている架空の島・エローダ島。“笑うと口から光が出てしまう”という体に生まれた青年(ハリー)は島の人々から疎んじられ、いつしか彼の顔からは笑顔がなくなってしまう。そんなある日、彼は海辺で“仲間外れ”になった魚を発見する――というのが本作の物語だ。ハリーの自然な演技力、シックに洗練された映像を含めて短編映画のようなMVだが、そこには“スターであることの孤独”が投影されているように感じる。それを踏まえて「アドア・ユー」を聴けば、また違った表情が見えてくるはずだ。
■シリアスな心境と未来への希望が描かれる、コロナ禍でのハリーの心境を表す1曲
「アズ・イット・ワズ」(2022年)
通算3作目となるオリジナルアルバム『ハリーズ・ハウス』(タイトルは細野晴臣のソロアルバム『HOSONO HOUSE』の引用だとか)からの第1弾シングル。サウンドの基調は、80’sのシンセポップ。80年代のリバイバルはここ数年のトレンドだが、「アズ・イット・ワズ」には生楽器の響きもふんだんに活かされ、人の手触りや息づかいが感じられる有機的なポップチューンに仕上がっている。
歌詞の軸になるのは“In this world, it just us/You know it’s not the same as it was”(この世界のなかで、僕たちだけ/あの頃とは同じじゃないってわかってるよね)というフレーズ。その背景にあるのはもちろん、コロナ後の世界だ。変貌する状況に戸惑い、葛藤を抱えながらも、その先にあるはずの希望や歓喜に向かって進み始める。そんな感情の動きを描いたこの曲には、ハリー自身のリアルな思いも反映されているのだろう。音楽的なトレンドや自身のルーツに根差した現代的なサウンドメイク、シリアスな心境と未来へのビジョンを込めた歌詞が共存する、きわめて優れた楽曲だと言える。
MVは、ウクライナの映像ディレクター、タム・ヌイノが担当。人と人との距離感や連帯感をコンテンポラリーダンスの要素を交えて表現した映像にも注目してほしい。
■最新アルバムの中の、繊細な感情をポップに表現するハリーならではの作品
「デイライト」(2022年)
ハリー自身が影響を受けてきた70年代~80年代音楽を最新のポップミュージックに昇華したサウンド、コロナ禍によって大きな影響を受けた世界と自分の在り方を投影したリリック。リリース直後から数多くのメディアや音楽ジャーナリストから“最高傑作”と評されたニューアルバム『ハリーズ・ハウス』。個人的にもっとも印象的だった楽曲の一つが、「デイライト」。“If I was a bluebird, I would fly to you”(もし僕が青い鳥だったら、君のところまで飛んでいったのに)というフレーズが印象的なミディアムバラードだ。ちょっとした後悔や悲しみを感じさせながら、どこかリラックスした明るさを感じさせるボーカル、気持ちよく乗れるトラックとのバランスも絶妙。繊細な感情をポップに表現する、ハリーのセンスが存分に活かされている。
アメリカの人気司会者、ジェームズ・コーデンが手がけたMVも話題。このコラボレーションはトーク番組『レイト・レイト・ショー with ジェームズ・コーデン』の企画からはじまったのだが、予算はわずか300ドル(約39,000円)。ハリーのファンの女性のアパートで撮影され、大きな蝶ネクタイ姿のハリー、チープなCGなど、手作り感たっぷりの仕上がりに。こういう遊び心も彼の魅力だ。
ハリー・スタイルズの『THE FIRST TAKE』は、6月13日22時よりプレミア公開。
リリース情報
2022.06.08 ON SALE
ALBUM『ハリーズ・ハウス』
https://sonymusicjapan.lnk.to/HarrysHouse
YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』
https://www.youtube.com/channel/UC9zY_E8mcAo_Oq772LEZq8Q
ハリー・スタイルズ OFFICIAL SITE
https://www.hstyles.co.uk/
https://www.sonymusic.co.jp/harrystyles/