TEXT BY 柚月裕実
恋に“落ちる”と言われるように、恋をしようと思ってするものではなくて。心にはもう他の何かが入る隙なんてなかったはずなのに、“わたし”を奪っていく。
SixTONESの7thシングル「わたし」が6月8日にリリースされた。本作は松村北斗が出演するカンテレ・フジテレビ系月10ドラマ『恋なんて、本気でやってどうするの?』の挿入歌で、初回放送の劇中で初披露された。SixTONESが歌う今回のラブソングは甘さはなく、繊細で複雑でほろ苦い。
■花束と一輪のニゲラ。「わたし」MVで表現した世界
暗い廊下、背中に隠すようにして花束を持って歩く松村北斗。15秒ほどの沈黙を経て“有り得ない”と始まるMV。心情をやっとの思いで口にしたかのような言葉と繊細なピアノの旋律がどこか悲しげだ。照明を落としたことでついた陰影が“わたし”の胸の内を物語っている。
椅子に座る京本大我と向き合い、松村が背に持っていた花束を手渡す。鏡の前で手で顔面を覆う田中樹。姿が見えなくなると鏡には亀裂が。花束を大切そうに抱えるジェシー。伸ばした語尾の母音が切なく響く。花束を手にした森本慎太郎が“わかってはいるよ”と頷きながら歌う。続く2番では高地優吾が階段を登ると、透け感のある布を通して光が射し込む。そこで手にしたのは一輪のニゲラ。大きな壁を見上げる松村、四角く空いた穴から射し込む光に手を伸ばす。風に吹かれ窓際でなびく布、波打つように揺れる布を背に横たわるジェシー。時間は流れていくのに、“わたし”は止まったまま。そこへ優しく手を差し出した松村──。
恋をした喜びやときめきを胸に、毎日が輝き出すような気分…若かりし頃はそんなこともあったかもしれない。経験は役に立つこともあるけれど、足枷のように作用することだってある。苦い経験をした過去と、心を奪われた現在。そんな揺れ動く様を感情たっぷりに歌う。言葉の一つひとつが心に沁みわたり、深く余韻を残す。まるで朗読劇のようだ。
今回はメンバー6人の歌声と表現力を打ち出し、恋をして揺れ動く心情をドラマチックに描いている。またワンカメで映し出したソロMVでは、6人それぞれの演技力が光る。時間にして4分ほどだがショートムービーのような見ごたえだ。
高地が手にした一輪のニゲラ。細く尖った葉と、花びらに見えるのはガクと、一風変わった花姿。英名も「Love in a mist」(霧の中の恋)、「Devil in a bush」(茂みの中の悪魔)。ニゲラの花言葉は「当惑」「不屈の精神」そして「本当のわたし」。赤い糸でラフに束ねた花束には、「清明」「高貴」の言葉を持つデルフィニウム。オレンジ色のラナンキュラスは「秘密主義」、「門出」や「別離」の意味を持つスイートピー。所説ある花言葉を組み合わせることでまた違った解釈ができそうだ。
いくつもの小さな蕾、幾重にも重なる繊細な花びらには複雑な心情を。背中に隠す様子は見せたくない本当の“わたし”か。歌詞で描かれた過去と現在。恋をきっかけに自分と対峙し、薄紙をはぐように“わたし”の心が見えてくる。そしてMVのラストが意味するものとは。もう昔の“わたし”ではない?それとも…。
■「わたし」初回盤B収録のライブ音源の魅力
これまでの作品がそうであったように、SixTONESはカップリング曲が充実している。新曲はもちろんだが、注目したいのは初回盤Bの3曲だ。
2ndアルバム『CITY』に収録の「WHIP THAT」「Everlasting」「Good Times」のそれぞれに「-LIVE from “Feel da CITY”-」と付いているように、2022年のライブツアー「Feel da CITY」でのライブ音源が収録されている。
ライブで最高の盛り上がりをみせる「WHIP THAT」。メンバーのボルテージが最高潮に達したかのような迫力と興奮、熱狂、そして笑いを詰め込んだSixTONESらしさが詰まったパートだ。対する「Everlasting」では、ライブでしか聴けない会場ごとの残響が醸す壮大さと、ライブならではのテンションと微妙な歌声の揺れ、降り注ぐ6人の声を浴びるような感覚に。そしてジェシーの言葉で誘われる「Good Times」では、客席のクラップも聞こえ、以前のように歓声はあげられないけれど、同じ時間を共有した証のように刻まれている。
ライブならではの息づかいやテンション、そして彼らのパフォーマンスがありありと目に浮かぶ熱をまとったライブ音源。それを連れ出して聴ける喜び、そしてCD音源とライブ音源を聴き比べる楽しみをもたらしてくれた。
■彼らの言葉や姿、現場の音や雰囲気がダイレクトに
また、初回盤BにはDVD「Documentary of “CITY”」が付属する。2ndアルバム『CITY』の制作現場を捉えたもので、打ち合わせからレコーディング、ダンスやMV撮影と制作の裏側に触れられる。テレビ番組のドキュメンタリーとは異なり、ナレーションはなく、彼らの言葉や姿、現場の音や雰囲気がダイレクトに映し出されている。
特にレコーディングの一コマでは、歌詞にどう強弱をつけるかを検討したり、自分なりの方向性を決めたり。“神は細部に宿る”のごとく、音楽を愛する6人の姿勢が見えてくる。ジャンルの異なる楽曲のライブ音源には、SixTONESが取り組む音楽のフレームの大きさを改めて感じ、映像を目にした後はアルバム『CITY』への愛おしさがよりいっそう増す。
“恋に落ちる”かのように衝撃的な出会いを果たした「わたし」。SixTONESらしい、SixTONESならではのラブソングにまたしても心を奪われた。
*高地優吾の「高」は「はしごだか」が正式表記。
リリース情報
2022.06.08 ON SALE
SINGLE「わたし」
SixTONES OFFICIAL SITE
https://www.sixtones.jp/