TEXT BY 渡部あきこ
■「レコードは、私が音楽を好きになるきっかけ」
adieu名義で音楽活動を展開する上白石萌歌が、これまでに発表した2枚のミニアルバム『adieu 1』(2019)、『adieu 2』(2021)を、それぞれ初のアナログ盤としてリリースする。今年に入り、「灯台より」「旅立ち」という2曲の配信曲と2ndシングル「穴空きの空」を発表し、精力的に活動を続ける彼女だが、なぜこのタイミングで過去作のアナログ盤をリリースしたのか。その理由をadieuは「LP盤を出すことがずっと夢だった」と語る。これまでにも出演したバラエティ番組等で昭和歌謡好きを公言してきた彼女。中古レコードを収集するほどのめり込んでいるとのことで、「レコードは、私が音楽を好きになるきっかけになったもの。好きな音楽を音源として持ち歩けるのも魅力的ですが、ずっと物として手元に残り続けることは更に特別です」と話す。本作で念願を叶えたことで、またひとつ表現の幅が広がったと言えるだろう。
彼女がadieuとして初めて世に登場したのが2017年。行定勲監督が手がけた映画『ナラタージュ』の主題歌として、野田洋次郎(RADWIMPS)作詞・作曲による同タイトルの曲を発表した。しかし当時は、「都内の高校に通う17才の女子高校生」という属性のみが公開され、上白石萌歌であることは伏せられたまま。謎めいたシンガーの存在は、早耳の音楽ファンの間で大きな話題となった。その後、上白石自身がTwitter上で、adieuが自分であることと、今後もadieuとして音楽活動を続けていくことを公表したのが2019年。同年に満を持してリリースされたミニアルバム『adieu 1』に収録された「よるのあと」はロングヒットとなり、本人出演のMVの再生回数は現在までに890万回再生を超えている。さらに2021年には『adieu 2』をリリースし、初のワンマンライブ『adieu First Live 2021 -à plus-』を開催。開演前のBGMや映像の演出まで自らがディレクションし、adieuの世界観をステージ上に再現してみせた。最新曲「穴空きの空」はテレビアニメ「『半妖の夜叉姫』弐の章」のエンディングテーマに抜擢。“孤独や愛”をテーマにしながらも、どこかキュートなミディアムテンポのナンバーからは、決して早足ではないもののアーティストとして着実に歩みを進めるadieuの現在地が垣間見える。
adieuの魅力を語るとき、まずはじめに触れられるべきはその歌声だ。ややあどけなさの残るまっすぐで純真無垢な歌声は、不思議なほどに聴く者の胸を打つ。一方で、そっと癒してくれるような慈愛に満ちた響きも兼ね備え、どこか幻想的な雰囲気が漂っているのも特長と言えよう。
そしてその声を活かすには、ともに作品制作にあたるミュージシャンたちの存在が欠かせない。FINLANDSの塩入冬湖や小袋成彬らが率いる気鋭の音楽集団・Tokyo Recordings(ともに「よるのあと」)、カネコアヤノ(「天使」)、『2』の古舘佑太郎(「愛って」)に加え、プロデューサーのYaffleら多彩な才能が、“ひとりの「表現者」としての側面を創り出すクリエイティブコンソーシアム”というadieuの活動を支えている。むしろそこから生まれる化学反応が、彼女をいっそう自由にしていると言ってもいい。女優としての上白石萌歌のイメージが「日中」だとすれば、adieuのイメージは「夜更け」であるというコンセプトのとおり、ひとつの枠に収まらず、揺らぎ、たゆたい、ゆるやかに形を変えるさまは、あらゆる表現への可能性を秘めている。
■「レコードの音の粒は暮らしにとても馴染む」
今回のアナログ盤はそんなadieuの音楽を表現する媒体としては、まさにうってつけ。音質のよさを体感できるのはもちろん、聴き手のライフスタイルや環境によってもレコードを味わう時間はさまざまな余韻をもたらしてくれるに違いない。adieu自身も「CDや音源で聴くのとはまた一味違う雰囲気を味わっていただけると思います!A面、B面とひっくり返してアルバムをまるっと楽しんでいただけると嬉しいです」とコメントを寄せてくれた。さらには「レコードの音の粒は暮らしにとても馴染むので、ぜひ生活のお供にしていただきたいです!」とも語っている。自らの感性に正直に、音楽シーンの中を軽やかに進んで行くadieuという女の子の物語を手に取ってみてはいかがだろうか。
リリース情報
2022.03.30 ON SALE
LP『adieu 1』/LP『adieu 2』
adieu OFFICIAL SITE
https://www.adieu-web.com