TEXT BY 長谷川 誠
■捉えどころ、つかみどころのなさも魅力な奥田民生の音楽
『THE FIRST TAKE』で「さすらい」「太陽が見ている」をパフォーマンスした奥田民生。
先日は東京スカパラダイスオーケストラの谷中 敦(Baritone sax)がホストをつとめる『FUKA/BORI』にも出演し、自身の楽曲やルーツ曲について語っている。
彼が自身の音楽について語る機会はそんなに多くはない。これは貴重なインタビュー映像と言えるだろう。これらの映像を踏まえながら、奥田民生の音楽の特徴と魅力を分析するのが本記事のテーマである。さらにソロでデビューして28年目、変わったことと変わってないことについても考察していこう。
奥田民生の音楽の特徴を言葉にするのは難しい。捉えどころのなさや、つかみどころのなさも彼の音楽の魅力になっているからだ。ここでは便宜的に“独創的”“哲学的”“楽器的”“瞬間的”という4つのキーワードを挙げて説明していきたい。
■独創的:人と同じことをしたくない、へそ曲がりな性分
ひとつ目の“独創的”とは彼の発想がユニークであることと、“へそ曲がりな性分”であることを意味している。彼の音楽がオリジナリティーに溢れているのは、人と同じことをしたくないという彼の気質に起因する部分が少なからずあると思うのだ。
彼の独創性やへそ曲がりな性分は楽曲の様々な部分に表れている。わかりやすい例としては「太陽がみている」での紙コップの使用だ。音楽制作・録音技術が発達して高音質化が進む中で、低音質の極みと言えそうな紙コップをパーカッションとして使っているところが彼らしい。
ただし、単に奇を衒っているのではなく、その独創性を音楽表現として昇華しているところが見事だ。紙コップを使うことで、とぼとぼ歩く日常的な雰囲気を喚起させる効果もある。この曲はドラマ『逃亡者F』の主題歌であり、楽曲制作で西部劇をイメージしたところもあるとのこと。エンニオ・モリコーネの映画音楽で、効果音として馬のひずめの音が使用されていたこととリンクする部分があるかもしれない。
この「太陽がみている」では、一見ネガティブとも思える歌詞が歌われるのだが、最後には“暗闇の中 笑いながら 歌い続けよう”というポジティブな言葉が綴られている。このあたりにも彼のへそ曲がりな気質が表れているのではないだろうか。いかにも希望の歌、いかにも前向きな歌を作らないのは、彼がへそ曲がりだから、そしてへそ曲がりなリスナーすらも納得させるリアリティと説得力のある曲作りを目指しているからなのではないだろうか。
■哲学的:生き方をテーマにする歌
ふたつ目の“哲学的”とは、生き方がテーマの歌がたくさんあることを意味している。『THE FIRST TAKE』で演奏された2曲にも当てはまるが、「さすらい」では“誰のための道標なんだった”“無視したらどうなった”という問いが存在する。「太陽が見ている」でも“逃げますかそれとも行きますか”という問いがある。
こうした自問自答は哲学的で、生き方がテーマとなっている曲は「イージュー★ライダー」「花になる」「息子」「愛のために」などなど、挙げ出すとキリがない。
どの曲も押しつけがましさがないところがポイントだろう。聴き手が自由に解釈する余地があり、歌の世界に深さや広がりがあるところも特徴的だ。
■楽器的:弾き語りでもギターと歌で共演している気持ち
3つ目は歌声が“楽器的”であることを意味している。奥田民生の音楽の大きな特徴として挙げられるのは、ソロシンガーでありながらバンドマン的な発想が表現の軸になっていることだろう。『FUKA/BORI』(SIDE-B)でも「弾き語りでもギターと歌で共演している気持ち」と語っていたのが印象的だった。
歌が限りなく楽器に近いのだ。元々、彼の出発点はバンドのギター&コーラス担当だったという。おそらく歌をバンドのアンサンブルのひとつの要素として捉えているということなのだろう。
彼のボーカルについて、ギターをかき鳴らすように喉を鳴らし、体内で振動させて聴き手に届けていると形容したくなる瞬間がある。彼の歌声からは、歌詞やメロディも含めた響きや鳴りの気持ち良さが伝わってくるからだ。
■瞬間的:装飾を排除した、削ぎ落とされた音楽
4つ目の“瞬間的”とは、瞬間に生まれるものに対して、彼が自覚的なミュージシャンであることを意味している。
瞬間を音楽に封じ込めるとは、作為的ではない音楽、自然体の音楽、作り込みすぎない音楽を作ることだ。近年の音楽は徹底的に作り込み、一曲の情報量を増やしていく傾向が顕著だが、彼は時代の流れに影響されることなく、装飾を排除した、削ぎ落とされた音楽を作っている。
シンプルになればなるほど、表現力が問われるだろう。彼はシンプルでありながら豊かなニュアンスを持った音楽を作り続けているのだ。
かつて奥田民生は「音楽によって成長してきた」と語っていたことがある。天性の才能にプラスして、自己を客観視し、努力し続ける姿勢を持ち続けているところにも彼の独自性がある。音楽によって鍛えられ、磨き上げられた成果は、彼の音楽性として着実に蓄積されている。
“独創的”“哲学的”“楽器的”“瞬間的”というキーワードにもうひとつ付け加えるならば、“音楽的”という言葉がふさわしいだろう。
バンド、ソロ、ユニット、プロデュース、公開レコーディングなどなど、彼が多岐にわたる音楽活動をしているのは、純粋に彼が“音楽好きだから”だと思うからだ。
デビューから28年目、変わったことと変わらないことにも触れておこう。
デビュー当時から変わらないのは、音楽に対する情熱と姿勢。時には修行僧のように、時には科学者が実験するように、彼は音楽を極めるべく向き合っている。
変わったところを強いて挙げるならば、音楽的な引き出しの数が増えたことだろうか。デビューしてからの27年分の音楽の引き出しを保持しながら、彼は我が道を歩みながら音楽を奏でている。
27年歌い続けてきた現在、“暗闇の中 笑いながら 歌い続けよう”と歌えるところが素晴らしい。
暗闇の中であっても、奥田民生の歌声は聴き手の胸に届くに違いない。