Tani Yuukiの、シンガーソングライターとしての“本領”が明らかになりつつある。
2020年に発表した「Myra」がTikTokをきっかけに注目を浴び、ストリーミング累計再生数1億回を突破、新世代のシンガーソングライターとして名を知られるようになったTani Yuuki。
その人気は一曲だけの話題性には終わらず、現在「W/X/Y」がApple Music、LINE MUSIC、Spotifyなど各種サブスクリプションサービスのランキングで上位を席巻。
SNS発のヒット曲が世を席巻する今の時代を象徴するひとりとして脚光を浴びる。
■シンガーソングライター・Tani Yuukiとは?
すでに楽曲は世に浸透しつつあるが、彼のアーティストとしての魅力がその文脈と共にきちんと伝わるようになっていくのは、むしろこれから先のことなのではないかと思う。
そう感じさせてくれたのが、3月9日に配信リリースされた新曲「自分自信」。
ピアノの真っ直ぐなフレーズから徐々に熱量を上げ、サビの力強いメロディに乗せて“だれしも始まりの一歩が上手くいくわけがないよな”と歌い上げるドラマチックな一曲だ。
曲のテーマは“青春”。
UQ mobile「UQ応援割」WEB限定CMタイアップ曲として書き下ろされ、「#どんな青春にも応援が必要だ」というキャンペーンコンセプトに寄り添った内容となっている。
■Tani Yuukiの音楽の源泉として息づく、RADWIMPS 野田洋次郎
そのうえで感じるのは、Tani Yuukiが様々なインタビューでルーツのひとつとして語っているRADWIMPS 野田洋次郎からの影響だ。
例えば、Bメロでの“未だかつてないほど振り絞った勇気を”という歌いまわし。曲後半にある“奇跡で生まれた地球で出会った僕らだ だから負けやしないのさ 史上初の自分を信じてみるよ”というフレーズ。
思春期のちっぽけな心の揺れ方を描くのに、あえてスケール感のある大仰な言葉を使う。そういうダイナミズムのある発想が楽曲の魅力の源泉になっている。
中学生時代に祖父からアコースティックギターをもらったことをきっかけに音楽を始めたというTani Yuuki。
当時は体調を崩して学校に通えない時期もあり、悶々としていたという。そんな時にスピッツのカバーから歌うことにのめり込んだのが音楽との出会いだった。
そういう葛藤や居場所のなさを抱えた経験が原点にあるからこそ、“青春”というテーマに真っ向から取り組んだのだろう。
昨年12月には1stアルバム『Memories』を配信にて発表しているが、それらの収録曲も“TikTokでバズっている曲”という先入観や“SNS発の次世代シンガー”というイメージではなく、“RADWIMPSに憧れ、音楽に救われた10代を過ごしてきたミュージシャン”という文脈で聴くと、腑に落ちるところがたくさんある。
男女という対の存在をテーマにしたラブソング「W/X/Y」。隙間を活かしたトラックメイキングと、巧みに韻を踏むリリックが印象的な一曲だ。
特に聴いていてハッとするのが、繊細なハイトーンの歌声と心地よい3連のフロウを活かし、1番で“2人酸いも甘いも 噛み合わないとしても”、2番で“2人対の細胞 絡み合う特別を”と歌う部分。切ないラブソングの歌詞に“細胞”という言葉が登場する。
「W/X/Y」という曲名は、ヒトの性染色体がXXで女性、XYで男性になることから、そのふたつをかけ合わせたものを表しているという。そうした発想にも、RADWIMPSの初期の名曲「25コ目の染色体」へのオマージュを感じてしまう。
■Tani Yuukiの持っている可能性は“その先”にあるのではないか
先日MVが公開された「愛言葉」も、溢れる思いをそのまま詰め込んだような、とても愚直なラブソングだ。
ゆったりとした歌い出しから始まるこの曲のポイントは、“空が暗くなければ星が見えぬように”から“あなたのいない世界なんて呼吸もできないの この世のどこにもたった1人絶滅危惧の あなたという存在を隣で見守りたいの”と言葉を畳みかける中盤のパートにある。
「Unreachable love song」もTani Yuukiのアーティスト性を示す一曲だろう。
EDM的なトラックメイキングも得意にする彼だが、この曲はトロピカルハウスのテイスト。リズムに巧みに乗ったフロウも、声の響きも、ところどころに配されたSEも、お洒落な聴き心地を醸し出す。でも歌われているリリックは、とても悲しい情景を描いている。
恋愛をモチーフにした楽曲が若い世代の共感を集めるTani Yuukiだが、『Memories』には「決別の唄」や「Life is beautiful」のような人生のターニングポイントについての歌、「百鬼夜行」や「曖昧ミーマイン」のような葛藤を描く曲もある。
そういうたくさんの曲の中に「Myra」を置くと、聴こえ方も変わってくる。
TikTokでバズを生んだ要因は心地よくキャッチーなサビのフレーズだけれど、歌詞全体を辿っていくと切ない思いが明らかになる。
SNS発のヒット曲が世を席巻するようになった2020年代の音楽シーン。ただ、Tani Yuukiの持っている可能性は“その先”にあるような気がしている。
話題性や流行よりももっと深いところでリスナーの胸の内側に刺さるような楽曲が増えていくことで、着実に支持が広がっていくのではないかと思う。
TEXT BY 柴 那典