TEXT BY 矢島由佳子
■自身のライフストーリーや考えを表現しながら、時代に合った生き方を提案し、聴き手へメッセージを手渡す
2020年9月に配信シングル「16yrs」でデビューし、音楽のジャンル、国境、性別など、物事を区分するあらゆるボーダーラインの概念に疑問を投げかけるようなスタンスで活動する、Doul。
そのスタイルと全編英詞の音楽は世界中から注目されており、デビュー曲はストリーミングサービス各種で世界90ヵ国にて再生、さらに世界的プロデューサー・ディプロ(Diplo)からInstagramをフォローされるなど、本人も驚きの事象をここ日本から生み出している。
国内でも、「NIKE Japan」のアンバサダーに任命されたり、今年1月に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(EX)の人気企画「売れっ子プロデューサーが選ぶ年間ベスト10」で「Bada Bing Bada Boom feat. Zag SO-SO REMIX」が蔦谷好位置から7位に選出されるなど、その個性的な存在感と音楽性がすでに高く評価されているアーティストだ。
つい先日、私も初めてDoulをインタビューさせてもらったのだが、彼女の表現者としての信念は太くて確かなものだった。音楽やカルチャーの歴史を尊重したうえで、自分こそが新しいものを創造し、そして世界をちょっと変えてやろうという気概を彼女の言葉の端々から感じ取れた。
アーティストのみならず、SNSを通して誰しもが自己表現できる今は、“個性を出さなきゃいけない”という焦りと“変な個性を出すと嘲笑われる”という周囲からの目の両方と戦わなければいけないような時代であるが、Doulは誰に何を言われても自分の作品とスタイルに自信を持ち続けるタフさを備えており、さらに聴き手に対して優しさと強さを添えて手を差し伸べて引っ張り上げるような牽引力も持ち合わせている。
そのインタビュー記事が公開される前に、Doulの個性と魅力について綴りたいと思う。
まずは、Doulの音楽性について。
世界的にもヒップホップとオルタナティブロックやポップパンクが接近し、アヴリル・ラヴィーンの再評価など“2000年代リバイバル”のムーブメントも起きているなかで、Doulのサウンドはある種“時代の寵児”のような存在だと言っていいだろう。
Doulは、母親のお腹の中にいる頃からエミネムを聴き、リンキン・パーク、ニルヴァーナなど1990〜2000年代のUSオルタナティブロック、グランジ、ヒップホップ周辺の音楽が自然と耳に入る家庭環境で育ち、本人も大好きだったという。そこからグローバルな音楽シーンの流れに伴って、ヒップホップやダンスミュージック要素の強いK-POPなどにのめりこんでいった。
そんな彼女が今サウンドメイクするのは、ひと言で言えば“ミクスチャー”である。彼女が影響を受けてきた上記以外のジャンルも含んだあらゆる音楽的要素を自由に混ぜ込んだトラックに、メロディアスな歌が乗った楽曲たちは、何かひとつのジャンルに当てはめて語ることはできない。
ここ日本でも、例えば、HYDEをリスペクトしながらロックとヒップホップの境界線を跨いでサウンドメイクする(sic)boyのアルバムが高い評価を受けていることが象徴的であるが、“一貫性を求められたようなところから、一貫性がないのが当たり前とされる時代へ”と言わんばかりに、“ヒップホップが大好きで、ヒップホップだけを聴いてきたから、ヒップホップなファッションを身に纏って、ヒップホップの音楽を作る”という時代からは移り変わって、アーティスト自身の心が惹きつけられるものすべてに素直に触れたうえで、新しいミクスチャーな音楽・カルチャーを作ることこそが聴き手にも刺激的かつ魅力的に受け取ってもらえる、そんな時代となっている。
そして、アートワークやファッション、メイクについて。
Doulはアーティストとして、聴覚的要素だけでなく視覚的要素もセルフプロデュースで手がけている。3月9日にリリースされる1stアルバム『W.O.L.F』のジャケットも、デザインやロゴ制作から自ら手を動かし、服装とメイクも自身でコーディネートしたと取材で語ってくれた。
アートワーク制作に興味を持ったきっかけは、トゥエンティ・ワン・パイロッツだったというのだからまた面白い。「Stressed Out」を入り口に、アルバムのジャケットやロゴ、MVなど、作品にまつわるすべてをストーリーとして表現することの面白さに気づいたという。
さらに、取材・撮影現場にはライダースを羽織ってチェーンのアクセサリーを身につけた格好で来てくれたのだが、それらはすべて作品プロモーションのための衣装ではなく私服だというから驚いた。
昨今、各SNSのアルゴリズムはどんどん強化されていて、私のTwitterのタイムラインやInstagramの発見タブにはフォローしていないアカウントからの“透け感のある前髪”“ぷるぷるの唇”“ぷくっとさせた涙袋”などの情報が溢れ返っているのだが、そこからかけ離れたところにあるDoulのファッションやメイクはとても新鮮でかっこよく映る。商業的なファッション・メイクの流れよりも、音楽・カルチャーとともにあったファッションの歴史を愛し、好きなアイテムを組み合わせて、見せたい自分を見せようとするDoulは、今の時代においてファッションアイコンとしても非常に貴重な存在のように思う。
最後に、Doulの歌詞と、歌詞に表れている自身の人生観について。
Doulのリリックは、ヒップホップの先人たちがそうしてきたように、自身のライフストーリーや日常的な感情をそのまま歌ったものが多い(ただし、そのスタイルだけではないことも、ヒップホップの掟などにとらわれず自由に楽曲制作していることの表れだと言える)。
2月2日に配信リリースされた「Free」は、周囲から偏見の目で見られたり傷つく言葉を言われたりして、外に居場所がなく自分の殻に閉じこもっていたところから、自分の心の中にある熱量や創造力を自由に爆発させることを決めるまでを綴った、自身の歩みと決意が込められたような曲だ。
リリックの綴り方と歌い方を操ることで、1番はDoulが自分自身を奮い立たせる歌のように聴こえてくるが、2番は聴き手に対して“あなたの心も自由よ”と語りかけながら手を引っ張るように聴こえてくる。
さらに、今の時代における多様性の認め合い方にまで言及しているとも捉えることができる。他者と違いを越えて痛みや悲しみを分かち合うためにも、セルフラブ=自己愛の大切さが語られる時代のアンセムのようでもあるのだ。
自身のライフストーリーや考えを表現しながら、時代に合った生き方を提案し、聴き手へメッセージを手渡すことも怠らないのがDoulというアーティストである。
2月23日に配信リリースされた最新曲「Super Hero」は、自身のデビューとコロナの時期が被ってしまった経験を重ねて、外に出られず、さらに卒業式や修学旅行、体育祭などあらゆる学校行事が中止になってしまった同世代やティーンエージャーたちへ、Doulが緊急事態宣言下に書いた曲。
サビで繰り返し歌われる“Stay on”という言葉は、“Stay Home”が呼びかけられた自粛期間中に“家の中にいよう”“家の中でも積み上げられるものはあるから大丈夫”ということを伝えると同時に、自分自身に迷いを抱えている人へ“そのままブレずにまっすぐ進んでも大丈夫”といったニュアンスで背中を押すようにも聴こえてくる。
この曲も最後は“Everyone’s the hero”(直訳すると“みんなこそがヒーロー”。オフィシャルの日本語訳では“お前こそが英雄(主人公)だ”と記されている)と歌われるが、これまでの人生で狭い価値観に押し込まれて否定されてきた経験があるDoulだからこそ、どんな人のことも自分の価値観の中にはめて否定したりはせず、一人ひとりを肯定するスタンスが表れている。
全曲を通して英詞でありながら、リズムやフロウ、韻を意識したワードチョイスを行い、実体験とメッセージが伴ったリリックを書き上げるDoulは、シンガーソングライターとして今の日本の音楽シーンにおいて稀有な存在だ。
Doulの1stアルバム『W.O.L.F』は、3月9日リリース。全17曲入りのボリュームとなっており、一枚を通してDoulの音楽的な多面性と、Doulという人間のライフストーリーや心情、そして今の時代に選択肢を増やしてくれるような生き方の提案が表現された内容になっている。
「自分の尊敬する音楽たちを自分流に集めたうえで、もっと爆発させる。それができたときに、たぶん、革命が起きるなと思ってますね」とたくましく語ってくれたDoulのインタビュー記事も近日公開予定だ。
リリース情報
2022.02.02 ON SALE
DIGITAL SINGLE「Free」
2022.02.23 ON SALE
DIGITAL SINGLE「Super Hero」
2022.03.09 ON SALE
ALBUM『W.O.L.F』
Doul OFFICIAL SITE
https://www.doul.jp/