TEXT BY 原 典子
■独自のサウンドでコアな音楽ファンも魅了する“モノンクル”とは?
吉田沙良(Vo)と角田隆太(Ba)によるソングライティングデュオのモノンクル。その音楽にはジャズ、ポップス、ロック、クラシック、ブラジル音楽…ありとあらゆる要素が溶け込み、ジャンルでは分別できない豊かなサウンドで独自の境地を切り拓いてきた。
子どもの頃から歌うことが大好きだったという吉田は、音楽科のある高校でクラシックを学び、音楽大学ではジャズ科に進んで、ミュージカルから弾き語りまで様々なフィールドで歌ってきたという。いっぽうの角田は音楽家の家庭に育ったものの英才教育は受けず、メロコアやハードコアパンクのバンドでベースを弾いていたとのこと。大学でビッグバンドに入ったのがジャズとの出会いだった。
そんなふたりが出会い、2011年にモノンクルを結成。ジャズ界の鬼才、菊地成孔プロデュースのもと、ホーンセクションを含むビッグバンドのサウンドを軸にした1stアルバム『飛ぶものたち、這うものたち、歌うものたち』(2013年)、ジャズからポップスへとより接近していった2ndアルバム『南へ』(2014年)、斉藤ネコ、大儀見元、黒田卓也、FUYUら豪華ゲスト陣を迎えた3rdアルバム『世界はここにしかないって上手に言って』(2017年)をリリース。
新世代のジャズを感じさせるフレッシュなバンドサウンドと、詩情溢れる文学的な日本語詞をかけあわせ、コアな音楽ファンをも魅了してきた。
ターニングポイントとなったのは、セルフプロデュースによる4thアルバム『RELOADING CITY』(2018年)だろう。エレクトロニクスも駆使したサウンドはネオンのような輝きを放ち、リズムはよりスタイリッシュに。折しもリバイバルで注目を集める”シティポップ”の文脈にもぴたりと当てはまるものであった。
■多彩なアンサンブルと歌詞で描き出した「salvation」
そして、今年2月にリリースされたシングル「salvation」は、アニメ『ヴァニタスの手記』第2クールのエンディングテーマとして起用された楽曲。もとからあった断片的なデモ音源に、原作のコミックを読んで得たインスピレーションを吹き込んで作詞・作曲されたという。ミックスおよびアレンジで冨田恵一が参加し、洗練されたエレクトロニクスとエッジィなロックテイストが絶妙なバランスで成り立つ一曲だ。
With ensembleバージョンの動画は、少し前に「GOODBYE」が公開され、須原 杏による斬新なアレンジと、ウッドベースを奏でる角田、エモーショナルな吉田のボーカルが素晴らしかっただけに、今回の「salvation」も期待大だった。
「salvation」の原曲では、角田の弾くエレキベースの太い音が屋台骨となってグルーヴを生み出しているのに対し、With ensembleバージョンで角田が弾いているのはウッドベース。ピアノとストリングスからなるアンサンブルでは、当然、リズムのアタックは弱くなる。しかし、サビの裏拍をはじめ、原曲の持つエッジィなリズムは少しも失われていないのが驚異的。吉田のボーカルが複雑なリズムを自在に乗りこなしながらアンサンブルと一体化し、大きなうねりとなって前へ前へと推し進めているのだ。
2コーラス目に入るジャジィなピアノ(演奏は兼松衆)も儚げで美しい。1コーラス目から上下行を繰り返していたミニマリスティックなストリングスの糸がほどけて、“辿り着くのが地獄なら 2人信じるまま堕ちて行こうか”という歌詞になだれこんでいく箇所などは、アレンジャーの和仁将平のセンスと手腕が光る。
その後のサビからラストまでは、吉田とアンサンブルが高揚感に身を任せるまま、クライマックスへと向かっていく。この熱狂は、すべてのメンバーが一緒に演奏しているからこそ生まれるものだろう。ひとりずつブースに入って、ヘッドフォンでクリック音を聴きながらのレコーディングでは生まれない。そしてなにより、あらゆる音楽体験を重ねてきたモノンクルだからこそ、クラシック楽器のアンサンブルとともにグルーヴを生み出すことができたに違いない。
「salvation」は“救い”という意味。救いとは、必ずしも高みから手をさしのべるものばかりではなく、一緒に堕ちていくこともまた救いになる。『ヴァニタスの手記』に描かれているのは、吸血鬼(ヴァンピール)が存在する19世紀のフランス。そこに漂う退廃の香り、滅びへの予感を、With ensembleはヴィヴィッドに音で描き出していく。果たしてその先に希望の光はあるのか? 多面的な意味を映し出す歌詞と合わせて味わいたい。
モノンクル OFFICIAL SITE
https://mononkvl.tumblr.com/
『With ensemble』
https://www.youtube.com/c/Withensemble
『THE FIRST TIMES』OFFICIAL YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCmm95wqa5BDKdpiXHUL1W6Q