TEXT BY 矢島由佳子
■“作品”と“作品”を掛け合わせる共作の仕方とソングライティング力の秀逸さ
King Gnuのニューシングル「カメレオン」が、3月16日に発売/2月28日に先行配信リリースされる。「カメレオン」は、現在放送中のフジテレビ系月9ドラマ『ミステリと言う勿れ』(主演:菅田将暉)の主題歌である。
前作「一途/逆夢」は、発売週にオリコン週間シングルランキングでバンド初のシングル1位を獲得、さらにオリコン週間合算シングルランキングでは通算4週1位、そしてオリコン週間ストリーミングランキングで5週連続首位をキープするなど、King Gnuの記録を塗り替えている作品だ。
自らのキャリアハイを更新し続けるなかでリリースされる「カメレオン」を、私はひと足先にフルサイズで聴かせてもらったのだが(ドラマ各話ではショート尺で流れている)、この曲は現在の快進撃をさらに勢いづけるものになると確信している。その快進撃の先で彼らはどこに向かうのか?──彼らはさらなる影響力と使命感を持って、この国に新しいサウンドを届ける、より大きな国民的バンドだ。すでにKing Gnuを“国民的バンド”と呼ぶことに対して誰からも異論はないと思うが、さらにひとつ上のステージへと、彼らは駆け上がろうとしている。
「カメレオン」について触れる前に、私が大きく感動しているKing Gnuの変化のひとつについて記しておきたい。
King Gnuは2019年頃から数多くのタイアップ曲を書き下ろす機会を得ていたが、2020年(リリースは2021年1月)に映画『ヤクザと家族 The Family』に主題歌「FAMILIA」(millennium parade名義の曲であるがKing Gnuの4人ともが楽曲に参加している)を制作した経験をきっかけに、タイアップ曲の書き方やクオリティが格段に上がっていることを、私は昨年12月からリリースされた「BOY」「一途/逆夢」、そして「カメレオン」の3作から感じている。
“「FAMILIA」をきっかけに”と明言するのは、『ヤクザと家族』と「FAMILIA」完成時に「タイアップという形は今までたくさんやってきましたけど、一緒にモノを作るということはこうじゃなきゃなっていうようなひとつの基準になりました」と、ソングライターである常田大希が筆者のインタビューで話してくれていたからでもある。その発言以降、常田が創作するタイアップ曲の作品としての完成度や、タイアップ相手の作品との親密度が格段に上がっているように思うのだ。
例えば、テレビアニメ『王様ランキング』に書き下ろした「BOY」は、そもそもメンバー4人ともが作品を大好きだったということもあり、盛大に作品に寄り添って、主人公・ボッジへ語りかけるかのような、もしくは視聴者のボッジへの目線を代弁するかのような言葉を歌い、他のKing Gnuの楽曲とは少しテイストが違うメロディやリズムも躊躇なくチョイスしながら、きちんと「Teenager Forever」の延長線に置けるような、自分たちのバンド史に接続させられるところで曲を完成させている。
『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌「一途」に関しては、常田のルーツにあるロックを最大限の熱量とともに掘り起こして、今の日本のヒットチャートには少なくなってしまった歪んだギターとロールするドラムが暴れるバンドアンサンブルを人気アニメの劇場版の主題歌にぶつけてきたことに、まずは盛大なカウンター精神とバンドとしてのプライドや責任感を見て取ることができる。
そのうえで、登場人物である乙骨憂太と祈本里香の関係性と心情、さらに五条悟と夏油傑の友情と正義についてまで含ませながら、『呪術廻戦 0』を観ていない人が聴いても理解できる普遍性も帯びさせている歌詞が素晴らしい。もっといえば、“最期にもう一度/力を貸して/その後はもう/何も要らないよ/僕の未来も心も体も/あなたにあげるよ/全部全部”という歌詞が主人公・乙骨の台詞そのままであり、そこから曲全体を展開させているのだと、映画を観て知った際には鳥肌が立った。そこまで作品に寄り添いながら、でもただ寄り添うだけでなく、King Gnuとしてのアティチュードやメッセージを骨太のまま成立させている、そうした“作品”と“作品”を掛け合わせる共作の仕方とソングライティング力は並大抵のものではない。
『ミステリと言う勿れ』の主題歌である「カメレオン」は、一聴すると、King Gnuにとっての初の大ヒット曲「白日」に通ずる喪失のストーリーを描いたバラードになっている。ただし、“カメレオン”という表現や“突き止めたい/叶わない/君の正体は/迷宮入りの/難解なミステリー”というサビのフレーズは、単純に恋愛だけに関わるものではない。菅田将暉演じる久能整の“真実は一つじゃない、人の数だけある”という台詞があるとおり、“すべての人間、行動、物事、出来事は多面的であり見る角度によって違う”といった視点から物語は進んでいくが、それは、これまでもKing Gnuが歌ってきた人間や文化の多様性への投げかけにも通ずるテーマであると言える。King Gnuが綴る、大きな意味での“喪失”や“異なる真実”を内包する音楽は、久能整や犬堂我路、さらには各回の事件にまつわる人たちなど、あらゆる種類の喪失を抱える登場人物に寄り添うBGMとして毎話を彩っている。
毎話における整の台詞(ここには原作者・田村由美が普段思っていることが詰め込まれている)や、ドラマのテーマの核には“「当たり前」として受け入れていることに疑問を投げかけて考え直す”といったことがあり、そこもKing Gnuのアティチュードの核と見事に合致していることからこのドラマの主題歌にはKing Gnuがふさわしかったのだと思わされる。音楽のジャンルにしろ、マスメディアに取り上げられるカルチャーにしろ、人々の生き方にしろ、ごく狭い範囲のものが世の中の“マジョリティ”とされている状態に対して、そこからはずれた人やものへの愛を持ちながら、その狭い範囲をなんとか広げようと表現者としてできることをまっとうしてきたのがKing Gnuだ。例えば昨年末の『NHK紅白歌合戦』にmillennium paradeとして出演した際に常田がチェロを弾いて大編成を率いていたことも、大衆音楽の“当たり前”を広げようとする行為だった。
そのマインドは「カメレオン」のサウンドでも十分挑戦的に発揮されている。「カメレオン」は、メロディは歌謡的なものでありながら、アコースティックピアノの生々しい打鍵音をあえて残していたり、サビでは井口理の清らかな歌とプリズマイザー的なエフェクトをかけた常田の歌を重ねるという“普通”のJ-POPのサビとは異なるアプローチをし、最後のサビではその2つの歌とオルガンの絡まり方と広がり方が壮大になっていく展開があったりと、アレンジは聴き応え十分。他のヒットチャート曲にはない音を、月9主題歌という大衆コンテンツに当ててきていることがわかる。また「BOY」「一途/逆夢」ではギターが印象的だったが、今回はギターを使わず、3作の中でKing Gnuの音楽性の幅広さも示すことができている。
スキルとセンスを磨き続けるKing Gnuが日本のヒットチャートにまだない音楽を作り上げて、強い影響力を持つ今の彼らがそれらを世の中に放っていった先には、きっと明るい未来があるはずだと私は想像する。新しい音楽が世に受け入れられることは、今はまだ“当たり前”とされていない人々の価値観や生き方が世に受け入れられることに繋がっていくと信じているから。
リリース情報
2021.12.29 ON SALE
SINGLE「一途/逆夢」
2022.02.28 ON SALE
DIGITAL SINGLE「カメレオン」
2022.03.16 ON SALE
SINGLE「カメレオン」
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King Gnu OFFICIAL SITE
https://kinggnu.jp/