TEXT BY 森朋之
■優里というアーティストの全体像を描き切ったアルバム『壱』
シンガーソングライターの優里が1stフルアルバム『壱』を1月12日にリリースした。
ブレイクのきっかけとなった「かくれんぼ」、メジャーデビュー曲「ピーターパン」、2021年を代表する楽曲となった「ドライフラワー」、そして、最新曲「ベテルギウス」などのシングル曲のほか、新曲6曲を収録。シンガーソングライターとしての軌跡と“今”が刻まれた作品となっている。
まずは優里のこれまでのキャリアを簡単に紹介しておきたい。
小学生の頃からボン・ジョヴィ、クイーンなどの洋楽ロック、BUMP OF CHICKENをはじめとする邦楽ロックに親しんできた彼は、高校卒業後、本格的に音楽活動をスタート。
Instagram、Twitter、TikTokなどに歌唱動画を投稿していた彼の名前が一気に広がったきっかけは、2019年12月に配信された「かくれんぼ」だった。“かくれんぼなんかしてないで/もういいよって早く言って”という切なさが滲むフレーズに強い感情を込めたこの曲は、SNSを中心に幅広い層のリスナーに届き、シンガーソングライターとして大きな飛躍を果たした。
その後、優里自身の決意を刻んだ「ピーターパン」でメジャーデビュー。そしてその際立った才能をはっきりと証明した楽曲が、2020年10月にデジタルリリースされた「ドライフラワー」だった。男性目線の「かくれんぼ」のシチュエーションを女性目線から描いた「ドライフラワー」は、エモーショナルな旋律、恋愛の切なさ、哀しさをリリカルに綴った歌詞、ダイナミックなボーカリゼーションなど、優里の独創性とポピュラリティの高さがバランスよく凝縮された楽曲。
リリース直後から大きな反響を集め、数多のダウンロードサイト/ストリーミングサイトで1位を獲得し、“ソロアーティスト初”“日本人アーティスト最速”でストリーミング累計5億回再生を突破。Billboard JAPANの年間総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”で1位を獲得するなど、2021年の音楽シーンを代表する楽曲となった。
昨年11月に発表された「ベテルギウス」も、優里のソングライティング、ボーカルのさらなる表現の深みを実感できるナンバーだ。
TVドラマ『SUPER RICHI』(CX)の主題歌としても話題を集めた「ベテルギウス」のテーマは、人と人との繋がり。ギターの生々しい音色とともに“空にある何かを見つめてたら/それは星だって君がおしえてくれた”という冒頭のフレーズが響き、“僕と君”の関係を遠く離れた場所で輝き続けるベテルギウスになぞらえて描くこの曲は、コロナ禍における人間関係の変化ともリンクし、さらに幅広いリスナーの心を捉えた。ひとつひとつの言葉に強い想いを込め、“僕ら 肩並べ 手取り合って/進んでく”というサビのラインに心地いいカタルシスへと導くボーカルも素晴らしい。
その他、カメラマンの友人に書き下ろした「シャッター」(2021年7月発表)、春の情景とともに郷愁を誘うメロディが広がる「桜晴」(2021年2月発表)などをリリースし、シンガーソングライターとしての幅を確実に広げてきた。
彼の歌がこれほどまでに多くのリスナーを魅了する最大の理由は、やはり、圧倒的な歌の力だろう。感情の揺れを描いたラブソングから自らの生き方をダイレクトに綴ったライフソングまで幅広い作風を持っているが、歌詞とメロディにしっかりとした説得力を与えると同時に、聴き手に対し、“1対1”で手渡すように歌うことができる。それはシンガーとして最も大事な条件だ。
繊細な感情表現を軸にした曲であっても、ただ優しく丁寧に歌うだけではなく、力強さやダイナミズムを体現できることも魅力。アコギの弾き語りであっても、目にしっかりと力を込め、すべてのフレーズに渾身の力を込める優里のパフォーマンスのすごさは、これまで3度出演した『THE FIRST TAKE』でもはっきりと示されている。
また、1stフルアルバム『壱』に収められた新曲も充実している。
まずは「花鳥風月」。ファンクのテイストで彩られたギターフレーズ、快楽的なグルーヴをたたえたトラックとともに放たれるのは、“自分の道は自分で選べ”とリスナーを鼓舞するようなフレーズ。誰ひとり、他人と同じように生きることはできない。自分の力で人生を選びとる──その強烈なメッセージは、 “共に叫べよ”と語りかける歌詞にも滲み出ている。
ノスタルジックな鍵盤から始まる「ミズキリ」は、“あなただけが瞳に映るの”というラインが響くラブソング。日常生活のちょっとした場面の中で、ふと誰かのことを思い出す。そんな心の動きを描いた歌詞は、年齢やジェンダーを超え、幅広いリスナーの共感を呼ぶ。転調を活かしたドラマチックなメロディライン、サビに入った瞬間にすべての感情が解き放たれるようなスケール感は、まさに優里の真骨頂だ。
そして、優里のストーリーテラーとしての魅力がまっすぐに感じられるのが、「レオ」。“レオ”がどんな存在なのかは実際に曲を聴いて確かめてほしいが、“レオ”と“君”の出会い、関係の変化などをシンプルな言葉で綴った歌詞は、リスナーの想像力を大いに刺激してくれるはず。まるで語り部のように物語を綴りながら、エンディングに向けてドラマを盛り上げるボーカルも最高だ。
個人的に最も印象に残ったのは、6曲目の「ミザリー」だ。現在進行形のネオソウル、オルタナR&Bを取り入れたサウンドメイク、そして、日本語の響きを活かしたフロウがまず絶品。冒頭の“守ってよミザリー 六畳間一人”のフレーズから韻を踏みまくり、歌自体にグルーヴが宿るボーカリゼーションも驚くほどに気持ちいい。“弾き倒す”という表現がハマるギターソロ、楽曲が進むにつれて奔放さを増していくリズムセクションなど、音の面でも聴きどころ満載。優里の音楽ラバーぶりが伝わる一曲と言えるだろう。
11曲目の「背中」も、このアルバムの大きなポイントになる。“変わりゆく時代にまだ戸惑う毎日”という言葉に導かれるこの曲の背景にあるのは、おそらく、この2年間の世界の変化。誰も経験したことがない事態に直面し、どう動いていいか、どう生きていけばいいかわからず、それでも何とか前に進もうとする姿を歌ったこの曲は、現在を生きるすべての人の胸に突き刺さる。リアルな感情をぶつけまくるような歌の表現を含め、優里の歌の力を改めて実感できる名曲。
シングル作品だけでは捉えきれなかった、優里というアーティストの(現時点における)全体像を描き切ったアルバム『壱』。時代を超えたパワーを持った歌がたっぷりと込められた作品だが、アルバムの題名が示すとおり、これはまだ最初の一歩。間違いなく彼は、もっと強く、もっと深い歌を、我々に届けてくれることになる。そんな期待を抱かせてくれることもまた、本作の魅力なのだと思う。
リリース情報
2022.01.12 ON SALE
ALBUM『壱』
優里 OFFICIAL SITE
https://www.yuuriweb.com/