TEXT BY 永堀アツオ
■『東京2020オリンピック』閉会式への出演
デビューからわずか1年半で『第71回NHK紅白歌合戦』への初出演を果たし、2年連続での出演が決定しているシンガーソングライターmilet。テレビ朝日系の『ミュージックステーションウルトラ SUPER LIVE2021』、TBS系の『「CDTVライブ!ライブ!」クリスマス4時間スペシャル』や『音楽の日2021』、日本テレビ系の『バズリズム02』、フジテレビ系の『2021 FNS歌謡祭』、そして、NHKの『うたコン』や『第10回明石家紅白!』などなど。テレビの音楽特番をつけると、必ずと言っていいほどその姿を見かけたmiletだが、2021年の最大の驚きは、8月8日(日)に開催された『東京2020オリンピック』閉会式への出演だろう。
レインボーカラーのドレスを身に纏った彼女が歌唱したのはフランスのシンガーであるエディット・ピアフの名曲で、シャンソンを代表するナンバーとして世界中でカバーされている「愛の讃歌」。歌い出しは、越路吹雪版と言われる岩谷時子の訳詞による日本語だったが、東京スカパラダイスオーケストラが加わってからは原曲のフランス語で高らかに歌い上げた。2024年に開催される『パリオリンピック』にバトンをつなぐという意味での選曲かと思われる。miletはフランスの映画、詩、文学、音楽が好きで、東京出身のマルチリンガルである世界基準のボーカリストである彼女に白羽の矢が立ったことは想像に難くない。
■“私”の歌から“あなた”に向けた歌へ
同じく8月には、日本テレビ系水曜ドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』主題歌であり、現在ではMVが1000万回再生を超える「Ordinary days」を収録した通算7枚目のEP『Ordinary days』をリリースした。“奇跡のような当たり前”の日常を大切にしたいというメッセージが込められており、“君の隣で笑うより 君に笑ってほしいのさ”というサビのフレーズは、間違いなく他者に向かって歌われている。さらに、これまでは主に英語をメインに日本語をミックスさせた歌詞を書いてきた彼女だが、「Ordinary days」は全編日本語の歌詞になっていた。“私”の歌から“あなた”に向けた歌へ。クリスマスイブの特別番組『ミュージックステーションウルトラ SUPER LIVE2021』でも、かけがえのない日常を過ごす視聴者に呼びかけるように画面を真っ直ぐに見つめて手を伸ばし、“この手をずっと離さない”と静かで力強い歌声を響かせた。蔦谷好位置のプロデュースによるエモーショナルな展開と、CRCK/LCKSの小西遼が手がけた身も心も鼓舞するようなブラスアレンジも見逃せない。日々のささやかな喜びや悲しみを慈しむ大切さを再確認させてくれる応援歌として、今年だけの流行に終わらないスタンダードナンバーになっていくだろう。
前回の紅白歌合戦で歌唱したデビュー曲「inside you」をはじめ、オリコンのウィークリーランキングで1位を獲得した1stアルバム『eyes』(2020年6月リリース)に収録されていた曲たちの多くは自身の内心へと向かっていた。だからこそ、彼女の歌声が、“表面からは見えないさま”や“隠れている部分”を歌っている意味で、“ダーク”と称されたのだろう。
しかし、2度のショーケース開催や初のワンマンライブ、そして、2021年6月〜7月にかけて開催された初の全国ツアー『milet 1st tour SEVENTH HEAVEN』を経て、彼女の歌声はより他者に、外側に、リスナーへと向かうようになった。自分の音楽を、歌声を、言葉を届けたい相手がより明確になったのだろう。
そして、11月12日(金)〜14日(土)に開催された「2021 NHK フィギュア杯」の放送で、NHKウィンタースポーツテーマソングとして制作されたmiletの新曲「Fly High」が流れ、1ヵ月後の12月18日(金)にはMVが公開され、12月21日(火)には『第72回NHK紅白歌合戦』の歌唱曲に決定したことが発表された。
■“いろいろな自分がいるけど、それもすべて自分の姿”
この「Fly High」は、“戦い続ける人やこれから大きな一歩を踏み出そうといている人たちの背中を押せる曲になれば”という想いを込めた応援歌になっている。あの華奢な体から放たれる、冬の空気のように清く、透徹した歌声。圧倒的なスケール感に包まれ、徐々に気持ちが高められていく。フィギュアスケートはもちろん、スキージャンプの映像にも合うだろう。MVでは、氷上ではなく、水上に凛とした存在感を湛えて歌唱。やがて、miletは、数人に分裂する。前に進もうとするときに、新たな一歩を踏み出そうとしたとき、誰しもが、不安になったり、逃げだしたくなったり、孤独感に押しつぶされそうになったりすることがあるだろう。分裂するmiletの映像には、“いろいろな自分がいるけど、それもすべて自分の姿”だという思いが込められている。前と後ろだけでなく、選択肢は無数にある。新たに進んだ道の先で、たとえどんな結果が待っていたとしても、誰かの声ではなく、自分自身が覚悟と勇気を持って進んだ道であれば、きっと後悔はしない。“どんな道を選んでも私は私”という強い決意にも似た思いを表現したMVとなっており、さらに彼女は“We’re gonna run together”=“共に走ろう”というメッセージも投げかけている。その歌声は、『第72回NHK紅白歌合戦』を通して、さらに多くの人々に届くだろし、スポーツ以外の場所で迷い、悩み、戦う私たちを元気づけ、新たなドアを開く勇気を与えてくれる。
リリース情報
2021.02.02 ON SALE
ALBUM『visions』
milet OFFICIAL SITE
https://www.milet.jp