TEXT BY 満島エリオ
■4naがカバーし、一気に火をつけた「hazama」
今年4月、SpotifyのバイラルヒットチャートTOP50で1位(※1)に躍り出た4naの「hazama」。ノンプロモーションにも関わらず、YouTube登録者数が2万人を超え、総再生数も550万回を突破するなど、着実に存在感を強めつつある。音楽シーンに彗星のごとく現れた4naとは、いったい何者なのか。
4naは、アーティストとして2020年12月から活動し始めたばかり。2020年12月にオリジナル曲「Fickle Girl」でデビューし、以降、オリジナル曲、コラボレーション、カバー曲と精力的に活動を続けている。その人気に一気に火をつけたのが、前述の「hazama」だ。
4naが2020年11月にYouTubeに投稿した「hazama」はもともと、ボカロPである上野シュンが、初音ミクのボーカル曲として2017年にニコニコ動画で公開したもの。ギターのカッティングが印象的なシティポップ調の曲で、現実に飽いたようなシニカルさの半面、愛すること、愛されることへの切望がのぞくメランコリックな一曲だ。それを、公開から数年の時を経て、4naがカバーした。
ボカロ曲をカバーする、いわゆる「歌ってみた」は、ボーカロイドの歌う無機質でプレーンな原曲をもとに、曲の魅力をどのように引き出すか、どれだけ自分のカラーを乗せられるかによって、楽曲の表情が大きく変わるのが特徴だ。「hazama」は、楽曲がもともと持つ世界観に、4naの柔らかく気だるい歌声が与える温度感がベストマッチ。4naのボーカリストとしての才能と曲自体の魅力、両方を発掘することになった。
■ユーザーの関心を引いたTikTokの動画の中での“無音”
ブレイクの要因はもう一つある。最初にYouTubeにフルコーラスの「hazama」を投稿した4naは、翌2021年2月、ショートバージョンをTikTokに投稿。切り取られたのは、2番の“終わりにしようぜ”から“一度だっていいから”までの29秒間。4na自身が「自分が一番気に入っているところ」(※2)としてチョイスした、このトリミングが功を奏した。
ショート動画のためのプラットフォームであるTikTokにおいて、短い尺の中でどれだけ視聴者に深い印象を残せるかが大きな課題となる。
TikTokに投稿された「hazama」には、“終わりにしようぜ”からサビの“愛されたいんだ”までの間に、約2秒間の無音の時間がある。常に音が鳴り続けていることの多いTikTokの動画の中で、この“無音”はユーザーの関心を引いた。「hazama」を使用した動画投稿でも、この無音が転換として使われたり、セリフを入れたりと、ユーザーの想像力を掻き立てる遊びの部分として大いに活用され、1万本以上の動画で使用されている。TikTokプレイリストの「人気急上昇」や、「バズるかも!?」などにもランクインし、「hazama」、そして4naは一気に上昇気流に乗ることとなった。
■自身で作詞作曲を手がけたオリジナル曲を立て続けにリリース
そして、4naの活躍はカバー曲だけにとどまらない。
愛情深い雀の番をモチーフにした「suzume」、雨の日、ふたりでベッドの中に引きこもる贅沢な時間を描いた「Snuggle Bunny」、刹那の夏の中で過ぎ去った時間を惜しむ「まだ青の夏夜」と、自身で作詞作曲を手がけたオリジナル曲を立て続けにリリース。等身大の男女を主人公に、リアリティのある感情と、映画のワンシーンのような美しい情景を曲の中で紡ぎ出してきた。
さらに、様々な分野のクリエイターたちがコラボレーションする「アトリエプロジェクト」の第1弾として、イラストレーターのピ子と組んだ「半濁色」、O.B.Sに参加した「おきれいごと」など、コラボのオファーも絶えない状態だ。
■最新作は、イラストレーター・Tamimoonとタッグ
12月1日には、ファッション性の高い女性のイラストで絶大な人気を誇るイラストレーター・Tamimoonとタッグを組んだ新曲「BURU」をリリース。
埋まらない心を金や物で埋めようと着飾る女性がモチーフで、タイトルの「BURU」は「上品“ぶる”」という意味から。“無理に背伸びしてはなんだかんだな/あの日の自分を 自分を求めていたっけな”という歌詞からは、うわべの欲望に振り回されて本質を見失うことへの空虚さが滲む。メロウなサウンドにのせて4naがハミングのように歌う“Frou Frou”という単語は衣ずれの音を意味しており、外側だけを「上品ぶる」行為からの脱却を促すようにも感じられる。そんな楽曲を、Tamimoonの描き下ろした、憂いを帯びた表情の女性のイラストがパッケージング。洗練されたイラストレーションと音楽、両方合わせて浸りたいMVに仕上がっている。
短期間の間に、一気に才能を開花させている4na。来年も毎月新曲を発表予定で、活動もますます精力的なものになりそうだ。2022年の音楽シーンを彩るアーティストとして、目が離せない存在になるだろう。
<参考>
※1「hazama」バイラルチャートTOP50
https://twitter.com/4namusic/status/1384455962031919109?s=20
※2 気に入ったところ
https://audee.jp/voice/show/29867
リリース情報
2021.12.1 ON SALE
DIGITAL SINGLE「BURU」