INTERVIEW & TEXT BY 田中久勝
■必要なパートナーを自由に募集できるプラットホーム
“昨日初めて作品を発表した人も、1,000万回再生動画を持つクリエイターも、フラットに出逢い新しい創作活動ができる場所”をテーマに、クリエイター同士が自らの新しい創作にあたって必要なパートナーを自由に募集できるプラットホーム『MECRE(メクル)』。
5月末のβ版サービスのローンチ以来、多くのボカロPや歌い手、イラストレーター、作詞家、ビジュアルクリエイターが参加し、新しいクリエイティブが生まれる“場所”として活性化している。12月1日には「MECRE」から生まれたコラボから制作された楽曲(3曲)がリリースされる。その中の一曲、「ONI」を作り上げたjon-YAKITORYと、フィーチャリングした歌い手・シユイにこの作品について語ってもらった。
5月、自身の創作活動に必要なパートナーを募集することができる「ロイヤリティユーザー」であるjon-YAKITORYやyama staff、柊キライなど、MECREへの参加が決まっているアーティスト・クリエイターが「#あなたを募集中」というハッシュタグとともに、QRコードを組み込んだ謎の画像をSNSから一斉に発信。それに対して「一般ユーザー」のシユイが応募し、コラボがスタートした。
■クリエイティブがどんどん研ぎ澄まされていく
「ひとつの文化として、ネット上でのコラボってビジネスチックではないので、人と人とのやりとりが重要で、でもそれがハードルになることがあって。“自分が持っている数字はこれくらいしかないのに、こんなすごい人に頼んでもいいのかな”っていう不安、壁を取り払ってくれるきっかけになってくれるのがMECREだと思います。だからより作品作りの自由度が高くなって、クリエイティブがどんどん研ぎ澄まされていく感じになると思っています。今まではTwitterに張り付いて、フォローしている歌い手さんやボカロPさんのリツイートを速攻でチェックして、メモるという作業をしていましたが、そこの大変さがなくなって、より作品の方に注力できる環境になりました」(jon-YAKITORY、以下jon)
「私は、いろいろな歌い手さんやクリエイターさんのリツイートやいいねとかで、MECREがTwitterのタイムラインで流れてきて、知りました。最初は半信半疑で応募して、ある日学校から帰ってきたらコラボ決定しましたってTwitterで発表されていて、おぉ!ってなりました。でも、しばらく“騙されているのかな?”とも思っていました(笑)」(シユイ)
「70人くらいの方が応募してくださって、歌を全部聴かせていただいて、まず10人位に絞りました。そこからその人の過去の作品も聴いて、例えばロックを歌っている声とバラードを歌っている声は違うので、どこまで可能性、引き出しがある人なんだろう、こういう歌い方をしてもらえるのかって想像しながら、さらに絞っていきました」(jon)
「jonさんの曲はそれまで「フェイキング・オブ・コメディ」「シカバネーゼ」を“歌ってみた”でカバーさせていただいていて。どの曲もすごく難しいんですけど、「フェイキング・オブ・コメディ」を歌ったときはクラップを入れたり、自分なりに工夫して楽しく歌うことができて、自分でもかなりレベルアップできた実感がありました」(シユイ)
jon-YAKITORYは「ONI」の歌い手募集にあたって「さながらラグビー前のハカのような曲を作ってみました。少しラップっぽいパートがあるので、単純な歌の上手さというよりは表現力の面白さがカギかもしれません」とメッセージを書き、それに対してシユイは「ダークながらコミカルな雰囲気を強く感じる作品に強く惹かれました」とコメントを送っている。
「レコーディングの前に何度かディスカッションしてイメージを膨らませ、一致させてからレコーディングに臨んだのですが、いざレコーディングが始まると素晴らしい歌であっという間にOKになって、めちゃくちゃ練習してきてくれてるんだなってうれしかったですね」(jon)
「はい、難しいのでむちゃくちゃ練習しました(笑)。怪しさとか、皮肉っぽさみたいなところを意識して、表現に落とし込んで欲しい、例えばRADWIMPSの「DADA」のような感じで遊び心を意識して、とわかりやすくディレクションしていただいて、それを意識して練習していくうちに、自分なりの表現でそれを出せたと思います」(シユイ)
いちばん最初にいただいた仮歌が、力強さやカッコいい感じを感じさせてくれて、それもよかったのですが、それこそ「フェイキング・オブ・コメディ」のような、ややふざけてるように感じるけど、それが狂気っぽく感じがする、そういう表現が欲しいなと思って無茶なお願いをしました(jon)
■主人公になり切って歌うことができた
「jonさんの歌詞は世界観が確立されているので、入り込みやすくて、主人公になり切って歌うことができました。曲解説のブログも拝見したのですが、歌詞に込めた思いやテーマをわかりやすく解説してくださっていて、本当に響きました。この曲と、歌詞大好きなんです」(シユイ)
「そう言っていただけてうれしいです。昔から僕の中で歌詞は苦手意識が強くて。洋楽もよく聴いていたので、サウンドが気になって歌詞は二の次になっていたので、歌詞を乗せるときはずっと難産でした。本もよく読むようにしていて影響を受けることもありますが、ただそれだと説教くさい歌になってしまうことが多くて。だからあるときからもっと自分の感情にフォーカスして書いた方が、もっと情熱的なものができあがるはずだと思って、最近はそういう書き方をしています。それでも出てこないときは、映画を何本も見たりとか、漫画を何巻も読んだりして、感情を盛り上げてから歌詞に向かいます」(jon)
自身が思い描く世界を表現するために、歌、MIX、イラストや動画などでコラボする場合、相手とどうやって世界観を共有するか、どこまで委ねるかが難しいところだが、jon-YAKITORYは自分の想像を超えるクリエイティヴを期待しながら、ディスカッションを楽しんでいる。
■MECREだと、3人でのマッチも可能
「ミュージックビデオありきの良さという考え方はあって、だからといってそれを作ってくれる人に絵コンテ書いたり細かい指示はあまりしません。最終的にカッコよければそれでいいと思っていて、作品の大枠だけ相手に伝えて、それを自由に遊んでもらって、自分が思い描いていなかった、斜め上の発想でぶつかってきてくれるのが面白いんです。MECREだと曲と絵(イラスト)のマッチ、曲と歌い手さんとのマッチだけでなく、3人でのマッチも可能なので、そういうところもすごくいいなと思います。自分達たちのできること、得意分野を持ち寄って、ひとつの作品を完成させる感覚です」(jon)
jon-YAKITORYはこれまで「フェイキング・オブ・コメディfeat.Ado」「シカバネーゼfeat.Ado」、さらに「蝸旋」でもAdoをフィーチャリングして、注目のアーティスト・Adoとタッグを組むことが多かった。
「決まった人とやる楽しさ、いろいろな人とやって、先ほども出ましたが、自分が思っていなかった斜め上の表現をしてくれる人とやって、ビックリしたいっていうのもあります。自分がやりたい表現をさらにグレードアップさせてくれるというのは、やっぱり何回か一緒にやっていかなければ難しいと思うし、ゆっくり時間をかけて、何回かやっていけばいいなって。一方で新しいものも求めるという作業と、両立できればいいと思っています」(jon)
プロデューサーとしてのjon-YAKITORYが、歌い手に求めること、自身が核として持っていることは、ずっと変わらないという。
■技術よりも表現の方を求めている
「僕は歌はうまくなくていいと思っています。歌のうまさはもちろんうまければうまいほどいいとは思いますが、作品において必ずしもそれが絶対必要かというと、決してそうではなくて。先ほどもシユイさんに、遊び心を出してほしいってリクエストしたと言いましたが、技術よりも表現の方を求めているタイプで、それは以前からいろいろな歌い手さんにお願いするときも一貫していて、歌がうまいのはいいんだけど、ちょっと物足りないかな、というジャッジはずっと言い続けている気がします」(jon)
「そこはすごく感じました」(シユイ)
「元々ブルーハーツとか、パンクが大好きなので歌のうまさよりも心に突き刺さってくる感覚を優先します。歌がうますぎると、それだけで終わってしまう気がして。感動が“うまい止まり”になるというか、表現がすごければ、技術面の感動ではなく、自分の人生観を揺さぶるような、根っこからの感動が湧き上がってくるので、僕はそっちの方が欲しいです」(jon)
jon-YAKITORYの作品に共通しているのは、ギターが“突き抜けて”いて、印象的なフレーズが満載でそれがカッコ良さにつながり、エモーショナルな感覚が突き刺さってくる。「ONI」もそうだ。
「そこは最近特にこだわっています。パンク好きだったということもあって、ハードロックも好きなので、自分が作るものの原点に帰ろうとしたときに、どうしてもギターが出てきてしまいます。そういう“癖”というか、尖っている部分や“歪んでいる”部分が、自分の個性になると思っていて。なので、それを出すことが自分の音楽の“純度”を高めることにもなるので、ギターをどんどんに前に出していくようにしています」(jon)
シユイは2021年1月にTwitterを始めSNSを開設した現役女子大生で、6月からツイキャスでギターの弾き語り生配信をスタートさせ、その説得力がある歌声で一躍注目の存在になった。今回MECREでjon-YAKITORYと出会い「ONI」がリリースされるが、今後もいろいろなボカロPと組んでみたいという。彼女の今後の展望を教えてもらった。
「昔からOrangestarさんの制作する楽曲の雰囲気が大好きで聴いていたので、今回の「ONI」のようなロックな楽曲ももちろん大好きなのですが、綺麗めで、壮大な雰囲気の楽曲にもいずれは挑戦してみたいなと思っています」(シユイ)
「力強い声なので壮大系の曲は合うなって思っていました。バラードもすごくよさそう」(jon)
「ありがとうございます。うれしいです。最近は、Adoさんの歌が“一強”だと思っていて。僭越ながら声が少し似ていると言っていただけることもあって、うれしいのですが、でも似ているというだけで終わらせないように、私なりの個性を出していきたいと思っています。今心の中はライオンみたいな感じです(笑)」(シユイ)
「全然ライオンぽくない喋り方です(笑)」(jon)
リリース情報
2021.12.1 ON SALE
DIGITAL「ONI」
jon-YAKITORY feat. シユイ
MECRE クリエーターによるコラボレーションスペース
https://mecre.net
jon-YAKITORY OFFICIAL SITE
http://jonyakitory.com
シユイ Twitter
https://twitter.com/Shiyui_0111