TEXT BY 満島エリオ
■ヴェールを乱暴にはぎ取るかのような荒々しい力強さ
supercellのryoがプロデュースを手がけ、2000人を超える応募の中から選ばれたchellyがボーカルを務めるEGOIST。その始まりは、2011年のアニメ『ギルティクラウン』のヒロイン・楪いのりがボーカルを務める架空のアーティストグループとしてだった。やがて彼らは一作品の枠を超え、『PSYCHO-PASS サイコパス』、『甲鉄城のカバネリ』、『虐殺器官』などの主題歌を務めるようになる。それらの楽曲は連続してオリコンウィークリーチャートTOP10入りし、唯一無二のアーティストへと成長を遂げた。そして今年2021年。10周年を迎えたEGOISTが出した記念EP『BANG!!!』は、彼らを長く見守ってきた人ほど、度肝を抜かれた楽曲であったはずだ。
その特殊な成り立ちも相まって、これまでのEGOISTのイメージは、どこか幻想的だった。楽曲テーマは壮大で神秘的であり、chellyのボーカルも、芯の強さはあれどもどこか儚げな印象が強い。だが、「BANG!!!」には、そのヴェールを乱暴にはぎ取るかのような荒々しい力強さがあった。
今回、「BANG!!!」の作曲を務めたのはGiga。近年ではAdoの「踊」の作編曲を手がけた、独特のトラックで唯一無二の音を作り上げるサウンドメイカーだ。と、ここまで書けば、今までのEGOISTとは明らかに違った方向の音楽性を持つ人物が配されていることがわかるだろうか。事実、「BANG!!!」もイントロからGiga節が炸裂。耳慣れない中毒性のあるメロディに、ryoがのせた小気味よいリリックが詰め込まれている。それを軽やかにライムし、フロウを乗りこなし、高音を自在に行き来するchellyのボーカル力も見事だ。
■白黒はっきりさせたい、自分の道は自分で決める
歌詞も、これまでになくchelly自身の自我を思わせるものに溢れている。歌い出しの“好き 嫌い 常識 I don’t care 吹っ飛べBANG!!!”から始まり、“言いたい事は言う/やりたくない事はしない”、“生まれたその時から選んできたんだ”と、力強い言葉が並ぶ。これらの詞からは、白黒はっきりさせたい、自分の道は自分で決める、という強い意思が表明されているように感じられる。
はじめは楪いのりのゴースト的存在として生まれ、様々な作品とタイアップするにあたり、世界観を忠実に表現する「憑依型」などと評されることもあったchelly。実在するとわかっていてもどこか非現実的で、輪郭が不鮮明なイメージだった彼女が放つ“生きてるんだ あたし”というフレーズには、がつんと殴られるような衝撃がある。
■「ここにいるぞ」と主張しているようだ
ビジュアルもがらりとイメージを変えた。デビュー以来、『ギルティクラウン』での楪いのりのビジュアルを踏襲した淡く儚いイラストだったのが、太くくっきりとした主線にメリハリのあるパキっとした濃いカラーリングに。服装も、ストリート系のスカジャンにゴツいリングと現代的であり、どこか不遜な表情は「これが新しい私ですが何か?」とでも言いたげで、なんとも好戦的だ。
直接触れることは叶わない幻想世界にその身を置いているように思われたEGOISTが、この『BANG!!!』によって、音楽的にもキャラクター的にも、ずいと近づいてきてその輪郭を明確にし、「ここにいるぞ」と主張しているようだ。
そして、曲とあわせてぜひ観てほしいのがミュージックビデオだ。歴代の楽曲のジャケットに描かれていた楪いのりの姿が走馬灯のように次々と現れる様子はまさしく10年の歴史の振り返りであり、その果てで今回のビジュアルに到達するさまは、10年を経て、EGOISTがさらに新しい扉を開かんとする期待感に満ちている。
10周年という節目において、EGOISTがここまで鮮やかに新しい姿を見せてくれたことには舌を巻くし、彼らがもともと持つ変幻自在さを改めて見せつけられたようでもある。なんにでもなれる。どこへでも行ける。そしてそれは、彼らの意思が決定するものである。
そんなメッセージが感じられる『BANG!!!』は、EGOISTが殻を破り、ここからさらなる変態を遂げていく胎動のようだった。
リリース情報
2021.11.30 ON SALE
EP『BANG!!!』
EGOIST OFFICIAL SITE
https://www.egoist-inori.jp