TEXT BY 森朋之
■“歌”という表現が持つポジティブなパワーを感じさせる
音楽特番『音楽の日2021』(3/11放送/TBS)における「forgive」(Bank Band feat. MISIA)、東京五輪の開会式での国歌斉唱、『24時間テレビ』(NTV)のチャリティーソング「歌を歌おう」の歌唱、『FUJI ROCK FESTIVAL’21』で魅せた圧巻のステージ、オンライン開催となった『ap bank fes’21 online in KURKKU FIELDS』での奥深いパフォーマンス、そして、自身の全国ツアー『MISIA 星空のライヴ ACROSS THE UNIVERSE』……ライブ、フェス、イベント、テレビ番組など2021年も様々な場から豊かな歌を奏で続けてきたMISIA。コロナ禍での医療従事者への支援などにも積極的に取り組み、先が見えない状況が続くなか、彼女の声、言葉、メロディに癒され、勇気を感じたという人も多いだろう。
今や国民的シンガーとなったMISIAが、チャンネル開設2周年を迎えた『THE FIRST TAKE』に初登場、「明日へ」を披露した。作詞・MISIA、作曲・松本俊明によるこの曲は、東日本大震災復興応援ソングとして2011年に発表されたバラード。
「2021 年は東日本大震災が起こってから 10 年という年で、奇しくも、今はコロナ禍という私達が経験した事がないような悲しみにも襲われています。そんな時代に、想いを込めて、「明日へ」を歌いました。この歌が、皆さんの明日への力になっていたら本当に嬉しいです」と出演に際しコメントした彼女は、まさに祈りのような歌を響かせ、日本中の音楽ファンを豊かな感動で包み込んだ。
胸の前で手を組み、目を閉じて集中力を高めたMISIAは「明日へ」と曲名を告げる。一瞬のブレスとともに“まぶたを閉じても なお そこに見える景色が/悲しみで染まるほど”というフレーズから歌を紡ぎ始める。悲しみに寄り添うような優しく、穏やかな歌は、“明日へ 明日へ 明日へ”というサビのラインとともに力強さを増し、未来に向けたメッセージへと繋がっていく。ピアノ、ストリングスによる、叙情性と壮大さを兼ね備えたアレンジも素晴らしい。
圧巻は、“明日へと 歌おう/声がかれても なお 歌い続けよう”という最後のパート。ラストの驚異的なロングトーン──すべての悲しみ、憂いを受け止め、解き放ってくれるような──は、第170回目を迎えた『THE FIRST TAKE』の中でも抜きんでたインパクトをもたらしたと言っていい。歌い終わったあと、目を閉じ、震える呼吸と身体を鎮めようとする神々しいまでの姿には、一曲に全身全霊を注ぎ込む彼女のシンガーとしてのソウルが感じられ胸を打つ。
“一発撮りのパフォーマンス”という状況だからこそ生まれた、“歌”という表現が持つポジティブなパワーを存分に感じさせてくれたMISIA。高い技術、豊かな声量、多彩な表現力は言うまでもないが、今回の「明日へ」のすさまじいパフォーマンスの背景には、彼女自身のこれまでの活動も反映されている。
1998年に「つつみ込むように. . .」でメジャーデビュー。その後、「陽のあたる場所」「Everything」などのヒットによりトップアーティストに上り詰めたMISIAは、アフリカの子どもたちへのサポート、セクシャルマイノリティへの偏見をなくすための活動、震災復興支援など、社会貢献、慈善活動に積極的に取り組んできた。根底にあるのは、生まれ育ちや年齢、国籍、ジェンダーに関わらず、すべての人の多様性を認め合い、幸せに暮らせる社会であってほしいという願い。「明日へ」に込められた“共に向かっていこう 明日へ”というメッセージもまた、彼女自身の生き方、価値観と強く結びついているのだと思う。
12月1日には3年ぶりとなるニューアルバム『HELLO LOVE』をリリース。「歌を歌おう」のほか、川谷絵音とのコラボ曲「想いはらはらと」、藤井風が提供した「Higher Love」などが収録された本作(コロナ禍のなか、様々なライブ活動、支援活動のなかで制作された)には、MISIAの真摯な想い、そして、素晴らしい音楽とともに希望に向かって進んでいきたいという願いが込められている。『THE FIRST TAKE』の「明日へ」のパフォーマンスと新作『HELLO LOVE』によって、彼女のキャリアは新たなフェーズへと進んでいくことになりそうだ。
リリース情報
2021.12.01 ON SALE
ALBUM『HELLO LOVE』
YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』
https://www.youtube.com/channel/UC9zY_E8mcAo_Oq772LEZq8Q
MISIA OFFICIAL SITE
https://www.misia.jp/