TEXT BY 宇垣美里
■10年間を詰め込んだアルバム。どの楽曲も魅力的で感傷的で先進的
凛として時雨のフロントマン・Guitar & VocalのTKがソロプロジェクト10周年を記念するベストアルバム『egomaniac feedback』をリリースした。
初めて凛として時雨を聞いたのは私がまだ中学生の頃。切ない高音の男女ツインボーカルに胸を掴まれ、鬼気迫るギターのフレーズや骨太なベース、テクニカルで人間には腕が何本あったのか分からなくなるような激しいドラムに、すごい物を発見してしまった……と心臓がドクドクしたことを覚えている。
その魅力の根幹にあるのは、狂気を感じさせながらもどこまでも繊細で美しい独特の雰囲気にあると思う。TKのソロ活動では、その世界観から立ち上がる細やかさや優美さがより強調され、TKの歌詞の魅力が華やかさを持ってバンド活動とはまた別の輝きを見せる。
『egomaniac feedback』は、2011年にリリースした初のソロ作品『film A moment』からの10年間のTKの歩みを記録した、豪華CD2枚組の大作だ。TKの代表曲と共に様々なアニメや映画とのタイアップ曲を収録したDISC1と、10年間にわたり多くのアーティストとのコラボレーションによって創作された曲を中心に新曲とセルフカバー曲も収められたDISC2の全27曲。そして初回生産限定盤のBlu-rayには映像のDisc3で構成されている。
Disc1で注目なのは人気マンガが原作のTVアニメ『東京喰種 トーキョーグール』のオープニングテーマ 「unravel」。この曲でTKのソロ活動を知った人も多いかもしれない。囁くように歌われる“教えて 教えてよ その仕組みを 僕の中に誰がいるの?”という問いかけから始まる歌詞は、不慮の事故をきっかけに半身を人を喰らう喰種にされてしまった主人公・カネキの心の叫びそのままで、見事にアニメの世界観が反映されている。ハイトーンに歌い上げるエモーショナルなサビは圧巻の一言。TKの特徴ともいえる、色気ダダ洩れながら孤独で悲し気な歌声がカネキとぴったりシンクロして、私は何度聞いても最後のぽっかりと浮かんだ“誰がいるの?”で泣いてしまう。
『東京喰種 トーキョーグール』の後編となる『東京喰種 トーキョーグール:re』最終章のオープニングテーマ「katharsis」は、激しい緩急に翻弄される一曲。ドラマチックなイントロから始まり、ロックなサウンドから弦楽器も特徴的に漂い、変則的に展開していく様がカネキの内面の苦悩を感じさせる。ずっと物悲しく胸が苦しく切ないのに、最後の最後の転調が壮大でどこか爽快感もあり、フィナーレにふさわしい一曲となっている。
映画『スパイダーマン:スパイダーバース』の日本語吹替版の主題歌に起用された「P.S. RED I」。題名はお分かりの通りSPIDERのアナグラムとなっている。電子音のベースが新鮮で、ロックサウンドがあまりにかっこよく思わず踊りだしたくなるほど。“Spyだ”や“不自由の女神”など随所にスパイダーマンを連想させる単語が散りばめられた歌詞にも注目。
個人的にはドイツ・ベルリンでレコーディングしたというのも納得の「Secret Sensation」が好きだ。打ち込みの多用されたテクノの息吹を感じるクールで踊れる一曲、なのに不穏。
「memento」は“東京タワー”などの言葉がでてくるからか、曲中の呟くような歌唱法が身近に感じられるからか、TK版「東京」という印象。聞いてると毎回心に沁みて涙腺が緩む。
そしてなんといっても『15周年 コードギアス 反逆のルルーシュ』エンディングテーマ「will-ill」はたまらなかった。大学生時代に出会い、オールタイムベストのアニメ作品である『コードギアス』に再放送という形でまた出会うことができる日が来るとは。私自身はこの作品をレンタルで一気見したので、毎週の放送を楽しみに、全帝国民と一緒にドキドキハラハラうずうずできることが嬉しくて仕方がない。そしてそのエンディングテーマをこれまたずっと大好きなTKが担当するだなんて!
「will-ill」は和テイストなイントロでグッと心を掴まれ、心臓の鼓動のようなドラムと共にカウントダウンしていく冒頭の歌詞、どこからか聞こえる人型兵器ナイトメアフレームの軋みのような金属音に、物語の中へと一気に引き込まれていった。交響曲のような壮大さと焦燥感のあるコード進行に、数奇な運命に翻弄され大切な人たちの幸せのためにどんどん自分を追い込みひとりぼっちになっていくルルーシュを重ねずにはいられない。“見つめてあげるから 服従してごらんよ”や“11って冒涜かい?”などと物語の要素が散りばめられた歌詞にも悪人になりきれないルルーシュの絶望が染み込んでいて、容赦がないことこの上ない。
Disc2は様々なボーカルで新しいTK楽曲の魅力を知ることができる。Charaを迎えたおしゃれすぎる「Shinkiro」や、Salyuの透き通ったハイトーンボイスがすっと染み込んでくる「moving on」など、それぞれのゲストボーカルにぴったりとはまった曲の数々はさすがの一言。アルバムの曲を再構築し、こんなかっこよさがあったのかと驚く「Shandy」、また『東京喰種』の主題歌候補でもあった「彩脳」はマンガ原作者の石田スイさんの歌詞でまた別の角度からアニメの世界を堪能することができる。
10年間をぎゅぎゅっと詰め込んだこのアルバム、どの楽曲も魅力的で感傷的で先進的で、聞けば聞く程TKの才能を仰がずにはいられないのだ。ああ、次の10年は、その先は、いったいどこに連れて行ってくれるのだろう。
宇垣美里
1991年4月16日生まれ、兵庫県出身。2014年4月にTBSに入社。2019年3月に退社後はフリーアナウンサーとして、テレビ、ラジオ、雑誌、多数のCMに出演。また、執筆活動や女優業も行うなど幅広く活躍している。
宇垣美里マネージャーInstagram
https://www.instagram.com/ugakimisato.mg/
リリース情報
2021.10.13 ON SALE
SINGLE「will-ill」(完全限定盤)
2021.10.13 ON SALE
ALBUM『egomaniac feedback』
TK from 凛として時雨 OFFICIAL SITE
https://tkofficial.jp/s/n150/?ima=1005