TEXT BY まつもとたくお
K-POPにみる、ローカライズの沈静化
韓国の人たちはローカライズ(現地化)が上手だ。韓国食品はその最たるもので、その国に合わせて辛さを抑えたり、現地の食材を加えたりと工夫しながら輸出量を増やしてきた。
K-POPも海外進出にあたって長らく試行錯誤を繰り返してきたジャンルである。
日本ではBoAがJ-POPシンガーとして売り出してブレイクしたのを契機にK-POPの需要が拡大。以降は東方神起、少女時代、KARAといったアイドル勢が次々と成功を収めていった。
今や世界的人気ジャンルとなったK-POPであるが、ここ数年を振り返ってみるとローカライズはかなり落ち着いたみたいだ。
昨年は、歌詞のほぼすべてが韓国語であるBTSの「Life Goes On」が米ビルボードのメインチャートで1位を獲得。この曲に象徴されるように、主に韓国のリスナー向けに制作した楽曲であっても外国で通用するケースが増えてきたからだろう。
“現地で制作したそのままの音”を採用する流れ
そんな傾向が出てきたのは、男性シンガー・PSY(サイ)の「江南(カンナム)スタイル」(2012年)が最初だったかもしれない。
EDMの軽快なリズムに乗ってキレのいいコミカルなダンスを披露する中年男性。当初はビジュアル面で海外の人気を集めたものの、韓国語で歌われる同曲の魅力も徐々に浸透し、世界的なヒットに繋がった。
日本の音楽マーケットでも、K-POPに関しては“現地で制作したそのままの音”を採用する場合が多くなってきており、2021年は韓国インディーズ系の音楽でそうした動きが特に目立っている。
最近だと、韓国の男性アーティスト・空中泥棒が、TVアニメ『Sonny Boy -サニーボーイ-』のサントラに参加。
しかし、提供したのはいつもの彼らしい無国籍かつアンビエントなオリジナル曲。その音像からはアニメの世界観に合うことをだけを考えて作ったというアーティスティックな姿勢も見え隠れする。
国籍や人種、性別に関係なく“良い音”を聴く、リスナーへ
韓国で発表した曲を何も手を加えずに日本で出すレーベル・Bsideの動きも見逃せない。
HMV record shopと手を組んで、これまでにSE SO NEON、ADOY、SURLといった実力派バンドの曲を中心に定期的にリリースしてきた同レーベルだが、最近は新進気鋭の女性シンガーソングライターを積極的に紹介している。
特に注目したいのは、FROMM、CHEEZE、Choi Jungyoonだ。
彼女たちは韓国で10代~20代の若者を中心に支持されているものの、残念ながら一般的な知名度はあまりない。
にもかかわらず、日本で紹介しようとするのは、楽曲そのものの良さだけで勝負できると踏んでのことだろう。
Bsideの代表を務めるキム・ソニ氏は次のように語っている。
「旬の韓国インディーズのサウンドを時間差なく日本のリスナーに届けたいとの思いからこのレーベルを設立しました。アーティストを選ぶ基準は自分自身が好きな音かどうか。それだけですね」
さらに注目すべき点がある。前述の空中泥棒やBside関連アーティストの楽曲は、日本ではアナログレコードでリリースされているのだ。
配信がメインの時代にターンテーブルにレコードを置いて針を落として聴く人は、多くが音楽マニアに違いない。音にこだわりがある人ならば国籍や人種、性別に関係なく良い音をチェックしてくれるはず。そんな思いがアナログレコードのリリースに繋がったのだと推測する。
「たしかにそういう気持ちはありました。現在の音楽シーンはレトロなスタイルがもてはやされるので、だったらCDよりもアナログレコードかなと思ったのも理由のひとつです。7インチシングルで出そうと思ったのは、比較的安い価格で販売できるから。シングルであればアーティスト名を知らなくても気軽に買う人が多いはず。なんとなく購入してみたら良いサウンドだったから今度はアルバムを入手しようと思ってもらえたらうれしいです」(キム・ソニ氏)
旬のK-POPも良いけれど、もっとディープに韓国の音を掘ってみたいと考えている人は、日本で発売する韓国アーティストのアナログレコードを迷わず聴いてほしい。お気に入りの曲がきっと見つかるはずだ。