TEXT BY 永堀アツオ
アイドルであり、ライブアーティストの私立恵比寿中学
安本彩花の復帰、現役中学生である新メンバーの加入で、結成11年目にして再び注目度が上がっている私立恵比寿中学(通称:エビ中)。
アイドルグループとしては初めての出演となった『THE FIRST TAKE』でハマった方も多いのではないかと思うが、エビ中が『THE FIRST TAKE』に出演できたのは、彼女たちが、生歌の一発録りで視聴者を感動させる歌力を持つライブアーティストだからである。
彼女たちの最大の魅力はライブにあると言っていい。
しかし、彼女たちのパフォーマンス力は一朝一夕に獲得したものではない。というよりも、結成当初は真逆の印象さえあったのだ。
キャッチコピーを早々に覆す、成長っぷりを見せたエピソード1
私立恵比寿中学校を舞台にした青春ドラマに例えるなら、2009年8月の結成から始まった「エピソード1」のテーマは“キングオブ学芸会”“今会えるサブカルアイドル”だった。
“キレのないダンスと不安定な歌唱力すら許される人畜無害なキャラクター”というキャッチコピーで、今会えるアイドルや全力パフォーマンスに対するカウンターとして誕生したのがエビ中だった。
たしかに清楚なお嬢様の上品な学芸会という側面はあったが、9人体制でメジャーデビューを果たした2012年5月の時点で、すでにメンバーの歌唱力の高さは評判となっており、その歌声は数多くのライブステージをこなすことでさらに磨かれていった。
翌年、2013年の夏には現状まで続く初の野外ライブ『ファミえん』の第1回目を開催し、冬にはデビューから1年7ヵ月という史上最速のスピードでさいたまスーパーアリーナ公演を実現。
2014年以降も、全国ホールツアーに『ファミえん』、バンドを従えた『大学芸会』やストリングスやホーンを迎えた『ちゅうおん』など、様々なスタイルのワンマンライブを行い、多数の音楽フェスにも参加。
大型アイドルフェス『TOKYO IDOL FESTIVAL』『@JAM EXPO』のトリの常連となっていたが、2017年2月にメンバーの松野莉奈の急逝を受け、「エピソード1」は悲痛なエンディングを迎えた。
彼女たちが『THE FIRST TAKE』の1曲目に選んだ「なないろ」は、松野の誕生日である7月16日(なな・いろ)をタイトルに込めた楽曲で、彼女のメンバーカラーは青(空色)。
出席番号は星名美怜(7番)と柏木ひなた(10番)の間の9番であった。サムネイルのブルーバーの配置だけでもグッときたファミリー(ファンの総称)が多かったのではないかと思う。
体ひとつでオーディエンスの心を震わせるグループを目指して
そして、「エピソード2」は、独特のキャラクターと優れた歌唱力でグループを牽引してきた廣田あいかの転校から始まった。
青春ドラマシリーズでいえば、一般的な知名度の高い主要キャストが降板するような想定外の事態に見えたが、メンバーは廣田の卒業公演の翌日に開催された6人での武道館公演で気迫のこもったパフォーマンスを繰り出し、新メンバーオーディション開催を告知する予定だったスタッフのプランを翻意させた。
ドキュメンタリー作品 Blu-ray『ここから』(2018年12月19日発売)では、この6人のパフォーマンス力を向上させていくことを誓い、歌とダンスという体ひとつでオーディエンスの心を震わせるグループを目指す。
メンバーの負傷や体調不良による活動休止で、なかなか6人全員が揃うステージは少なかったが、その成果が最も現れたのは、結成10周年目となる2019年に開催された初の主催フェス『MUSiCフェス~私立恵比寿中学開校10周年記念 in 赤レンガ倉庫~』と、令和初の開催となった『ファミえん 2019』だろう。
有言実行!たしかなスキルを身につけた、エビ中の成果
ゲスの極み乙女。や吉澤嘉代子、岡崎体育などが出演した前者は、彼女たちがつねに新しく刺激的なアーティストたちからの楽曲提供を受け、先鋭的なポップミュージックを自分たちの曲として歌いこなしてきた強さと自信を示していた。
そして、後者では彼女たちの歌唱力の高さを存分に発揮。特に聴いてほしいのは『ファミえん 2017』のテーマソングでメロコアバンド、TOTALFATのJose(Vo、Gu)が提供した「HOT UP!!!」と『ファミえん2018』のテーマソング「イート・ザ・大目玉」である。
「HOT UP!!!」では音楽バラエティ番組『THE カラオケバトル』で「アイドルの歌唱力をなめんなよ」と豪語した柏木と、鍛え上げられた腹筋から意志の強い歌声を放つ真山が歌う主メロに、抜群の安定感を誇るピッチだけでなく、リズム感も素晴らしい安本がハモるサビ。その開放感と高揚感といったらない。
また、ハイトーンに定評があり、アイドルらしいチャーミングさもある星名、どんな状態でもファインでフラットな声質で癒す小林、歌声にすべてのエネルギーを込めるかのように顔で歌う中山という3人が加わるユニゾンは迫力満天。
そして、「イート・ザ・大目玉」では星名と柏木、真山と小林、安本と中山がツインボーカルとして対面してハモリ、バトルのように熱を帯びた声を重ねつつ、攻守のメンバーが変わっていく。
他にも、「青い青い星の名前」や「星の数え方」など、アイドルでありながらも歌唱力の限界突破を目指した楽曲は多数ある。もっと技術を高めたいという姿勢こそが「エピソード2」の最大のテーマとなっていたのだと思う。
そして始まる、私立恵比寿中学 エピソード3へ…
今年5月には、7年ぶりに新メンバーが加入。9人組グループとなったエビ中の「エピソード3」が幕を開けた。
『ファミえん』の歴代のテーマソングに3人の声を加えたニューアルバム『FAMIEN’21 LP』では歌割りの変化も楽しめる。
エビ中にこれまでなかった艶やかのある桜木心菜(ここな)、“永遠に中学生”というコンセプトを体現したかのように初期の匂いが香る小久保柚乃(ゆの)、オーディション時にメンバーから「声量がすごいね」と評された風見和香(ののか)。
音楽に真剣に向き合い、ライブという生のステージを通して歌唱力とダンスパフォーマンスを高め、様々なジャンルの歌を全て自分たちらしく歌いこなす表現力を磨いてきた6人に、間違いなく、フレッシュな歌声が加わった。
ここからどんなストーリーを紡がれていくのか。今から楽しみでならない。
リリース情報
2021.08.18 ON SALE
ALBUM『FAMIEN’21 L.P.』
私立恵比寿中学 OFFICIAL SITE
https://www.shiritsuebichu.jp/