TEXT BY フジジュン
どこかのアパート、六畳半。あなたの歌。
“どこかのアパート、六畳半。あなたの歌。”
…という言葉とともに、今年2月、突如私たちの前に現れた、MAISONdes -メゾン・デ-。様々なクリエイターやアーティストが、このMAISONdes -メゾン・デ-に“入居”することで、何にも縛られずに自由にコラボし、各々の部屋から作品を創っている。
最初に入居してきたのは、yamaと泣き虫☔️。彼らは101号室から「Hello/Hello feat. yama, 泣き虫☔️」を生み出している。
その後も各部屋から、注目の楽曲が多数誕生している、MAISONdes -メゾン・デ-。
ここに入居しているのは、yama、泣き虫☔️、くじら、GeG(変態紳士クラブ)、さとうもか、おおお、堂村璃羽、301、和ぬか、asmi、EMA,たなか(前職:ぼくのりりっくのぼうよみ)といった、ネットやSNSを中心に若い世代から支持されているアーティストやクリエイターたち。
入居者は“架空のアパートのどこかの部屋の住人の歌”をコンセプトに、“六畳半ポップス”と呼ばれる自由な作品を生み出し続けているのだが、そんななか102号室が「ヨワネハキ feat.和ぬか,asmi」をきっかけに大きな賑わいを見せている。
“そういやさ そういやさ”が頭から離れない「ヨワネハキ」の中毒性
5月に「ヨワネハキ feat.和ぬか,asmi」が発表されるや、TikTokでダンス動画が大流行。
Billboard JAPAN発表による『TikTok HOT SONG Weekly Ranking』(2021年7月26日~2021年8月1日付)で初登場&首位獲得。LINE MUSICでもリアルタイムランキング1位を獲得したりと、ストリーミングでもチャート上位に入り、楽曲自体への注目も高まっている。
作詞作曲を担当したのは、「寄り酔い」が話題となった、現役大学生シンガーソングライター・和ぬか。ボーカルは、新世代ラッパーRin音とのフィーチャリングなどでも注目を集める20歳のシンガーソングライター・asmiが担当している。
編曲は、ボカロPでもあり、「ずっと真夜中でいいのに。」の楽曲のアレンジにも参加する100回嘔吐がつとめ、MAISONdes -メゾン・デ-ならではのコラボから誕生したのが「ヨワネハキ feat.和ぬか,asmi」である。
TikTokのダンス動画では“そういやさ そういやさ”とリズミカルに始まるサビ部分の20秒ほどが使用され、音頭調の明るいビートにコミカルな太鼓や鐘の音、歌詞に合わせた“やめときます”ポーズや“バッテン”ポーズと、思わず一緒に踊りたくなるかわいい振りつけで人気を集める。「この振りと曲が頭から離れん!」など、コメントが多数寄せられ、“#ヨワネハキ”は9,000万回に迫る総動画視聴数を記録している。
一過性の流行ではなく、人の心に残る歌となっている理由
先述したランキングの結果やYouTubeの再生回数からも、楽曲としてちゃんとリスナーに届いていることがわかるが、聴く者の心に引っかかり、共感を呼ぶ歌詞こそがいちばんの人気の理由ではないだろうか。
明るい曲調に乗せてかわいい声で歌う、“弱い音を吐いてる/薄っぺらい人間です”というフレーズは、「ヨワネハキ」の題名にも繋がる弱い自分の告白。続く、“一歩前に出るのはやめときます/絡まれたくないはないからさ”というフレーズは、積極的になれない自分の本音。どちらも人前であまり口にすることのないネガティブな思考だけど、誰もが隠し持ってる一面でもあり、「わかる!」と共感する人はきっと多いはず。
“裏路地の真ん中で”とポツンとひとりでいる情景から始まり、“慣れない景色と好かない匂いに/私は覆われて/染まっていくんでしょ”と納得はしていない現状に染まっていく自分を、どこか諦めに近い感覚で受け入れる私。さらに“私は怖がりで/知らないことには手を付けず”や、“マニュアル通りな生活を/来る日も淡々と過ごしていた”と自己分析する歌詞に、自分自身の経験を重ねて聴いていくと「これはわたしだ、わたしの歌だ」とさえ思えてくる。
「このままじゃいけない」「自分を変えなきゃ」と、日々猛省するわけじゃないけれど…「このままでいいのかな?」と、ふとした瞬間に思ってしまう、自分の弱い一面。
自信満々で生きてる人なんてごくわずかで、ほとんどの人が抱えているそんな弱い一面を「そのままでいいの?」とシリアスに問われたら、耳をふさぎたくなってしまうが、この曲では“そういやさ そういやさ/昨日の私もこうだった”と明るくリズミカルな曲に乗せてあっけらかんと歌い、ポップに昇華しているからこそ耳に入ってくるし、「そんなふうに思っているのは、わたしだけじゃないんだ」という安心感を与えてくれる。大げさに言ったら、「この歌に救われた!」という人も少なくはないだろう。
“六畳半ポップス”という言葉の妙
“六畳半ポップス”とはよく言ったもので、この曲で描いているのは、まさに六畳半のワンルームにひとりでいる時の自分自身との対話。
“いつまで続くのだろう”なんて心の中で呟きながら、実はそこまで真剣に悩んでいなくて。「ま、いっか」なんて言ってたら、お腹が空いてきて、昨日と同じ夕飯を食べちゃう。そんな何気ないワンシーンを切り取って、耳馴染みの良いポップスに仕上げているのが「ヨワネハキ」だ。
そして、そこが聴き手に身近さを感じさせるところであり、「これはわたしの歌だ」と思うほど共感できるところであり、この曲の面白いところ。
人間、誰しも弱音を吐きたくなる時があるし、不安やため息と共存して生きている。つらい時やしんどい時、ため息をつく前に“そういやさ そういやさ”と踊りながらおまじないみたいに唱えて、うまくガス抜きできたら良いなと思う。
ラストは“きっとそう上手くはいかないけどさ/試しにちゃんと生きてみよう”と少し前向きな気持ちになり、立ち上がり前に進む姿が想像できる歌詞で終わるこの曲。ただ、“ちゃんと生きてみよう”と思ってはみたけど、まだ六畳半の部屋から出てもいないところも“六畳半ポップス”らしくて非常に良い。
MAISONdes -メゾン・デ- OFFICIAL YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCgRgH7nHGEV7q0QrtIuWoUA